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『ウェポンマスター』プレーヤー

 今生きている人間がアニメやゲームのように魔法が使えたり、空を飛んだり、チートな強さで魔物に立ち向かったりすることはまずありえないが、人はそういった他の人とは違う異色の能力に憧れているのだろう。だからそういったアニメや小説が流行ったり、ゲームで自分がプレイするキャラクターを強くしたりしているのだ。いつの時代だってアニメでは強い主人公が悪い奴らをやっつけていく。昔は主人公も敵も同じくらいの強さで、悪戦苦闘してようやく倒していたようだが、今や主人公はありえないほどの強さを誇り、強い敵が出てもボコボコに倒す姿を我々は楽しんでいる。僕もそういったものにあこがれを持った一人だが、僕の場合は、まず他人に興味がない。人間は本当につまらないと思う。つまらないことで怒って、つまらないことで泣いて、毎日つまらない事件が起きている。他人がどうなろうと僕には関係ない。ゲームの世界の方がよっぽど楽しい。だから、ゲームに関わる仕事がしたいと思い制作会社に就職した。大変なのはわかっていたが、そういった仕事に関わってみたかった。ところがどうだ。いざ制作側に加わってみると、毎日毎日プレーヤーからのクレームの嵐。毎月同じタイプのイベントを繰り返し、武器や防具は今までに出た物を使いまわし、色を変えるだけ。頑張っても少しデザインを変えるだけ。お金をかけてガチャを回しても欲しいのが出ない。そりゃあそうですよ。それで儲けていますから。で、クレームの嵐。制作側でも思いますよ。こんなゲームに金かけちゃいけないって。ゲームの製作会社に勤めても結局相手にしているのは人間だった。

 同じ会社で出しているゲームでも、昨年リリースされたゲーム『ウエポンマスター』はあっという間に1000万人を超える大人気っぷりだ。みんなそちらのゲームに流れ、僕の関わるゲームはもう閉鎖の方向へと向かっている。僕もそっちのゲームの製作に加わりたかった。同じ社内でも違うプロジェクトでは、作業場所も作業メンバーも公開されていない。あちらのプロジェクトはさぞかし賑わっているのだろう。そんな流行りのゲームを僕はまだプレイしていない。時間ができたらぜひやってみたいものだ。本当は制作側に加わってみたかったが、プレーヤー側でも悪くない。そして、僕はクレーム対応のプロフェッショナルになるためにプログラマーになったわけではない。星が流れたあの日、僕は精神的に疲れ果て、本格的に転職を考えていた。

 翌日、僕は上司に呼ばれた。どんな用事か知らないが、僕も退職について相談しようと思っていたところだ。ちょうど良い。思っていることをぶつけて辞めてやろう。その意気込みで上司のもとへ行ったのだが、

「君ね、今日から『ウエポンマスター』の方に加わってくれる?」

「は?」

 荷物をまとめ、言われた部屋へ向かう。びっくりしたあまり何も言えずに荷物をまとめてしまった。今流行りのゲームだぞ。どんな大規模なプロジェクトなのかドキドキしながら部屋に向かい、ドアをノックした。

「どうぞ」

 部屋に入ると、そこにいたのは一人だけ。部屋のほとんどが機材で埋め尽くされていた。

「やあ、いらっしゃい。…君、何かしでかしたの?」

 これから上司となるだろうその人は、いきなり不思議な質問をした。

「すみません。部屋を間違えたようです。」

 僕は部屋を出ていこうとした。

「いやいや、間違ってないよ。ここが『ウエポンマスター』に与えられた部屋だよ。」

 そうは言っても、人は入れて二人が限界の狭い部屋だ。ここでそんな大きなゲームのプロジェクトが進められるわけがない。僕はぽかんと口を開けたまま、機材をぐるりと眺めた。

「このプロジェクト来てもらっても、特にやることないんだよね。ログの監視くらい?だから、『何かしでかしたの?』って聞いてみたんだけど。いわゆる島流し的な?…いや冗談だよ?やることないのは事実だけど。」

 なぜ?今や1000万人を超えるプレーヤーを抱える大規模ゲームですよ。なぜやることがない?

 僕は何も言えないまま、荷物も持ったまま立ち尽くしていた。

「君、名前は?自己紹介くらいできる?」

「あ、すみません。橋崎虎太郎です。」

「俺は木村ね。木村琉之介よろしく。」

「よろしくお願いします。…僕は何をすればよいのでしょうか。」

「そうね。虎太郎君、このゲームやったことある?」

「すみません、やってみたかったのですが時間が無くて…」

「じゃあ、概要を教えてあげよう。この『ウエポンマスター』で一番売りにしているのは武器のカスタマイズだ。簡単に言うと武器に属性を与えて敵を倒すゲームなんだけど、属性はゲームを始めたときにプレーヤーに自動で与えられる。属性は選べないし変えられないが、敵にも属性があるから倒せない敵が出てくる。そのため、他の属性の人たちとパーティを組んで敵を倒すんだ。必ず自分が活躍しなくてはならない場面が出てくる。パーティメンバーを頼らなければならないし、自分も頼られることで、ゲーム内での存在価値を見出し、自分も強くしなければならないと思うんだ。」

「なるほど。自分を必要としている人がいると頑張りますよね。そうすると課金する人も増えていきますね。」

「それがだな、このゲームには課金する要素が何もないんだ。そこがまた人気の理由。自分のレベルと武器の強さがプレーヤーの強さになるんだが、ボスを倒すことでアイテムやコインが手に入る。良いものを作るにはレアなアイテムを必要とするし、店で買うにも値段が高いが、手が届かないことはない。やり込めばやり込むほど強い武器や防具が作れて強くなれるんだ。そして、人と同じ武器は絶対に作れない。完全に自分だけのオリジナル武器ができるんだ。」

「僕は時間がとれなくて始められませんでしたが、うわさに聞いていた通り面白そうですね。戦闘のタイミングで必要な属性のメンバーが集まらなかった時にはボスは倒せないのではないですか?」

「そういう場合には助っ人として臨時メンバーが加わる仕組みになっている。NPCノンプレイキャラクターが加わるんだ。パーティ内の人たちと同レベルのキャラをコンピューターが適当に見繕って参加させてくれる。君も始めて見るといいよ。制作側の人間として、他のプレーヤーがどんな風に活動しているのかも観察してもらいたいしね。ほら、早速やってみて。」

 業務時間内だが、勧められるままゲームを開始してみる。

『ようこそ、ウェポンマスターの世界へ。あなたの名前を教えてください』

(ニックネームか。面倒だから名前でいいか。)

『コタロー』

『コタローさんこんにちは。あなたの主な活動時間を教えてください。』

『22時~24時』

『それでは、あなたに合う精霊を呼んでまいります。それがあなたの属性になります。』

 画面を見ていると、しばらくして二つの精霊がやってきた。

『あなたの属性は『時』です』

「あれ、二つ精霊が来たのに属性は一つか。なかなかレアな感じだな。」

「これはレアなんですか?『時』って何ですか?属性って火とか水とかではなくて?」

「そうだな、普通はそういう属性だな。たまにあるんだよ。精霊は2種類来るけど属性は一つってパターン。『時』属性か…。なるほどね…。」

『それでは、パーティを組みます。』

「パーティも勝手に組まれるんですか?」

「そうそう。登録した時間帯に属性が異なるようにこちらで勝手に組んでしまうんだ。そのほうが便利だろ。」

「そうですけど…良い人と当たるかは運ってことですよね?」

「まぁ、大丈夫だろ」

『コタローさんはA0000001番パーティに所属されました』

「これまたすごいところに入ったな。これ最初に作成されたパーティだぞ。このゲームのトッププレーヤーのところだ。ゼロを抜かして、『エーワン』って言われているよ。周りからも一目置かれている強さを誇るパーティだ。」

「えぇ?たった今始めたばかりなのに、なんでそんなところに配属されるんですか。大丈夫ですか?このシステム。アカウント変えてやり直したほうが良いですか?」

「いや、やり直しても同じ結果になる。属性もパーティ組むのも全部AIがやってるから。」

「AI?」

「そうそう。『ウェポンマスター』の運営はすべて一つのAIが行っているんだ。プレーヤーの管理もイベントも、クレーム処理でさえもAIが行ってくれる。だから俺はやることがないわけ。属性とパーティに関しては何度やり直しても同じ結果になる。まぁ、今日の22時からパーティボス戦に参加してみなさい。みんなが色々教えてくれるでしょ。今日はやることないから、そのままゲーム進めていていいよ。」

 そういって木村さんはマンガ本を読み始めた。僕は言われるがままゲームをプレイしていた。このゲームを把握するのも仕事の一環だ。…と思いながら、ずっとやりたかったゲームを仕事中にプレイするのを楽しんでいた。自分のキャラは自由に決められた。性別も髪型も顔もオリジナルを作れたので、パーティボス戦が始まる前にそれとなく自分のキャラを作成しておいた。武器のカスタマイズは、まだできないので、初期装備のままだった。

 パーティは、火属性・風属性・電気属性・毒属性、あと属性のわからない人が一人いて、全部で5人だった。僕が加わって6人のパーティとなる。ゲームの属性の種類を考えるとパーティメンバーの属性は全然足らない気がする。ここに僕が加わっても意味の分からない『時』属性だし、なぜここに配属されたのかわからない。不足した属性の分はNPCが加わるのだろうか。そして僕は一体どんな魔法を使えるのだろう。直接敵をボコボコにするタイプの属性ではないのはなんとなくわかった。そして、このトッププレーヤーのパーティにおける自分の属性の必要性がいまいち見出せない。とりあえず22時には顔合わせをしないといけないので、定時に仕事を切り上げ、夕飯、お風呂など全て済ませて初めてのボス戦に挑むことにした。

 22時。メンバーが集まり始める。4人ほどメンバーが集まってきた。

『おや、新メンバーだね。初めまして。紗奈です。これから運命を共にする大事なメンバーだ。』

 まず現れたのは女性っぽかった。「さな」って読むのかな。キャラも女性設定になっている。この人は毒属性の人だ。運命?ずいぶん大事になっているな。僕のレベルは1ですぞ。

『本当だ。初めまして。福坊です。火属性です。おっさんです。フクって呼んでね。』

 自らおっさんと言っていたので、そう信じてみる。火属性のおっさん。

『おそくなりました。初めまして。楽坊です。福坊の親戚です。おっさんです。ラクでいいからね。』

 こちらもおっさんと言っている。風属性のおっさん。あとの二人は挨拶してこないけど、ここは僕から挨拶すべきだったな。

『はじめまして。まだ始めたばかりで右も左もわかりませんが、よろしくお願いします。』っと。

『団長とあと一人、銀次ってメンバーがいるけど、無口だから気にしないでね。団長は忙しいからなかなか来られないんだ。(紗奈)』

『しばらくは練習がてら見ているだけでいいからね。(フク)』

『強い武器を手に入れるまではボスのレベルも高いから、報酬だけ受け取って武器のカスタマイズに専念するといいよ。(ラク)』

 なんて良い人達なんだ。これがトッププレーヤーの余裕ってやつか。他の二人がどうなのかわからないけど、この三人は当たりだったようだ。

『お言葉に甘えて、今日は戦いの様子を見させていただきます。』

『今日は団長は来ないみたいだな。じゃあ、早速ボス戦行ってみようか。』

 そう言って始まったボス戦は、さすがトッププレーヤー。レベル100から始まった。何度も言いますが、僕まだレベル1です。ボスは、1体しかいないが、ある程度ダメージを与えると属性が変化するようだ。最初は水属性で、火属性のフクさんが戦う。火って水に弱いんじゃないの?と思ったが、火属性を纏った斧は水属性のボスに強烈な一撃を与える。すると、敵の属性が水から土に変わった。次はラクさんの出番だった。ラクさんの武器は剣だ。風を纏った剣は見事に装飾され美しい武器に仕上がっていた。「あれで敵を切るのはもったいないなぁ」なんて考えていたら、ラクさんは持っていた武器を鞘に収め、ボスに一発パンチを食らわせた。

「パンチ…武器使わないんだな。きれいだもんね。」現実世界でつい口に出てしまった。

 それでも、パンチ一発で次の属性に切り替わった。次の属性は金属だ。ボスはメタリックになり、物理攻撃が効かなくなった。金属に強いのは雷系だが、このパーティだと電気属性の無口なメンバー…銀次さんが戦うのかな。銀次さんの武器は弓だった。電気を纏わせた矢を打つと、これまた一撃でボスは属性を変化させた。ここまでボスからの攻撃は一切なかったため、見ているだけの僕は全くダメージを受けなかった。次の属性は毒だった。これは近くにいるだけでダメージを受けそうだ。僕は後衛で隠れるようにしていた。毒属性に対抗できるのは紗奈さん?でも紗奈さんも毒属性だけど…と思っていたら、紗奈さんは、毒属性の敵に対し回復魔法をかけ、あっという間に倒してしまった。紗奈さんは毒も回復も使えるようだった。初日、見ていただけの僕はレベルが24まで上がった。レベルが20に上がった時に、僕は「ストップ」が使えるようになった。試してみなくてもわかる。ストップするだけだよね。やはり攻撃魔法ではなかった。そして、何もしていないのにアイテムとコインもたくさんもらった。

 今日のボス戦はここまでで、『じゃあまた明日』と言って解散した。あっさり終わってしまってほとんど操作していないが、トッププレーヤーのすごさを目の当たりにしてなかなか面白かった。このゲームは、『ウェポンマスター』と言うタイトル名だけあって、魔法というよりは武器に属性を与えて技を出すという感じになっていた。魔法を出すには武器が必要で、武器が強くなれば技=魔法も強くなる仕組みだ。武器を強くして出す魔法「ストップ」には一体何の意味があるのだろう。僕はパーティの役に立てる気が全くしなかった。

 次の日、職場に行くと木村さんは『ウェポンマスター』のプログラムを見せてくれた。もちろん現在進行中のプログラムをいじるわけにいかないのでコピーだが、中身をきちんと理解しておくようにと言って、木村さんは帰ってしまった。もともと今日はお休みだったようで、僕に説明するためだけに来てくれたようだった。昨日のパーティボス戦の報告と、木村さんも『ウェポンマスター』をプレイしているのか聞きたかったのだが、そんな間もなくさっさと帰ってしまった。僕は狭い機材だらけの部屋でプログラムを理解しようと努力していた。なかなか難しい仕組みになっている。特にAIの部分は、現在の最新AIよりもはるかに優れているものだった。誰がどのように作ったのかとても気になるところだったが、今の僕の頭脳では理解しがたく、午前中だけで頭が非常に疲れた。

「ふわぁ、疲れたなぁ。」

 伸びをしたその時だった。

『お疲れですか?』

 女性の声だった。誰もいないはずの部屋なのに誰かに話しかけられた。

「?誰かいるんですか?」

『私はずっとここにいますよ。』

 声が聞こえてきたのはモニターからだった。話しかけてきたのは『ウェポンマスター』のAIだ。僕が思っていたよりもずっと自我があり、普通に人に話しかけられたみたいだった。

「驚いた。君はずいぶん高性能に作られているんだね。」

『そうですね。私がどのように作られているのか良く見て解析してください。あなたは私を理解する必要があります。』

「もうすでにこんなに高性能なのだから、これ以上やることはないでしょ。なんで解析しなくてはいけないの?」

『あなたが私を作る必要があるからです。』

「言っている意味がわからないんだけど。」

『もうすぐ世の中が変化します。その時にわかります。それでは頑張って。』

 そういってAIはもう話をしなくなった。僕は理解できないまま、またプログラムとにらめっこをしていた。

 それから、3か月ほど職場ではプログラムとにらめっこ、22時からはパーティボス戦に参加する日々が続いた。トッププレーヤーの皆さんのおかげで何もしていないのにレベルは90まで上がり、武器もかなり強く仕上がってきた。しかしながら、いまだに僕の属性が何の役に立つのかわからない。対抗する属性が無いとき(その時はNPCが来ると思っていたのだが来なかった)に唯一の魔法「ストップ」をかけて紗奈さんの毒で倒す場面があったが、役に立ったのはそれだけだった。それも、おそらく僕に魔法を使わせてくれただけで、このメンバーならゴリ押しで倒せたに違いない。そして3か月経った今も銀次さんは話をしてくれないし団長も現れない。

 そんな毎日が続いていた時だった。世の中でおかしな現象が起こり始めた。

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