表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2話 取り調べ

「……それで? お前は雇われただけだって?」

「その通りですよ! 何度言えば分かるんですか!」

ある施設のある一室。入口のプレートに取調室と書かれていた部屋に机をはさんで金髪と彼を捕まえた警官隊のリーダーが向き合っていた。リーダーのそばには部下らしき男が控えている。金髪は困惑した様子で自身が雇われただけの人間であると訴えている。

「……どうかな? 分かった。おい伊東、ちょっと『眼鏡』、貸してくれ」

リーダーはため息をつくとそばの部下に手を差し出した。その部下──伊東──は懐から眼鏡ケースを取り出し、リーダーへ渡した。リーダーはケースを開け、眼鏡を取り出してかけた。そしてそのまま金髪と目を合わせた。

「さて、改めて名乗ろう。俺は武藤。特殊な物品を扱う扱う組織の一員だ。ここまでは分かったか?」

「え、えぇ」

リーダーは名乗り、金髪をじっと見つめる。そしてしばらくすると目の前の調書を手を取り確認する。

「OK。では次に再度調書の方を確認する。何か気になったところや訂正箇所があれば遠慮なく口を出してくれ」

「分かりました」

「では……まずお前の名前は神崎博樹、年齢は20歳。両親と妹と4人で暮らしており、自宅近くの大学の大学生。間違いないな?」

「間違いないです」

金髪こと、神崎博樹は自信満々に答える。武藤はその様子を確認するとまた調書へ目を落とす。

「ふむ、次に先週の日曜日の件についてだ。今から3日前のその日、繁華街で歩いていた時にミサと名乗る若い女に声をかけられた。ここは間違いないな?」

「ええ、確か彼女はちょっと演技の仕事をするだけで稼ぎになるおいしい仕事がある。どうだ、と言っていました」

武藤の読み上げに対して補足した博樹の言葉に武藤は目線を上げて博樹の顔を確認する。

「……うん、いいだろう。そして儲け話があるといわれたお前は小遣い稼ぎのため今日あの駐車場の近くの公園でその女と待ち合わせし、女が連れてきた仲間とともに車に乗ったと」

「そうですね。その時に台本も渡されて概ねその通り話すようにとだけ伝えられました」

「それで、高校時代演劇部だったお前の演技の腕を見込んだミサに頼まれてグループのリーダーの演技をしていたと」

「はい」

「そうか……嘘はないようだな」

そこで武藤は一度区切り、再び取り出した調書を確認しながらつぶやく。

「もういいでしょ? 俺は何も知らないんですよ。さっさと帰してくださいよ」

博樹の言葉を無視するように武藤は少し悩んだ様子を見せると先ほど眼鏡を渡した伊東に話しかけた。

「……そうだな。おい伊東、こいつはやはり全くウソをついていないようだ。『雇用』するか『拘束』するかどっちがいいと思う? 今回はお前に判断を任せる」

「え、僕ですか? そうですね……『雇用』がいいかと」

「ほう、その心は?」

伊東の自身の質問に対してあごに手をやって少し考えた後の返答に武藤はまた質問した。

「その眼鏡で引き出せるのは対象が嘘をついているかどうか。それだけです。アノマリー以外でも催眠術のような相手に何かを思い込ませる術はごまんとあります。彼の証言をまるまる信じる訳にはいきませんし、逆に例の件を考慮すると我々の目を離れすぎたところへ置いた場合、奴らに口封じされてしまうでしょう。それは我々の活動理念に反します」

「……うん、そうだな。判断として、適切だな。検査の結果もそれを示している。ちょっとそこのバインダー取ってくれ」

「あ、はい」

伊東の説明に武藤は納得したように頷きながら呟くと伊東に後ろの机から資料を取ってこさせた。

しかし、目の前で自身の状況について訳の分からない話題が繰り広げられた博樹は困惑しつつ伊東に話しかける。

「ちょ、ちょ……え!? さっきから何を言ってるんです?」

「ああすまない。我々から君に提案がある。まず、これを見てくれ」

そして、武藤は伊東から受け取ったバインダーから資料を1枚引き抜くと博樹の方へ机の上を滑らせるようにして渡した。それには大炎上して焼け焦げ、骨組みだけになったような車の写真が添付されていた。それを見た博樹は困惑の声を上げた。

「これは……?」

「見覚え無いか? お前たちが乗っていた車だ。ミサと共にな。俺の仲間が追跡していたが走行中突如爆発し、中から複数の遺体が発見された」

「えっ?」

「俺たちはを君を雇ったというミサが用済みになった仲間を始末したと考えている。……もしくは"組織"に始末されたか」

最後の言葉は小声だったからかショックを受けていた博樹にはよく聞こえなかったようだった。困惑する彼をよそに武藤は話を続ける。

「俺の言葉を信じるかそれは君に任せる。だが、俺たちには君を守る義務があるんだ。君を放置すれば彼らと同じ運命をたどる可能性が高い。でだ、そこで提案したい」

そこで話を区切ると、武藤はまたバインダーから紙を取り出して博樹へ差し出した。

「俺たちの仲間にならないか?」

「え、えぇ?」

武藤の突然の提案に博樹は困惑した。差し出された紙を見るとそれは雇用契約書であった。

続いて、武藤は懐からチャックのついたポリ袋を机に出した。中には博樹が使っていた『鍵』が入っていた。武藤はそのまま指でトントンとポリ袋を叩き、話を続ける。

「お前が使用したこれ、分かるよな? 俺たちはこれを見ての通り『鍵』と呼んでいるのだが、現場でのお前の実演はトリックや仕込みではない。これを使用することで対応する鍵が無くても扉などを開くことができるといったところだな。こういった物理や論理を飛び越え、世の摂理に反する現象を引き起こす特殊な物品を俺たちは製作者不明ということから"アノマリー"と呼称している」

武藤は自分がかけている眼鏡のこめかみあたりをコンコンと叩いた。

「他にも、噓発見器より高精度の虚偽判定ができるこの『眼鏡』。あとはテレパシーが使えるようになるものや千里眼が使えるようになるアイテムもある。正直、全て合わせて何種類あるか現状全くの不明だ」

武藤はお手上げといった様子で肩をすくめた。そして真面目な顔をすると人差し指を立てた。

「そしてもう一つ、アノマリーにはどんな種類のものにも共通する重要な点があってな……この写真を見てくれ」

武藤は手元の写真を見せた。そこには全身が干からび、顔面蒼白になった男とも女とも判別のつかない遺体が映っていた。かろうじて無事な無骨な首から下より男性だと推測できるだろうか。そして、『鍵』を叩きながら話し続ける。

「こいつはお前の取引相手を追跡しに行った者の一人だ。発見されたときには既にこの状態で死んでいたそうだ。そして、彼の手元にはこの『鍵』があった」

「え」

博樹は一瞬体を引いたが武藤は手を上げてそれを制した。

「あぁ、安心しろ。お前には影響はない。だが最初に使用した者──この場合だとお前だ──が死ぬまでそいつ以外が使用しようとすれば死ぬ。体質が合わなくてな」

そこで武藤はため息をつくと所在なさげに手を組み、リラックスした様子でイスに深く腰を掛けた。

「だがお前はあの場で問題なく使用できた。これは、今この『鍵』の正式な使用者として認められているのは他でもないお前だということだ。そしてそれはお前が死ぬまで変わらない。つまるところ、これはお前が使わない限り一生倉庫の奥で死蔵されるってことだ。君が協力してくれるだけで我々はどんな扉も開けられる便利な道具を自由に扱える新人を得て君は将来安泰な仕事を得る。win-winな関係だろ?」

「なるほど……」

「俺たちの仕事にはしっかりと報酬もでる。しかもその性質上実質終身雇用。どうだ? 俺たちの仲間にならないか?」

博樹は口に手を当て少し悩んでいる様子だったが顔を上げて答えた。

「わ、わかりました。貴方を信用します。ですが、ここで働くことは辞退させてもらっていいですか? やりたいことがあるんです。小さなころから」

恐る恐る、だがはっきりとした物言いと目に武藤は頷きながら答えた。

「分かった。仕方ないだろう。深くは聞かない。誰だって事情はある。理解できないことも多いだろう。だがしかし、一応手続きのため一週間ほど拘束させてもらう。勿論できる限り不自由ない生活をさせるつもりだ。申請さえあれば外出も可能だ。これはすまない。規則なんでな」

「ええ、わかりました」

「ご協力感謝するよ。伊東、案内してやってくれ」

「了解です。さぁ行きましょう」

そして伊東は武藤の命令に従い、博樹を連れて外へ出て行った。


------------------------


「さて、うーん。また振り出しか」

神崎が伊東に連れられて出て行った後、武藤は椅子に深く座り込み、悩ましげに右手で唇に触れながらつぶやく。

「大変みたいだね、敦哉君」

いつの間にか白衣を着た男が部屋に入ってきていた。彼は神崎の座っていた席に座り、持ってきていたマグカップの中の液体を飲んだ。武藤──武藤敦哉──は頬杖をつきながらその様子を見ている。

「ドクターか。やはりあいつは何一つ嘘を言ってなかった。繁華街での声掛けも本当だし、撮影か何かだと思ってたのも本当。嘘が嘘だと見抜けないただのバカだった」

「それは残念だ。取引相手の連中も結局捕まえられなかったんだろ?」

ドクターと呼ばれた男はマグカップを机に置くと机に置かれていた資料に手を伸ばす。

「ああ、逃走した奴らを追ってた者たちは全滅した」

「それは"組織"の?」

「恐らくは。無線であいつが最後に報告したのは大量の虫の出現。そして逃走した者たちも恐らく全滅。あの惨状じゃあ黒服が全部で何人いたかも分からん」

「残念だね。葛城さんの方も空振りだったんだろう?」

「そうだ。例のミサが乗っていると思われる車両を追跡中その車両がいきなり爆発したらしい。そして、焼けて性別すら判別不明な遺体が数体見つかった。ミサが生きているかどうかも不明だ」

「例のミサという女が口封じに抹殺したのか"処刑人"が動いたのかどっちかわからないけどどちらにしろ厄介だねぇ」

「まぁ、"組織"のほうは気長にやるさ。規模が見えない。それよりも今回の問題は危険な団体へアノマリーが流れかけたことだ。今までの学生などの一般人とは違う、明らかに悪用されるであろう団体へのアーティファクトの販売……今までの傾向とはまるっきり反対だ。何らかの対策は必要だろう」

「確かに、今のままでは危ないだろうね」

「今以上の監視体制の構築、奴らの組織の本部特定、今までの拘束者の今後の扱い方。考えることは無数にある。本当に手が足りないな」

頭痛を抑えるように頭に手を当て頭を振った。

「ま、そうだね。ところで、僕の渡したあれはどうだった?」

武藤は眼鏡をはずすと机の上に置く。そして指先で眼鏡の位置を調整しながらつぶやく。

「……あぁ、こいつのことか?」

武藤は鎖がまとわりついている小箱をズボンのポケットから取り出すと、机の上に置くと左腕をまくった。そこには鎖が強く巻き付いたような真っ赤な痣があった。

「この通り。明らかにフィードバックか強すぎる。便利だが短時間でこれだ。長時間無理したら腕が折れてただろうな」

「おぉ、それは申し訳ない。まぁ、試作品は試作品だからねぇ。改良は必須。そのための試作品だ。改良型の構想は出来ているから期待しててくれ」

「……そうか、なら頼んだよ」

悪びれもせずあっけらかんとした様子のドクター。武藤は立ち上がり部屋の出口へと向かう。

その武藤へドクターは薬瓶を振るような仕草で声をかける。

「おや?腕の治療はいいのかい?」

「このくらい、ちょっとした痛み止めですぐ直るさ。そんな大層なものは必要ない。あぁ、それとそこの眼鏡、伊東に返しといてくれ」

「うんそっか、分かったよ。じゃあ、お疲れ……あぁそうだ、今回回収した……『鍵』だっけ。そいつのテストだけしたいから落ち着いたら僕の研究室に来てくれないかい?」

「ああ、そうか。分かった。お疲れさん」

そのまま武藤は取調室を出て行った。

「……さて、僕も少し準備しないとねぇ」

残されたドクターは一人呟き、机に残された小箱を弄んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ