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暗闇からの脱出

 ここは…?

 あたり一面真っ暗だった。確か僕は屋上で星を見ていたんだ。シュウ君が部屋に戻って、ユキが来て、一緒に星を見ていたら急に眠気が…。


「コタロー。」

「ああ、ユキ。ここは…?僕たちは一体…?」

「おそらく何かしらの攻撃を受けている。急に眠くなったのは、眠らされたんだと思う。」

 エーワンメンバーの属性しか持たない僕と違って、ほとんどの属性を持つユキを眠らせる攻撃っていったい何なんだ。

「ということは、僕たちは屋上で寝ている状態なんだな。」

「たぶんね。ザクスの攻撃か、臣下の一人か。おそらく私が持たない属性の攻撃だ。まずいな。」

 ここは、ネセロスの意識が表に出ていた時に僕がいた意識の底に似ている。

「現実の体が眠っている状態だとしたら、僕らは何で同じ空間にいるんだ?今話をしているユキも僕の意識が作り出しているのか?」

「いや、私は私だ。私の意識の中にもコタローがいる。おそらく、そういう魔法なんだろう。近くにいる人が同じ作用を受ける、みたいな。」

「なるほど。僕たちは紗奈さんの属性を持っているから毒は解毒できるよね。でも意識が戻らないということは毒でもないのか。」

 属性はわからないが、とにかくここから意識を戻さないことには何もわからない。それどころか、今現実のボディを攻撃されてはあっという間にやられてしまう。

「ねぇ、コタロー。」

 ユキは何か考えていた。

「何?何か抜け出す方法ある?」

「朝起きて支度をするんだけど、実はその朝の支度自体が夢で、また目が覚めて『なんだ、せっかく準備したのに夢だったのか』って時ない?」

「えっ、今なぜその話を?僕はあまりそういう夢は見ないけれど。」

「それでね、また夢から覚めて朝の支度をするんだけど、それもまた夢なの。ずっとループするの。」

 だから、何が言いたいんだ?

「そういう時って、そのループからどうやって抜け出すと思う?」

「うーん。僕は、朝は目覚まし時計で起きているけど。そういう夢って目覚まし時計が鳴るのも夢なのか?」

「ううん。そう、目覚ましとか、誰かに起こされたりすると、やっと目が覚めるの。」

 なるほど。何かしら外部からのアクションがないとずっとループするってことだな。

「つまり、僕たちがここから出ようと思ったところで出られない。外から誰かが起こしてくれることが起きるきっかけになるということだな。」

「そうかもしれない。ここで暴れてもたぶん出られない。ただ、屋上にいる私たちを誰か起こしに来てくれるのか…?誰かが来る前に敵が来たら、確実に終わる。私とコタローが同時にやられてしまうと、もうやり直すことができない。」

「つまり、現実の僕たちは無防備で寝ている状態で、ここでは今何もできることがない。誰かが来て起こしてくれることを祈ることしかできないのか…?」

「一応いろいろ試してみるけど…。意識の中で魔法を使っても実際に使ったことにはならないからね。」


 非常にまずい状態だな。


 ん?あいつらはどうなっているんだ?

(シロ、クロ、ファー?)

 呼びかけてみるが返事はない。意識下では呼べないのか?ネセロスの時はいたけどな。

「なあ、ユキ。シロたちが俺たちを起こしに来たりはしないかな?」

「今回は、普通に眠っているわけではないから、具現化が解けていると思う。」

 ダメか。このまま誰かが来る可能性にかけるしかないのか。


 ドン!


「!なんだ?」

 突然大きい音がした。意識の中だけど外の影響は受けるのか。僕たち攻撃されている?でも痛みは感じない。ダメージも受けている感じもしないし、意識もはっきりしている。


「まずいね。物理的にも何か攻撃を受け始めているかもしれない。私たちがこんな状態だから、対応できるメンバーが残っているかどうか…。コタロー、魔法使えないよね。私は使えないんだけど…。」

 魔法陣を意識してみる。現れない。武器も具現化できない。やはり僕も使えないみたいだ。

「ダメか…。」

 僕が魔法を使おうとして何もできないのを見ると、ユキは難しい顔をしていたが、僕の顔をちらっと見ると、なぜかにっこり笑った。

「ユキ、どうした?何かいい案でも浮かんだか?」

「いや、何もできないなと思って。」

 開き直ったか。何か手を考えなくては…。

「…コタロー、実は話しておかなければならないことがあるんだ。」

 何?今この場で話すことなの?

「私の魔法は、回を重ねるごとに弱くなっている。」

「え?」

「やり直す度にみんなに属性を分け与えているからか、少しずつ力が弱くなっているみたいなんだ。」

 …そう、だよな。僕の魔法はいわゆる「コピー」で、コピー元の魔法が減るわけではない。だけど、ユキは与え続けている訳だから、減ってもおかしくない。前に、ユキの属性データをコピーしたときすごい量だったけど、それでも減ってきている状態なのか。

「そうは言っても、僕らに比べればまだまだ力はあるんだろ?」

「…もうみんなに頼らないと、ザクスは倒せない。私は期待されるほど活躍できないよ。」

「そうなのか?でもこの前属性データをメモリしたとき、かなりしんどかったよ?」

「まあ、種類は多いからね。その分特化した強さはないんだよ。」

「アンノウンの時も、僕を守ってくれたじゃないか」

「そうだね。でも、私ボロボロになっていたでしょ?前は、あのくらいなら防ぐことができたんだ。」

 ユキが期待以上に戦えないとなると、ユキの力を借りなくても、僕らだけで何とかできるレベルにしないといけないということか?模擬戦したとき、すごく楽しそうだったけどな。

「でね、今回初めてコタローが覚醒してネセロスが出てきたんだけど、その時の話でザクスが私の体を乗っ取ろうとしてのを、ネセロスから属性を得ることで、乗っ取られないよう守られているって言っていたよね。」

 確かに、ネセロスが持っていた属性をユキに預けることでネセロスは自分の力を取り戻すのに専念して、かつ属性を手にしたユキはザクスから守られていると言っていた。ユキの力が弱くなっていくと、どうなるんだ?ザクスはまだユキの体を奪おうとしているのか?

「なぁ、ユキ。ザクスがユキを乗っ取ろうとしているのとかって、何か…気配とか感じるのか?」

「いや、感じない。それが、単に感じないだけなのか、感じることができないのかはわからない。だから、コタロー。もし私がザクスに…もごっ。」

 僕は急いでユキの口をふさいだ。

「コタロー…なにを…」

「ユキ!今何か聞こえなかったか?」

 暗闇の中、僕たちだけしかいないと思っていた空間に、僕らではない声が聞こえた気がした。この空間にまだ他に人がいるのか、それとも、誰か来てくれて僕らを起こそうとしているのか。


(……くん……)


「…ほら!」

「え?」


(…コ…くん…ユ…)


 かすかだけど誰かが読んでいる気がする!これは誰か来たんじゃないか?


 その時、暗闇の中に一筋の明かりが差した。そこから、暗闇はひび割れはじめ、あたり一帯まぶしい光に包まれ僕は目を閉じた。

 次に目を開けた時には、心配そうにのぞき込んでいるシュウ君の姿があった。


「…シュウ君?」

(あぁ、よかった!コタロー君起きないかと思った。)

 ユキもゆっくりと目を開け、現実に戻ってきたことを確認すると、飛び起きた。

「シュウ君!ありがとう!で、どんな状況?」

(変な人が現れて、フクさんとラクさんはどっか飛んで行っちゃって、銀次さんもおかしな感じになっていて、紗奈さんが一人で戦っている)

 十一歳にして、簡潔なこの説明。大体わかった。

「シロ、クロ、ファー。出てこられるか?」

 僕がそういうと、3匹とも現れた。服は寝床に置いてきてしまったので、とりあえず動物の姿だ。

「コタロー!何が起きてる?」

 シロとファーは寝ていたはずなのに屋上に呼び出され驚いているが、クロは冷静だ。

「とてもまずい状況だ。僕とユキが眠らされている間に紗奈さんが戦っている。すぐに助けに行かないと。」

 僕は、ブレスレットで紗奈さんの魔力を確認した。もうほとんど残っていない。これでは動くこともままならないはずだ。

「ユキ、大丈夫か?」

「うん。大丈夫。すぐに紗奈を助けに行かないと。」

「僕がストップをかけて紗奈さんを助けに行くから、ストップが解除されたらユキはフクさんとラクさんを止めに行って。この幻術がどのくらいの範囲まで及んでいるかわからないけど、近くにいないってことは今でも影響を受けているってことだ。シュウ君は、紗奈さんを迎えに来てくれるかい?もう戦えないだろうから、回収してどこか安全なところにいてほしい。」

「「わかった。」」

「で、銀次さんは…」

 銀次さんのほうを見ると、どうも混乱しているようで反応が悪い。

(銀次さん、なんかいつもとちがうキャラになっちゃって、なんか混乱しているみたいだし、危ないから紗奈さんに言われてここまでつれてきたんだ。)

「そうか。できれば安全なところにいてほしいけど。」

(僕が一緒にいるよ。紗奈さんと銀次さん連れてどこかに隠れているから。)

「わかった。ありがとう、シュウ君。」

 力持ちのシュウ君が無事でいてくれて助かった。僕は、武器を具現化させて魔法が使えることを確認すると、紗奈さんにもわかるように、あたり一帯に魔法陣を展開した。それをゆっくり地面まで降ろし唱えた。

「ストップ」

 僕は急いで紗奈さんのところへ向かった。

 紗奈さんは肩に小剣を刺され倒れていた。その近くに、何やら人型っぽいドロドロしたものが横たわっている。これが敵か。とりあえず紗奈さんを助けなくては。小剣を抜いて僕は唱えた。「リバース」

 紗奈さんの肩の傷が治っていく。生きていなければ傷は治らない。生きていてくれてよかった。


 さて、このドロドロ生物をどうするか…。やっぱりザクスの臣下なのか?

「シロ、クロ、ファー。始めよう。」


「リスタート!」


 紗奈さんは倒れたまま、ドロドロしたものは人の形へと姿を変え、金髪の細身の男性の形になった。すごいな。服まで再生されるのか。


「あれ?君は誰かな?あ、屋上にいた子だね。屋上にいた二人は面倒そうだから眠らせておいたのに起きちゃったのか。この植物の人は弱かったけど、君はちょっと面倒そうだ。」

 金髪の男性はヘラヘラしながら話をしている。あんな姿だったのに、何もなかったかのようだ。

「さっきまでドロドロの姿だったのに、それでも弱いと言うのか?」

「だってぇ。体に植物を生やしたくらいで、僕を倒せると思っている時点でおかしいでしょ。もう倒れちゃったし。頑張ってもこの程度なんだよ。雑魚雑魚。」


 なんだろう。胸の奥のほうがぎゅってなっている。手に力が入る。

 そうか、僕は怒っているんだな。今まで怒ることすら諦めていたから気づくのに時間がかかってしまった。


 僕は怒っている。紗奈さんをバカにされて怒っているんだ。

「ああ、コタロー君。来てくれてありがとう。」

「紗奈さん!肩の傷は治しておいたよ。まだ痛いのは感じるかもしれないけど、治っているからね。」

「ありがとう。そいつ、逃げるほうに現れる。たぶん、瞬間的に幻術使って、俺らの意識を惑わしている。気を付けて。…あとは、任せたよ。」

 そう言うと、紗奈さんは意識を失ってしまった。

(コタロー君!)

 シュウ君、ナイスタイミング。銀次さんを肩に担ぎながら、シュウ君が来てくれた。

「紗奈さんを連れて行ってくれるかい?」

(わかった。コタロー君、気を付けてね。)


 シュウ君が二人を両肩に担ぎ、この場から離れたのを見届けると、改めて金髪の青年と向き合った。奴はにやにやとこちらを見ている。僕らのやり取りの間も攻撃はできたはずなのに、こちらを観察しているだけだった。


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