69話
触らずともわかる滑らかに艶めく上質な布地に、いくつもの刺繍を入れた、そんな王国屈指の財力と王族にしか纏うことを許されない模様の入った服を纏う高貴な少年は、自室のソファーに泰然と座りながら、物憂げな様子を漂わせていた。
現在、最も次期国王の座に近い男、かの第一王子アウグストだ。
思春期真っ最中のアウグストは、自分が王族として、第一王子という光り輝く存在として、手厚く育てられた。
英才教育の甲斐があって、通っている学院ではトップの成績を維持しているし、十二歳の時から騎士団の練習にもたまに加わっている。
見た目についても、学院ではファンクラブがあると周りから聞いていて、密かに嬉しく思っていた。
十二歳が最も年少で入学できる年齢なので、アウグスト以外には同じ学年にはいないはずだ。つまり、ファンクラブ会員であろう年上の女性たちにも魅力を認められているということなのだ。
そうした実績から自尊心を育てていたのだが、侯爵令嬢のメイリーンに出会ってから、自分のアイデンティティについての圧倒的な自信がぐらぐらとゆらいでいたのだった。
アウグストが思うに、まず、メイリーンは圧倒的に美しい。
少女だから完成されていないとも言えないほど、他の追随を許さない美しさで、年上の美女であっても霞むほど神々しく美しいと思わされてしまう。
彼女が少しでも表情を変えれば、その変化の意味を知りたくて気になってしまうし、笑顔で見つめられると嬉しさと全能感でおかしくなりそうだ。
弟のフェルディナンドと談笑している姿さえ美しく、なんだか尊いもののように感じた。
一方で彼女は多才かつ天才のようだ。聞けば魔法は類を見ないほどの多属性。
そして、剣術は騎士団でも見たことのない剣さばきだった。もしかしたら、実戦経験で騎士団長たちのほうが実力が上かもしれないが、幼い彼女はこれから経験を積みさえすれば、いくらでも追い抜けるだろう。
こんなに素晴らしい彼女なのに、性格は穏やかで誰にでも優しい。アウグストには女神のような存在だった。
「そうだ。女神のようだ。一体どうしたら、女神と立ち並べるような存在になれるのだ…。」
こうして今日もまた、アウグストのもやもやとした思春期の時が流れるのであった。
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