ドラゴンの群れの脅威
魔法や槍を使う冒険者、祈りで傷を回復させる教会の聖職者、鍛冶師が生業になるこの世界は、絵に書いたようなファンタジー。
それは同時に危険な世界でもある。
ポーションや回復薬は、高額で庶民には手に入らず、有名な冒険者や騎士、貴族といった限られた職業の者にしか使えないものだった。
そして、魔物や魔獣を防ぐ国に張り巡らされた幾重もの塀は要塞のように国民を守ってくれるが、空からの敵には弱く、国中の魔法士たちが一斉に攻撃しても尚、数が減らない。
それなりの大きさがあるドラゴンの群れに襲われたこの国は、混乱の真っ只中だった。
前世の記憶を持ちながら、この世界に生まれ落ちて8年。
もう命に瀕しているこの世界は、生き抜くのが厳しいといえるだろう。あれだけ健康寿命などと言っていた前世が羨ましい。
この世界の平均寿命は30歳で、50歳も生きれば大往生なのだ。
大人は保護区という名の地下に連れて行かれ、役に立たない10歳未満の子供は置き去りにされる。
この世界で保護をされるべきは、子供ではなく大人なのだ。経済を立て直すのも、国の壁を作り直すのも、必要なのは、労働力のある大人であり、無力な子供は10歳になるまでは、子供に非ず。
これが平均寿命の低さに現れているのかもしれない。
姉は、12歳であったため、両親に肩を掴まれていた。
「最後まで一緒にいる」
そう泣き叫んでくれた優しい姉に、俺も弟も『大丈夫だから行って!』と背中を押したのだ。
両親は、姉を連れ、俺と弟に謝り泣きながら保護区へ向かった。
2つ下の弟は6歳だが、死を受け入れて泣いていない。
俺はこの達観している弟を守ろうと思う。