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束の間の2年生との交流

 皆で迎賓館に移動し、ジュレを冷蔵庫に入れてからバラ園で設営作業をして正門に看板を置いた。

 前日に出してもいい場所だ。


 机や椅子も並べ終わり、迎賓館で男子にエプロンを渡す。

「これ、染めたエプロンだよ。これがノエル様。これが俺。あれ? これは弟のものだな。持ってきてしまったのか……。後は好きなのをとって欲しい」

 皆がとったのでエプロンの巻き方を説明して終わった。


「白シャツだからあまり布でチーフ。こう折るとラベンダーの刺繍が出るからね」

 これを制服の白シャツの胸元のポケットに入れてと頼んだ。

「凝ってますね」

「あ!ノエル様のエプロンには虫がいるのですか?」

「蜘蛛と蜂だな」

 蜘蛛好きなノエルのために珍しい蜘蛛の脚を刺繍した。表情には出ていないが、喜んでいることは間違いない。

「俺はライデン!」

 広げて見せた。

「おお!」

「羽が細かい」

「ソルレイ様。こういうのもできるんですか?」


 あ。

「……染まったエプロンを見て、メイドがやってくれたんじゃないかな」

 目を逸らす。


「そういうのは、もういいですよ。2年前の菓子案の時に、男は、参加しにくいなんて言ってすみませんでした。刺繍もこれだけできれば格好いいですよ」

 格好いいと言われたので素直に認める。

「うん、俺がやった」


「ハハ。はい、分かっていました。草木染めとか知っていても染めてくるよとは言いません」

「エプロンの形も変わっていれば、さすがに気づきますよ」

「余り布で作ったんだ。胸当ては、男にはいらないかなって」

「ああ! なるほど! ここを切ったのですね」

「そうか! 女子は必要ですね!」


 隣の部屋でエプロンを皆で着ているだろう。

 なんとなしにそちらを見てしまう。

 まぁ男子とはそんなものだ。


 桃色のエプロンをつけた女子と合流して、野草茶を淹れて給仕の練習をするのだが、着るのに時間が掛かっているようなので野草茶を実際に淹れておく。

 女子に終わったら来てーと部屋の外から声をかけ、男子達で先に練習を始める。


「お盆をこうやって持って、カップはこう。テーブルに置く時はこう」

「なるほど」

「重い時は失礼しますと言って、テーブルに置いてもいい。そこから丁寧に置く。一番駄目なのはお客様にかけること」

「そうだな。躓かないようにすべきだな」

「うん。だからね、カップに注いで運ぶのはやめよう。席に着いてポッドから注ごうよ」

「その方がいいか」


 飲める量は減るが、そもそもアイスティーの需要の方があるのではないか、と皆で話す。

 全員がポッドに入ったお茶とカップを持ち、重さを確認した。


「テーブルは最大で4人ということを考えるとその方がいいかもしれませんね」

「席数は16だから一人2テーブルの受け持ちにする?」

「それで8人だな」

「ジュレは俺が切っておくから担当を作ろう。大人ジュレの担当は手袋して皿に盛りつける。子供ジュレの担当も、ケーキ担当も一人ずつ。これで11人。4人が飲み物を作る。食器を下げるのは2テーブルの受け持ち係だね」


 前半後半で分けたかったが、三交代制にして、茶器を洗ったり、迎賓館からお菓子を運んだりしようと話す。


「席の利用時間は一人1時間にするか」

「どうしてですか?」

「女子達ですよ。ずっと食べすに眺めていたでしょう?」

「『冷菓だ!』とソルレイ様が怒ってようやく食べたくらいです、食べずに居座るかもしれません」

「それは困る。取り皿やフォークを冷やしてもこの暑さじゃ限界だ。融けることはないけど味が変わる。冷たい内に食べないと美味しくないよ」


 備品貸出しで、去年も借りた冷風が出る魔道具も沢山借り、ラウルの方にもサーキュレーターと共に借りられるようにチェックを入れておいたが、冷蔵庫ではないので無理だ。


「30分では短すぎるからな」

「ジュレを冷凍してみますか? 氷菓ですね。大丈夫だとは思いますが、やってみないことには何とも言えません」

「「「「「………」」」」」

「よく思いつくものだ。試しにやるのなら余分に作るしかないぞ」

「仕方がないですね。調理室に戻って作って来ます。女子達と練習しておいて頂けますか。ドリンク担当希望者の男子いる? 俺と調理室に行こう。ノエル様の役は給仕でお願いしますね」

「なぜだ?」


 そんなもの決まっている。

「お客さんが来るからですよ。王子様なのでお客さんは、喜びます。最後の文化祭です。サービスして下さい」

「なんだそれは」

 無自覚なノエルの発言に男子達が驚愕する。


「とにかくお願いします! 給仕に回りたくない男子、4人募集!」

 ばっと手を挙げた、アレクやハルド、フォルマ、コーネルをすぐに決める。

 何人か挙げたが、もう遅い。


「行ってきます」

「ああ、他は練習させておく」

「お願いします」


 調理室に戻り、和気藹々とジュレを作り、残った粉でアーモンドクッキーも作った。


 このアーモンドはオーブンの使い方が分からなくて困っていた2年生を助けたお礼で貰ったものだ。


 焼いていたのはスコーンだったので、夏にスコーンは食べ辛いと言うと、『分かっているけど、もう変えられないの』と泣き出しそうだったので、一緒に教室まで行き、クレープに変えさせた。


 全員を調理室に呼んで、作り方を教えて味見をさせる。『美味しい』と素直に言うので、冷えたカスタードクリームとマンダリンの入ったクレープになった。


 ハチミツを分け与え、卵を買いに行かせ、一緒に大量にカスタードクリームを作った。

 バニラビーンズもいれていないため銀貨1枚でも元が取れるから心配するな、材料も無駄にしていないと言い、看板も作り直した。


 冷え冷えクレープを召し上がれ!と可愛い文字と明るい色で書いて、調理室に戻った。練習で2年生が焼いた生地が少々厚めのクレープを食べながら4人が冷蔵庫番をしてくれていた。


 俺も貰い、食べ終わってから貰ったアーモンドでクッキーを焼いたのだ。

 目処がついた頃、調理室までお礼を言いに来た白服の子に弟がレリエルクラスのラウルツだと言うととても驚いていた。


「気にしないでいいんだよ。きっとうまくいく」

 前日でよく決断した、と頭を撫でて焼き上がったアーモンドクッキーを口に入れてやった。

「美味しいです」

「焼き菓子はできたてが一番美味しいからね」


 笑って頷く。

 思いがけず2年生の子と交流をした。

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