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コタロー引きこもり期間2

 あの日、俺たちは急いで福島にいるコタロー君の元へ向かったが、結局何一つできずに帰ってきた。落ち込むコタロー君に何て声を掛けたらよいのかわからず、それは他のエーワンメンバーも同様で、コタロー君を部屋に送ってからは、ただ自分たちの部屋に戻るしかなかった。

「ラク、今はそっとしておいてあげよう。」

 何もできない自分に悔しさといら立ちを覚え、閉められたドアを見つめていた俺に、フクはそっと肩を叩いてそう言った。俺たちは、コタロー君が毎晩福島へ行ってロザの様子を見ていたことすら知らなかった。コタロー君一人に背負わせたくないのに、俺たちだって頼ってもらいたいのに、結局一人で抱えて落ち込んで。頼ってもらえないのは俺たちが頼れる存在じゃないからなのか?……いや、もしかしてコタロー君は『頼る』と言うことがどういうことなのかわからないんじゃないのか?今まで周りに頼れる人がいなくて、誰にも頼らずに生きてきたんだ。『頼る』という行為そのものがわかっていないのかもしれない。それをわからせてあげるのも俺たちの責任じゃないか。もっと話がしたい。コタロー君を守りたいのに、信頼を得る時間が足らない。


 翌日から、コタロー君は部屋に引きこもってしまった。会いに行っても部屋に上げてもらえない。彼の戦闘意欲はもうなくなってしまったのだろうか。シロちゃんやクロ君、ファーちゃんもあまり会えていないようだ。ユキは上への報告で呼び出され帰って来ない。俺たちでコタロー君を元気づけてあげないと。俺は、部屋にメンバーを招集した。


「で、コタロー君に会えた人いる?」

 ……

 沈黙が続く。

「コタロー君、もう戦うの嫌になっちゃったかな。」

 フクがぼそっと言った言葉は、ここにいるメンバー全員が感じていた不安だった。

「俺たちは俺たちでできることを考えよう。そもそも、みんなロザと一緒に連れて行かれたユーリって女性のことを知っていたか?」

「コタロー君からは『ゲート』を使う人がいるっていうのは聞いていたけど、ユーリって名前も知らないし、どんな人なのかも聞いていなかったよ。」

「俺は、中部支部に行ったときにコタロー君にどの子か聞いたんだけど、コタロー君ケチでさぁ、教えてくれなかったよ。かわいい子だったね。中部支部では見かけなかったな。」

「「「中部支部?」」」

 全員が驚いて紗奈の顔を見る。

「何で揃って同じ質問?『ゲート』の持ち主って中部支部の人でしょ?」

「俺は北海道支部って聞いてる。」

「私は近畿支部って聞いてます。」

「俺は九州・沖縄支部って聞いた。」

 紗奈は中部支部、フクは北海道支部、銀次は近畿支部、俺は九州・沖縄支部って聞いていたのか。なぜバラバラの支部で報告したんだ?

 ……

 また沈黙が続く。

「何か考えがあって、全員に違う支部を言っていたんだよね。」

 フクの言う通りだ。こんな嘘をついてもコタロー君に得があるとは思えない。コタロー君は意味のないことはやらないし、僕たちを騙すようなことはしないだろう。でも、一体どんな意味が……?

「こればっかりは本人から話してくれるのを待った方がいいんじゃない?」

 さっき揚げたばかりのオニオンフライを食べながら紗奈が言う。確かに俺たちが勝手に考えてわかるものじゃない。みんな静かにつまみを食べる。

「とりあえず、毎日コタロー君の様子を伺いながら、俺たちは今まで通り戦闘能力を上げていこう。コタロー君がもう戦いたくないって言ったら俺たちだけで戦わないといけないからね。」

「そうだね。無理やり戦わせるわけにはいかないからね。」

 俺の提案にいつもフクは賛同してくれる。命を懸けた戦いに、「戦いたくない」人を巻き込んではいけない。コタロー君がいなければ、おそらく勝ち目はない。たとえそうだったとしても、コタロー君が戦いたくないと言ったら、戦わせるつもりはない。その分俺たちでできる限りのことをするだけだ。

「ラクは、毎食コタロー君たちに食事差し入れてよ。コタロー君が出てこないとシロちゃんたちも食べられないでしょ。それは可哀そうだ。」

「そうだな。」


 それから、俺はコタロー君たちに食事を作って持って行った。玄関で受け取ってもらえるが、やはり中には入れてもらえない。

「ラクさん、ごめんね。コタロー部屋に入ったきりで……。」

 たとえ会えなくても毎食持って行った。ファーちゃんがコタロー君のそばを離れられないのもあり、他の支部へ移動できないため、俺たちだけで模擬戦を繰り返した。みんな一緒に行動しているため、食事の時間になると、みんな俺の部屋に集まって食事を食べる。そのついでにコタロー君たちの分も……いや逆だな。コタロー君たちの食事を作るついでにみんなの分も作っている。

 毎食届けていて、玄関に取りに来てくれるシロちゃんの話を聞くと、コタロー君は時々誰かを呼んで、何かの作業をしているようだった。この感じだと、落ち込んでいるというよりは、何か準備をしているという感じか。そう言うことなら、俺たちは邪魔をしてはいけない。まさか一人で乗り込むなんてことはないと思うけど、そのあたりはシロちゃんに様子を見ておいてもらおう。

「ラクさん、コタロー食事は食べているよ。いつもありがとう。」

 シロちゃんはまだコタロー君に呼ばれたことが無いようで、ちょっと落ち込んでいる。

「シロちゃんも情報ありがとうね。コタロー君、落ち込んでいるわけではなさそうだっていうのがわかっただけでも良かったよ。コタロー君が何か準備しているなら、俺たちもちゃんと準備しておかないとな。」



 あの日、コタローから精霊を通じて連絡が来て、急いでみんなを招集し福島へ向かった。しかし私たちには何もできず、ロザとユーリが連れて行かれるのを見ているしかなかった。

 次の日から、福島第一原発近くに開いた大きな円筒の穴の説明のため、政府の要人どもに呼ばれ国会議事堂に行くことになった。こんな時に限って琉ちゃんと連絡が取れない。全く、あの人はどこで何をやっているのかわからない。スマホ、持ち歩いているのか?琉ちゃんがいないと説明が面倒なんだよ。基本的に私は話をしたくないから『あいつ』を連れて行こう。私は土の魔法で泥人形を作る。これは一番初めにコタローと顔を合わせた時にも連れていた渋い声の泥人形だ。これに制服を着せれば立派な戦士に見える。もちろん、こいつを通して魔法も使える。自爆だってできるぞ。こいつのことは『部長』と呼ぼう。専務のほうがいいか?まぁどうでもいい。とりあえず部長を連れて国会議事堂へ向かった。概要は部長が話す。部長を通して私が話しているわけだが、みんなの視線が部長へ向くから気が楽だ。

「だから、どう責任を取るんだ!」

「東北支部の怠慢だろう?」

「その、『ロザ』?と言う奴が連れて行かれるとどうなるんだ?」

「東北支部の連れて行かれた戦士はどうなんだ?敵なのか?」

 私(部長)の説明が悪いのか?全然話を理解してもらえない。ユーリは操られたって言ったよね?ロザは敵が復活させようとして連れ去ったって言ったよね?なんだ?部長の声が渋すぎて聞き取りにくいのか?

「とりあえず、今日は解散だ。東北支部からも話を聞く。明日もこの時間に来るように。」

 ああ、東北支部の人も可哀そうに。ここまで話が分からない人っているんだな。人類がピンチの方向に傾いているって、認めたくないんだろうな。仕方ない、明日も部長連れて来るか……。

(ユキ。聞こえるか?)

 帰り道、空を飛んでいるとコタローから連絡があった。

(聞こえるよ。どうした?大丈夫か?)

(え?だ、大丈夫だけど……なんで?)

 コタローはみんなが心配しているという意識はあるのか?

(いや、大丈夫なら良いんだ。で、何?どうした?)

(ちょっと試したいことがあって、ユキにも見てもらいたいんだ。これから演習場に来られる?)

(ああ、今から一旦帰るから、一息ついたら行くよ。)

 部屋に戻り、部長との連結を解除する。部長はただの土の人形となり動かなくなる。普段は土も回収するんだけど、明日も使うだろうから、このまま置いておくか。土人形はバランスよく二本足で立っている。何かの拍子に倒れたら面倒だな。私は少しだけ部長を操って、一人掛けのソファーに座らせた。その姿は、疲れ切ったサラリーマンのように見えた。

「部長もお疲れ様。」


 演習場に行くと、コタローとファーが何かやっている。様子を見ていると、光の球を圧縮して、それを遠くに投げて、爆発させて遊んでいる。何をやっているんだ、全く。

 近づいてみると、二人の話し声が聞こえる。

「これじゃあ持ち歩けない。常に圧縮魔法を使っていないといけないな。」

「コタロー、何をしようとしているの?」

「魔法の貸与だ。闇の属性に対抗できるのは光の属性だけだから、みんなに持たせておきたいんだよ。」

 ふむふむ。魔法をコンパクトにして貸し出そうとしているんだな。

「なるほど、カプセルか。物理的なカプセルを用意したとして、僕やファーの元を離れると圧縮された魔法が解放されてしまうのをどうにかしないと入れても弾けるだろうな。」

 面白いこと考えるな。カプセルに魔法を入れるのか。でも、コタローやファーの手を離れると圧縮魔法が解除されてしまう、と……。その瞬間、私の頭の中では「魔法を貸与する方法」が100通り以上展開される。その中で上手く魔法がカプセルの中で留まっていた方法は1つだけ。魔法をかけた人自身の一部を魔法の中央に置くことで、その一部に魔法を引き寄せておく方法だった。

「それなら、魔法を留めておく依り代があるといいんじゃない?」

 二人が揃って私の方向を向いた。私が来ていたことに気付いていなかったのか。私は依り代について少し説明すると、コタローは自分の手を見ていた。自分の指でも切って入れるつもりなのか?恐ろしい。ファーもそう感じたのか、自分の髪を少し切って再度光の球を作り、小さく圧縮する。ファーが作った光の球はファーの手を離れコタローの手を渡り私のところまで来たが、小さな丸い形を保ったままだった。遠くへ放り投げると、球の中央にあったファーの髪が散乱し、光の球は爆発した。成功だ。

 光の球が入れられるように、私は3タイプのカプセルを作ったが採用されたのはプラスチックのカプセルだった。コタローに言われ、入れ物と蓋を山ほど作っておいた。試しに作ったガラスのカプセルはファーが欲しいというのであげた。二人は大量のカプセルを持って部屋に戻って行った。


 コタローが部屋にこもってから1週間が経った日にまた呼び出された。呼び出したくせに、コタローの部屋には来てほしくないらしく、仕方ないので私の部屋に来てもらった。何か秘密兵器でも製作中なのだろうか。まあ男の子だし、見られたくないものでもあるのだろう。私の部屋にはシュウ君以外は入れたことないんだけど、仕方ない。私は、散らばった服をまとめてクローゼットに押し込んだ。あとは、しばらく国会議事堂に呼ばれることもないだろうから、部長も片付けておこう。私は土人形となった『部長』を回収した。まあ、それなりに片付いたかな。

「悪いな、ユキ。ちょっと確認したいことがあるんだ。ユキが今まで通ってきた道を見せてくれないか?」

 そう言ってコタローは何やらコードを取り出した。

 道?ああ、これまでやり直してきた回の記憶を見せてほしいのか。

 コードの先端を私の耳の後ろのプラグと、コタローのブレスエットに差し込んだ。

「このコードで私の記憶がコタローに伝わるの?」

「ああ、たぶんな。それも試してみたいんだ。別に、無線でも良いのだけど、傍受されたくないから物理的に繋いでおこう。記憶はリバースで戻るあたりのだけでいい。全部の回を見せてほしい。」

「今が36回目だから、35回分の記憶ね。わかった。」

 私の記憶が、コードを通じてコタローに伝わる。初回は、一人で挑んであっという間に吹き飛ばされる記憶。その後の数回も私が圧倒的にやられる記憶。それから仲間を増やすために属性を配布して、属性の持ち主を日本政府が管理して、戦士を作り上げて準備したにも関わらず、海から出て来る怪物には勝てない記憶。その度に、当時のコタロー……正確には、コタローの中にいるネセロスが私を5年前にリバースしている。痛い、つらい、人々が無惨にも殺されていく、力を託されたのに何もできない、ただただ悔しくて悲しい記憶。

 35回目まで見終わったところで、コタローはコードを抜いた。

「ありがとう。」

 そう言って、コタローは私の頭を優しく撫でてくれた。私の目からは涙が流れていた。

「つらい記憶を思い出させて悪かったな。」

 コタローは、何かを確信したようだった。

「何かわかったの?」

「そうだな。ずっともやもやしていた部分がはっきりした。ユキのおかげだ。」

 コタローは私に笑って見せたが、なんてぎこちない笑顔だろう。泣いている私に、無理に笑顔を作ってくれたみたいだ。そんな気遣いをしてくれるなんて、コタローも優しくなったものだ。

「コタロー、みんな心配しているよ?」

「え?あ、ああ。そうか?」

「やっぱりわかってない。1週間も引きこもって、誰にも何も相談しないで、何やっているんだろう?ってみんな心配しているよ。最初はね、ユーリって子が連れて行かれて落ち込んでいるのかと思ったら、なんかコソコソやっているみたいだって聞いた。何か準備しているのでしょう?」

「そう。準備なんてしてもしきれないけどな。何が起こるかなんてわからないし、もうロザもシャルも復活しているかもしれない。でも、作戦は練った。」

「私たち必要?」

 そう言うと、コタローは驚いた顔でこちらを見た。

「当たり前だろ?エーワンメンバー全員じゃなきゃできない作戦だ。それに、今回はシュウ君にも応援を頼んだんだ。」

「シュウ君?大丈夫?危ない目には遭わない?」

「わからない。けど、シュウ君も協力してくれるって言っていたし、僕が全力で守る。」

「『僕らが』でしょ?」

「そうだな。僕らでユーリを救って、また戻って来よう。」

 コタローがやっと自然に笑った。コタローの自然な笑顔ってあまり見たことないんだよな。貴重だ。この記憶をあとで画像にして残しておこう。そして、その画像をカードにしてエーワンメンバーに配ろう。

「ユキ?何考えているんだ?」

 しまった。悪巧みが顔に出てしまっていただろうか。

「い、いや。何でもない。それで、そのコタローの作戦はいつ私たちに説明してもらえるんだ?」

「なるべく早く……明日の夜あたりに説明して、みんなにも覚悟を決めてもらうつもりだ。」

「だったら、明後日にしよう!」

「何で?早い方がいいだろう?」

「こっちにも準備があるんだよ。」

「?そうか?わかった。じゃあ明後日の夜に全員召集で。」


(全員、フクの部屋に集合!)

 コタローが私の部屋を出て、自宅に戻り、コタローの部屋に入ったのを確認した(シロに確認してもらった)ところで、私はコタローを除く全員を招集した。

「なに?突然俺の部屋集合とか、どういうこと?」

「実は、私は今、コタローと一緒にいた!」

「「「おおっ!」」」

「それで、それで?」

「大体の準備は終わったようで、明日あたりにみんなに説明してくれると言っていた。」

「コタロー君が何をしていたのか、やっと教えてもらえるんだね。」

「しかーし!」

「しかし?」

「私は、その説明を明後日にするよう言っておいた。」

「「「ええ?」」」

「何で?早い方がいいじゃん。」

「なぜなら……」

 私は、手に持っていたチラシをバッと全員が見えるように広げた。それは、日中外に出ていた時にたまたま拾ったチラシだった。

 チラシにはこう書かれていた。


【復興祭!

 ハロウィンパーティも兼ねているので、みんなで仮装して参加しよう!

 参加者募集!記念撮影あり】


「明日の夜は、みんなで復興祭に行こう!」

 ……

「あ、あれ?……だめ?」

 ……

「いやあ……いいんじゃない?」

 そう切り出してくれたのはフクだった。

「だって、敵陣本部に乗り込むんでしょ?その前に少し楽しむくらいならいいんじゃない?」

「そうだよね。コタロー君ずっと部屋にこもっていたわけだし、お祭りとか行ったこと無さそうだし、それに……」

 そう言う紗奈の視線の先には、目をキラキラさせたシロとファーがいた。

「お祭り……」

「行ってみたい」

 ただ、ユーリを一刻も早く助け出したいと考えているコタローをお祭りになんて連れて行けるのだろうか。浮かれているんじゃないって怒られるかもしれない。私たちは入念に作戦を練った。

 かくして、敵陣本部乗り込み大作戦の前に、『コタローを祭りに連れ出す大作戦』が始まった。私たちは無事にコタローを祭りに連れて行けるのか。乞うご期待!


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