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作戦

 翌日16時。みんな会議室に集まってくれた。何も言わなかったけど、みんなきちんと制服を着てきてくれている。

 僕は、ユキに一枚の紙を渡した。その紙にはこう書いてある。

【カチューシャ外して】

 念のためだ。ユキのカチューシャから情報が敵に洩れたら奇襲もなにもあったものではない。


「では、先日のクトとの戦いでわかったことと、ユーリを助け出す方法について説明したいと思います。その前に……」

 僕はユキの方を向く。

「ユキ、最近木村さんと連絡取れているか?」

 ユキは静かに首を横に振った。

「それがさ、琉ちゃんと全然連絡が取れなくて、会議の間もずっと私一人だったんだよ(正確には『部長』と二人だけど)。」

「わかった。そうしたら、これから説明する作戦は、上の許可がない僕たちだけの作戦になります。いざという時は魔法を使っても良いと言われていますが、敵本陣に乗り込みますから、ほぼ確実に戦闘になります。許可なく派手に戦闘すればそれなりの処分を受けると思いますが、それでも、聞いてもらえますか?」

 政府の許可を得るには時間がかかりすぎる。どのみち、許可なく仕掛けるつもりだった。

「いいよ、別に。」

「そうだね。急いでいるし。」

「仕方ないんじゃないですか?」

「上って頭の固い人たちばかりだしね。」

 みんな結構あっさりしている。でもそう言ってくれると思っていた。話しやすい。

「わかりました。では、まず報告になりますが、クトにストップが破られました。」

「「えっ?」」

「どうやったのかはわかりません。ですので、次に戦う時もストップはほとんど使いものにならないと思っていてください。」

「それは、なかなか危険だね。」

「ストップが使えない以上、クロの回復がすぐにできると思わないでください。だから、戦闘になっても怪我をしないように、絶対に無理はしないようにしてください。」

 そして、僕は会議室のホワイトボードに敵の相関図を書いた。

「敵のトップにいるのが『ザクス』。みんなも知っている通り、ネセロスの弟で仲間喰いにより属性の力を得ている。属性の種類や数はわかりません。そして、『ザクス』の臣下が4人。いずれも人の形をしていると思われます。クトとロザに関しては、この前の戦闘でクトが『僕はシャルから生まれて、ロザはファズから生まれた』と言っていました。『ファズは闇の力を強くしたいから逆属性の光属性を自分から抜いてロザを作った。シャルは力を少し分けて僕を作った』と。」

 僕は相関図に矢印を書き込んでいく。

「つまり、ネセロスに埋められたロザは、この前は生まれたばかりなのであの程度でしたが、本来であればファズと同レベルの魔力量を保持している。そして、シャルに関しても、クトを生み出しているくらいだから、こちらもかなり高レベルの魔力量を持っていると考えた方がいい。」

 相関図のファズとシャルとロザを赤い丸で囲む。

「へー。じゃあ俺が苦戦したクトは、4人の中でも魔力量が少ない方なんだ。」

 紗奈さんがちょっと寂しそうに言った。大丈夫ですよ、僕たちも強くなっていますから。

「クトとロザは僕の精霊たちと一緒で、自分で思った形になれるようです。だからこの前も僕の目の前でユーリの姿になったんだ。」

「確かにロザもクトもグニョグニョの姿になっても動いていたし、すぐに人型に戻ったよね。」

 そう。だから倒すのが難しい。剣で切っても、潰しても、すぐに元の姿に戻ってしまう。

「これも予想ですが、人型でないものにもなれるのだと思います。なので、この二人に関しては無理に倒さず、無力化させればよいと考えています。」

「無力化って?」

「ネセロスがやったように、鉄の中に埋めたり、攻撃できないレベルの姿にしておけば、たとえ逃げてしまっても放っておいて良いと思います。」

「倒さなくていいの?」

「今回の敵の中にはファズがいます。福島の戦いで感じたと思いますが、闇の雲が空に広がった時、姿が見えなくてもひるんでしまうレベルの魔力量でした。ファズに関しては、僕とユキが二人でかかっても倒せる相手ではないかもしれませんし、シャルももしかしたらもう復活している可能性があります。だったら、クトとロザを倒すことよりはファズとシャルに全力を向けた方が良いかと思います。……クトとロザを無力化できれば、の話ですけどね。」


 それから、クトの属性について説明した。正確な属性はわからないが、人間の脳に干渉して、記憶を操ったり動きを操ったりできるということ、それによりユーリは操られ『ゲート』をうまく利用されてしまったこと。

「それで、脳に干渉するのはどうやればできるのかを聞きに行きました。」

「……誰に?」

「今日アポ取ってあるんで、来てもらいます。」

 そう言って僕はゲートを開いた。そこから一人の男性を会議室に招いた。

 いきなり出てきた小柄で白衣を着た年配の男性に、みんな驚いた。

「誰?このちっこいオッサン。」

「ちっこいオッサンとはずいぶんな言いようだな。」

「みなさんこちら、サワ教授です。脳科学の研究をしていて、人の脳について詳しく知る方です。サワ先生、脳に干渉する方法ってどういうものがあるのか説明していただけますか?」

「若造が。仕方ない、教えてやろう。」

 サワ教授は、脳の模型を取り出し、机の上に置いた。

「いいか、脳は、大脳・小脳・脳幹という3つの部分から成り、記憶とは神経細胞を繋ぐシナプスが……」

 淡々と脳の説明が始まった。サワ先生はフクさんが言う通り、見た目は小さいオジサンだが、実はすごい人だ。小学生に東京大学の入試問題の過去問を見せ、答えも見せる。小学生はもちろん理解はできないし、漢字も読めない。答えだってなんだかよくわからない。その小学生の脳に微弱な電波を与えることで、同じ問題を解かせて満点を取らせた。「見た」記憶を強制的に思い出させたんだ。サワ先生の研究はユキのカチューシャにも使われている。ユキの頭の回転が速いのはサワ先生が開発した電波のおかげだ。

(ねぇねぇ、コタロー君。この先生の話、いつまで続くの?)

 フクさんが頭の中に話しかけてくる。

(すみません。話し終わらないと次の説明に行ってくれないんですよ。)


「……と言うことだ。わかったか?わからないだろう?若造。お前らの脳では到底理解できる理論ではないのだ。」

 まずいな。サワ先生の説明が終わった時点でみんな疲れ切ってしまった。

「で、今回、クトが脳に影響を与えているのは微弱な電波なのではないかと言うことで、サワ先生にこんなものを作ってもらいました。」

 僕は2センチほどの小さな円盤の装置を取り出し、みんなに渡した。

「見よ、若造。この私がわざわざお前ら若造の為に用意したんだ。この装置はな、外部からの電波を遮断するものだ。これで外部からの電波の影響を防ぐことができる。この装置は、脳に与える電波の……」

(ああ、また始まっちゃったね。)

「先生、ありがとうございました。まだ研究残っていますよね?こちらは大丈夫ですので、お戻りください。」

 そう言って僕はまだまだ話し足りなさそうな先生をゲートで研究所に押し込んだ。


「やっと終わった。」

「すごい説明してくれていたのに、全然内容わからなかったよ?大丈夫?」

「大丈夫です。この装置を作ってくれる条件が、あの説明から話をすることだったので、みんなにも聞いてもらいました。この装置は、フードに付けておいてください。これでクトの攻撃が防げるかわかりませんが、無防備よりは良いかと思います。一応、気付けの薬を作っておいてもらえますか?紗奈さん。」

「ああ、わかった。すぐに作っておく。」

「クトの属性が電波みたいなもので、それで人の脳を操っているというのなら、シュウ君はもしかしたら人間と脳の造りが違うのかもしれないね。」

「だからこの前の戦闘の時にシュウ君にはクトの幻覚が通じなかったのか。」

 なるほど。そこまで考えていなかった。

「それと、クトは闇の魔法を使っていました。」

「クトって闇の魔法も使えるの?」

「ファズに少し借りたと言っていました。それで、魔法の貸し出しができるのか色々試した結果、ファーとユキの協力で、こういうものを作りました。」

 机の上に大量のカプセルが並んでいる箱を置いた。黄色いカプセルと黒いカプセルがきれいに並んでいる。

「なに?これ。」

「ガチャポン?」

「小さめだね。中身は何?」

 そう言ってフクさんがカプセルを手に取ろうとした。

「あ、まだ触らないでください。危険なので。」

「え?これ危険なの?」

 フクさんはサッと手を引っ込めた。

「この中には光の魔法が圧縮されて入っています。圧縮方法の説明は省略しますが、カプセルを開けて、投げると爆発します。カプセルのまま放り投げて、遠隔攻撃でカプセルを壊しても良いですね。まだ闇の属性の攻撃を見たわけではないですが、ユーリが攫われたとき、クトは黒いもやを発生させていました。その黒いもやや、ファズが発生させた闇の雲なんかは、このカプセルで吹き飛ばせば消えると思います。万が一、闇に覆われたら使ってください。あ、普通に爆発するのでいざという時には攻撃用としても使えます。」

「こっちの黒い方は?」

「黒い方にはゲートの魔法が圧縮されています。この本部の演習場に繋がっています。命に危険を感じたら使ってください。」

「逃げるってこと?みんなを置いて?」

「そうです。命の危険を感じたら必ず逃げてください。」

 ……

 みんな無言だ。だけど、どうしても命だけは落としてほしくない。

「みなさん、逃げるのは嫌かもしれませんが、僕たちのラスボスはザクスです。今ここで命を落とすわけにはいきません。僕ら全員が揃っていないとザクスは倒せません。それに、今回の目的はユーリの救出ですから、どのみち倒すことは考えていません。」

「……そうだよね。みんな、私たちはまだ倒れるわけにはいかない。一人が退避したら、全員退避することを優先しよう。」

 ユキがまとめてくれた。やはりこういう時は団長の発言が一番心に響く。

「それで、どうやってユーリを助けるの?」

「ユーリは操られていますから、まずは強力な眠り薬で眠らせます。眠ったユーリをシュウ君に預けます。僕たちはシュウ君に攻撃が及ばないよう全力でファズ、クト、ロザの相手をします。シュウ君はできる限り速く遠くに逃げてもらって、ユーリのフードにこの装置を取り付けてほしい。」

「ユーリを助けたら、シュウ君にはすぐにこの黒いカプセルのゲートで演習場に戻ってもらえばいいんじゃないの?」

「クトの能力が電波ではなかった場合、本部の演習場に連れて帰ったとしても操られている可能性があります。目覚めた時に操られていた場合、ユーリがゲートを開いてしまえば敵を本部に誘導することになってしまうし、またすぐにこちらへ戻ってきてしまうかもしれない。だから、シュウ君が帰るときは全員一緒に撤退となります。」

 ふむぅ、とみんな頭を悩ませる。

「それじゃあ、うまくユーリを確保したら帰ってくる、って言うのが目的でいい?」

「そうですね。今回の目的はユーリの救出です。無理に戦う必要はないですが、まずユーリを薬で眠らすこと自体が難しいかもしれませんね。近づかせてくれるかどうか……。」

「強力な眠り薬は俺作るね。俺と銀次さんなら近づかなくてもユーリの近くで薬を撒くくらいはできるかもしれない。それで、シャル?はわからないけど、ロザが復活しているのは確定なの?ファズは絶対にその場にいるの?」

 紗奈さんの質問はもっともだ。僕のこれまでに説明した作戦では、ファズ・クト・ロザがいる設定になっている。シャルだけはまだ復活しているかわからないけれど、ロザに関しては福島に埋められている時から復活させようと何かしていた。だから敵のもとに渡った時点で復活していると考えている。

「まず、昨日みなさんに謝罪した通り、僕はみなさんに『ゲート』の持ち主を違う支部で報告していました。これは……スパイを探すためです。」

「「スパイ?」」

「そうです。最初にクトと戦闘をしたときに、名乗っていないのにクトは僕の顔を見て『コタロー』と言いました。僕の情報が敵に洩れていたと言うことです。エーワンメンバーの情報を知るのは、同じエーワンメンバーもしくは政府の人間。僕は先にエーワンメンバーの疑いを晴らしたくて、ユーリを利用しました。」

「……どういうこと?」

「僕が『ゲート』という便利な属性を手に入れたことを言いふらすことで、その情報が敵に渡った場合、敵も『ゲート』を手に入れようとするのではないかと思いました。どこかの支部が襲われれば、その支部を伝えた人がスパイである、と考えました。」

「だけど結果は……」

「そうなんです。どこの支部も襲われなかった。ユーリだけ奪われました。」

「と言うことは?」

「みなさんはスパイではないということです。元々疑惑を晴らすためについた嘘です。この中にスパイがいるとは考えていませんでしたが、疑うような行動をしてすみませんでした。」

 僕は改めてみんなに謝罪した。

「もういいって。コタロー君は意味のない行動しないでしょ?」

 こんな時いつも明るく接してくれるのはフクさんだ。でも、みんなニコニコしながら僕のことを見てくれていた。

「そして、ロザはおそらく復活していると予想しています。ファズがその場にいると確信しているのは、僕はファズの元へゲートを開こうとしているからです。」

 先ほどのニコニコした顔とは打って変わって、みんな驚いた表情で僕の顔を見る。

「コタロー君、ファズのこと知っているの?」

「確実に知っているかと言われれば、知りません。だからゲートが開かれるかどうかは賭けになってしまいます。準備万端でゲートが開いて、そこにいるのがファズではなかった、という情けない状態になってしまう場合もあります。それでもみなさん来てくれますか?」

「当たり前だよ。」

「コタロー君のこと信じているから。」

 みんな、ありがとう。おそらくゲートの先では激しい戦闘が繰り広げられる。未知の力の闇属性、光属性、シャル・クトの属性、どんな戦いになるのかわからない。だけど僕らなら絶対にユーリを救って帰って来られる、僕もみんなを信じている。

「では、ファズの相手は僕とユキ、ロザはフクさんとラクさん、クトは紗奈さんと銀次さんでお願いします。シャルが復活していたら、臨機応変で。」

「コタロー君、案外適当だね。」

「だって、何が起こるかわからないし、どんな場所にゲートが開かれるからわからないから、いきなりフクさんの爆炎魔法使ってあたり一帯更地になっても困るでしょう?」

「出発はいつにする?」

「なるべく早い方がいいのだけど……」

 時計を見たらすでに20時だった。サワ先生の話が長かったな。

「では、準備及び休憩ののち、22時に集合。敵に奇襲をかける。全員いったん解散!」

 ユキの掛け声でみんな準備に入った。紗奈さんは気付けの薬と強力な眠り薬を作成、僕はシロが作ってくれたきんちゃく袋にカプセルを入れていく。

「袋に小さな丸いのがいっぱいで、桃太郎のきび団子みたいだね。」

 緊張をほぐそうとしてくれているのか、一緒にカプセルを入れていたシロが少し笑って言った。その笑い方がいつもと違うように感じて、僕は手を止めシロの顔を見ていた。

「コタロー、ごめんね。ストップが使えないんじゃ私役に立たないよね。」

 シロは下を向いたまま、僕に言った。そんなことを考えていたのか。

「シロ、シロが役に立たないわけがない。実は、みんなには言っていないのだけど、僕にはもう一つ目的があるんだ。」

 うつむいていたシロが顔を上げる。

「実は、可能であればファズとクト、復活していたらシャルの属性をメモリしたいと考えている。」

「そんなこと戦闘中にはできないでしょ?」

「だからシロが必要なんだ。」

「でも、ストップは解除されてしまうって……」

「『解除』なんだよ。だから『解除』されるまで少しだけ時間があるんだ。シロならできるだろう?人喰いのアンノウンを倒したときみたいに。」

「……多重ストップ」

 そう。たとえ一つストップが解除されたとしても、何重にもストップがかけられていれば多少の時間は稼げるはずだし、解除された瞬間に再度ストップをかければ数秒でも確保できる。

「できるか?」

「やるよ!やるよ、コタロー。」

 シロが笑顔になった。もう一つ考えていたのは、僕がストップをかけるより、シロがストップをかけた方がより強力で解除しにくいのではないかと言うことだ。多重ストップにしてもシロのストップにしても試してみないとわからないが、今回の戦いでファズとシャルとクトの属性がわかれば、次の戦闘でかなり有利になれるはずだ。

「あと、昨日の仮装……かわいかったよ。」

 これはおまけだ。なんか落ち込んでいたみたいだし、元気になってくれた方が戦いやすい……

「あれ、シロ、顔真っ赤だぞ。大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫じゃないよー。」

 そう言ってシロは走ってどこかに行ってしまった。全く、そんなに急いでどこに行くんだ。トイレか?精霊はトイレに行かないだろ?まだカプセルが残っているのに手伝ってくれないのか。

「はぁ。」

 遠くの席でため息が聞こえた。顔を上げると、紗奈さんと銀次さんが呆れた顔で僕を見ている。

「銀次さん、よろしく。」

「はーい」

 紗奈さんに言われて銀次さんは席を立ち、シロの後を追っていった。一体何だというのだ。僕はきんちゃく袋にカプセルを詰めていった。



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