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決戦・フク&ラク対ロザ

「……ものすごい敵意むき出しだな。」

「まぁ、俺たちも人の事言えないけどな。」

 ロザを睨みつけながらフクとラクは武器と精霊を具現化する。


「あー……髪切った?」


(おい、フク!何普通に話しかけているんだよ!)

 確かに、前に戦った時は長髪だったけど、今は長めのショートカット。銀髪に切れ長の目で、これまたイケメン仕上げだな。

「そんなことはお前たちに関係ない。」

 ロザの口からは、低めの声で、外人っぽい感じがする容姿からは想像できない流暢な日本語が出てきた。

「あら、普通に話せるようになったんだ。」

「そんなことはお前たちに関係ない。」

「何?特定の事しか返事しない昔のロボット的な?今は機械のペットだってもっとマシな答え方するよ?」

(おい、フク!煽るなよ。)

 フクの挑発に乗ったわけではないと思うが、ロザは両手に光を纏い、俺たちの方へ突っ込んできた。普通にパンチをしてくるだけなのだが、その威力が半端ない。空中戦なのにもかかわらず、ロザが放ったパンチによって巻き起こる爆風は地上まで届き建物を壊していく。

(ありゃやばいね。ちょっと紗奈たちと距離を取ろう。)

 フクの提案通り、俺たちは紗奈たちと少し離れた場所へ移動した。

 移動した後もロザはひっきりなしに攻撃してくる。光を纏ったパンチに、無数に飛んでくる光の矢、光の剣を手に纏い物理攻撃をしてきたかと思えば、接近戦に持ち込んだように見せかけて自爆に近い爆発を起こす。俺たちはそれを躱しながら攻撃するが、ロザにはなかなかダメージを与えられない。


「ああ、わかった。」

「こんな時に何がわかったんだ?」

「あいつに足りないもの。」

 そう言うと、フクは大きな声でロザに話しかける。

「お前は何で俺たちと戦うんだ?」

「……ファズがお前たちは敵だと言った。」

「ファズがそう言えば、それが正しいのか?お前の意思は無いのか?」

「……ファズがお前たちは敵だと言った。クトも戦えと言っていた。」

「だから、お前はどう思っているんだよ!」

 フクとロザは剣を交えながら会話をしている。俺も隙を付いて攻撃に加わるが、ロザの手数が多すぎてまともに攻撃が当たらない。接近戦を行いながら光の矢が降ってくるとか、頭の回転早すぎでしょ。どういう造りになっているの?

 俺とフクは少し距離を取って息を整える。

「……私がどう思っているか…?」

 あれ?ロザがフクの言葉に影響され始めている。

「そうだよ。お前は自分の意思がなさすぎる。そしてそれは『愛』を受けていないからだ!」

 ……

 え~!こんな時に何言っているの?

「ラク、ちょっとロザの事よろしく。俺、取ってくるものあるから。炎と氷は置いていくよ。」

 そう言うと、フクはコタロー君が作ってくれた黒いカプセルを開ける。それは非常時に避難するための物であり、東京本部の演習場に繋がっている、たった一つしかないゲートの魔法だ。

「お、お前、何ゲート開いているんだよ!」

 こっちが慌てているのを横目に、手を振ってゲートの中へ入ってしまった。

 全く、何なんだ。フクの考えはさっぱりわからないが、ロザを放ってフクのことを追うわけにはいかない。東京支部はすぐそこだから、何か取ってきたらすぐに戻ってくるつもりなのだろう。それまではなんとか俺と精霊たちでこいつの相手をするしかない。

 俺は、風と砂であたり一帯に砂嵐を起こした。あたり一帯見えなくなるが、ロザが魔法を使う時は必ず光るので、攻撃がどこから来るかはわかる。

 視界が悪くなり、四方八方滅多矢鱈に攻撃が飛んでくる。ロザの攻撃を避けながら、攻撃源を目指して剣を振るが、こちらも視界が悪いから致命的な一撃は与えられない。あまり良い作戦とは言えないが、まともに戦っては分が悪い。とにかく、接近戦に加えて遠隔攻撃も同時に来るから厄介なんだよ。

 接近戦は主に俺と炎と氷が行い、ストームとアースは遠隔攻撃の対応をする。炎と氷はフクがいないから本来の力を出せていないようだな。フクが帰ってくる前に片を付けて「何やってたんだよ、終わったぜ。」って言ってやりたい気もしたが、俺たちだけでは時間稼ぎが精一杯だった。

「ラク!お待たせ。」

 フクが戻って来た。

「お前、何を取りに行っていたんだ?」

「まあ、見てなって。ラク、遠隔攻撃の対応お願い。」

 フクはロザ目がけて飛んで行った。俺は飛んで行くフク目がけて空から降ってくる光の矢をゴーレムを作って受け止める。ロザの目の前まで行くと、フクは自慢の斧の具現化を解き、左手に持っていたものを右手でわし掴みしてロザの口に突っ込んだ。

 思ってもみない行動だったのか、ロザが両手で口を塞いで喘いでいる。

「はっはー!どうだ?それはなぁ、昨日ラクが俺に作ってくれた餃子だ。ちゃんと電子レンジで温めてきてやったぞ。出来立てには劣るけど、暖かい方が何倍もうまいからな。」

 は?餃子?取りに行ったって……餃子取りに行ったのか?

「この餃子にはな、ラクの愛情がたっぷり込められているんだ。うまいだろう?」

「……キサマ、コロス。」

 無理矢理口に餃子を詰め込まれたロザは、光の属性の持ち主のくせに闇に落ちた真っ黒な目をしてフクを睨んでいた。

「ラクはなぁ、いつだって他人のことを考えて行動しているんだ。そうやって愛情を注いでくれる人がいると、自分も周りに愛情を与えなきゃって考えるんだよ。」

 フクの話を聞いているのかいないのか、ロザは乱暴にフクに向かって攻撃をしてくる。

「お前は、そうやって人に想われたことが無いんだろ?」

 攻撃を躱しながらフクは話を続ける。

「ファズが不要だと思って切り離した光の部分がお前だ。誰もお前に愛情を注がなかったから、どうやって生きればよいか教えなかったから、何の意思もなく、人の言う通りに動くことしかできないんだ。」

 遠隔攻撃が無くなった。光の矢が飛んでこない。フクの行動、発言に怒り狂っているんだ。

「ほら、怒ることができるんだ。何をすれば楽しいか、何をしたら嬉しいか、自分はどうしたいのか、考えてみろよ。」

 いくらフクが話をしたところで、怒りゲージMAXのロザを止めることはできないだろう。俺は武器を構えてフクの援護に行こうとした。

(ラク、まだ来るな。)

 動揺している今がチャンスだと思った。しかしフクに止められたということはまだ策があるのか?あのフクが策?大丈夫か?不安に思いながらも、少し離れたところで二人が殴り合っているのを見ていた。

「今、何で怒っているんだ?言ってみろよ!」

「……お前には関係ない。」

「ああ、そうさ。俺には関係ない。でもこうやってお前の話を聞く奴も今まではいなかっただろう?」

「言う必要がない。」

「なぜ?他の人は自分の意見を言うのに、何でお前は言う必要が無いんだ?ファズもクトもめちゃめちゃ喋るし、考えて自ら行動しているぞ。」

「私の意見など……必要が無いからだ。」

「必要ないって言われたのか?誰に?」

「言われた訳ではないが、必要だと思わない。」

 フクとロザが会話をしている。ロボットみたいな返事しかしなかったロザが話をしている。さすが生粋の営業マン。相手の心を読み取り、隙に入り込んで会話に持ち込むんだ。この話術で相手の心を掴み取る。そうやって仕事をしていたフクの姿を思い出した。

「必要ないって言われた訳じゃなくて、必要だって言われたことが無いんだろ?」

 そうフクが言うと、お互いの攻撃で弾けて少し距離が開いた。

「いいか、今、俺は、お前の意見が聞きたい。お前は何で戦っているんだ?戦いたいのか?戦った果てに何を見ているんだ?」

 フク、だいぶ魔力を使っているな。息も上がってきている。そろそろ俺も戦闘に参加したいところだ。

 一瞬静かになったロザだったが、両手を空へ向けると、巨大な光の球を作り始めた。

(フク、あれやばくないか?)

(あ~、ちょっとまずいかもしれないねぇ。)

 あの光の球が地上に落ちたら、このあたりにクレーターができるぞ。

 俺はフクと合流して、ありったけの魔力で光の球が地上に落ちるのを防ごうとするが、それは、フクと俺の全魔力を投じても防ぎ切れないと感じた。

 その時、少し離れたところで戦っている紗奈と銀次の方から眩い光と大きな雷鳴が起こったのがわかった。それと同時に沸き上がる魔力。コタロー君がリミッターを外してくれたんだ。

 俺たちはさらに魔力を注ぎ込み、氷と炎、ストームとアースも加わって光の球を押し返した。押し返しただけでは光の球は消えることはないが、蒸発するように消えて行った。一瞬俺たちの属性に混ざって違う属性が入った気がしたが、ひとまず地上が大惨事になる前に止めることができて良かったと、地上を見てホッとしていると、フクが突然上空に向かって飛んで行った。

「あ、おいっ!フク!」

 止める間もなかった。ロザは光の球を発射したあと、そのすぐ後ろまで攻めてきていた。光の球が消えるのと同時にロザの姿を見つけたフクが飛び出していったのだ。

 フクとロザがぶつかった衝撃であたり一帯に爆風で砂ぼこりが起こる。周りは見えないが、フクとロザに動きはない。どうなっているんだ?俺は風魔法であたりの砂を吹き飛ばし、ようやくフクとロザの状態を目にすることができた。

「あ……あ、ああああああああ!」

 その状態を目にした瞬間、吐き気と頭痛が襲い掛かり、目の前が歪み発狂する。

 ロザが俺たちに向けた光の刃は、向かって行ったフクの腹を突き抜けていた。それと同時に、フクの拳もまたロザの腹に刺さっている。

 俺は両手で目を覆った。嘘だ、嘘だ!俺が油断したから、俺が地上なんて見ている間に、フクは次の行動を起こしていた。何もできなかった。加勢することも、守ることもできなかった。

「……ほら、お前の意見を言ってみろ……」

 ロザに刺さったフクの手にはロザの魂がしっかりと握られていた。力無くフクにもたれかかるロザは、先ほどの怒り狂った状態とは打って変わって、か細い小さな声でフクに囁いた。

「私は……私は戦いたくない。だって、痛いし疲れるし……面倒くさい。」

「ははっ。そうか。それがお前の意思なんだな。お前、本当はそういう性格なんだな。……もういいぞ。しばらく休め。」

 フクがそう告げると、ロザの姿は霧になって消えていく。

「……ああ、あれ、また食べたいな……。」

 最期にそう言い残すとロザの姿は完全に消えた。ロザの魂を握りしめたフクもまた力尽きて上空から落ちてくる。俺はフクの体を受け止めると、ゆっくり地上へ降ろした。

「おいっ、またお前は勝手ばかりやって……」

 フクの腹から流れる血で、俺の制服が赤く染まっていく。

「ラク、お前の餃子……ロザがまた食べたいって言っていたよ。」

「そんなことはどうでもいいんだよ。フク、ダメだ。死ぬな。コタロー君に来てもらえれば、こんな傷元に戻してもらえるから!すぐ来てもらえるように……」

 ゴフッと苦しそうに咳をすると、フクの口からはたくさんの血が出てきた。ああ、俺はフクの腹に開いた穴を塞ぐ術を持っていないし、痛みを止める薬だって作れない。今急いで東京支部に戻ったって何もすることができない。自分の無力さに心が打ち砕かれる。

 フクの目は、もう俺のことが見えているかもわからなかった。それでも、俺の方へ視線を向けて、口から血を流した顔で、静かに微笑むと小さな声で言った。

「ラク、コタロー君も今戦っている。無理を言っちゃいけないよ。……アオイ、ちゃんと奥さんもらって……幸せになれよ。」

「嫌だ、嫌だ、ダメだ。……ゆう兄、死なないでくれ。ずっと俺のそばにいてくれよ。いつもみたいに調子の良いことを言って怒らせてくれよ。また一緒に仕事しよう。また一緒にゲームしよう。嫌だ、嫌だよ、ゆう兄……。」

 ゆう兄は、緩やかな表情で微笑んだまま動かなくなった。


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