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日本列島支部巡り(東北支部編)

「木村さん、休暇をください。」

 久しぶりに会った木村さんに僕は休暇を願い出た。

「何?突然。どうしたの?」

「なかなか木村さんに会えないので、報告できないでいたのですが、実は東北支部に行った際に、『ゲート』という属性をメモリーさせてもらったんです。」

「ゲート?」

「はい。自分の知っている場所や人物のところへ移動できる『ゲート』を開くことができます。今後、どこでどのような形で敵が現れるかわからない以上、移動手段の一つとして利用できればと考えていますが、そのためには日本の各支部を一通り行っておいたほうが良いかと思いました。」

「あー!そういうこと!」

 木村さんは、「ゲート」をすぐに受け入れてくれたようだが、納得した後すこし考えている様子だった。

「木村さん、『ゲート』の属性をメモリーさせてくれた人も一緒に回ったほうが良いのではないかと思うのですが、その人も一緒に休暇を取らせてもらえませんか?」

『ゲート』は攻撃魔法ではないから、使い道が限られてくる。持ち主の中園なかそのさんも、各地に移動できるようになれば、より役に立てるだろう。そう思ったのだが、東北支部の人員まで木村さんが口出しできるのかどうか…。

「いいだろう。休暇と言わずに仕事として行ってきていいよ。その属性は役に立ちそうだ。ゲートで移動する場合には、俺ら一般人も移動できるのかい?」

「そこはまだ試していないので、中園なかそのさんに聞いてみようと思っています。」

「中園?」

「ゲートの持ち主です。普段どのようにして『ゲート』を活用しているのかも聞いてきます。早速行ってきてもいいですか?ここへはいつでも帰って来られますので。」

「……行動が早いな。わかった。各支部に連絡しておく。支部の場所は案内人を手配しておく。」

 案内人?ああ、黒スーツの人たちのことか。

「では、まず東北支部で中園さんと合流して、北から南に巡ります。何かあるときは連絡いただければ帰ってきます。……木村さん、電話は携帯電話に掛けてきてくださいね?部屋の電話に掛けてきても出ませんからね?」

「ああ、そうだな。つい固定電話に掛けたくなるんだよな。」

 木村さんは、時間の許す限り各支部について教えてくれた。北から、北海道支部、東北支部、関東本部、中部支部、近畿支部、中国支部、四国支部、九州・沖縄支部の全8支部だ。いずれも、本部同様地下に施設があり、入口は一般の人にはわからないようになっている。そのため、初めて行く際には案内人の手配が必要になるとのことだった。

「各支部長は話の分かる人たちだと思うが、戦士の中には結構クセのある人もいるから気をつけろよ。」

「支部に行って場所を覚えれば、ゲートで行けるようになりますので、あまり人とは接することなく帰ってきますよ。皆さん制服着ているだろうから顔は見えませんし、会って話をしても意味がないですからね。では、制服に着替えてきます。」

 各支部に行ってみようと考えた時に、日本列島縦断の旅行に行くような気分だったけど、よく考えれば、いつでも「ゲート」で自分の部屋に戻ることができるんだよな。ホテルとか取らなくて済むから楽だな。金もかからないし、便利だ。

 僕は制服に着替えて再び木村さんのところへ向かった。

「行ってきても大丈夫ですか?支部には連絡ついてます?」

「ああ、各支部には連絡済みだ。あとは行く前にそれぞれの支部長に連絡すれば迎えが来る。」

 そう言って、各支部の連絡先の番号を書かれたメモを渡してくれた。

「木村さん、職場を引っ越した時もそうですけど、なんでメモ書きなんですか。メールくれればいいのに。」

「いいんだよ。ポチポチメール打つの面倒だろ。」

 木村さんはアナログだな。ウェポンマスターの制作側にこんなアナログの人がいたとは誰も思わないのだろうな。

「では、行ってきます。」

 僕は『ゲート』を使う。東北支部の待合室をイメージすると、目の前に黒い円が広がる。

「おお、こんな感じなんだな。向こう側が見えるわけではなくて、黒いところに入らなくてはいけないのか。ちょっと怖いなぁ。」

 木村さんは高い所も苦手だと言っていたし、怖がりなところがある。

「あ、エーワンメンバーには『ゲート』のことをまだ話していないので内緒にしておいてください。まだ他の人も移動できるかわからないのに、移動手段として利用できると思われてしまうと面倒なので。会議には出ますから、連絡ください。では行ってきます。」

 矢継ぎ早に木村に伝えると、僕とシロとクロとファーは黒い円の中に入っていった。

「これがゲートか。……便利だな。」


 東北支部に着くと、待合室には数人の制服を着た人がいた。

「あ、すみません。突然来てしまって。」

 東北支部の人たちは『ゲート』のことを知っているだろうけど、中園さん以外で使える人がいるとは思っていなかったのだろう。黒い円の中から出てきたのが四本ラインの戦士だったものだから、驚いて動けないでいた。

「コタローさん!来るなら連絡ください!」

 中園さんが急いだ様子で部屋に入ってきた。気配を感じて急いで来てくれたのだろう。

「支部長、コタローさんです。」

 中園さんは、支部長と思われる人に僕を紹介してくれた。

「初めまして。コタローです。この度は突然お伺いしてすみません。」

「ああ、先ほど木村さんから連絡をもらっていたよ。ユーリと一緒に各支部を回るそうだね。よろしく頼むよ。」

「ユーリ?」

「あ、私のことです。コタローさん、私のことはユーリとお呼びください。」

 なんかまだ畏まっているんだよな。まぁ俺の中のネセロスを敬っているだけなんだけど、『中園さん』と呼ぶよりは簡単でいいか。

「ではユーリ、早速各支部を回って行きましょう。」

「…その前に…。」

 僕が出発しようとすると、支部長に引き留められた。あれ?木村さんと話が済んでいたのではないの?

「うちの戦士とちょっと戦ってみてくれないか?みんな四本ラインの戦士の実力を見てみたいと思うんだ。」

「あー、まぁいいですけど。僕もゲートの使い方でユーリに聞きたいことがありましたし。」

 承諾すると、僕はエレベーターで地下4階へ連れていかれる。東北支部にも本部と同じように演習場があった。建物の造りは基本的にどの支部も同じなのだろうか。演習場には5名ほどの戦士が並んでいた。

「「よろしくお願いします!」」

 支部長とユーリは少し離れたところに立っている。

「それでは、始めてくれ。」

 支部長の合図と共に、5人の戦士が一斉に僕に攻撃をしてくる。僕はそれを軽くかわして様子を見る。あの人は火属性。フクさんの弱い版だな。あの人は物理的な攻撃が得意みたいだな。あっちの人は離れたところから攻撃してきているけど、あれは銃か。なるほど、なかなか面白い。

「!」

 色々考えながら攻撃を躱していたが、突然頭上に黒い円が出現し、物理攻撃の戦士が出てきた。

「シロ、ストップ!」

 あたり一帯がストップする。

 なるほどね。ゲートはこうやって不意打ちに使えるのか。本人じゃなくても使うことができるんだな。魔法を転送したりもできるのだろうか。試しにやってみよう。

 頭上で僕を殴ろうとしている戦士から少し離れ、ストップを解除する。

「ゲート」

 僕は空中から落下しながらゲートでユーリの背後に移動する。

「ユーリ。」

 静かに背後から話しかける。

「ひやぁ!コ、コタローさん!」

「戦闘に参加しないような素振りだったのに『ゲート』使ったね。びっくりしたよ。でもおかけで使い方がわかった。ありがとう。」

 そう言うと、再びゲートで戦闘に戻る。攻撃をしようとしていた物理攻撃戦士は、僕がいなくなって拍子抜けした感じだ。

「ゲート」

 僕は各戦士の近くにゲートの出口を作成する。僕の目の前にも複数のゲートが作成された。そのゲートの黒い円は直径30センチほどの小さな黒い円だった。

 突如現れた黒い円に戦士たちは戸惑う。

「ファイアボール」

 僕の目の前にある5つの黒い円に、僕はそれぞれ火の魔法を打ち込んでみる。すると、戦士たちの前に現れた小さな黒い円から僕のファイアボールが放出される。

 魔法も転送できるのか。これは使える。

「おわっ!魔法が出てきた!」

 うんうん。戦士たちも驚いている。どの程度の強さの魔法が転送できるのだろう。威力を変えてやってみよう。

「ゲート」

 今度は巨大なゲートを一つ作った。とは言っても演習場だからこのくらいが限界か…。作り出されたゲートは5メートルほど。僕は巨大な火の球を作り出し、ゲート入口に向かって打ち出そうとした。

「コ、コタローさん!ちょっと待ってください!」

 ユーリに言われてハッと気づく。ゲートの先にいた戦士たちが逃げまどっている。そうか、さすがにやりすぎか。だけど、試してみたい。

「被害は出ないようにするから、ちょっと試させてほしい。」

 僕はそうユーリに告げると、もう一つ同じサイズのゲートを作った。

 二つのゲートの出口が向き合っている状態だ。僕の右手には先ほど作った巨大な火の球。そして、左手に新しく巨大な水の球を作った。両方同時にゲートの入口に投入する。

「えいっ。」

 巨大な火の球と巨大な水の球はゲートの入口を入り、向き合ったゲートの出口から出てきて、お互いを相殺する。

 ほほう。このくらいなら余裕で転送できるな。もっと大きいのも試してみたいが、この演習場では無理か。

「コタロー君、こっちに来てくれ。」

 支部長に言われて、みんなのところに集合する。

「いやぁ、全然歯が立たないというか、魔法が強力すぎでしょ。」

「四本ラインはみんなこんな感じなのか?」

「さっき、絶対不意打ちできたと思ったのだけど、どうやって避けたの?」

 質問攻めだな。でも僕の能力を安易に話すわけにもいかないので、適当にごまかしておこう。

「不意打ちにはびっくりしましたよ。まぁ、僕もゲート使えるようにしてもらったので、その応用ですかね。四本ラインのみんなの実力はこんなものではないですよ。」

 おお。みんな驚いている。でも実際攻撃力に関してはフクさん、ラクさんにはかなわないし、連携で言えば紗奈さんと銀次さんには敵わない。

「そろそろユーリを連れて出発しても良いでしょうか?」

「みんな、どうだ?」

「四本ラインの方が強いのはわかりました!是非また今度お手合わせ願います。」

 まだまだ戦闘し足りないと言われたら面倒だなと思ったけど、解放してくれそうだ。ゲートを試させてもらっただけで、使った魔法は火と水だけなんだけどね。それで納得してもらえたならよかった。

「それでは、行ってきます。」

 僕とユーリは私服に着替え、東北支部を出発する。まずは、最北の支部、北海道支部へ向かおうと思う。僕は空を飛んで行ってもいいのだけど…。

「ユーリは空飛べるのか?」

「いいえ、私は浮力と重力がうまく使えなくて飛べないのです。ですから、戦闘時も地上から皆さんのアシストをさせてもらっています。」

「……高い所は苦手?」

「木登りくらいなら小さいころやりましたが、そんな高い所に行ったことがないので、よくわかりません。」

「じゃあ、ちょっと行ってみようか。」

 僕はふと空を見上げる。どのくらい上まで行けば人から見られないだろうか。

「ゲート」

 近くに誰もいないことを確認し、ゲートを開く。

「シロ、クロ、ファー、行くぞ。」

 そう言うと、3人は黒い円の中へ入っていく。僕はユーリの手を取り、黒い円の中へ連れて行く。

 ここは、大体地上800メートルくらいかな。スカイツリーよりも少し高いくらいをイメージしてみた。

 浮力の属性は自分以外には使えないため、物や人を浮かせることはできない。そのため、ユーリは僕の腕からぶら下がっている。

「ひやぁぁ、何ですかここは!」

「ちょっと高すぎたか?このくらいなら地上から見えないと思ったのだけど。」

「コタローさん、落ちる、落ちる。」

 ユーリは必死に僕の腕につかまっている。

「大丈夫だよ、落ちても拾うよ?」

 シロが宙に浮きながらやさしく話しかける。うちの精霊たちは自由に空を飛んでいる。精霊は属性云々の前に普通に空飛べるんだよな。

「ゲート、便利だな。」

 クロも宙に浮いたまま腕を組み地上を眺めている。ファーはその辺をウロウロと飛んでいる。

「あ、あの…、できれば飛ぶのではなく公共交通機関を使って行きたいのですが…」

 そうか?飛んでいけばすぐなのに。まあ、一気に目的地に行くだけではなく、色々なところを巡れば、それだけゲートで行ける場所も増えるか。

「わかった。じゃあとりあえず仙台空港まで行かせてくれ。」

 僕はそう言うと、ユーリを引っ張って仙台空港まで飛んだ。


「ふえぇぇぇ。怖かった。」

 ユーリは途中気を失いそうになっていたが、無事に仙台空港に到着した。

「航空券はもう買ったから、出発まで少し休憩しよう。」

 北海道の新千歳空港まで飛行機で行く。さっきまで空を飛んでいたのに、今度は飛行機で空を飛ぶとか、面倒に感じてならない。魔法を使い始めてからどんどん魔力が増えていくのを感じる。リミッターを外さなくてもそれなりの魔法は使えるし、これだけ飛んでもゲートを使っても、ましてやシロ、クロ、ファーを人型で出し続けていても疲れを感じなくなった。ネセロスが少しずつまた力を取り戻しているのかもしれない。


 ピコンッ


 メールが入った。

『コタロー君、今どこにいる?部屋のピンポン押しても出ないじゃん。大丈夫?生きてる?』

 フクさんからだった。僕が支部巡りをしていることをみんなは知らないはずだ。

「ユーリ、ちょっと休んでて。すぐ戻る。クロ、一緒に来て。」

 僕は急いでトイレに向かう。誰もいないことを確認し、クロと一緒にトイレの個室に入る。

「クロ、ちょっとここで待っていてくれ。すぐ戻る。『ゲート』」


 ガチャ

 玄関のドアを開ける。

「フクさん、音楽聞きながら寝ていたから気付きませんでした。何か用事でしょうか?」

「あれ、寝てたのね。起こしてごめんね。今日会議あるらしいから、会議のあとラクの部屋で一緒に夕飯どうかなと思って、誘いに来た。」

「そうなんですね。木村さん何も言ってなかったな。連絡するように言ってあったのにメールも来ていない。わかりました。会議には出席します。夕飯は精霊たちも連れて行きますね。」

「え?あ、じゃあ大量に作るようにラクに言っておくよ。」

「よろしくお願いします。じゃあ、もう少し休むんで。」

 そう言って、僕は部屋のドアを閉めた。


「ゲート」

 仙台空港のトイレの個室に戻る。トイレの個室とかいちいち覚えていられないから、クロの元へゲートを開いた。

「おかえり、コタロー。どこ行って来たんだ?」

「ちょっと部屋に戻った。フクさんが来ていたんだ。助かったよ、クロ。」

 精霊って、ある程度僕から離れたら消えるのかと思ったけど大丈夫だったな。それも魔力が強くなったおかげなのだろうか。しかしトイレの個室でクロと二人とか、狭いし怪しいにもほどがある。早く出てユーリたちと合流しよう。


 ユーリたちの元へ行くと、ユーリはファーに言葉遣いを教えていた。ユーリのことはほとんど知らないが、立ち振る舞いや言葉遣いを考えると、なかなかお嬢様育ちの感じがする。

「さて、そろそろ時間だ。搭乗口に向かおう。」

 僕らは飛行機に乗り北海道へ向かう。その間、ファーはユーリから言葉遣いを学び、シロは機内食を楽しみ、クロは本を読んでいる。こういうゆったりとした時間を過ごすことになるなんて思ってもみなかった。家族旅行なんてしたことなかったし、仕事以外で飛行機に乗ることもなかったから、とても新鮮だ。「飛行機なんて面倒だ」と思ったけど、乗ってよかったかもしれない。周りの様子を見てホッとしたのか、僕は静かに眠りについていた。


「……コタロー……」

 深い眠りの中で声が聞こえる。ああ、この声、この威圧感、覚えがある。

「ネセロス?」

「コタロー、ロザを見張れ。」

「ロザは埋めただろ?今は東北支部が監視をしているし、そんなに早くは復活できないってネセロスも言っていたじゃないか。」

「ロザの力が強くなっているのを感じた。誰かがロザを出そうとしているのかもしれない。」

「……わかった。どこに敵がいるのかわからないからな。僕のほうでもロザを見張るようにするよ。」

「……」

「ネセロス?ほかにも聞きたいことがあるんだ。」

「……」


「コタロー!着いたよ。」

 シロが起こしてくれた時には、もう飛行機は新千歳空港に到着していた。着陸の時に揺れていただろうに全然気づかなかった。ネセロスには闇属性についても聞いておきたかったが、まだそこまで力が復活していないのだろう。スパイがいることはわかっている。そいつがもしかしたらロザの復活を手助けしているのかもしれない。ネセロスの言っていた通りしばらくロザを監視することにしよう。幸い「ゲート」ですぐに見に行くことができる。

「コタロー?大丈夫?」

 考え込んでいた僕にシロが話しかけてくる。

「ああ、大丈夫だ。北海道支部へ向かおう。」

 僕は、飛行機を降りると、木村さんのメモを取り出して北海道支部へ連絡を入れた。


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