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決戦・紗奈&銀次対クト

「俺たちの所にクトが来たね。コタロー君わかっていたのかな。」

 俺と銀次さんは武器を具現化して構える。

「なんだ、君たちか。コタローじゃないのか。」

 ちらっとこちらを見ると、がっかりした様子で自分の手を眺めている。まともに見ることすらしないくらい俺たちには興味がないのだろう。

「残念だったね、俺たちで。この前は逃がしちゃったけど、今度はきっちり決着をつけさせてもらうよ。」

 クトと一緒にゲートから出てきたロザは、フクさんとラクさんが引き受けてくれている。次第に、サワ先生の装置が光り始めた。

「また精神攻撃か。俺たちにその攻撃は通用しないよ。」

 サワ先生の装置が青く光っているが、装置の効果が出ているのか、意識に全く問題はなかった。少し離れたところでロザと戦うフクさんやラクさんにも影響はないようで、おかしな様子はなく戦い続けている。

「この前もそんな感じの装置付けていたよね。僕、攻撃とか苦手だから、人を操作するくらいしかできないのに、防がれたら何もできなくなっちゃうよ。」

 ああ、本当にこいつはいやらしい笑い方をする。攻撃魔法が無いからファズに闇属性を持たされているんだろう?闇魔法でガッツリ攻撃してくるじゃないか。

「銀次さん、装置が青く光っているから精神攻撃を受けているのだと思うけど、今回は大丈夫だね。これならファズから借りているって言っていた闇の攻撃にだけ注意すれば倒せる。」

 銀次さんにそう声を掛けると、クトを睨みつけていた銀次さんから思ってもいない返事が返って来た。

「そうだね、僕たちのチームワークなら、あのくらいの敵簡単に倒せるさ。ウィステリアちゃんはいつも通りフォローをお願い。僕がアイツを撃つ。」

「……あれ、銀次さん?」

 銀次さんはクトを睨み続け、弓を構え始めた。

「油断しないで、ウィステリアちゃん。敵は形を変えるから。」

 銀次さんの付けているサワ先生の装置も青く光っている。青く光っているならクトの攻撃は効かないはずなんだが……。

「ちょっと、『サワ装置』効いてないんだけどぉぉぉ!」

 俺は頭を抱えながらつい叫んでしまった。でも、幸いなことに銀次さんは前回クトと戦った時と同様に『トレジャーディスカバリー』の世界を見ているようだ。彼女が銀ちゃんである限り、一緒に戦ってくれるはずだ。変な幻覚を見せられて敵に回るよりずっといい。こうなったら、俺もこのままウィステリアとしてクトを倒した方が良いかもしれない。そう思って、『トレジャーディスカバリー』をプレイしていた時のようなコンビネーションで動いてみることにした。


「じゃあ銀ちゃん、援護よろしく。俺はあいつの魂が表に出るように叩いてくる。撃つべきものは奴の魂だ。肉体がある時に撃ってもおそらく魂まで矢が届かない。魂を撃つときは矢に毒を付けるよ。あいつだってさすがに魂に毒を盛られたら動けなくなるでしょ。精華と麗華を銀ちゃんのそばに置いておくから、タイミング見て矢に毒を仕掛けて。じゃあ、精華、麗華、銀ちゃんのことよろしく。怪我したら回復させてあげてね。」

 そう言うと、俺はクトの上空にコタロー君にもらったプラスチックのカプセルを放り投げた。そのカプセルに向かって銀ちゃんは矢を放った。光属性の魔法が圧縮されたプラスチックのカプセルはクトの真上で爆発し、爆風でクトは地上近くまで落とされた。さすが銀ちゃん。俺の行動を読んでくれて、思った通りの行動をしてくれる。

 俺の魔法は植物を使うから、空中戦は向いていない。空中に植物を生やすこともできないわけではないけれど、ちゃんと地面に根付いていたほうが力も発揮できるからね。このあたりの住人はみんな避難したみたいだし、このまま地上近くで戦わせてもらおう。

 近くにある木から枝を伸ばす。こうなったらもう総動員だ。身近な植物で引っ張れるものは全て引っ張ってくる。次第に、クトの周りを囲うように植物が伸びてきた。

「こんなもの、簡単に腐らせるよ。」

 クトは、闇属性の靄を出し、靄に触れた植物は見る見るうちに腐っていく。

「ああ、厄介だな、その闇魔法。」

 相性的には最悪だ。俺の伸ばす植物は靄に触れただけで腐ってしまう。可能な限りの木の枝でクトを囲い込み、腐る前にカプセルをぶち込む。光魔法が爆発するが、クトにはあまり効果がない。しかし、コタロー君の読み通り、光魔法を使えば闇属性の靄は消えるようだった。銀ちゃんは少し離れたところで弓を構えて待機してくれている。

「木の枝やツタで囲っても、僕の体は外に出られるんだよ。全く、意味のないことしないで欲しいよね。その光の爆弾はコタローが作ったの?面白い発想だ。考えたね。」

 またいやらしい笑みを浮かべている。とにかくクトを抑え込んで魂を表に出さなくては。

 ファズから借りている闇の力が減って来たのか、黒い靄が薄らいできた。俺の操る植物は、腐ることなくクトを囲むように枝を伸ばし、クトはまるで鳥かごに入っているかのように捕らえられた。しかし、靄が薄らいだのは闇の力が減ってきたわけではなかった。クトは闇の力を瞬間的に暴発させた。クトを囲っていた木は粉々になって吹っ飛ぶ。クトの体も一緒に粉々になるが、すぐに元の形に戻る。

 闇属性の魔法は腐らせることもできるし、爆発させることもできるから捕らえようとしても無駄だと見せつけたのだろう。クトの魔力が弱まることもないし、完全に遊ばれている状態だ。

「おーすごいすごい。ファズの属性はすごいパワーだな。」

 平気な顔で自爆みたいなことをしやがる。

 俺は再び植物を伸ばしてクトを捕えようとする。しかし、クトに近づくと植物は闇の魔法で腐ってしまう。

 ふと背後に気配を感じて振り向くと、妖鬼妃がいた。

 ニヤニヤと笑いながら近づいてくるクトに無駄とはわかっていても植物を伸ばす。その植物を妖鬼妃が鉄でコーティングしていく。なるほど、これなら黒い靄に触れてもすぐには腐らないはずだ。俺が苦戦しているのを見て、銀ちゃんが妖鬼妃を俺の所に寄こしてくれたのだろう。クトに絡むように植物を伸ばす。伸び続ける植物に妖鬼妃がうまく鉄をコーティングし、次第にクトは植物と鉄が融合した檻の中に閉じ込められる。自分の精霊ではなくてもここまで連携が取れるのは気持ちがいい。やっぱり銀ちゃんの精霊だからだろうな。

「そんなことをしても、僕は隙間があればいくらでも抜け出せるんだよ?」

 ドゴーン!

 クトがそう言った瞬間に、鉄の檻に雷が落ちた。銀次さんの魔法だ。周囲も驚くほどの雷光と雷鳴。銀次さんにこんな威力の強い雷が落とせたのかと考えていたら、いつの間にか俺たちのリミッターが外れていた。コタロー君はどこかで俺たちの戦いを見ているのか?と、疑ってしまうくらいピッタリのタイミングでリミッターが外されている。目の前の檻は焦げて煙を上げ、残っているのは焦げた鉄の部分だけで、俺の植物は一瞬で燃えてしまった。銀次さんの魔法すごいな。こんなに破壊力があったのか。中のクトはどうなった?

 ポロポロと焦げた檻が崩れ落ちる。

 中には、形を保てないでいるドロドロが残っていた。あんな形になってもクトはまだ動いている。ドロドロが人型に戻ろうとしているが、再び妖鬼妃がドロドロを鉄で固め形が戻らないようにする。鉄の塊となったクトが動く様子はない。この状態でクトは止められたのか?これで終わりか?もう出てこないか?

 銀次さんも近くに来て、二人でじっと眺めていると、嫌な気配を感じた。固い鉄の塊が少しだけ膨らんだような気がした。

「銀ちゃん、避けて!」


 バーン!


 鉄に閉じ込められたクトは、先ほどの数十倍の威力で闇の力を暴発させた。

 鉄の破片があたりに飛び散り、体のあちこちに突き刺さる。とっさに銀次さんを守るようにクトとの間に入ったが、巻き込まれていないだろうか?急いで銀次さんの所へ行くと、破片が左の肩に刺さっていた。妖鬼妃は俺と銀次さんに刺さった破片を溶かして吸収する。止血と痛み止めは麗華がすぐに処置する。

「銀ちゃん、大丈夫?」

「……僕は大丈夫。それより、ウィステリアちゃんの方がたくさん刺さってる。ごめん。あれで抑え込めると思った。考えが甘かったな。」

「俺は大丈夫。もっと早く気づけば銀ちゃんに怪我させずに済んだのに、ごめんね。すぐに治すから。麗華、俺はいいから銀ちゃんを治療して。」

 そんなやり取りをしている間に、鉄と一緒に飛び散ったクトの体は、魂の元へ集まり、形を戻そうとしている。

 あのドロドロの中央にあるのがクトの魂だ。これだけ粉々に飛び散れば、肉体が集まるのも、人型に戻るのも時間がかかるはず。俺は急いでクトの魂の元へ駆け寄った。すでにドロドロの肉体はクトの魂を包み込むように集まっている。

 俺はクトの肉体の中に手を突っ込んだ。ドロドロが俺の体にまとわりつき、動きを遮る。近くの植物を伸ばして可能な限りドロドロの動きを止める。

 形を取り戻そうとしているドロドロをかき分け、魂を探す。

「これか!」

 特に強く力を感じる部分を見つけ、掴んで引っ張り出す。

「銀ちゃん!撃って!」

 銀次の位置からは、丁度紗奈が陰になりクトの魂が見えない。

「夜叉、お願い!」

 夜叉姫が急いで紗奈の所まで飛んで行く。銀次はゆっくりと目を閉じた。夜叉姫を通じてクトの魂が見える。精華が銀次の矢に毒を仕掛ける。

「ここ!」

 銀次の放った矢はクト目がけて放たれた。矢は銀次の思う通りに弧を描き、紗奈の右わきからクトを突き刺した。

「銀ちゃん、ダメだ。そこからだと魂まで矢が届かない!まっすぐそのまま撃ってくれ。もう抑えきれない。」

 でも、まっすぐ撃ったら紗奈を突き刺してしまう。彼を傷つけるわけには……。

(銀次さん、紗奈は大丈夫。毒なら解毒できるし、そんな簡単には死なせない。銀次さん、紗奈を信じて!)

 麗華が銀次の耳元で囁き、紗奈の元へ飛んで行った。矢が紗奈を貫いてもすぐに治療できるようにするためだ。

 ゆっくりと目を閉じ、クトの魂を確認する。

(紗奈さんを信じて……)

 銀次は思いっきり弓を引いた。麗華の止血と痛み止めが効いているが、左肩の怪我のせいでいつものように踏ん張りが効かず弓を構える腕が小刻みに震えている。目を見開き、クトを押さえつける紗奈の背中を見つめると、自然と震えが止まった。そして一呼吸置いてまっすぐ紗奈に向けて矢を放つ。

 精華の毒が仕掛けられた矢は紗奈を貫通してクトの魂に刺さった。

(まじで?……あんた人間だろ?死ぬぞ?)

 クトの魂が最期にそう告げると、ドロドロの肉体は霧散していった。


「紗奈さん!」

 銀ちゃんは駆け寄って来ると、腹に刺さった矢を問答無用で引っこ抜く。自分が放った矢が俺の腹に刺さっているのを見るのが嫌だったのだろう。

「いてぇ。もっとそっと抜くとか……してほしかったな。……容赦ないなぁ、銀ちゃん。」

 すぐに麗華が治療を、精華が解毒を始める。さすがに貫通は痛いけど、お見事、敵に命中したね。

 銀ちゃんは、魂だけになったクトを鉄で固めた後、地面に転がして数発蹴りを入れていた。俺特性の毒だからね。もう動けないと思うよ。

「ははっ、銀ちゃんが無事で何よりだよ。」

「ちょっと、紗奈さん話しちゃダメだよ。傷口塞がないと!」

 銀ちゃんは俺の所へ駆け寄って来てくれて、倒れていた俺を抱きかかええてくれた。やっぱり優しいなぁ、銀ちゃんは。そう言えば、クトを倒したからか、銀ちゃんから銀次さんに戻っているみたいだ。

 とにかく、彼女が無事で……良かった。

「かはっ」

 精華と麗華の治療が進んでいるはずなのに、胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、俺は何かを吐いた。これは、血だな。あれ、治療はどうなっている?……もう魔力が無いのか?

 目の前がぼんやりしてきた。ぼんやりしている中で銀次さんが慌てふためいているのが見える。精華と麗華も少し気まずそうな顔をしている。


「紗奈さん、傷が、傷が塞がらない。血も止まらないし解毒もできてないよ!」

 あれ、おかしいぞ。自分の精霊が作った毒にやられるわけがないじゃないか。

 あ、あれか。植物腐らせる闇の魔法。クトの野郎、最後に闇魔法ぶち込んでから逝ったな?あれは……本当に、相性が悪い。


「銀次さん、ごめん。……治せないかも。」


「嘘、うそ。だめ、ダメ。紗奈さん、何とかなるでしょ?もう離れるのは嫌だよ、やっとまた一緒に戦えたのに。ウィステリアちゃん!しっかりして!」

 ……ウィステリア?ああ、俺の事か。銀次さん、俺がウィステリアだって気付いたのか?

 クトに矢が刺さった後も『銀ちゃん』って呼んじゃったからな。

 ……いや、待てよ。もしかして……。

「……銀次さん、もしかして、クトに操られてなかった?」

 銀次さんはゆっくりと頷いた。

「前にクトと戦った時に、私が銀次ではなく、『銀』として動いていたことを紗奈さんは何も突っ込まなかったから、もしかして『銀』というキャラクターを知っていたのではないかと思って、今回『銀』を演じてみたの。そしたら、そしたら本当に紗奈さんがウィステリアちゃんだった。」

 銀次さんの目からたくさん涙が溢れている。

 そうか、気付かれちゃったのか。でもちょうどよかったかな。命を落とすなら彼女を守って、と思っていたから。

 精華と麗華がだんだんと薄くなっていく。……もう魔力も限界か。

「……銀ちゃん、……いろいろ困らせちゃってごめんね。……やっと謝れた。」

「そんな、困ってなんていないよ。私こそ、ずっとずっと謝りたかった。ウィステリアちゃん、いつも守ってくれてありがとう。あのとき会いに行けなくてごめんね。」

 そんなに泣かないで。そっと銀ちゃんの頬に手を当てる。瞼がゆっくりと閉じていき、頬まで伸ばした腕がするりと落ちた。


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