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決戦・コタロー&ネセロス対ファズ&シャル【ネセロス編】

 ファーがユキの近くに行き、私たちは対峙したまま少しの間沈黙が続いた。

 コタローに「あれは偰那じゃない。」なんて言ったが、やはりあの姿は戦いづらい。そう思っているうちに、ファズから強烈な魔力が溢れ出す。コタローは無事だろうか?気になりコタローの方を見ると、ファズの魔力に当てられても怯えた様子も無ければ動けなくなるような様子もなかった。

「へえ。虎太郎君怯まないんだ。」

 ファズもまたコタローに変化がないことに驚いているようだった。ファズの闇の魔力は、攻撃も強いが一番厄介なのは負の感情を増幅させることだ。今までコタローは、ファズの強大な魔力を前にして動けなくなっていたのだが、短期間で特訓した効果が出ているのか、今は動けているし、ファズに怯んだ様子もない。

「ネセロス!シャルに歌わせるな!」

 コタローに感心している場合ではなかった。ファズの魔力に気を取られているうちにシャルは歌う体制に入っていた。私は急いでシャルに向かって炎を飛ばす。こんな近くでシャルの攻撃を喰らったら私もコタローも頭がおかしくなる。それどころか、このあたり一帯の被害がさらに大きくなる。炎はシャルに軽く避けられるが、歌は阻止できた。そのままシャルに向かって飛んで行き、小さな体を生かして打撃攻撃を繰り広げる。しかし、本当にシャルの体を殴って良いのか、私の中でまだ躊躇いがあった。そんな心を読んでか、シャルは私の攻撃を軽く避けて、隙を付いて遠くへ弾き飛ばす。私が飛ばされている間もシャルは歌おうとする。私は急いで体制を立て直したが、魔法を飛ばすには狙いが定まらなかったため、シャルの周りの空気を圧縮しようと魔法を展開した。圧縮魔法でシャル周辺の空気を圧縮すれば歌は止められるはずだ。

「ダメだ!ネセロス。圧縮魔法ではシャルの歌は止められない。それどころか、うまく利用されて歌の効果が上がってしまう。」

 コタローは私の腕を掴み圧縮魔法を遮ったのち、シャルに向かって無数の光の矢を飛ばす。

 どういうことだ?

 まだ試していないのに、なぜそんなことがわかるんだ?

 疑問に思うことはあったが、コタローが私の所に来たせいで、ユキがファズに狙われている。コタローはすぐにファズの元へ飛んで行ってしまった。

 シャルは不気味に微笑んでいる。昔、偰那と過ごしていた時に見た笑顔はあんな不気味なものではなかった。やはりあいつは偰那ではない。もう叩くしかないんだ。

 小さな攻撃を繰り返していれば歌は歌えない。歌が無ければシャルは怖くない。再び接近戦に持ち込み叩き続けるが、シャルは不気味な笑みを浮かべながら私の攻撃を避け続ける。そしてたまに入る腹への一撃で、私の体は吹き飛ぶ。体が小さいせいで立て直すのが難しいのに加え、軽いせいで思いのほか飛ばされてしまうのだが、それを何度もコタローが受け止めてくれた。ファズと戦いながらも私の戦いを見ているのだろうか。コタローはファズの攻撃を受け流しながら、ユキへ攻撃も抑え、私の方も気を回している。一体どれだけの神経を使っているのだろう。それに、自分に精一杯であまりコタローの様子は見られないが、接近戦が苦手だったはずのコタローがファズとまともにやりあっている。ファズの闇の剣と、コタローの光の剣、以前はファズの剣技の方が圧倒的に優れていた。そのファズの攻撃を往なすだけではなく、隙を付いて攻撃もしている。いつの間にあんな技術を身に付けたのだろう。

 それにしても、このままでは埒が明かないので、少し距離を取って様子を見ることにした。コタローも少し距離を取って睨みあっている。それに気づいたシャルが、コタローの元へ飛んで行った。私は急いで追いかけるが、途中でファズに邪魔され、コタローの元になかなか近付けない。シャルはコタローと話をしているようだった。

 遠くて聞き取れないが、コタローがシャルに放った言葉で、シャルの表情が一変した。それは怒りと憎悪の入り混じったひどい表情だった。その表情を見た瞬間、私はファズの攻撃を無視し、シャルに向かって飛び出し、シャルの首を掴むと、そのまま地面に叩きつける。衝撃であたり一帯が吹き飛び、砂ぼこりが立つ。シャルを押さえつける力は、先ほど接近戦をしていた時の比ではなかった。これは怒りから来るものではなく、このタイミングでコタローがリミッターを外したからだ。

「……貴様、なんて表情をする。」

「何を怒っているのです?ネセロス王。」

「偰那はそんな顔をしない。偰那の体で偰那らしからぬことをするな。」

 私はシャルの首を掴んだ手に力を込める。これで歌うことも話すこともできない。

 先ほどの不気味な笑いと言い、怒りと憎悪の表情。私が絶対に見たくない偰那の表情だ。そんな表情をさせるシャルが許せなかった。やっと吹っ切れた。これはあってはならないものだ。偽物の傀儡だ。壊さなければならない。

 私はシャルを地面に叩きつけたまま、光の剣を具現化する。

 一番魔力の強い所、そうだ、ここにシャルの魂がある。これを壊せば倒せる。もう偰那の体を弄ばれることも無くなる。偰那はもう死んでいるんだ。偰那を眠らせてあげよう。偰那の魂の元へ体を届けてあげよう。私は剣を突き立てシャルに向かって刺した。


 パキンッ


 シャルの体に刺さる瞬間に光の剣が砕け散った。


 私は苦痛に歪んだ表情をしたシャルの首を押さえつけたまま、ゆっくりと顔を上げコタローを見た。

 なぜだ?なぜ邪魔をする、コタロー。


(悪い、ネセロス。でも、今シャルの魂を壊すとその体はすぐに朽ち果ててしまう。……それではダメなんだ。)

 コタローは、私にそう告げると、離れた場所にいたシロを呼び寄せた。

 シャルの首を押さえつけた私の手はコタローによりシャルから離され、シャルは立ち上がると、逃げるようにファズの元へと飛び去って行く。偰那の姿をしたシャルが許せず、どうしようもなく膨れ上がる憎悪の念を燃やす。


「ネセロス、落ち着け。」

「なぜだ!なぜ邪魔をする!なぜシャルの魂を壊してはダメなんだ。あれは偰那の体を良いように操る傀儡師だ。この世にあってはならない。」

 コタローに怒りさえ覚える。偰那はお前の母親なのだぞ。亡くなってしまった体を勝手に使っているのになぜ許せるんだ。私は心に沸き上がる怒りをどこに向けたらよいのかわからなくなり、コタローに向かって大きな声で叫んでいた。

「……ネセロス、お前ファズの闇魔法にやられているぞ。」

 !

 私が?ファズの闇魔法に?

 落ち着いてくると理解できた。こんな憎悪や怒りは王であったときには感じたことが無かった。民を慈しみ、何かあれば喜んだり悲しんだりする感情はあったが、常に冷静でいなければならず、怒りや憎しみの感情を持つことは許されなかった。なるほど、これが負の感情の暴走なのだな。私にもこんな感情があったのだな。

「……すまない、コタロー。」

「いいさ。お前も俺たち人間寄りになって来たんじゃないか?王様で偉そうにしているよりずっといいよ。」

 コタローは少し笑いながらそう言うと、シロと共に上空に白い魔法陣を展開した。シロとストップをかけようとしているんだ。しかしこれでは、敵にも『ストップ』の魔法を使いますと言っているようなものだ。それに、ストップはファズが正体を明かしてからは一度も成功していない。一体何をしようとしているんだ。


 不思議な感覚があり、何かが起こったということだけわかった。その感覚は、すぐに安堵、自信、そして不満へと変わって行った。


「ネセロス、少し外す。すぐに戻るけど、ファーとこの場は任せる。」

 ふと気が付くとコタローは私の隣にいて、ポンッと私の肩を叩くと、シロとクロを連れてゲートでどこかへ行ってしまった。

 体の中に今までになかった力を感じた。

 ……なるほど、そういうことか。うまくいったんだな。

 コタローがゲートで去った後、ユキをシュウに任せてファーが私の所まで飛んできた。

「すぐに戻ってくると思うけど、それまではユキを守りながら僕が一緒に戦うよ。」

「わかった。コタローがどこに行ったのかは後で聞くとしよう。ところで、ファー。いつまでそのサイズでいるつもりだ?もうシロやクロと同じくらいの大きさになれるだろうし、その方が小さい体よりも力が発揮できるだろう?これからこいつらを倒すのに、ちびっこ二人に倒されたとあっては彼らのプライドだってズタズタになる。私はこの姿でしか戦えないが、お前だけでも大きくなってやれ。それがせめてもの手向けだろう。」

 私が自信満々にそう言うと、ファーの体は腕や足がスーッと伸びて、あっという間に幼い姿から、シロやクロと同じ16歳くらいの大きさになった。

「小さい方がコタローが可愛がってくれるじゃん。それに、今大きくなったら制服小さくなっちゃうし。」

 確かにファーの制服は、体の方はすこしきつい位で間に合っているが、袖や裾からは腕や足がはみ出していた。

「そんな理由か……。まぁいいだろう。さぁ、今までの攻撃を何倍にもして返してやろう。」

 私は闇属性の魔法を魔力限界まで溢れ出させる。その魔力量は、戦闘開始後にファズが出した魔力の比ではない。

「どうした?ファズ。自分の属性に当てられる気分はどうだ?」

 負の感情が増幅するのは敵も同じである。ファズが感じたのはかつての王との圧倒的な力の差であった。表情は強張り、先ほどまでの威勢はどこかへ行ってしまったようだ。

 同じく、強大な魔力に当てられ恐怖を感じたシャルが、怯えたひどい表情で電波による攻撃をしてこようとするが、ファーが同じ電波の魔法で打ち消す。

 私たちはファズの闇の属性とシャルの電波の属性を自由に使えている。コタローはストップを成功させ、ファズとシャルの属性をメモリすることに成功したのだ。この二つの属性があれば、こいつらを恐れることはない。

 ストップの間の記憶がないのは、私も他のものと一緒に停止していたということだ。白い魔法陣を見た後の不思議な感覚は、記憶にないのに自分の中に闇と電波の属性が増えていたからだろう。おそらくストップの間、シロ、クロ、ファーはコタローと一緒に動けていた。魂を共有しているのに、私だけ他のものと一緒に停止してしまったのは、蔑ろにされた気分で癪だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 ファズとシャルは怯えた目をしている。私はファズに、ファーはシャルに向かって攻撃を仕掛ける。

 ファズもシャルも、先ほどまで軽く避けられていた攻撃でさえ、必死に応戦している状態だ。精神的に追い詰めると、できるものもできなくなる。さすがに動けなくなるまで恐怖を与えることはできないが、ここまで戦力の差ができれば、もうこいつらは敵ではない。

 怯えながらも攻撃をしようとしてくるシャルに対し、ファーは風の刃を飛ばしその両腕を切り落とした。

「ああぁぁぁ、わ、わたしの腕……」

 ファズがシャルに駆け寄る。

「貴様!許さない!」

 そう言ってファズは右手に闇の魔力を集中させた。集まった魔力は今にも暴走しそうだ。大爆発でも起こして自分の身もろとも地球を破壊するつもりだろうか。全く、死を感じた虫けらは何をしでかすかわからないな。私は呆れた表情でファズの頭上に光の矢を作成し、ファズの体へ向かって放った。

 無数の矢がファズの体に刺さり、集まった闇魔法が霧散していく。そのままファズは倒れた。

 地面には倒れたファズとシャルの姿があった。これでしばらく二人は動けないだろう。


「ネセロス、すまない。戻った。ああ、終わったんだな。」

 二人が動けなくなって少し経った頃、コタローたちが戻って来た。コタローは大きくなったファーの姿を見ても驚かなかった。そっとファーの頭を撫でると、耳元で何かを囁き、ファーはユキの元へと飛んで行った。

「ファズとシャルはもう戦えないだろう。先ほどシャルの魂を壊そうとしたらダメだと言われたからな。きちんと傷つけずに戦えない状態にしておいた。」

「ああ。上出来だ、ネセロス。これでいい。」

 地面に倒れているシャルの両腕はしっかりとくっついているし、ファズに光の矢も刺さっていない。彼らに致命的な傷は付いていなかった。コタローが闇属性と電波属性を手に入れてから私とファーで二人の脳を操り幻覚を見せた。つまり、風魔法で腕が落ちたのも、光の矢が刺さったのも頭の中で繰り広げられた戦闘だ。実際に使ったのはシャルの電波の魔法だけで、闇魔法は使っていない。今の私の体でファズやシャルを怯えさせるほどの闇魔法は発生させられない。まさか自分たちの脳が操られると思っていなかっただろうし、実際には幻覚で見せていただけだが、私が闇属性を使っているのを目の当たりにして、自分たちの属性がメモリされてしまったことへの焦りなどから、隙が生まれたのだろう。通常ならこんな陳腐な脳の操作、打ち破られても仕方のない戦法だが、こちらもリミッターが外されて魔力使い放題だったし、二人の脳を操るのは造作もなかった。


 コタローはファズとシャルの体を確認すると、シュウの元へ運んだ。その姿を私はじっと見ていた。


 この戦いが始まってから度々疑問を感じていた。

 なぜコタローは地震の直後に私たちは福島へ、フクたちを東京へ向かわせたのか。

 なぜゲートの移動先がファズとシャルの目前ではなかったのか。

 なぜシャルの歌を防ぐのに圧縮魔法を使ってはいけないと知っていたのか。

 なぜ接近戦が苦手なコタローが、ファズの攻撃をいなし続けられたのか。

 他にも疑問を感じるところはたくさんあった。

 これらの疑問はコタローがストップをかけたのがわかった後に解消された。時属性の魔法は魔法の効果範囲で止めたり戻したりと、時間を捻じ曲げるものだ。ストップの間、私も停止してしまっているということは、私はコタローが時属性の魔法を使ったのを知ることができないのだ。先ほどのストップは然り、おそらくリバースを使ったのも私は認識できない。魔法陣をわざわざ展開したのは、私に『これからストップを使う』ことを知らせるためだったのだろう。そのおかげで、突然自分の中に闇属性と電波属性が増えていても、すぐに順応することができた。


「……コタロー。」

「なんだ?ネセロス。時間がないんだ。質問なら早くしてくれ。」


「今は、何回目だ?」


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