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シュウの属性

「シュウのことだな。」

僕らはシュウ君の属性を火属性だと思っていた。魔法を使うよう言った時に彼は小さな火を出したからだ。大した魔力ではなかったからブレスレットで属性バランスが保たれているのだと考えていた。サーバー上の属性も「火」に分類されている。しかし、ファズはシュウ君の属性について「自分は話していない」と言っていた。シュウ君を保護した時点で、ファズはシュウ君の属性が「火」ではないとわかっていて話さなかったのだろう。彼は獣の姿をしているが、人間だったころの意識が消えていない、暴れ回らない安全なアンノウンの異種だと思っていた。と言うより、ファズにそう思わされていたのかもしれない。

「シュウ君は何なんだ?何か特別な属性なのか?」

エーワンメンバーが全員僕らを見ている。シュウ君は少し怯えているようだった。それをシロとファーが両脇に並び腕をしっかりと握っている。

「彼は……彼の持つ属性は『魂』の属性だ。」

「魂?どういうことだ?」

エーワンメンバーが僕らの所まで戻って来た。

「我々の星の民は、地球の民のように子供を作るわけではない。どうやって民を増やすかと言うと、『魂』属性の者が選ばれた夫婦に『子』を与えるのだ。すなわち、『魂』の属性とは、命を生み出し与える存在。この『魂』の属性がなければ、我々の種族は増えることはない。我が星でも『魂』の属性の持ち主は1体のみ。国が『魂』属性の持ち主を管理することで、民の人数を管理していたのだ。何しろ、我々はお前たち地球の民よりもはるかに長生きだからな。簡単に増やすわけにはいかないのだ。」

ネセロスの星の民は『魂』を与えられることで命を得るということなのか。シュウ君がそんな大事な属性の持ち主だったなんて知らなかった。そういう特殊な属性だから、獣姿の状態で人間だったころの意識を保つことができているというなら、納得がいく。この事実は当時の木村さんやネセロスから故意に知らされていなかった可能性があるな。

「でも、コタロー君の属性はネセロスのオリジナルだとして、俺たちの属性は、元はユキの中にあった属性をコピーして与えた物だろう?ユキも『魂』の属性を持っているのか?」

話を聞いていたラクさんがネセロスに質問をする。ユキはきょとんとした顔でこちらを見ていた。確かにそうだ。膨大な種類の属性を持つユキは、さすがに誰にどの属性を与えたのかまでわからない。とはいえ、『魂』なんて特別な属性だ。シュウ君が『魂』の属性の持ち主だとわかっていたのだろうか。

「『魂』の属性はメモリできない。この属性の持ち主が増えてしまうと民の数が管理できないからな。私がユキに託した属性の中に『魂』の属性は入っていなかったから、おそらくそれはオリジナルの属性だ。私が星を出るときに付いてきたのだろう。私からユキに移って、ユキからシュウに移ったのだ。シュウ、お前の持つその属性はオリジナルだ。全ては『魂』属性が勝手にやったことだから、ユキもその存在は知らなかっただろう。」

そう言ってネセロスはシュウを見つめた。シュウは話を聞いてからも少し怯えた様子だった。『魂』の属性が命を分け与えるとして、地球でもそれは可能なのだろうか。ネセロスの星と僕らの星では明らかに環境が違う。彼らは放射線が栄養だが、地球にはそんなに強い放射線は存在しない。それこそ、宇宙にでも行かないと彼らは育たないのではないか?

「シュウ君のその『魂』の属性は、地球上でもネセロスの星の民を増やすことができるのか?」

「クトやロザが形を成すのだ。おそらく、可能なのだろう。だからファズたちはシュウを襲わない。ユキの体を手に入れたら、次はシュウを手に入れようとするだろう。そうしたら完全に地球はザクスたちに乗っ取られてしまう。」

奴らの最終目的はそれか。ザクスを復活させたところで何がしたいのかわからなかったが、滅ぼすのは人間で、ザクスの息のかかった者どもを増やしていく。何としてもユキとシュウ君を奴らの手に渡らせるわけには行かない。

「ところで、何でシュウ君の属性を僕たちに黙っていたんだ?」

「それはだな……」

ネセロスはシュウ君のことを見て、少し気まずそうにしている。そんなネセロスの姿を見たからか、胸のあたりがチリチリと痛む。

(……こちらへ来てください)

(!)

何かに呼ばれた気がした。その声に導かれるよう僕の体が勝手に動いてシュウ君の元へ行く。

「や、やめろ。コタロー。シュウに魔力を与えるな!」

ネセロスは焦って僕を止めようとする。そうは言われても、体が勝手に動いてしまう。僕はシュウ君の手を取って魔力を流し込んだ。

美しい光がフワッとシュウ君の体を包み込む。光が収まったところで、シュウ君の気配が変わったことに気付いた。近づいてきたネセロスが僕の手からシュウ君の手を奪い、シュウ君の目の前で片膝を付く。

「……お久しぶりです。姉上。」

(姉上?)

「全て見聞きしていましたよ、ネセロス。」

シュウ君から聞きなれない女性の声が発せられた。

片膝を付いて俯くネセロスは、母親に怒られている子供のような感じだった。

「みなさん、初めまして。わたくしはネセロス王の姉、エリナルと申します。」

片膝を付いた状態のネセロスを見下ろしていたシュウ君の顔は、僕らに向けられた。

「……姉?」

「お姉さん?」

みんな気配の変わったシュウ君を見つめる。ずっと声を出すことができなかったシュウ君から女性の声がするのだ。それだけでも驚きなのに、『魂』属性の持ち主がネセロスの姉だったとは……。ネセロスはザクス以外に兄弟姉妹がいることは全く話していなかった。僕が呼ぶ声に逆らえずシュウ君に魔力を流し込んだのはネセロスが姉に逆らえないからなのだろうか。

「ネセロス、あなた何も話していないのね。私がシュウの中にいることはすぐにわかったでしょう。なぜみなさんに話さなかったのです?わたくしが顕現しなければ、みなさんにも説明はいらないと、そう判断したのですか?『魂』属性を奴らが手に入れようとするのは時間の問題です。それをわたくしに会いたくないが為に、みなさんにお伝えしないのは王としてどうなのかしら。そもそも、あなたの魔力をさっさとわたくしに注ぎ込んでおけば、わたくしから説明いたしましたのに。それすらできないなんて、どれだけ愚王なのかしら。まったく、王の血縁として恥ずかしい限りです。」

「……姉上、これだから私はあなたを顕現させたくなかったのです……。」

要は、ネセロスは姉君が苦手なんだな。

「ネセロス、説明してくれ。」

片膝を付いていたネセロスは、立ち上がると説明を始めた。

「我が国が管理している『魂』属性の者は、私の姉だ。『魂』属性は代々王家にもたらされる属性であり、現在は姉のエリナルが魂を生み与えていた。」

「で、何で話してくれなかったんだ?」

「シュウの属性は特殊だ。敵に渡ったらもれなく地球は乗っ取られる。そう言ったらお前たちはどうする?保護し、部屋に閉じ込め一緒には生活できないだろう?この戦いに巻き込んでしまった上、暗く狭い部屋で生きていかねばならないのはひどく可哀そうではないか。お前たちは何も明かさなくてもシュウを守ってくれる。だから一緒にいられるよう『魂』の属性については伝えなかった。それにしても、姉上、なぜシュウなのですか?幼子をこんな戦いに巻き込んで、すまないと思わないのですか?」

シュウ君の姿をしたエリナルは、自分の胸に手を当て、少し俯いた。

「……申し訳ないと思うから、わたくしはシュウの中へ入りました。あの日、シュウの属性は暴走してみるみるうちに獣へと姿を変えました。わたくしは、わたくしに合う体を探し彷徨っていましたが、幼子が化け物へと姿を変え、自らの母に危害を加えようとしているのを見ていられませんでした。だから、シュウの中へ入り、力の暴走を抑えました。とは言っても、わたくしには属性を抑える力はありません。だから、属性の暴走を受け止める魂をシュウの中に作りました。」

シュウ君はネセロスの姉、つまり『魂』属性が体に入ったから、属性の暴走が収まり、獣の状態で人であった頃の記憶を持っているのだな。やはり特殊な例だったんだ。それにしても、体の中に新たに魂を作るってどういうことなんだろう。僕の中にはネセロスの魂が入っていたわけだが、シュウ君の中には、エリナルともう一つ魂が入っているということなのか?

「みなさん、心配には及びません。シュウの中に入っているもう一つの魂は形だけのものです。意思も持たなければ、他に属性を持つわけではありません。シュウの中にある『お守り』とでも考えていただければと思います。」

僕はシュウ君の姿のエリナルへ深く頭を下げた。

「エリナル様、シュウ君を助けていただきありがとうございました。彼はとても心の優しい人です。どうか、これ以上彼に辛い思いをさせないよう、お力添えください。」

「コタロー殿、この戦いそのものがわたくしたちの戦いの飛び火なのです。巻き込んでいるのはわたくしたちなのですから、そのように畏まらないでください。それに、わたくしではシュウを守ることはできません。みなさんの協力が不可欠です。」

エリナルは獣の姿をしていても、立ち振る舞いや話し方から気品あふれる方なのだとわかる。

「コタロー、私のことはネセロスと呼び捨てなのに、姉上のことはエリナル『様』と呼ぶのか……」

こんな時に何を言っているのだ、ネセロスは。僕はむっとした顔でネセロスを見た。

「そもそも、ネセロスが『魂』属性を隠していたのは、エリナル様が苦手だからだろう?僕にはわかるんだよ。お前の魂が一部入っているからな。」

ネセロスは答えられずに少し悔しそうな顔で僕を見てくる。

(私の魂が入っているのならどれだけ苦手なのかわかるだろう?)

と言わんばかりの顔つきだ。確かに、僕の中でもどことなく近づきがたい気配を感じるし、呼ばれる前の胸のチリチリした感じは、ネセロスの苦手観念を僕も感じていたのかもしれない。

「はぁ、ネセロス。あとで話があります、と言いたいところですが、わたくしの顕現はそろそろ終わりそうです。ネセロス、いいですか。よく聞きなさい。」

エリナルがまだ背の低いネセロスの肩に手をかけ、真剣な表情(だと思う)でネセロスを見つめた。

「シュウの事、命に代えても守りなさい。シュウが亡くなればわたくしたち種族は滅びを迎えます。わたくしはまたしばらく表には出てこられません。もしかしたらこのままシュウの魂と融合してしまうかもしれません。そうしたらあなたの苦手なエリナルの小言はこれで最後です。あなたは王です。王は民を守るものです。この地球で戦いに巻き込んでしまった者たちを、あなたは守る義務があります。」

「姉上、私は、我々種族はもう滅びても良いと考えています。それを承知で我が民はザクスを巻き込み、星ごと消滅しようと考えました。姉上もそれは承知の上だと認識しておりましたが違っていたのでしょうか?もちろん、そう考えていても、シュウのことは必ず守ります。それは、シュウが『魂』属性の持ち主だからと言うわけではなく、我々の仲間の一人として……」

「ネセロス。わたくしたちはもうこの星のみなさんを巻き込んでしまっているのです。ザクスを倒したところで、今属性を与えてしまった人々のことはどうするつもりなのですか?彼らはわたくしたちの星の民と地球の人間と言う種族が合体してしまったもの。もう人間としては生きていけない。それもまたザクスを止めるための生贄とするのですか?」

人間としては生きていけない?生贄?どういうことだ?

「……」

ネセロスは黙って答えられないでいた。

「良いですか、ネセロス。きちんとみなさんにも説明してこの戦いが終わった後のことも考えるのです。わたくしは、協力してくれたみなさんのことを見捨てることは許しません。わかりましたね?」

「……はい、姉上。」

「よろしい。ではわたくしはこれで。みなさまくれぐれもどうかご無事で。」

そう言うとエリナルの気配はすっと消え、シュウ君が戻って来た。

(あれ、ぼくどうしちゃった?みんな大丈夫?)


……


話しの掴めないシュウ君がみんなに話しかけるが、誰も返事をすることはなく、無表情のまま無言の時が流れる。


「……ふふっ。」

「おい、フク。やめろ。」

「だって、まさかネセロス王がお姉さん苦手だったなんて。」

「ちょっと、言うなよ。こっちは堪えているんだよ。」

「品のある素敵なお姉さまでしたね。」

「俺も感じた。女性から見てもそんな感じに見えるんだね。」


結構真面目な話をしていたのに、本当にこの人たちは明るいな。そもそも僕らエーワンメンバーはこの戦いに命をかけている。だからザクスを倒したその先がどうなろうと別に関係ないのだ。

「悪かったな。姉上の説教は始まると長い。こちらに物言わせることなく話が続く。……昔から苦手なんだ。」

ネセロスは、頭を掻きながら、ちょっと照れた感じで話を始めた。

「お前たちに隠し事はできないな。姉上の言う通りだ。属性を手に入れた者たちは、もう元の人間には戻れない。属性のバランスが崩れ死ぬか、化け物に変化するか、ザクスにやられるか、ザクスとの戦いが終わったとして、人間とは別の種として生きていかなければならない。そうだったとしても、お前たち人間は強く生きてくれると思っていた。」

「ネセロスの星の民と人間が合体するとどうなるんだ?最終的に人間の形ではなくなるのか?」

何となく、よく映画に出て来るエイリアンの姿を想像してしまう。それこそ化け物だな。地球を救ったと言っても排除されること間違いなしだ。

「いや、今安定して人間の形を保てているのだから、姿は変わらないと思う。何しろ人間に属性を与えることが初めてだからどうなるかわからないのだが……おそらく……」

「「「おそらく?」」」

「長生きにはなるだろう。他は、ちょっとわからないな。」

え?それだけ?もっと深刻な事態に陥ると考えていたので拍子抜けしてしまった。実際時間が過ぎてみないとわからないというところだな。最終的に僕らの姿が意識のない化け物の姿になったら軍とかに排除されるだけだ。まあ、政府の態度を見た限りでは、姿が人間でも魔法が使える時点で僕らは化け物なんだけどね。


「では、今日は解散で各々準備を進めよう。」

そう言って僕たちは解散した。僕はすぐにサワ先生に電話をして、クトの電波対策の機械を作ってもらうよう伝えた。僕らエーワンメンバーだけでなく、戦士全員に渡せるよう大量生産をお願いしたのだが、サワ先生は実はとても気の利く人物で、すでに前回の機械に改良を加えた機械を開発し、大量に用意してくれていた。先日のシャルの歌の一件で、事が大きいことに気付いてくれたのだ。これで、多少の電波には耐えられるようになる。明日からは、ネセロスとユキに協力してもらって、強い魔力に当てられる訓練だ。たくさん眠ったはずなのに布団に入るとまた眠くなった。ファズたちが攻撃してくるまでどのくらいの猶予があるのだろう。色々考えることはあるが頭がもう働かず、ウトウトしながら天井を見つめていた。すると、目の前に直径1センチ程度の黒い穴が見えた。何だ?あれは。そう思っていたら、中から丸められた紙が出てきて、僕の顔面にポテっと落ちてきた。

紙を広げると、そこにはいくつかの言葉が殴り書きで書かれていた。

大規模

近々

ザクス復活

(!)

ユーリだ。ユーリからの情報だ。文章でないのは、ゆっくり書く時間がないのか、まだ操られている状態でユーリとしての意識が保てない状態なのか、わからないが、確かにユーリは情報を送って来てくれた。以前はスカイツリーから聞こえる範囲でのシャルの歌の攻撃だったが、その規模が大規模になるということなのか。そしてそれを皮切りに、ザクスが復活してしまう。そう言うことだろうか。近々と書いてあるから、明日とか明後日とかではないのか?近々ってなんだ?とりあえず、今日はみんなも休んでいるだろうし、明日報告しよう。


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