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休暇

 僕は、病院で3日間寝込んだ後、すぐに退院して部屋に戻ったが、体の様子を見るためにもその後もしばらく休暇を取るよう言われていたので、部屋でゴロゴロして過ごしていた。部屋には、僕とシロ、クロ、ファーがくつろいでいる。彼らを具現化している間は体力が消耗されていくのだが、消えるよう言っても消えないし、もしかしたら僕も本当に消そうとはしていないのかもしれない。幸い、シロもクロもファーも小型動物の姿で、体力を吸われている感じがしないので、そのままにしている。

「なぁ、シロ。お前らって三つ子なんだろ?何でファーだけ幼い感じがするんだ?」

 ファーが人型になった時には小学生低学年くらいに見えた。しかし、シロとクロと話をしていても、子供と話をしている感じはしない。

「それは、ファーだけコタローの体に入ったのが遅かったからじゃない?」

「ああ、確か、2回目に雪華に会った時に受け取ったんだったな。ファーは人の姿になった時には、小学生低学年くらいか?シロとクロは、人で言うと何歳くらいになるんだ?」

「そうねえ。じゃあちょっと人型になってみようか?」

 そう言って、シロとクロは顔を見合わせ、猫の姿からウネウネと人型へと姿を変えていった。

「そんなこともできるようになったのか…。ってちょっと待て!」

 僕は急いでシロに背を向けた。

 シロとクロは、高校生くらいの人型になった。彼らは精霊であり、体の形を変えられても服は着ていない。

「クロは僕の服を着ればいいけど、シロはすぐに猫に戻りなさい。」

「え~。この姿ならコタローとカフェに行けると思って、テレビ見て人の形を一生懸命覚えたのに。ねえクロ。」

「カフェに猫は入れないからな。ちなみに、コタロー。俺も女の形になれるぞ。」

「いや、勘弁してくれ…。シロ、猫に戻るか男の形になりなさい。」

 ゴソゴソとクロは僕の服を着ている。なんだ?クロもカフェに行きたかったのか。シロは戻る気はないみたいだ。どうしたものか…。

 僕は、シロに背を向けたまま部屋を出た。そのまま、同じ階にある銀次さんの部屋を訪ねる。

 ピーンポーン

「あれ、コタロー君どうしたんですか?」

 銀次さんは部屋にいて、玄関のドアを開けてくれた。

「銀次さん、実はお願いがありまして…。洋服を貸してもらえませんか?」

「…えっ!何で?コタロー君、そういう趣味?」

「いやそうじゃなくて、できれば女性の服一式を持って僕の部屋に来てほしいんですけど…。」

「よくわからないけど、わかった。準備するからちょっと待ってね。」

 銀次さんは良い人だ。僕に深く質問することなく、洋服を一式用意してくれた。

「じゃあ、銀次さん。あとはお願いします。」

 そう言って銀次さんに僕の部屋に入ってもらい、支度が終わるまで外で待っていた。

 僕はクロのことを横目でちらっと見た。クロの人の姿は、すらっと細身で、髪は黒くて少し長めのショートカット。かなりイケメンだぞ。これは、街中歩いたら女子が騒ぎ出すレベルじゃないか。どこでこんなイケメン姿を覚えたんだ。


「コタロー君OKですよ。かわいく仕上がりました。」

 銀次さんはニコニコして上機嫌で玄関から顔を出した。

 部屋に入るとシロは服を着て、髪もセットしてもらっていた。シロの髪はロングできれいな白色だ。人型になってからまともに見ていなかったけど、なかなかかわいいな。

「銀次さんありがとう。助かりました。全然猫に戻る気が無いし、どうしようかと思いましたよ。」

「いえいえ。シロちゃん可愛いじゃないですか。コタロー君とカフェに行きたいって聞きましたよ。」

「そう言われました。連れて行かないと猫に戻る気ないよなぁ。ところで、銀次さんって僕と同い年くらいですか?」

「コタロー君おいくつでしたっけ?」

「僕は26歳です。」

「じゃあ1コ下ですかね。私は25歳です。」

「大学出て社会人ちょっとやっていた、くらいだと僕と同い年くらいかなって思っていました。」

「じゃあ、年齢近いってことで、敬語はやめましょうか。」

「そうだね。」

 今日は銀次さんと少し仲良くなれた気がする。

「おまえら、人型になったのは良いけど、耳隠せ。」

 シロとクロの髪からは、猫の時の耳がぴょこんと出ていた。


 翌日、僕は体調も悪くなかったのでシロとクロとファーを連れてカフェに行った。昨日のお礼も兼ねて銀次さんも誘ってみたが、今日は用事があるようで一緒には行けなかった。地上はまだ復旧作業中で瓦礫の山なので、一番近くのカフェでもすこし離れた場所になってしまった。昨日から人型になっているが、道中突然猫の姿に戻ってしまうのではないかと、ちょっと緊張していた。26歳の僕と、高校生くらいの男女、小学校低学年くらいの少女、一体僕らはどのような感じで見られているのだろうか。


「ねぇねぇ、君いまヒマ?寒いし、暖かいものでも飲まない?おごるよ?」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ、ねぇコタロー、あれって紗奈さんじゃない?」

 声のする方を見ると、チャラ男紗奈さんが女性に話しかけていた。

「シロ、お前紗奈さんの所に行って暖かいもの奢ってもらえよ。」

 冗談のつもりでそう言ったのだが、ちょっといたずらっぽく微笑み、シロは紗奈さんのところに行った。

「おにいさん、私で良ければお茶しますよ。」

「えっ?ウソ?ホント?めっちゃかわいいじゃん!じゃあ、そこのカフェ入ろう!」

 シロは紗奈さんに連れられカフェに入っていった。何するつもりだ、シロの奴。

 僕らも少し時間を空けて同じカフェに入った。

 バレないように少し離れた席に座って、僕らは飲み物を頼んだ。

 紗奈さんに連れられたシロの方を見ると…

 この店の全種類ではないかってくらいの量のスイーツが出されていた。紗奈さんは、目の前のスイーツとそれをおいしそうに食べるシロを見て、驚きの表情が隠せない。紗奈さんだけじゃない。近くの客も店員も唖然としている。あーあ、シロはあれがやりたかったのか。紗奈さんがいて良かった。あんなに注目されたら恥ずかしい。僕らは静かに飲み物を飲んだ。

 さすがに紗奈さんがかわいそうなので、シロが満足するまで食べたところでネタばらしをした。

「紗奈さん。」

「あれ、コタロー君?何でこんなところにいるの?お友達と一緒?」

「あー、これクロで、これがファー、そして…」

 僕は静かにシロを指差した。

「その子がシロ。紗奈さんがナンパしているのを見かけて、シロを派遣しました。複数の女性に手を出すと、また離れて行ってしまいますよ?」

「そのあたりも見ていたのね…話しかけてくれればいいのに。って言うか、みんな人型になれるんだ。」

「カフェに行きたかったそうで、自力で人型になりました。じゃあ僕らは部屋戻るので、お先に失礼します…。シロ、帰るぞ。」

「はーい。紗奈さん、ごちそうさまでした。」

 シロは、にっこり笑って猫耳を出しぴょこぴょこと動かした。出た!猫耳攻撃!案の定、紗奈さんは目をキラキラさせている。今のうちに早く帰るぞ。僕は、自分の伝票だけ持って店を出た

「…あれ、あれっ、コタロー君、ちょっと待って!」

 今日は、紗奈さんのプライベートな姿を垣間見た。紗奈さんがシロに手を出さないかよく見張っておかないと。

 帰りに、シロとクロとファーの洋服を買って帰った。着替えがないのはかわいそうだからな。今まで友達と買い物と行ったことがなかったから、4人で出かけるのはなかなか新鮮だった。クロの選ぶ服はやっぱり黒かったし、シロは服を買いすぎだ。どれだけ人型でいるつもりなのだろう。ファーはすぐに大きくなるだろうから、服のサイズも少し大きめのを買っておいた。ともあれ、人型でいられるのはさすがに疲れる。部屋に帰ったら動物型に戻ってもらった。今でも疑問に思う。ファーは何の動物なんだろう。


 その日の夜、僕はフクさんに呼ばれて部屋に行った。行った頃にはフクさんはすでにお酒を飲んでいて、出来上がっていた。

「コタロー君、よく来たねぇ。」

「フクさん、何かあったんですか?いつもこんなに飲むんですか?」

「久しぶりの休暇でしょ?たまにはいいじゃない。一緒に飲もうよ~。」

 あれ、休暇って僕だけじゃなかったんだ。

 ピーンポーン

 すぐにラクさんが来た。

「ちょっと、フク、コタロー君に迷惑でしょ。こんな酔っぱらって。ごめんね、コタロー君。フク酒癖悪いんだよ~。」

「おい!コタロー!うへへへへ~。」

「そんな、『おい、キタロー』のノリで呼ばないでください。小さいときそのネタでどれだけからかわれたと思っているんですか。」

「いいじゃない。コラロー君も飲みなよ~。」

 そう言われて、僕も少しずつ飲み始めた。ラクさんはキッチンでつまみを作っている。

「ラクさんは、料理が得意なんですか?」

「ああ、料理するのが好きなんだよね。」

「ラクはね、ギョウサが得意なんだよ。」

「餃子。それはおいしそうだ。」

「じゃあ作ってあげよう。」

 そう言って、一旦部屋に戻って材料を持ってきたラクさんは、僕たちに餃子を作ってくれた。

「ポイントはね、コチュジャンだよ。あと、焼くときに水をたっぷり入れるんだ。水に片栗粉を混ぜておくと、羽根ができておいしいんだよ。」

 ラクさんの作る餃子はおいしかった。それを食べたそうにじっと見ていたシロが今にも人型になりそうだったので、僕は一旦部屋に戻った。


「フク、ちょっと飲みすぎじゃない?何かあった時に出動できなくなるよ。」

「…だって、コタロー君、まだちょっと壁があるというか、もっと仲良くなりたいじゃない。」

「そうだけどさ。」

 ピーンポーン

 シロとクロに服を着せて、僕たちはフクさんの部屋に戻った。

「むむっ。コタロー君、ダメじゃない。関係者以外は立ち入り禁止だよ!。でも、おじさん、コタロー君がお友達連れてくるなんて嬉しいよ。」

「えーっと、シロとクロです。」

「えっ!」

「精霊ってそんな人型にもなれるんだ。」

「そうみたいです。ラクさんの餃子が食べたいそうです。」

 シロとクロはおいしそうに餃子を食べている。精霊も味がわかるんだな。

「いやぁ、おいしそうに食べてくれて嬉しいよ。」

 人型にならなかったファーが眠そうにしていた。このまま放っておくとシロはフクさんちの冷蔵庫の中身を空にしそうだ。

「じゃあ、フクさん、ラクさん、ごちそうさまでした。ファーが眠そうなのでそろそろ戻ります。」

「そう?泊っていけばいいのに。」

「すぐそこですから。」

 僕は名残惜しそうなシロを引きずり、3匹を連れて部屋に戻った。

 フクさんとラクさんとも少し仲良くなれたような気がする。

 部屋に戻って、シロとクロも猫の姿に戻った。明日はちょっと試してみたいことがあるんだ。今日は早めに休もう。


 翌日、僕はサーバールームに行った。管理画面を見ると、属性はきちんとバランスが保たれている。供給量に差はあるが、現状供給を必要とする人は500万人くらいか…。それ以外の人は自力で属性を保っているか、力が非常に弱い人、それと戦士になった人たちだ。

 僕は、供給を受けている人と、受けている属性をパソコンからエクスポートした。あと必要なのは…。

「シロ、ユキと連絡って取れるのか?ちょっと話がしたいんだけど…。」

「やってみるね。」

 ユキって精霊とかいるのか?あいつって何の属性を扱えるんだ?

「話せるみたいだよ。コタローとダイレクトに話しできるみたい。」

(ユキ、聞こえるか?)

(聞こえるよ。何?)

(ちょっと聞きたいことがあるんだが、直接会って話せないか?)

(少しなら抜け出せる。どこで会う?)

(演習場がいい。ちょっと魔法が使いたい。)

(わかった。じゃあ10分後。)

(ああ。よろしく)

 魔法は、アンノウンが出たときと、演習場だけ使用が許可されていた。いずれの場合も制服を着ていることが条件だ。この制服は正体を明かさないためだけでなく防護機能を備えているらしい。多少熱や衝撃にも耐えられるようになっているようだ。

 10分後、制服を着て演習場に行くと、間もなくユキも現れた。

「忙しいのに悪いな。ちょっと聞きたいことがあるんだ。」

「あんまり時間無いから巻きでお願い。」

「ユキが属性を提供しているって言っていたけど、どうやっているんだ?」

「私の頭のカチューシャとみんなのブレスレットがリンクしているのは知っているよね。私の属性をデジタル変換してインターネット経由で提供しているんだよ。」

「それだ。やっぱりデジタル化しているんだね。思った通りだ。誰が何の属性を必要としているのかは、管理画面からエクスポートした。あと必要なのは、属性の力だったんだけど、君から、そのデジタル化した属性を吸収したい。」

「どういうこと?」

「ファーの記憶の能力で属性のデータを記憶させて、そのデータをプログラムに組み込むんだ。バランスを保つよう必要な量を提供するようにプログラムを組み立てる。そうすればユキがずっと属性を提供し続けなくても済むかもしれない。…って思ったんだけど、やってみていい?」

「そんなこと、今まで考えもしなかった。…本当、コタローは毎回進化していくね。だからAIもウェポンマスターもここまで完璧に仕上げられたんだけどね。わかった。やってみて。」

 僕はファーを呼んだ。

「ファー、メモリー。」

「はいよ。」

 ファーはユキから力を吸収する。赤い魔法陣が出現し、ユキの力が僕の体に入ってくる。

(なんだ、この力は…)

 色々な種類の属性が体の中を駆け巡る。体の中が熱くなる。エーワンメンバーの力を吸収したときはこんなことにはならなかったのに。しかも属性の力そのものではなくデジタル化したものだ。それなのにこの重さ…。

「はぁ、はぁ…」

「大丈夫?コタロー」

「…なんとか。…すごい力だな。」

「そうだね。私はカルピスの原液みたいなものだからね。用事は済んだかな。じゃあ、あとはよろしくね。」

 ユキは用事が済んだらすぐに戻ってしまった。

 こんな膨大な量の属性がユキの体の中に入っているのか…。これでもおそらく一部だ。そう言えばユキが魔法を使ったところは見たことが無い。みんなの技や魔法はずっと見てきたから使えたけど、全く見たことのない力っていうのはイメージが湧かないからメモリーで記憶しても使えないのか。となると、ユキの属性を吸収したとしても魔法は使えないのかな。いやぁ、吸収する気は全くないけど。吸収した時点で僕が燃えて無くなりそうだ。

 僕はサーバールームに戻って、吸収した属性データをサーバー内に取り込み、プログラムに組み込んだ。ファーは新しいAIを起動させる鍵だったのだが、僕の作ったプログラムに直接リンクできるので、記憶した属性のデータをサーバーにコピーするのは簡単だった。さすがにデータ量が多いな。取り込み終われば、あとはこのシステムを起動するだけ…。

「よしよし、いい感じに供給を始めたぞ。」

 プログラムは、バランスを保てない属性を見つけると、適した属性の供給を始める。属性がデータ化されていれば、コンピューターにもこのくらいの作業はできるはずだ。

「これで、ユキの力もアンノウンに向けて使うことができるんじゃないか。」


 一方、国会議事堂の一室では、先日のアンノウンの事件と、今後の方針について総理大臣を含め、各大臣及び木村琉之介と創始ことユキが集まり、話し合いが行われていた。

「先日のアンノウンの被害はひどいものだったが、それも過去にあったものなのか?」

「これまでの戦いにおいて、人間を食べるアンノウンは出現していません。また、このような大規模な被害も、人間が進化したアンノウンでは起きていませんでした。」

 ユキは過去35回の経験を述べる。

「では、今回が初めてなのか?前回とは違う進化をしているのか?」

「確かに、アンノウンも進化しているようでした。こちらも回数を重ねるごとに対策を練り、人間を強化しているわけですから、敵が強化されているというのも否定できません。」

「それでは、何度やり直しても人間は勝てないではないか。」

「しかし、こちらでも今までにはない変化が起きています。」

 木村が説明を続ける。

「戦士の一人に、今回の事態を打開する術を身に付けたものがいます。その者は、今後かなりの戦力になると考えてよろしいかと思います。」

 その時だった。

 ガタッ!

 会議に参加していたユキは、体の中の力の流れが止まったのを感じ、思わず立ち上がってしまった。

(どうした?雪華?)

 コソコソとユキは木村に囁いた。

(力が…。琉ちゃん、コタローここに呼べる?)

(わかった。)

 制服を着ているため、表情は見えないが、普段冷静に話をする雪華が動揺しているため、木村はすぐに対応した。

「えー、話に上がった者ですが、今ここに呼びたいと思います。少々お待ちいただけますか?」

 大臣たちも新しく強い力を手に入れた者を一度見ておきたいのだろう。快諾し、そのまま休憩となった。


「…琉ちゃん、属性の提供が無くなって、力が吸い取られなくなった。多分コタローが何かやってくれたんだと思う。これがうまく行けば、私も戦える。」

「本当か?雪華が戦力に加わればこれからの方針が変わってくるな。大臣たちに説明が必要か…。だから虎太郎君を呼ぶんだな。」

「うん。コタローは嫌かもしれないけど、本人に説明してもらうのが一番早いから。」


 サーバールームの電話が鳴った。

「はい。橋崎です。」

「虎太郎君、今から急いでこっちに来てもらいたいんだ。国会議事堂なんだけど、制服着て飛んで来られる?それが一番早いだろうから。」

「国会議事堂?僕、今休暇中ですよね?サーバールームの電話鳴らして、何で僕が出るって思ったんですか?」

「雪華君の属性の提供が無くなったって聞いて、虎太郎君が何かしたんだろうって言っていたから。じゃあ、お偉いさんが待っているからできるだけ急いできてね。」

 木村さんは電話を切った。

 えー。お偉いさんが待っているって、すごく行きたくないんですけど。僕はしぶしぶ制服に着替えると、三つ子の猫たちを連れて、国会議事堂まで飛んで行った。普通に外で魔法使って飛んでいますけど、いいんですよね。

 国会議事堂に着くと、黒スーツの人が出迎えてくれた。

「こちらです。」

 僕は、会議室に連れて行かれた。そこには、テレビでよく見る政治家たちが並んでいた。

「彼は、橋崎虎太郎君です。36回目にして初めて、『メモリー』という魔法を使えるようになりました。この魔法により、今回のアンノウンを倒すことができ、彼の能力で戦士たちも救うことができました。」

「まだ若いじゃないか。そんな強い魔法を使えるようになって、彼は大丈夫なのか?安全なのか?」

「最近の若者は何を考えているのかわからないからな。」

「創始だって、本当に我々の味方なのか?言う通り属性を人間に押し付けて、被害者の方が多いんじゃないのか?」


 彼らが手に持っている資料は僕に関する資料だろうか。着いて早々、おじさんたちに敵視されている。うるさいな。いつもこんな奴らの中で木村さんとユキは会議をしているのか。こっちは命を懸けて戦っているのに。


「橋崎君、と言ったか。君は魔法を使うことをどう思っている?それで世界を救うと認識しているか?」


 どう思っている?なんでそんなことを聞くんだ?どんな答えを期待している?

 僕は沈黙し、すぐに答えを言わなかった。

「なぜ話さない?君は何を考えているんだ?まさか、ここで魔法を使って私たちを殺そうなんて考えていないだろうな?」


 は?殺す?ああそうか。魔法を使う人間を恐れているのか。自分の身だけ心配なんだ。人間なんてそんなものだよな。


「シロ、ストップ」

 僕は小さな声で、ストップをかけた。あたり一帯時間が止まっている。


「世界を救う?そんなことに興味はない。お前たちを殺す?お前らにそんな価値無いだろ。僕はお前たちのためには魔法は使わない。人間なんて、滅びるときは滅びるんだよ。僕は僕のために、僕の仲間のためだけに魔法を使う。」

 僕は大きな声で言ってやった。ふう、と一息ついたところで、

「シロ、ストップ解除」

 僕は静かにストップを解除させ、政治家たちに答えた。

「僕は世界を救うために魔法を使います。人を殺めることはありません。」

 これが求めていた答えだろう。

「そうか。まあいいだろう。」

 まあいいだろうって何だよ。お前らが一番望んだ答えを言ってやったんだぞ。

 制服で顔は見えないが、ちょっとムスッとしたのがわかったのか、木村さんはコホンと小さく咳をして話を続けた。

「では、虎太郎君、今回君が属性提供に関して何をしたのか説明してもらえるかい?」

「えっ。それですか?」

「そう。属性の提供をしなくて済むなら、創始を戦力として考えられるから。その説明をお願い。」

 ユキは、ここではユキでも雪華でもなく「創始」として会議に参加しているんだな。

「わかりました。創始が属性の提供をするにあたり、属性をデジタル化しインターネット回線を通じて行っていることを確認し、僕の能力『メモリー』でデジタル化した属性データを記憶させ、サーバーに登録することで、自動で属性バランスを保つようにプログラミングしました。それにより、創始が力を注ぎ続けなくても、ウェポンマスタープレーヤーは属性のバランスを保つことができます。」

 馬鹿でもわかる説明をしたつもりだったが、おじさんたちは顔をしかめている。

「つまり、創始を戦力の一人として扱えるようになります。」

 木村さんが補足してくれた。大事なのはその部分なのだろう。僕の説明必要だったか?その後も今後の対策について話が進められたが、僕は部屋の隅で静かにしていた。話の要所要所に、「あいつは本当に大丈夫なのか?」とか、「創始は敵ではないのか」とか、「四本ラインの奴らを監視する奴はいないのか」とか、僕たちを敵として疑うような発言があった。こいつらにとっては、アンノウンも「あいつ」も僕らも、自分たちの安全を脅かす化け物なのだろう。「話ができる」化け物なのか、「話ができない」化け物なのか、そんな感じだ。どちらかが倒されれば、もう一方も退治しようとするだろう。自分たちを脅かすものは排除したいに決まっている。最終的に僕らが勝ったとして、自由になることは無く、幽閉か殺されるか、どちらかなのだろうな。


「では、虎太郎君の能力がどれほどのものなのかを確認し、創始も戦力に加えたうえで、来る日に向けて討伐案を用意いたします。」

 木村さんが締めて終わった。やっと帰れる。


「虎太郎君、休暇中なのに悪かったね。もう帰って休んでいいよ。」

「はい。わかりました。」

 僕は特に木村さんに何かを言うわけでもなく、また飛んで帰った。飛べるって便利だな。


 制服を着ているときは、別の場所から出入りする決まりになっている。正体を明かさないのも、僕らの住む場所をわからないようにするのも、全ては僕たち自身を守るためだ。僕らは、普通の人間から見れば兵器である。兵器が街中を歩いていたり、近くに住んでいるとわかったら気が気じゃないだろう。そう思われていることは前からわかっていたのだが、あの政治家たちの態度を見て再認識した。僕らは彼らにとって敵になりかねない存在なんだ。敵になる前に排除する、そんなことも平気でやりそうだ。あーやだやだ。

 部屋に戻ると、シロとクロとファーはずっとテレビを見ていた。人の形を覚えたのもテレビだったな。僕は疲れていたのか、そんな三つ子を見ながら静かに眠ってしまった。


 ピーンポーン

 インターホンが鳴った。一体誰なんだ。もう眠いのに。

「はーい」

 インターホンにはユキが映っていた。ユキがここに来るなんて珍しいな。こんな時間に何だろう。僕は玄関を開けた。

「コタロー寝てた?ごめんね。ちょっと話せる?」

「ああ、構わないけどもう23時だよ。大丈夫なのか?」

「うん。属性の提供が無くなったから、起きていられるよ。」

 僕は、ユキを部屋に入れた。女性を部屋に入れるのは気が引けるが、中にはシロとクロとファーもいるので大丈夫だろう。

「今日はごめんね。嫌な思いをしたでしょう。」

「あぁ、国会議事堂での話?別に構わないよ。もともと人間なんてあんなものだと思っているから。」

「そう?そうか。なら良かった。ところで、コタローは『時』属性に関して何か知ってる?」

「どういう意味?僕が魔法について知っているわけないじゃないか。いきなりシロの声が聞こえて使えるようになったんだよ?」

「うーん。私のやり直しって、コタローが最初に私を戻すことから始まっているんだよ。」

「…つまり?」

「私が属性を提供していなくても、コタローは時を戻す魔法を使えていたんだ。初めて『あいつ』と戦ったときに、コテンパにやられて、『ダメだったー』って思っていたら、コタローが来て私を戻してくれたんだよね。私と、私に『記憶』属性のこの子を持たせて戻してくれたの。」

 ユキはファーを膝に乗せながら話してくれた。

「それで、何度も何度も四苦八苦して今にたどり着いている。今回のコタローは、魔法が使えない状態から始まってる。コタローの魔法発動のきっかけって何なんだろうなと思って。」

 そんなこと僕が知るわけがない。むしろ僕が聞きたいくらいだ。ユキのせいじゃないならなんで僕は魔法が使えるんだ。

「そういえば、何でユキはみんなに提供できるような量の属性を持っているんだ?」

「もうだいぶ昔の話なんだけど…。私、10歳くらいまで福島県の浪江町にいたんだ。」

「浪江町?」

 僕も浪江町生まれだと聞いている。だけど赤ん坊のうちに栃木県の祖父母のところに引き取られたから、浪江町の記憶なんてない。

「今回が36回目だから、5年×36回で180年プラス9年だから189年前の話かな。もうよくわかんないけど、おぉ、私ったら超ご長寿。まぁ、それは置いておいて、私、ちょっと変わっていたみたいで、学校に友達がいなかったんだよね。両親が共働きだったから、いつも一人で浜辺で遊んでいたんだ。そしたら、知らないお兄さんに声をかけられたの。」

「知らないお兄さん?」

「そう。高校生のお兄さん。その人に『僕の力を預けたい』って言われたの。」

「その人がユキに力を与えたのか。」

「『何で?』って聞いてみたら、『もしかしたら、私の弟が目覚めるかもしれない。何億年も見張っていたのだけど、私の力はまだ弱く、回復する前に弟が目覚めてしまうかもしれない。弱い僕の体にあるより、元気な君の体にいたほうが私の力は強く育つ。だから、いざという時のために、君に力を預けたい』って言われたんだ。何を言っているのかわからなかったんだけど、その人の目が、ちょっと悲しそうで、『いいよ』って答えちゃったんだよね。」

「それから?」

「その時から私は少しずつ魔法が使えるようになったんだ。だけど、人には言えないし、見せるわけにもいかないから、秘密にして生きてきた。あの人が言っていたことがずっと何のことを言っているのかわからなかったんだけど、19歳のときに、ついに「あいつ」が現れたんだ。突然現れた「あいつ」に、日本政府は何もできなかった。人間が何をしても倒せないあいつを倒すために私は力を預けられたんだと思った。で、戦ってみたけど全然ダメだった。それが1回目。」

「もう駄目だと思ったときに僕が現れて時間を戻した?」

「そう言うこと。いきなり現れて『戻ってやり直しだ。』とか言われて、気づいたら5年前の自分に戻ってた。あんなに怖い思いをして痛い思いをして、またやるの?って思ったけど、あの時お兄さんに力をもらってしまった私がいけないんだよね。」

「ユキはそのお兄さんを助けたかったんだろ?悪いことじゃない。」

 そう。他人に興味のない僕よりよっぽど人間らしい判断だ。

「2回目からは、コタロー探しから始まったよ。あの力を預けたお兄さんのことを知っているんじゃないかって。でも、コタローは何も知らなかった。今回みたいに。」

 確かに、僕はただのゲーム好きなだけで、自分が魔法を使えるようになるとは思っていなかったし、世界がこんなことになるなんて考えてもみなかった。

「ねえ、今度はコタローのこと教えてよ。」

「僕のこと?聞いてもそんな面白い話はないよ。」

「それでもいいから。コタローの人生に何かヒントがあるかもしれない。」

 仕方ないので、僕は生い立ちを話した。たいしたことはない。浪江町生まれで生まれてすぐに東日本大震災で被災したこと、祖父母に育てられ中学生で一人暮らしを始めたことなど、つまらない話をしていた。そして、ふと思い出したことがある。

「あ、そういえば。」

「なに?コタロー」

「昔、叔父に連れられて被災地の鎮魂祭に行ったことがある。そのときに母のいた浪江町に行ったような…よく覚えてないな。」

 本当にふと記憶がよぎった程度だ。行った記憶も、行って何かをした記憶もない。ただ、母のいた町に初めて訪れたような記憶があった。あれは高校生の時か。

「うーん。こんど浪江町行ってみようか。」

「行ってなにがあるんだ?」

「何か思い出すかもしれないし。お母さんの記憶もお父さんの記憶ももちろんないんだよね。そのあたりも調べられるといいかも。何かわかるかもしれない。」

「僕には父も母もいない。調べたところで何も得られないと思うけどな。」

「うんうん。そうしよう。琉ちゃんに話しておく。じゃ、もう遅いし帰るね。」

 全く人の話を聞かないな。そんなに僕のことを調べても何もないと思うんだけどな。ただの他人に興味のない一般人ですよ、僕は。そんなこんなで僕の休暇は終わった。

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