チョココロネマン
良く晴れた空の中
サングラス越しにも美人とわかる女性が、窓から眼下に広がる
白と黒の険しい山々の方向を見ているも
その表情は、どこか楽しげで、もっと別のことを考えているようだった
「今日は晴天です、では次のニュースお願いいたします」
「はい、今朝七里空港で、発砲事件が、起こり警察では、テロ及び暴力団関係者が、事件を起こしたのではないかと調査を進めています」
麦太の朝は早い
四時前には、もう仕事を始めており
六時には、ホカホカと湯気を立たせたパンを、店のブランケットに、並べている、妹の小麦は、レジで、小銭の補充を、歳の割には、似つかわしくない顔を浮かべ、数えては、兄に
「学校遅れるよ」と、叱咤している
当の本人は、もう、エプロンの下に、登校用の私服を、着ていた
二人とも、背や体格、顔から見るに、かなり幼く
妹など、保育園に通園しているように見えるが
歴とした小学三年生であり
兄の方は、二つ年上であり小学五年生だ
ただいま、父親は、昨年突如としてこの世を去った母親のショックが大きく、ことのほか、仕事が出来ないほどに、落ち込みただいま寝込み中のさなかであった
「じゃあ行ってきます」
幸いというのか、パン好きが高じてか
パンだけは、喉を、通る父親は、ただいま、息子娘が焼いたパンを、ペンギンが、カタクチイワシを、頭から丸飲みするように、飲み込んでいる最中であり、すぐに、駕籠いっぱいのパンを平らげると
先ほどの褐色の良い顔は何処へやら、黄土色した顔色の悪い顔で
「気お付けーてー」と、幽霊のような、ふるえる声と手で、二人を、送り出したのであった
二人が学校に行っている時間は、近所のお姉さん栗見 名瀬くりみ なぜ
さんが、パートで、店番を一手に引き受けている
元々、苦学生であり、食を求めてさまよっている最中
近所の人しか来ない、このパン屋が、無人なのに気がつき
万引きをしようとしたところを、飼い猫の黒に、唸られ
その直後、麦太が、「いらっしゃいませ」と、青黒いランドセルを背中に
戦闘中の二人に、言ったのが発端であり
どうしようか、食パンの耳を、与えながら、小学五年生が、大学生とでかいネズミを捕らえたとでも言わんばかりにふんぞりかえる
普段は、店の外にしか、いない、この黒猫を、眺めていた
「どうしたの」
麦太より下校が早かったであろう小麦が、いつもとは違い、様子を察したのか店の扉から入って来ると、見事なおかっぱ髪の切れた直線の下から
麦太を、問いつめるように、にらんで、その後に、大学生 猫と順に見渡し最後に、大学生がむさぼっている食パンの切れ端に目を留めてから
さあ、待ちましたよ、答えを聞かせてもらおうかしら
と、不幸な親子の前に現れた(病に伏せた老いた父親と親思いの一人娘)借金の取り立てにように、堂々としたもので、一瞬ひるむが
「これは実は」と、あらかたと状況を、話すと
「じゃあ良いじゃない、彼女には、パンを売る店番をしてもらう代わりに
どうでしょう、食費を、免除、良ければ、使っていない倉庫を、貸しましょう」と
それには、麦太は、目を丸くした
それは、この野良犬のような、凶暴な目をした女性を、アルバイトに雇うのではなく10円の飴さえ月一以上は渋るような守銭奴だ
それが、アルバイトを
今までは、近所の人しかこないし
猫の黒が居てくれたので防犯は、限りなく安全だ
そのことを近所の人は知っているから良いが
もし知らずに万引きでもしよう物なら
彼の強烈黒豹パンチを、お見舞いされ、二人が帰ってくるまで起きてはこれないことは必須であろう
設備も簡単なものでパンが欲しい人は、設置された重厚な箱に、お金を、入れれば良かったが、そう言う、システムを、廃止して、彼女を雇うとは
やはり麦太には、思えなかったからだ
「簡単な事よ、彼女はやくち立つわ」
一体どう言うことなのだろうか
麦太は、疑問そうな顔を、もう一度したが、小麦は、それに答えることなく
「じゃあ、今住んでいるのは・・」
と、いよいよ雇用の準備に取りかかっていた
「「嵐の帰還」」
二人には、父方の妹、叔母が、一人いる
名前は、嵐 豆粉 かわいらしい名前に反して
前名 のように、暴風雨ふきあらしいつの間にか通り過ぎる
自然現象のように、どうしようもない人物だというのが、二人の認識だ
朝早く、午前三時には起床した麦太は、いつものように、小麦袋を、調子場に運び入れていると、調理場の棚の下から、勢いよく黒っぽい何かが、麦太の足下を、すり抜けると、そのまま開けていた扉から出て行った
「何なんだ」
まさか、ネズミではないだろう
そうは思うが、もしもという事がある
今度、小麦に、保健所の話をした方がいいのかもしれない
そんな心配をよそに、パンを練り上げ、順々に焼き上げていると
いつの間にか、小麦が、それを、目にも止まらぬスピードで、パスケットに入れると、そのまま、店に並べていく
まだ、小麦には、重い鉄板のまま店まで運ぶ力はなく
そう言うところをふと見ると
まだ、子供なんだと思い
そう思ってしまう自分が、子供らしからぬとも思ったりもするが
彼女くらい休ませた方がいいのではと最後には心配に顔を曇らせた
しかし、外は、快晴であり、僅かに、紺色に、明るみ始めた外は、
いつの間にか、太陽が、当たりの建物やコンクリートに乱反射するまでになり、始まったなと、一日の始まりを自覚し始めた麦太の前に
胸に、黒い何かを抱いて、クリーム色のコートに、同じ色の帽子
さらには、派手なサングラス、ころころと転がすバッグを、もう一方の左手で、引きずっている
そのとき、麦太は、早朝の巨大ネズミの一件が、犯人は、黒であり
地震か何かのように、察知した黒が、逃げたんだと、合点が行く
ただし、その察知もむなしく、不満と恐怖で小さくふるえているように見えなくもない
とうの叔母さんは、店の前を、うろうろとし
ほかのお客さんに不審がられ
小麦には、いやな顔をされていたが
何を思ったか、店に軽快に、ドアのベルをふるわせて
店の中に、入ってきた
そして、店内を見渡した後、麦太と小麦を見ると
鞄が、倒れることも気にせず抱きしめた
「ごめんなさいね、お父さんが倒れたのに、来れなくて」
この人は、葬式だろうが、噴火だろうが、ゴジラが出たって、帰って来ないときは、来ないと知っている、母の時だって、帰っては来なかった
「それでなんだけど・・そうね、麦太、あんたちょっとっこっちに来なさい」
そう言うと、豆粉まめこ は、麦太の腕をつかむと、店の奥のレジのカウンターからさらに奥にあるのれんをくぐり、畳の居間に、座らせた
「本当に、悪いと思ってる、だけど、間に合わなかったのは・・」
彼女はそう言うと、いつの間にか持っていたトランクスを、開ける
良く見ると、銀色外装は、至る所穴ぼこであり
どういう使い方をしたらこうなるのかと疑問視してしまう
彼女は、いやに多い鞄についたとっての下にあるダイアルをすべて回すと
鞄を開ける
中には、ぐちゃぐちゃとした服やら何やらが、詰め込まれ
彼女は、そこにおっくすこと無く手を突っ込むと、しばらく探っていたが
何かを引きずり出した
其れは、茶色い紙袋であり、下の方が、破れている
まずいな
明らかにそんな顔をしたが
其れを、麦太に、渡した
おい、大丈夫だろうか
麦太は、時限爆弾でも入っている心境だったが
開けないわけにも行かず
そーっと中を、開けると覗いた
そこには、何処にでもある
そう「草」といでも言えるような
代物が、そこには、無造作に、線香の束ほどに、入れられていた
「これは・・・」
顔に、クエスチョンマークを、浮かべたり張り付けたいしている
麦太を前に、彼女は
「万病速攻草 通称 エンジェルヒーリング どんな病でも治る恐るべき草よ」
なにやら、友達が、ゲームで話すようなちんぷんかんぷんな言葉が出てきた、それに本当にそんな物があるんだったら、この世の中の秩序は、どうにかなってしまうと幼心に思う麦太
「まあ、私も、これが現実にあるとは思わなかったわけ
現に、あの世とこのよと未来を、さまよったけど、何とか手に入れたは
良いけど、いつの間にか、ほんの一週間前だったって言うのに
まあいいわ、あんな兄のために使うのは、正直無駄だとは思うけど
今、現在よ、すべてはそこ、たった一秒それ以前よりも神経をすりつぶしてこの世を楽しみなさい、そのための薬だから、こんなことは、あの兄に押しつけて、遊ぶべきよ、だから、早く、その草、あいつに飲ませなさい
其れで全ては元通り、あれは、狂ったように、パンをまた焼き始めるでしょう、飲まないようなら、パンに混ぜればいいし そうね、兄ならその方が」
言いたいことだけ言うと
豆粉は、あら時間が
とか言い残し、颯爽と、去っていく
残されたのは、謎の草と
仏壇の中で写真からくしゃみをださせかねないほどのごうごうと煙を立てる一本の束の線香なのであった
案の定
草を口にする父ではない
其れは草に限ったことではなく
水分補給もパン粥というかたちでしかとれないほどだ
颯爽と去っていた叔母を、疲れたようなしかめっ面顔で、小麦は、眺めていたが、僕は、用事があると、店番を、押しつけて、父のそばにいるというわけだ
ちなみに、大学生の栗見さんは、休日はお休みであり
その他の時間は、ほとんど、店にいる
で、僕は、パンに練り込むことにした
ミキサーで、草を、ジュース状に、粉々にすると
一瞬光ったような気がしたが、蛍光灯のせいだろう
どろどろの液体は、不思議と濁りが無く透明に見える
其れを、用意したパン生地に、いれ、練り混ぜる
中を空洞にしたパンを、オーブンで30分ほど焼き上げ
取り出ししばらくして冷ました僕は、今朝がた、父に作ろうと残して置いたチョコクリームに、どろどろを混ぜ
それを、パンに流し込んだ
見た目は、変化無く、ふつうのパンにしか見えない
それこそ、何の変哲もない
ほう、チョココロネか
そう、父が言うだろうと思いながら、ふと、椅子に座ったとき
どう言うわけだろう、きっと日頃の疲れとプラスα叔母の高気圧に、押しぶされたせいかもしれない、僕は、いつの間にか、眠ってしまったようだ
「お兄ちゃん起きて」
珍しく小麦に肩を揺すられた、しばらく自分で起きられるようになったというのに
そこで、自分の今の状況が、机の上であり、うとうとしてしまったことに気がつく
「あっ、ごめん」
「今日のニュースです、今朝、巨大ビルディングに、巨大な靄のような物が浮かび、一時周辺は、大騒ぎになりました
これについて、今日は専門家の方に来ていただいております
どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、ぞうぞ」
「では、高梁先生、ちまたで、騒ぎになっています、この靄のような物は何なのでしょうか、インタビューでは「幽霊」「魔神」「神」「日の光の錯覚」「公害の煙」などが、あげられていますが」
「これは、僕としては、竜の飛翔と言う現象だと思います」
「竜の飛翔ですか、つまり、あれは、竜だと」
「いえいえ、其れは、例え、そう言う風に見えるわけでしてね
たとえば、あるくにでは、夕方になると、何億匹というコウモリが一斉に空に飛び立つ、其れを地上の人が見るとまるで竜が空を飛んでいるように見えるんです」
「と言うことは、これはコウモリだと」
「いえ、その割に、コウモリの姿も、糞尿も、確認できませんでした
そこでもう一つ、これは、モスキートハリケーン現象だと考えています」
「もすきー・・となんですかそれは」
「いわゆる蚊柱ですよ」
「ニュースなんて見てないで、大変なの」
そこで僕は、小麦の視線が、僕の胸にあることに気がつき
手を向けると、ほんのり暖かく懐かしい手触り
其れはいつもさわっているように思う
もしかして、黒かと思ったが、こんな手触りではないし
第一黒はそう簡単になでさせてくれない
上に乗るなんて、以ての外だ
おばさんのように、力でねじ伏せる以外方法はないに違いなくそれ以外の方法を今だに僕は知らない
ただ、黒ではないそれに、目線を下げ、手で持ち上げ
さらに其れを、もう一度、目を合わせる位置まで、瞬きをすることなく
持ち上げる
「うわっあ」
そこには、服を着た、良く分からないこんがりと良い色をした
生物が、パンのような顔で、こちらを見ていた
しかも恐ろしくつぶらな
赤ん坊のような目で
「もしかして、チョココロネなのか」
其れは、依然として、本当とは思えなかったが」
独特の貝をもしたフォルム両横から覗く穴は
まさに、チョコクリームである
何故そうなったかと聞かれて思い当たる節があるとすれば
それは、すぐに、あの叔母の顔が思い浮かんだ
「まさか、あの草に」
そんなことはないだろうと、思ったが、確かめようにも、すでに、ボールは、綺麗に洗ってあり、しかるべき機関に尋ねようにも
無理なものだろうし
そんな、パンに命が宿ったなど、信じられるわけも無かろう
そこで、テレビの横に、埃をかぶって置いてある、むかしははが読んでくれた絵本を、見てしまうが、首を振ると
「悪戯だろう」
と、小麦を、にらんだが、彼女も、首を、ふり否定する
彼女にしては、感情をあらわとした驚きと不可解そうな顔である
「じゃあやっぱり」
試しに、人差し指で、その頬のような、部分を押してみると
まごうこと無き「パン」である
鼻を近づけると
「よしなさい」「危ないんじゃない」
と、心配する声とは別に
「キャッキャ」と、幼子が出すような声で
なにやら小さい物を、麦太の鼻へとのばして笑う
「これは、家で、引き取ろう」
何を思ったか麦太は、呆れ顔を、小麦にさせたのである
「ただいま、入りました情報に寄りますと
「突然、地下鉄内に、煙が発生
直ちに乗客乗員三百人ほどが、避難する事態が起こりました
これによる被害者はゼロただ、運転に、影響がでている模様です
路線は」
「あぷー」
おかしなことに、その赤ん坊風のパンは、何というかオムツを、したところ真っ黒い甘い匂いのするどろっとした物を、排出
一応の検討の元、嗅いでみることにすると、何処からどう見ても
其れは、チョコであり、勢い余って、舐めて見るも
やはりチョコであった
「ばかねー」
と小麦じゃなくても言いそうだが、自分でも、何をやっているのだろうかと麦太は、思ったが、興味心には勝てなかったのであった
あと、食べ物は、チョコを、食べるとも思ったが、口に、近づけても
顔を、背け、イヤイヤをする
じゃあ、小麦粉卵などを、緩い状態で、スプーンで、やるも
泣き出しそうになる始末
次第に、元気がなくなり
パンも、堅く脆くなっているような気がした
「こう言うときは、病院だろうか」
「馬鹿じゃないの、こんな生物見てくれるどころか実験に回されるわよ」
「・・そうなの」
「そうなのよ」
「ほら見てくれよ、こんなにポロポロで、しかも、中も空洞に」
「今なんて」
小麦はそう言うが早いか
パンパンに張った絞りを、持ってくると
其れをいきなり、チョココロネの穴に、ぶっさすと
ぶちゅーと
黒いクリームを、流し込む
「おお」
それは、一瞬光を放つと
そこには、始めてみた頃のように
焼きたての頃のパンのよろしく
つやつやと光る
チョココロネが、寝ながら手を振るのである
二人とバイトの世話のかいあってか
いつの間にか、板チョコを、食べるまでに成長
そのかん、三ヶ月とでも言うところだろうか
その間、叔母からの連絡はなく
驚異的なスピードで、保育園児えんちょう組ほどまでには成長していた
その頃には、少しずつであったが
読み書きが出来るようになり
いつの間にか、外に出ようとしているので
三人を困らすばかりである
ただ、問題なのは、父であった
このパンが、何にでも効く薬草だと聞くが否か
いきなり食いついたのだ
「「「あああ」」」
三人の悲鳴を物ともせず
其れは、唖然としているパンに、食らいついて
人間で言う耳の部分を、食べてしまった
当の本人は、唖然とはしていたが、いたくもないのか
逆に笑ってさえいる
ただ、おかしなことに、ちょこころねと命名された
チョココロネは、自分で、自分専用のチョコの絞りを、食べられた部分から中にチョコを注入すると
たちまち、光り輝き元の姿に修復されていた
「何と」
そう言う麦太を横に、父は、さらに食いつこうとして
三人に暴行されることになる
「あれは、あれは伝説のパンに違いない
あれを全部食べれば、きっと、きっと」
そんな怖いことを、聞いても、チョココロネは、平然と四人を見ているのみである
「ただいま、驚くべきことが目の前で起こっております
なんと、巨大な怪物が、ビルディングを、破壊しています
政府は、鳥獣災害に指定直ちに、自衛隊の出動と付近の住民の避難を開始いたしました、今現在の負傷者もしくは、死亡者は」
「僕行ってくる」
その言葉に、今で夕食を食べていた五人は、チョココロネを、見ることになる
いま、何と言った、今までしゃべったことの無かった
あのチョココロネが突如しゃべったのだ
そう言うが否か
チョコカレーを、食べずに立ち上がると
外に飛び出した
其れが、初めての外出になったのである
闇の中に照らされた、巨体は、いつの間にか降り出した雨の中でも
燃え続ける業火を、なぎ倒し
さらには、そこから立ち上がるさらなる炎にもおっくすことはない
全長五十メートルは優に越しているだろう其れは
目はくぼみ中で青い何かが光り
口も同様だ
それ以外は、雲のように、不鮮明であり
煤のような黒い色をしていた
逃げまどう人の中を
チョココロネは、電車を乗り継ぎ
ようやく、このしょにやってきたが
まだ、保育園児ほどのその身長とでは
人と蟻ほどにも体格差があった
それでも、かれは、その黒い物へと確固たる意志を持ってか
進んでいく
雨は、彼の体を、わずかに、ぬらしていた
辺りを、普段見慣れぬ自衛隊や、パトカーが、道ばたなどに、放置されている中
ずんずんと、行くべきしていくとでも言うように
チョココロネは、黒い陰に、向かう
その巨体の下で、人間は、ただ、様子見に徹しており
この巨大な物への対処を、考えあぐねている状況だった
「やめなよ」
麦太は、チョココロネの肩をつかむが
それでも止まることなく
「いや、僕は行かなくちゃいけないんだ」
と、でも言うように、さらに足を進めた
ただ、端から見ても、勝てる見込みなど無く
第一数名の自衛官の隙間さえ通れるとは思えないほど
チョココロネの体は小さい
大きな砲口ともつかぬ轟音
先ほどまで道があった場所に
道をふさぐほどのコンクリートの瓦礫が落下していた
「あ・・ちょこ」
そこにあるのは、瓦礫のみで、チョココロネの姿は何処にも見ることが出来ない
「止めれば良かったんだ」
そう口に出すときには、大人に取り押さえられていた
ただ、それだけでは終わらなかった
コンクリートが、何と持ち上がったのだ
其れは、落下してきた方向へと、逆再生のように、戻り
視線の先で、黒い固まりが、揺れた
「おお」
わずかな歓声が起きる
ただ、黒い物は、それに堪えることはなく
逆に、黒い煙を、当たったと思われる場所から吹きだし
其れは、雨と混じり、黒い水を降らせる
麦太は、必死で、チョココロネの行方を探した
ただ、残骸から姿はなく
人々が指さす方に目を向けると
ビルを、よじ登る小さな姿が目に映る
「あいつ」
急いで止めようとするが
大人の力の前に、麦太は、なすすべなく
後退する
その直後
「あんた何やっているの」
良く聞き慣れた渋い色合いの困った声だ
「小麦」
彼女は、背にあわないような大きめの赤いリュックサックを
背中に乗せていた
「あれ、あれを」
「そんなの分かっているわよ」
麦太はその小さな姿に、勇気づけられていた
その頃、チョココロネは
顔を、半ば溶かすようにしながら
コンクリートに、穴を開けるような強大な力で
黒い陰の足下まで、上り詰めていた
しかし、石油でもかぶったような
その顔は、もはや見る影もなく
動きも放漫化していた
目の前に、自分の何百倍もするような
大きな何かがいる
しかしチョココロネは、崩れた頂上に登ると
そのまま、その黒い物の足を蹴っ飛ばす
其れは、ゼリーのように、簡単に崩れ
遙か眼下に落下して
水風船のように、辺りを真っ黒にした
「・・・・・」
声にならない声を発した
口からは、息の代わりに
黒い靄が流れ出す
もう一度蹴っ飛ばす
今度は、ジャンプを付け
腹の辺りだ
其れは、内蔵をぶちまけることなく
またしても、ゼリーのように、半分が崩れ去る
「がんばれー」
そんな声援が、彼方で聞こえた気がしたが
今にも、体の一部が崩れ去りそうな
チョココロネは
動き続けた
最後に、首をけ飛ばすと
其れは頭だけになり
其れも落下の衝撃で
チョココロネの足下に黒い水たまりとなり
落下する
その中に、チョココロネは、人形のように、横たわるのであった
「被害は甚大であり、負傷者三百名以上
なお、この被害による損失は百億円以上とも言われ」
無責任だよな
そんなことを思いながら、白いベッドに、ホカホカの顔を、寝そべらしているチョココロネを、眺める
あの後、すぐに、周りの意見も聞かず
二人は、崩壊間近とでも言えるビルの階段を駆け上り
水たまりで、溶けかかっている
ふやけたそれに
鞄から取り出したチョコの絞りをぶっさすと
破れないように、流し込んだ
其れは、実に不思議な光景だった
まるで、しなびたサボテンに、水を垂らしたような
毛細血管のように
徐々に光り出し
其れは、元の焼きたてのパンのように
その姿を変えていった
「やった」
小麦は、そう言うとチョココロネを、抱きしめたのである
あれから、10日ほどしたときだろうか
あの日以来
疲れているのか
チョココロネは、起きることもせず
チョココロネらしからぬ
まるまるとした顔で寝ている
「きっと
血の吸いすぎの蚊のようなものだろう」
そんなとき、いきなり横から、声がして振り返ると
そこには、叔母の姿があり
「何処に行っていたんだ」
と言う問いかけも
「まあまあ」
と、適当に受け流され
「おい、本当は起きてるんだろ」
と、チョココロネの両端の先端を、摘むと
ちぎれかねない強さで引っ張った
「あがががが」
チョココロネは、飛び起きたのであった
「何でも、航空で、逃げたときに、
薬草をどこかで落としたらしくて
其れが、周り回って、あの化け物を、産んだらしい」
「へぇー」
大して興味もないように
居間で煎餅をかじりながら
小麦は、宿題をしていた
あの後、一応の手当というか
看病をした後
まあいいだろう
と思ったのか
小麦は、心配するのをやめた
もしかすると、彼女なりの見解と妥協がったのかもしれない
「それで、これからどうしましょう」
隣の壁を、小麦は見る
居間現在進行形で、父は、チョココロネをねらっているし
そのせいで、気晴らしにと言う項目で
父はいつの間にか
叔母が連れ去ったらしいと思われる置き手紙とともに
消えていた
残ったのは、毎日政府関係者が
やってくる原因のあのチョココロネ
ただ、あの事件の後
ネット上やちまたで、チョココロネのことを
みな、こう呼んでいた
「チョッコロネマン」と
まあいいんじゃないか
麦太はそう思いながら
大きなあくびをした
「ただいま、緊急の・・・」
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