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ラルド国を出ようか

 ひとしきり笑い、カルムスが言うには出戻りは大歓迎されるくらいで大丈夫だそうだ。

 元々、グルバーグ家はアインテール国の辺境伯家という上級貴族家で、ラルド国に来たのは友好の証の使者としての来国だという。

 詳しい政治の話は分からないが、軍に席をおいていたのは、軍の魔法士や魔道士に指導に来ていたからに過ぎないとのことだ。王が亡命を画策した以上、もう帰ってもいいはずだという。

 それはそうだな。客人が逃げた家人のために戦うなんて馬鹿な話だ。

「攻撃を一人で担うなど無理に決まっているんだ。やはり一緒に向かうべきだった」

 カルムスは、お爺さんをないがしろにした王に対してかなり怒っていた。

「話を戻しますが、ソルレイ様の距離があるという懸念はもっともです。道中は危険です。行くのであればお供いたしますが、他にも腕の良いものに声をかけたほうがいいでしょうね。それから亡命の成否も知りたいところです」

 ダニエルの話にウンウンと相槌を打ちながら美味しいクッキーに手を伸ばす。

「そうだな。ハッセルまで行けばある程度の情報も手に入ると思うのだがな」

 真面目な顔で検討に入るので、ラウルの口元についたクッキーの欠片を取ってやりながら話をする。

「行くと決断したなら早く動かないと。そろそろドラゴン達は建物への攻撃を始めるよ。今までなら飛んでいたら獲物を見つけられたけど、そうじゃなくなってきてる。城の中も教会もここも安全じゃない。人が出入りしているのを見られたら攻撃を受けるよ」

 虚を突かれたように見るので、子供らしくなかったか。頭を掻く。

「ソルレイは現状がよくみえているな。病み上がりの師匠には申し訳ないが、出立するなら急いだほうがいいだろう」

 二人は席を立ち、ラインツ様と相談してくると言った。

 お爺さんは、他の魔法士や魔道士たちの様子を見に行ってくると朝から居なかったのだ。

 軍の戦力の確認をしに行くと言っていた。あんな大怪我を負ったのに、それでもまだ戦えるかを考えるのか。立派な人なんだな。

「お兄ちゃん。お出かけになりそう?」

「ん。近いうちに国を出るよ。ここがラルド。お爺さんの故郷のアインテールはここ。ここに行くには、ハッセル、ディハール、カインズを通ってアインテールとなる。王が逃げた国はディハール国だ。まずは、ハッセル国に向かう」

 ラウルを膝に乗せ地図で示しながら説明をした。

「うん。市場でお買い物をしてから行く?」

「そうか。それもいいかもしれない。家に取りに行きたい物はある? 持って行きたいものがあるのなら取りに行こう」

 元々、国から逃げようと思っていたので家族の物もいくつかはリュックに入れてきた。

 母さんの髪留めと父さんの革紐のネックレス、姉が髪飾りに使っていた赤いリボン。

「お兄ちゃんが一緒なら何もいらないよ」

 膝の上で振り返ると笑顔でそう言うので抱きしめた。

「俺がラウルを守るからな」

「うん!」


 薬など重いものをラウルに持たせるのは気が引けるので、エルクの部屋で見つけた金箔が貼られた貝合せの貝に、練薬や血止めを入れて蓋をした。

 同じ金箔で困ってしまい、貝の内蓋をナイフで削り“血止め”“軟膏”“消毒”などを記す。

「ラウル、みんな同じだから蓋をいっぺんに開けて間違った蓋をするとまずいんだ」

「本当だね。1つずつ開けて閉めるね」

「うん。ごめんな。小さい容器が見つからなかったんだ」

「ううん、可愛くて好きだよ」

「そうか、よかった」

 ちょっと眩しいけどね、と笑うので俺も一緒に笑った。清潔なガーゼがあったので、巾着の中に金の貝たちと一緒に入れておく。ラウルに持たせるのは最小限にして、後の薬類は俺が持とう。リュックの中身を入れ替えて充実させた。国の外には、魔物や魔獣、盗賊がいる。


 これで俺たちの準備は整った。

 お爺さんはどういう判断をするだろうか。

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