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4年生の文化祭 準備編 2

「先生方、凄い数の茶器を持ってきたりいたしません?」

「わたくしも心配ですわ」

「私も、ブーランジェシコ先生から、ソルレイ様の茶会の後は他の教員がやたら教員部屋まで訪ねてくるって聞きましたよ」

「そのお話でしたら、わたくしも聞きましてよ。ソルレイ様とのお茶会は、試験期間の一日目だと決まっているので、貰った手土産の菓子を狙って来るそうですわ」

 俺は初めて聞く話に驚く。


「それ本当なの? 初めて聞いたよ」

「ふふ、誰が訪ねて来ても渡さないそうですわ」

「あ、うん。それは嬉しいけど……。お茶の原材料費がかからないから、銀貨1枚でいいと思うよ。『このクオリティーで銀貨2枚!?』とか言われたらショックだよ。一度作って来るから値段決めは後回しにして欲しい」

 非難を浴びたらしばらく立ち直れない。

「分かった。価格は銀貨1枚以上とだけ決めておく。全員で試食をして値段を確定することとする。場所だが、中庭のテラスだな。取れるなら迎賓館も抑えておくべきだ。最悪、この教室になる。調理室の許可も取らねばならない。今から配役を決めるぞ」


 そこからは、素早く決まっていき、お菓子を運ぶのは女子で紅茶は男子が運ぶことになった。

 前半と後半で班を分け全員が半日は回れるようにする。

 テーブルクロスは去年に引き続きお願いをした。

 早速、教務課へ行き申請書類を貰って記入していく。後は、ガーネルクラスにいるクライン先生に判子を貰いに行くのだが、ノエルは忙しそうなので教室を出ようと後ろを横切る。


「ソルレイ、少し待て。ガーネルはどうせまた揉めているのだろう。一緒に行く」

「ありがとうございます。クライン先生の印があればもう書類は書き終わったので申請できます。備品の貸出しも調理室の申請書類も作りました」

「よし、今年も中庭をとるぞ」

 皆に席を外すと伝えてガーネルに出向く。



 コンコンコン。

「クライン先生、こちらにおられるか?」

「ええ。ここにいるわ」

 ノエルが扉を開けると、教室がピリついているのが空気で分かる。


「申請書類に担任印が必要だ」

「あら。さすがね。もう決まったのね」

 先生が驚きながら廊下に出ると、担任印を押してくれた。これで申請ができる。

「何の確認もせずに押したな」

「あら? だってこの二人に任せておけば間違いないじゃない」

 可笑しくて思いきり笑ってしまった。

「残念ながら、今年は先生に相談があります」

「あら、そうなの?」

「はい、実は……」


 茶器のことを相談して、教員のポストに配る案を言うと、にんまりと笑う。


「私も持って来るわ! 担任なのだから優先してちょうだい!」

「それは、助かりますが、いらない茶器ですよ? 割ってしまうかもしれません」

「返却不要よ。使った後は売ればいいわ」

「ありがとうございます」

「待て、ソルレイ。迂闊に返事をするな。20も持って来られたら迷惑だぞ」

「あ」

 考えもしなかった。


「そんなこと致しませんわ。そうね、でも、そういう教員もいるかもしれないわ。チケットの交換は5つまで、とかポットも入れてくださいとかそういう条件が必要ね」

「そうか。ポットがあればたっぷりと淹れられますね」

 先生が、かなり集まるだろうからあなた達を教えた教員を優先させて2日ほど早くポストに入れなさいと言われ頷いた。

「目途が立ちそうだね」

「ああ」




 そのまま一緒に教務課に行って、申請書を出したのだが、中庭が弾かれた。

「嘘だろ。俺達が最初じゃないの?」

 カウンターに置かれた申請用紙。入れられた“不許可”の文字に職員の顔を穴が空くほど見た。


「申請は今日からのはずだが、4年のフロウか?」

「ハハハ。弟君ですよ。ラウルツ様が朝に取っておくーと来られましてね」

「えぇ!? 一緒に登校したのに……」


 2階で別れてからまた戻ったのか?

 やられたな。


「まさか、ラウルツとはな」

「一応取っておこうって感じだったのかな? 交渉の余地ありなら教室まで出向くよ」

「分かった。迎賓館は使えるのだな?」

「はい、ですが備品は割ったら弁償になります」

「ふむ。カフェは外が良いものだが、1年生のレリエル教室を使うか?」

「そちらは空いておりますね」

ノエルの言葉を受け、すぐに確認をしてくれた。


「取っておこうか。あとは、ローズガーデンは使えたりする?」

「さすがソルレイ様。いいところをつきますね。まだどこからも申請されておりませんよ」

「よし! 二重線と訂正印。迎賓館、ローズガーデン、1年生のレリエル教室っと」

「では、確認致しますね」

 ペラペラっとめくる音がして確認をされ決済印をバンバンと押されていく。

「これで決定です」

「「ありがとう」」


 ノエルに申請許可の書類を持って、先に教室に戻ってもらい、俺はラウルの教室へ向かった。




「だれー?」

 扉をノックした直後に聞こえたラウルの声に笑いそうになる。

「お兄ちゃんだよ」

 そう言うと、ガラッと扉が開きびょんっと飛び込んで来る。

「迎えに来てくれたのー?」

 大きくなったなと思いながら踏ん張り、勢いを利用してくるくると回る。もうこれもできなくなるな。

「実は、ラウルにお願いがあってきたよー。中庭なんだけどね」

「ダメー!皆でお遊びするんだよ」


 遊びか。教室では無理か。


「そうか、仕方ないな。今年はローズガーデンでの開催かな」

 ラウルを抱きしめて離す。

「何をするの?」

「ハーブ屋さん。お菓子とハーブティーだね。ラウルの好きなレモネードもあるよ」

「絶対に行くー!」

「ふふ。来てくれたら嬉しい。ケーキもあるからね」

「うん!お兄ちゃん、あのね。初めてだから申請書の書き方が分からないの」



 教えてと言う。かまわないよと、引き受けつつも疑問に思う。

「ノックス先生はやらないのか? 普通は担任の先生が書くんだよ」

「そうなの? 他の教室に行っちゃったよ?」

「そうか。どこかのクラスで揉めてるのかな」


 文化祭は先生たちも気を揉むようだからな。

 懐かしい2年生のレリエル教室に入る。

 皆まだ幼い感じが残っているな。


「ラウルツの兄のソルレイ・グルバーグです。申請書の書き方が分からないようなので、手伝わせてもらいます」

 全員に向け貴族の挨拶をしてから、書類を確認する。

「お兄ちゃん、これとこれだよ」

「うん……備品の貸出しは教務課である。わざわざ買うと予算を食うよ。失くしたら弁償だから教室から持ち出し禁止にして、誰かがなくしたら連帯責任だ。その時は予算から出すといいよ」

「じゃあ、この辺はいらない?」

「絵具も油彩があるね。使いたい放題だから備品一覧の申請書類を提出すればいい」

「ノックス先生が買いなさいって言ったよ?」


 うん? 教員なのに知らないのか?


「お兄ちゃんから先生に言っておくよ。皆も作る当日は制服じゃなくて汚れていい服でおいで。制服や綺麗な格好で来ると何もできなくて他の子の迷惑になるから気をつけるようにね」

 話ながら申請書類を作り終えた。

 配役がまだ決まっていなかったので、ボードにダダッと書き連ね、第一希望を聞いていく。


「絶対に変わるのはなしだよ。権力を笠に着て家の権威を使うのは駄目だ、それは友人やクラスメイトにすることではないからね」

 素直に『はい、分かりました』と言っていた。


 第二希望の配役を決めていると担任のノックス先生が戻ってきた。

「あれ? ソルレイ様? いかがなされましたか?」

「『いかがなされましたか?』ではないですよ。申請書類の記入は、担任であるノックス先生の仕事ですよ。弟から分からないので教えて欲しいと言われました。それから、備品の

 貸出しがある物を買うようにという指導はやめてもらえませんか? ペナルティーは夏休み返上の書庫整理でしょう? 他国から来ている子もいるのです。もう少し生徒に配慮をして下さい」


 初めての文化祭で、せっかく予算をくわないように皆で気をつけているのだからと伝える。


 目を丸くしている。

「えっと備品貸出しですか?」

「備品貸出し一覧とその申請書類を教務課で貰って来て下さい」

「あ、は、はい」

 教室から出て行く背中に声をかける。


「ああ、待って下さい。これはもう書き終えましたが、担任印がここに必要です。間違いはありませんので、担任印を押して提出して来て下さい」

「はい。お手数をおかけしました」

 先生が扉から出て行くのを見届けた。


「じゃあ、皆続きだ。第二希望からだよ」

 次に集まる裏方の日や、全員が通しで集まる日なども決め終わった。

 備品貸出し一覧もラウルと相談して決めていき、申請書を記入した。教務課に提出して戻って来たノックスに伝える。


「こちらもですね、ありがとうございます。他クラスに行かないといけないので、あとでーーーー」

「そういう人って大概申請を忘れます。裏方で集まった時にこの子達が迷惑するので今すぐ行って来て下さい。もしくは、先生が申請書を出し忘れた場合、裏方の子達が買いに行くので、自腹を切って弁償をして下さい」


 予算を使わないで済むのならどちらでもかまいませんよと迫る。

「……行ってきます」

「はい、お願いします」

 笑顔で肩を叩いて送り出す。

「ラウル、お兄ちゃんも教室に戻らないといけないからまたね」

「うん!ありがとう!大好き!」

「お兄ちゃんも大好きだよ。終ったら図書館で待っているからね」

 抱きついてくるラウルの頭を撫でて、笑って教室を出た。

 

 

 遅かったなとノエルに言われた。

「ごめん、申請書の書き方を教えていたんだ」

 ボールを的に当てるゲームだったから中庭じゃないと無理だったと伝える。すぐに投票になりローズガーデンでの開催になった。

 クライン先生からの茶器集めの助言なども伝えてくれたようなので、試食の日取りなどを決めた。先生達のポストに入れる紙を作ってくれていた子に礼を言って受け取る。皆で文言や交換するチケットの枚数を考えて作ってくれたらしい。

 エプロンも女子達の意見で着用することに決まったようだ。

 概要と決定事項を記載した報告書を作り、昼前に解散となった。



 ノエルも図書館に行きたいと言うので、ラウルと三人で昼はバイキングに行こうかと話し、教員棟のクライン先生のポストに報告書と茶器募集の紙をいれておく。


 “返却はしません、売ってもいい茶器でお願いします、ポット、カップが規定量に達した時点で終了”と書いてあった。

 次々に入れていき、ポストのノックス・ベルマンという表記を見て、手が止まる。


 教えてもらっている先生ではあるが、ノックス先生はいらないだろうと飛ばした。

 元々は違うし、ちょっと教え方下手だしな。と、言い訳を心の中でした。



 ラウルのことを可愛いって言っていたからな。

 危ない先生かもしれないから。うん、しょっぱい対応でいいだろう。


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