79話
まだ春の訪れを感じることができない、冬の厳しい寒さを纏った風が強く吹くその日。
朝から庭の隅に建てられた簡易的だが広い建物の中で熱心に剣を振っている少女の姿があった。
その小屋というには広く、七メートル四方はありそうなスペースは、秋口から段々と朝晩が冷え込むのに外で剣を振るうメイリーンのために、父親である侯爵が急いで建てさせたものだった。
シュッシュッと小気味良い風切り音がしている。
メイリーンが剣を振るう音だった。
家庭教師のマクロンから講義を受けるのは、新年の社交シーズンはお休みであった。
そのため、メイリーンは王城で食べたおいしい料理を再現させて、剣を振るって、そうして王都での生活でストレスを溜めないように過ごしていた。
「メイリーン様、そろそろ朝食のお時間です。」
「シャーリー、今朝もありがとう。一度汗を流して、着替えてから向かいたいわ。」
「わかりました。お湯の準備は出来ています。着替えは湯冷めを避けるために少し厚手のものにいたします。」
「ええ。任せるわね。」
頼もしいシャーリーに満足して微笑むと、メイリーンは訓練用の剣をジョンに渡して、湯浴みに向かった。
そして、シャーリーに洗ってもらうと、こっそり自分で編み出した温風の魔法で髪を乾かす。
マクロンや親には言わず、シャーリーに口止めをして使っていた。
侯爵家にはドライヤーのような魔道具があるのだが、メイリーンの圧倒的な魔力で乾かした方が早い。
たまにチート能力を満喫しているメイリーンだった。
「メイリーン様、髪型が仕上がりました。」
「ありがとう、シャーリー。では、朝食に向かいましょう。」
るんるんと朝食を楽しみにしているメイリーンの無邪気な様子にシャーリーの心臓は射抜かれてドキドキしているが、シャーリーは慣れたもので表情には一切出さずにメイリーンについて食堂へと向かった。
メイリーンが食堂に着くと、すぐに暖かい紅茶が出される。それを飲んでいると、両親が揃い、そこから朝食が運ばれてきた。
今日はメニューの中にフレンチトーストがあって、朝から幸せいっぱいなメイリーンだった。
社交シーズンもそろそろ終わりを迎えてきた本日の食後は両親とともに談話室で過ごすことになった。
そして、社交で疲れた様子の父親が、同じく疲れた様子の母親に向かって、一枚の封筒を渡した。
受け取った母親は、「まあ…。」と驚いた様子だった。
それもそのはず、国王陛下からの招待状がとうとう届いたのだった。
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