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ウェポンマスターの終了

 シロとクロを具現化して以来、彼らは戻ることなく普通の猫サイズでずっと僕の傍にいる。

「なぁ、シロ、クロ、昨日見た化け物って君たちも見えたの?」

 目に見えると話しかけやすい。まぁ、猫が話をする姿は人に見せられないから、パーティメンバー以外のところでは話しかけたりしないけど。

「私たちも見ていたけど、いつのどこの場面なのかはわからなかったよ。」

「そうか。そうだよな。何だったんだろうな。」


 その日は、午前中から実戦演習が始まっていた。僕は「MEMORY」と書かれたフォルダとにらめっこをしながら実戦演習の様子を見ていた。すると、突然「ビービー」とアラームが鳴り始めた。管理画面を見ると『戦闘中』のゲージが赤く光っている。

「赤く光るってことは…力に体が付いて行けていないんだっけ?」

 僕は窓から演習場を覗いた。

 四本ラインに挑んでいるチャレンジャー(僕の中で彼らのことはチャレンジャーと呼んでいる)から煙が出始めている。あれ、これって結構まずくないですか?

 四本ラインのメンバーがチャレンジャーの元へ集まってきた。チャレンジャーの体は、ボゴボゴッと膨れてきて、制服が破れる。

「グッグギャアアアアアアアア!」

 チャレンジャーは悲痛な声で叫び、体が大きく膨れ上がる。これがモンスターか。もう人間の姿の名残はなく、意識も無くなっているようだ。チャレンジャーは自分の属性で辺り一面攻撃する。彼は火属性だった。人間の時には使えなかったような強力な火の魔法で辺りを焼き尽くしている。それを四本ラインのメンバーが抑えにかかる。水を使っているのはフクさんだな。ラクさんは火が回らないよう風の流れを操作している。銀次さんと紗奈さんは他のチャレンジャーたちを非難させているようだ。モンスターはフクさんの水で覆われ、そして氷漬けにされた。管理画面では、『戦闘中』だった彼の名前には二重線が引かれた。これが、人間が化け物になった初めての例だった。


「ついにこの時が来てしまったな。」

 僕の隣にはいつの間にか木村さんが来ていた。

「コタロー君、あと3日でウェポンマスターを終了させる。」

「3日ですか。」

「ああ。3日後には記者会見が開かれるだろう。不可解事件のことも、人間がモンスターになってしまうことも政府が発表することになる。そうしたら、流れ星の対象となったのがウェポンマスターのプレーヤーだということも明かさなくてはいけない。プレーヤーはパニックに陥るだろう。全てを話しても理解してもらうには時間がかかる。実際に魔法を使って見せる必要がある。もう時間が無い。最後の時を楽しむといいよ。」

 そう言って木村さんは忙しそうに部屋を出て行ってしまった。

 楽しむったって、目の前で人が化け物になって死んでいるのに何を楽しむんだ。ウェポンマスターを楽しめってことなのか?

 今日も19時に制服を着て演習場へ行った。まだ『浮力』と『重力』の使い方を教わっていない。演習場に行くと、いつものメンバーがいたが、やはりちょっと疲れている感じがした。

「みなさん、大丈夫ですか?」

 フクさんに至っては、化け物だったとはいえ人を殺めたことになる。やっぱり精神的なダメージがあるのだろう。その点、僕は他人に興味がない。化け物になってしまったのだから倒されて当然だろう、そのくらいの気持ちだ。僕の心はおかしいのだろうか。

「ん?ああ、大丈夫だよ。」

 フクさん、無理しているのがわかります。

「あ、あの、僕に『浮力』と『重力』の使い方を教えてください。」

 僕は、みんなの気が少しでも紛れるように言ってみた。

「そうだね。じゃあ今日は、武器の具現化をやってみよう。」

 ラクさんも無理している感じがある。それでも部屋に戻ってしまうと思い詰めてしまうだろうから、何かしている方がいいだろう、と僕は思ったのだが、正直、人にそんなに気を使ったことがないから、それが正解なのかわからない。

「武器の具現化とは…?」

「昨日、精霊の具現化をしただろう。あれ、コタロー君、精霊戻してないんだね。と言うか、シロとクロ、小さくなったんだ。」

「そうですね。戻し方がわからないというか、戻ってくれないというか…。体力が持たないので小さくしました。」

「小さくてもそれなりに力を使うんだけどね。昨日精霊を具現化したときみたいに、武器も具現化できるんだよ。武器が具現化できたら、魔法の力が増大するから覚えておいた方がいいよ。」

 そういえば、フクさんもさっきモンスターを氷漬けにするときに氷の斧を使っていた。武器を具現化すると力が強くなるのか。

「では、昨日みたいにイメージすれば良いのでしょうか?」

「そうだね。基本的にはそう。ウェポンマスターで作っていた武器を想像すると具現化しやすいんじゃないかな。」

 そう言われて、僕は昨日のように目を閉じて武器をイメージした。


「あれ?」

「あれ?」

 みんなの声が聞こえる。そっと目を開けてみると、武器が出てきていない。具現化できない。

「コタロー君、想像力豊かみたいだったからすぐに武器も具現化できるかと思ったんだけど、出てこないね。じゃあこれは個人練習ということで、『浮力』と『重力』を使ってみようか。シロとクロも具現化しているからやりやすいかもしれない。シロが『浮力』でクロが『重力』でいいかな?」

「はい、ラクさん。私が『浮力』の力を管理します。」

「俺が『重力』を管理する。」

「じゃあ、シロに「ちょっと浮かせて」ってお願いしてみて。」

 お願いすればできるものなのか?

「シロ、浮かせてみてくれ。」

 ……

 ……

「シロ、浮かせてみてくれないか?」

 ……

「…コタロー、浮かない。」

「力、もらったんじゃないの?」

「もう一回やってみる。」

 シロが踏ん張ると、ふわっと浮いたと思ったら、ものすごい勢いで空高く上がってしまった。

「シロ、上げすぎ!クロ、下ろして!」

 僕がそう言うと、ものすごい勢いで落ちていく。

 うわああああああああ

 途中でフクさんがキャッチしてくれた。ふわっとしたのと重力でバンジージャンプでもしているかのようだった。

「あれ、双子星なのにうまくバランス取れないね。これはちょっと使わないほうが良さそうだ。」

 僕は気持ち悪くて、今日はもう練習どころでは無くなってしまった。

 そのまま仮眠室に行って休ませてもらった。今日合わせてあと4回しかパーティボス戦ができない。木村さんも楽しんでと言っていたのに、ゲームを始めて以来、初めて欠席することになってしまった。


 チャレンジャーが化け物になってから、パーティメンバーはみんな少し暗くなってしまったように思う。今日も午前中から実戦演習が行われているが、初めのころに比べれば、魔法の力の弱い人たちになっている気がする。水を弾にして打つような器用なことができる人がいなくなった。腕のラインも一本線だ。

 あと3日でウェポンマスターが終わることは、昨日のうちに告知されていたようだ。まだ理由が公表されていないから、「何で突然?」という意見が多い。それはそうだよな。人気ゲームの突然の終了、僕もまだ遊んでいたかったが、そんな感じでもなくなってしまった。政府が真実を公表したらどうなるんだろうな。前にAIが「それどころではなくなる」と言っていたが、その通りだったな。AIはもうほとんど話しかけてこなくなった。僕は、新しい方のAIの起動に行き詰まっており、ブレスレットの管理画面を眺めていた。

 1000万人以上いるプレーヤーのうち、戦士として魔法が使える人は100人くらいしかいない。その人たちの素性に興味はないが、プロフィールを見てみると、全員独り身で、何かあった時でも悲しむ人が少ない人たちが選ばれている。こういう人たちを木村さんは全国走り回って探して説得してきたんだな。戦士として選ばれたとしても、力に耐えられずモンスターになってしまう可能性もある。もともとゲームをしている人だ。自分の身に何かあっても魔法が使えるということに惹かれて戦士になったのかもしれない。僕も違う形で誘われていたら、魔法を使うことを選んでいたと思う。攻撃魔法ではないことが残念でならない。まぁ、タイプ的に僕は、ゲームの主人公のように最前線で戦うような人間じゃないからな。これでいいのか。

 ふと管理画面の二重線の中に、見たことのある名前を見つけた。


 高橋紗奈


 これって、紗奈さんの元カノか…。特に何も言ってなかったけど、亡くなっているのか。紗奈さんは知っているのかな。あれ、この管理画面って僕と木村さんしか見られないから、みんな誰が亡くなっているのかとか、今あそこにいるチャレンジャーが誰なのかとか知らないのか…。じゃあ、紗奈さんのことも話さないほうがいいんだろうな。

 今日は、僕は実戦演習場にはいかずに、仮眠室で武器の具現化の練習をしていた。やっぱりうまく具現化できない。シロとクロは簡単に具現化できたんだけど、まだまだ魔法が使えていないってことなんだろう。

 22時になったので、そのままパーティボス戦に挑んだ。

『コタロー君、会議室に来ればいいのに。明日は来てよね。』

 フクさんからコメントが入った。

『はい、すみません。武器の具現化の練習をしていました。』

『で、できた?』

『いえ、できません。』

『そっか。じゃあゲームの中だけでも武器持って参加してよ。』

『わかりました。せっかくレベルを上げてもらって武器も強くなったのに現実世界で出せなくてすみません。』

『まぁ、そのうち出せるようになるでしょ。じゃあ今日も楽しもう。』

 そういって、いつものパーティボス戦が始まった。そしていつものように終わる。ウェポンマスター終了までパーティボス戦は残りあと2回。


 翌日の19時には僕は演習場へ向かった。武器は具現化できないし、シロとクロは常に具現化しているし、ハチャメチャになっているけれど、今日は魔法の出し方を教えてもらった。

「魔法も、要はイメージなんだよね。現実世界ではゲームみたいにコマンドが出るわけではないから、ゲームで使っていた技の名前や、技の大きさはイメージを行う上でのきっかけに過ぎないんだ。自分が出したいと思う技が出せるはずなんだけど、それはもちろん自分の属性に合ったものだけだし、できないものはできない。じゃあコタロー君に何ができるのかと言うと、ゲーム内では『ストップ』以外に何かあったかい?」

「それが、『リバース』というのがあったのですけど、グレーアウトしていて使えませんでした。どんな効果があるのかさえわかりません。」

「リバースっていうくらいだから、時間を戻すんじゃないの?俺もあの頃に戻してもらいたいな。」

 紗奈さんが話に入ってきた。

「効果がわからないのにむやみやたらに使えないでしょ。」

 銀次さんが紗奈さんに突っ込みを入れる。この二人はなんだかんだ良いコンビだよな。

「コタロー君が『時』の属性である以上、炎を出したいとイメージしても出せないよね。だから自分にできることを考えるんだ。」

『時』属性ねぇ。何ができるんだろうな。雪華と約束したくらいだから、『リバース』は時を戻す効果があって、イメージすればそれは使えるということか。戦闘には全く役に立たないな。他には、タイムマシンみたいに未来に行く?引き出しのある机を買わないといけないのか。

「コタロー、未来には行けないぞ。」

 クロが話しかけてきた。僕の考えていることはお見通しだな。これはもう直接聞いてみよう。

「シロはストップを使えるけど、クロは何を使えるの?」

「私は、時を止める力を持っているけれど、クロは…」

「俺は、過去へ戻す力を持っている。時を戻せるが、未来に行くことはできない。」

 クロが『リバース』を使えるんだな。ちょっとイメージができてきた。夢で見たあの場面のように、いざというときは雪華を5年前に戻すのが僕の役目。じゃあ、その時以外は使えなくていいのかな。

「試しにさ、ちょっと『ストップ』かけてみてよ。前に言ったみたいに、誰かをストップさせて、そのほかをストップさせないとかできるのかな。」

 フクさんは、それに興味津々ですね。僕はイメージした。魔法を出すきっかけは魔法陣か…。


 まずは魔法陣…


 コタローがイメージをすると大きな魔法陣が出現した。


 そして「ストップ」


 やはり、全体がストップしている。フクさんもラクさんも紗奈さんも銀次さんも止まってしまった。動いているのは僕とシロとクロだけ。

「やっぱり全体がストップだな。シロ、解除してくれ」

「はい、コタロー」

 具現化したせいか、魔法が使いやすい。魔法を使うきっかけに魔法陣を使うというのも、ゲーム好きな僕にとってはイメージを生みやすいのだろう。

「やはり、全体がストップしていました。誰かをストップさせないとか、器用なことはできないみたいです。…でも、以前使ったときにはストップしている中、団長だけ動いていましたね。」

「ユキだけ動いている?何でだろうな。」

「逆属性持っているとか?」

「『時』属性はコタロー君だけだって前にユキさん言ってましたよ。」

「うーん。」

 みんな悩んでいるが、悩んでいても仕方ない。僕たちは会議室に戻った。そして22時になったのでパーティボス戦を行う。これもいつも通りだ。このいつも通りの感じもあと残り1回。


「あ、そうだ。コタロー君、今日俺の部屋泊まりなよ。飲み会しよう。」

 いきなりフクさんが提案してきた。誰かの家に泊まるなんて、大学生時代以来か…。

「あ、フクずるいな。俺も行く。紗奈も来いよ。」

 ラクさんが参加してきた。

「別にいいっすよ。行きますよ。」

「私も行きたいです!」

 銀次さんも加わってきたけど、女性でしょ。そんな簡単に男の部屋に行っていいのか?

「銀次は、寝るとき部屋戻れよ。じゃあ、この後フクの部屋集合ね。」

 僕も地下1階に行けるようになっていたけど、特に用事もないし行ったことはなかった。僕はシャワーを浴びて着替えて、地下1階に向かった。そこは居住区のようで、見た目はマンションだった。フクさんの部屋は…ここか。ちゃんと「フク」って書いてある。僕用に貼っておいてくれたみたいだ。

 コンコン

 ノックをするとフクさんが出てきてくれて、中に招いてくれた。中はとても広く、とてもきれいにされていた。

「フクさんてきれい好きなんですね。」

「まあね。広いでしょ。あっ、コタロー君も引っ越しておいでよ。確か、空いている部屋まだあったよ。今、外に部屋借りてるんでしょ。ほとんど戻ってないんだから、荷物持ってきちゃいなよ。うんうん。良いアイデアだ。」

 フクさんはそんなことを言いながら僕を居間まで案内してくれた。

「おー、コタロー君いらっしゃい。」

 もう他のメンバーは揃っていた。団長以外のパーティメンバーだ。人と仲良くするのは久しぶり…と言うより、こんなに人と関わったのは初めてかもしれない。


「フクさん、その時ですね、コタローなんて言ったと思います?」

「え、なになに?超気になる。」

「…ちょっと、シロ、馴染みすぎじゃない?恥ずかしいからあんまり僕のこと話すなよ。」

 居間のソファーでは、シロとフクさんが楽しそうに話をしている。僕は周りの様子を見ながらビールを飲んでいた。お酒を飲むのは久しぶりだ。

「コタロー君は、お酒結構いけるんですか?」

 銀次さんはワインをぐびぐび飲んでいる。

「そうですね。前は寝付けない時によく飲んでいました。」

「コタロー君、寝付けない時あるの?俺、添い寝してあげようか?」

 紗奈さんは、ホストみたいだ。ホストクラブなんて行ったことないけど。モテる男ってこんな感じなのか。

「いえ、結構です。前の職場ではクレーム処理が主な仕事だったんで、人間の嫌な面ばかり見ていましたから…」

「そうなんだ。今はここで働いているんでしょ?」

 そうか、ここで働いている以上僕がウェポンマスターに関わっていることはもうバレているんだな。

「そうですね。ウェポンマスターの開発部に異動になってからは、クレーム処理とか無くなったからお酒に頼ることなく眠れていますね。パーティボス戦に参加するのが日課になってからは、結構規則正しい生活が送れていましたよ。」

 僕はビールを一口飲んで顔を上げた。みんな驚いた顔でこちらを見ている。

「え?何?何か変なこと言いました?」

「…コタロー君ってウェポンマスターの開発部で働いているの?」

 フクさんが驚いた顔のまま訊ねてきた。

「え?だって、ここで働いているってそう言うことでしょ?」

「俺ら、地下3階だけは行けないんだよ。君を仮眠室に送ったときは、君の職員カード使わせてもらったけど、『WM開発部』のWMってウェポンマスターのことだったのか…。仮眠室以外は気にしなかったからな。」

 しまった。みんな知らなかったのか…。まぁ、終わってしまうゲームのことだから、もういいだろう。

「そうか。じゃあゲームの裏側の事情とかもわかるの?」

「いや、ウェポンマスターはAIが運営しているから、基本やることないし、バージョンアップの内容なんかも知らなかったりしたんで、開発部に所属って言って良いのかわからないくらいですよ。」

「そうなんだ。なんだかコタロー君のこと知れて良かったよ。じゃあ、俺らのことも少し話そうか」

 フクさんは自分の身の上話を聞かせてくれた。フクさんとラクさんは同じ職場に勤めていたこと、銀次さんはOLで、一企業の事務員だったこと、紗奈さんは車のディーラーをしていたけど、女癖が悪くて問題起こしてクビになったこと。他人には興味が無いけれど、いつも一緒に戦ってきたパーティメンバーの素性がわかるのは面白かった。その後、寝てしまった銀次さんを部屋まで送り届けて、僕たちはフクさんの部屋で一晩過ごした。僕は、東日本大震災の後、母親が行方不明となり祖父母に預けられたが、祖父母は自分の娘が子供を産んでいたことを知らなかった。もちろん、孫の父親が誰なのかも知らない。突然預けられた孫に祖父母は愛情を注ぐことができず、ただいるだけの存在として衣食住のみ提供していた。祖父母が亡くなった時も、叔父と叔母からは邪魔者扱いされ家から追い出された。僕はだれにも必要とされていなかった。だからこんなに他人にも自分にも興味なく育ったのだと思う。学校でも友達と言えるほどの人はおらず、ずっと一人で過ごしてきた人生だったし、それが当たり前だと思っていた。そんな僕の人生で、この一晩は、初めて人に興味を持たれ、初めて人に興味を持った時だった。友達って、きっとこういう感じなんだな。


 翌日は、ウェポンマスターの最終日であり、記者会見が行われる日だ。午前中政府の記者会見があるため、実戦演習場は静かだった。僕は仮眠室でテレビを付けた。

「えー。今起きている不可解事件の原因について、報告となります。」

 主だって話しているのは木村さんだった。隣に総理大臣が座っている。こうやって並んでいると本当に政府の人なんだなと思う。

「まず、これまで犠牲になった方並びに、これから犠牲になるかもしれない方について説明します。7月7日の流れ星に関しては、インターネット上で色々噂になっていましたが、我々政府の機関が故意に流したものとなります。この流れ星を受け取った方、または無意識で受け取られている方がその対象であり、対象者は全員、ゲーム「ウェポンマスター」のプレーヤーとなります。」

 記者たちがざわつく。そして、現在は属性のバランスを保っているため属性が暴走することは無いが、力が強すぎると化け物に変化してしまうと説明がされた。また、これから出てくる「あいつ」に関しても説明がされ、ウェポンマスターはそれを倒すために魔法を使える戦士を探すためのものであり、被害者が出てしまったこと、これからまた出てしまうことも説明された。「あいつ」も含め、今後人間が化け物に変化したもの全てを「アンノウン」と呼ぶそうだ。元人間でも身元がわからないほうが良いからだろう。

「そんな、モンスターの話信じられません。」

 記者の一人が言った。

「そう、簡単に信じられないかと思いますので、これから最前線で戦うことになる戦士たちを連れてきました。」

 そこには、制服を着た人たちが並んでいた。横並びで何列かになっていて、先頭は四本ラインの金色ライン。ユキさんだな。その後ろに我らがパーティ、四本ラインの4人。その後ろに2本ラインと1本ラインの人たちが並んでいる。そうか、この記者会見に出るから今日は演習場が静かなんだな。

「これから見せるのは、手品でも合成でもありません。どうぞ、魔法をその目で確かめてみてください。」

 そう言うと、フクさんは斧を具現化し火を纏わせぐるりと振り回して見せる。ラクさんも、剣を出し、風を操って見せる。

「か、彼らは一体どうやってこんな魔法を使っているんですか?」

 魔法を目の当たりにして記者たちは焦る。兵器を身に付けた人間が出来上がってしまったんだ。すごいというより恐怖の方が強いだろう。

「流れ星を受けた者のうち、自分の属性に耐えられ、力として使用できる者たちを集め、これまで訓練してきました。四本ラインの彼らは、そのほかの戦士たちをまとめるものであり、もし魔法を悪用しようとするものが出てきたら、すぐにでも抹殺いたします。私たちはその覚悟でこれまで訓練を積んできました。」

 記者会見が続く。記者の質問はもっともで、全国民が疑問に思っていることだろう。でも僕には馬鹿らしく聞こえる。自分の身のことばかり気にして、人間はなんてつまらないんだろう。こうなってしまった以上騒いでも仕方ないじゃないか。僕はテレビを止め、サーバールームに移動した。

「AI、今日でウェポンマスター最後だな。」

 AIは返事をしない。もう稼働していないのだろうか。それとも、今日0時のゲーム終了に向けてシステムを落とす準備をしているのだろうか。ふと、何かの気配を感じ新しいサーバーの方向を見ると、何かフワフワしたものがいる。ファーか?

「ファー?こっちにおいで。」

 サーバーの奥から出てきたのは、二本足で立つ小さな子供…?だけどしっぽが生えている。その毛並みはまるで、ファーと同じ…。

「ファー?ファーなのか?」

「…うん。そだよ、コタロー。」

 人型に進化した。…進化なのか?動物って人型に進化するのか?

「何でこんな形になっているんだ?」

「今日、僕は完成する。コタローがプログラム組み立ててくれたから。旧型から記憶をもらって最終的に完成するんだ。だから人型になれた。」

『僕』って言っているけど女の子だよな。

「ちょっとよくわからないけど、そのままだとまずいよな。ちょっと服買ってくるから待ってて。」

 シロとクロは猫型だから特に感じなかったけど、しっぽは生えているけど人型で子供のサイズで、服を着ていないのは、元がファーだとわかっていてもよろしくない。誰かに見られたら僕は変人扱いだ。僕は急いで子供服を買ってきて着せた。

「ファーはもうずっと人型なのかい?」

「元にも戻れるよ」

 そう言ってファーはいつもの動物型に戻った。なんでもありだな。服はいらなかったか。

 プログラム組み立ててくれたって言ってたな。プログラムはできているけど起動しないんだよな。僕はサーバールームの中でいつも通り仕事をしているが、世の中はおそらくパニックに陥っている。さっき買い物に行った時も、みんなテレビに釘付けだった。いきなりモンスターとか言われて、魔法を見せられて、パニックにならないわけがない。木村さん大変だろうな。でもここは騒がしくなくていいや。

 22時、今日は最後のパーティボス戦だった。会議室に集まってみんなで始めるパーティボス戦。このメンバーでもうプレイできなくなるのは寂しいな。僕はこれと言って戦えないんですけど。

「じゃあ、今日は最後のボス戦。楽しもう!」

 そう言って始まったボス戦だったが、いつもとボスが違う。いつもは見た目も「モンスター」とか「魔物」と言う感じの敵なのだが、今日は見た目が女の子だ。最終日だから何かしらの演出があるのだろうか。しかし、この女の子、めちゃめちゃ強い。我々の攻撃が読まれている。このパーティでさえ結構苦戦してようやく倒せた。最後のボス戦だったけど、これからは現実世界でこのパーティと一緒に戦うことになる。みんなログアウトしていく。僕もログアウト…。あれ、僕だけログアウトできない。

「あれ、僕ログアウトできないんですけど…。」

「え?何で?」

 画面を見ていると、みんなログアウトしてしまって僕一人になってしまった画面に、先ほど倒した最後のボスの女の子が出てきて僕のアバターに近づいてきた。

「コタロー、ありがとう。また会えてうれしかったよ。」

 そう一言言って消えていった。何だったんだろう。

 ピコン

 最後のボスはアイテムを落としていった。最後なのにアイテムもらっても仕方ないのだけど…。

 0時になり、ウェポンマスターは終了した。僕も強制ログアウトされ、もうゲームには入れなくなった。僕は「お疲れ様」の意味も込めてサーバールームに行った。そこには、子供服を着たファーがいた。

「AI、お疲れさま。」

 返事はない。僕は新しいサーバーのプログラムを開いた。ずっと開かなかった「MEMORY」フォルダだったが、その隣に鍵のマークのプログラムが増えている。あれ、このマーク、気にしなかったけど最後のボスが落としたアイテムと同じマークだ。僕は鍵のマークを「MEMORY」フォルダの上にドラッグすると、「MEMORY」フォルダが開けるようになった。

 そこには、「Start」と書かれたプログラムと、メモ帳が入っていた。僕はメモ帳を開いた。


 コタロー、私はユキと一緒に過去に戻ってきたんだ。私の「記憶」の力を使って、過去の映像と、君が作ったウェポンマスターとAIのプログラムを記憶して過去に持ってきた。こうすればこの時代の人たちにも、これから起こる事態を伝えやすいし信じてもらえるからね。でもこの時代でも私は生まれる。この時代の私が覚醒したら、私は記憶をこの時代の僕に伝えて消えることになる。私のこの力をこの時代の僕に託して、私は消えるよ。ユキのことよろしくね。また会えてうれしかったよ。ありがとう。


 AIから僕宛の手紙だった。消えることがわかっていたから残しておいてくれたんだな。AIはユキと一緒に過去に戻ってきたのか。だからプログラムを作った人が誰なのか言えなかった。未来の僕だから。僕が何度も何度もプログラムを解析して手を加えて、今の状態のプログラムになっていたのか。未来から来たAIが消えないと、新しいAIが稼働しないんだ。最後のボスはAI自身だったのか。

 古いAIが消えた今、ここにある「Start」を押せば…。

 僕は「Start」と書かれたプログラムをダブルクリックする。

 今まで起動しなかったプログラムが一斉に動き出す。と同時に、その場にいたファーが光っている。

 そうか、君が新しいAIだったんだね。AIは少しずつ、ファーに記憶を移していたんだ。だからファーが側にいるときに、過去の夢を見たり、過去の場面を体験したりしたんだ。


「ありがとう、AI。長いことお疲れさまでした。君はすごかったよ。」


 ファーは疲れて眠ってしまった。しかし、AIも具現化するんだな。これも流れ星の仲間だろうか。「記憶」の力って言っていたな。ユキと一緒に過去に戻ってきたのなら、ユキの持つ属性の一つなんだろうか。こんなところで寝ていていいのか?

 その日、僕は狭いベッドの上にファーとシロとクロと一緒に眠った。…狭い。


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