声に隠れて。
せっかくなのでラジオに絡めたものを書いてみました。
場面転換がうまくいかなくて申し訳ないですが、雰囲気を楽しんでいただけると幸いです。
最初に「あれ?」と思ったのは、2通目のメールが読み終えられた頃だった。
パーソナリティが改めて作品名を読み上げた後に、クスクスっという笑い声が聞こえたのだ。
最初は気のせいかと思ったが、3通目が読まれる間にも何度かクスクスという笑い声が耳に入った。
しばらく聴いてから、俺も思わずフフッと笑ってしまう。
「さすが『なりたいラジオ』だな。」
俺が毎週楽しみに聴いている『小説を書く人になりたいラジオ』は、同名の小説投稿サイトを盛り上げるための番組だ。
本なんて書くことはもちろん読む方も興味がなかったが、パーソナリティを務める2人の話が面白すぎて、今では本屋に立ち寄るのが楽しみの1つになっている。
そんな番組で毎年恒例となった夏のホラー企画。
2人の朗読に謎の笑い声を混ぜるなんて、リスナーを楽しませるために常に頑張ってくれるスタッフらしいと思った。
こうしている間にも朗読は続き、笑い声も聞こえる。
4通目が始まる頃には、
『ねぇ。』
と、急に呼びかける声まで聞こえて思わずビクッとした。
「やり過ぎだろ…。」
恥ずかしさを隠すように苦笑する。
そういえばこれって、スタジオの2人にも聞こえているんだろうか?
女性の方はホラーが苦手と言っていたから、わかっていても怖いだろうな。
そんなことを考えて自分の感情を誤魔化す俺を煽るように、声はクスクスと笑い、問いかけてくる。
『ねぇ、聞こえてる?』
なんだか会話をしているような不思議な気分になって、自然と笑みがこぼれ、つい答えてしまう。
「聞こえてるよ。」
急に、笑い声が止まった。
そして2人の朗読をかき消すように冷たい声が響く。
『本当に、聞こえてるの?』
慌てて、イヤフォンを引きちぎるように外す。
「今の、なんだよ…。」
演出?
でも朗読の邪魔になるようなことをするか?
なんだか急に、背中が冷たくなってくる。
何かがおかしい。
そこまで考えてまた苦笑する。
いや、きっと疲れているんだろう。
早く休もう。
ラジオなら明日にはアーカイブで聴ける。
そう自分に言い聞かせてラジオのスイッチを切り、なんとなくホッとした俺の耳に楽しそうな笑い声が響く。
そして…
「みぃつけた…!」
――――――――――――――――――――――――
「こっわ…。」
朗読を聴き終えた私は思わず呟いた。
今日は毎年恒例のホラー特集。
リスナーからの作品を2人が読み上げてくれる日だ。
『はい!最後はラジオネーム“ホラー大好き“さんの作品でした!』
『怖いねぇ。』
『怖いですぅ。』
さっきまでの空気を壊すように2人が笑う。
『何かがラジオの声に隠れながら自分の声が聞こえる人を探してるんでしょ?』
『はいー。』
『わー、見つかったらどうなるんだろう…?』
『はいぃ…(涙)』
本当にどうなるんだろう?
どこかへ連れて行かれるんだろうか?
そんなことを考えているとあっという間にエンディングが始まる。
明日のアーカイブではもう1話聴けるようだ。
私は最後に聞こえた言葉を無視してラジオのスイッチを切った。
―声に隠れて、何かが私たちを探している。
読んでいただきありがとうございました。