53話
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燦々と降り注ぐ夏の強い日差し。その光を浴びた艶やかで濃厚な緑の葉に囲まれた庭の東屋に、一人の少年がいた。十三歳の誕生日になったばかりの王子アウグストだった。
メイリーンほど人形じみた整い方ではないが、美しい顔立ちの少年は、口を半開きにして斜め上を見て呆けている。
通っている学院では成績優秀な人格者として男女問わず支持される存在の彼だが、今は脱力して自分の考えに耽っていた。
「なぜかわからないけど、メイリーン嬢のことを考えてしまう。この前に会った時は、ほとんど話せなくて残念だったな…。」
先日、アウグストが十三歳になったことを祝う誕生日会で、メイリーンに会った。
まだ八歳になったばかりはずのメイリーンは、綺麗なドレスに身を包み現れた。公の場に対する緊張どころか終始大人びた振る舞いで、そこには余裕すら感じられた。年が近いはずの自分の弟たちとは大違いだった。
そして、何より存在が美しかった。
アウグストの母親である王妃が、メイリーンを城に誘ってくれたので、また会うことはできる。それはとても楽しみに思っている。
ただし、剣の訓練を見学しに来るのだから、己の無様な姿は見せられない。あの日から毎日、素振りもしているし、剣の訓練はより熱心に受けるようになった。
「まだ足りないなあ…。なにが足りないのだろう。そうか、私も宝剣を持てば良いのではないか。いや、同じような類いではだめだ。攻撃的な魔法が振るわれて、圧倒的な力を感じさせるような…。うーん。」
アウグスト王子は思春期だった。自意識の高さからよくわからない方向にのめり込むのは、後々黒歴史になるのだが、その時は真剣そのものなのだ。
東屋からほど無い距離に従者が控えているが、まるで気にしていない。王族にとっては、生まれた時から近くに人がいるものなのだ。
メイドが一人やってきて、アウグストの従者に何やら伝えていた。少し話した後に、従者がアウグストに近寄ってきた。
「アウグスト様、こちらにフェルディナント様が向かっていらっしゃるようです。」
「む。そうか。わかった。お茶の用意を頼む。」
「かしこまりました。」
脱力してぼーっとした態度を即座に改めて、王子様然とした凛々しい声で従者に指示を出す。
メイドたちが入れ替わり立ち替わり集まり、すぐにお茶の準備を整えていった。いつもの手際の良さだが、アウグストにとってはこれが当たり前だった。
ちょうど良い頃合いに、弟のフェルディナンドが到着する。
「ご機嫌麗しゅう、お兄様。」
「ふん。どうしたんだ、フェル。珍しいじゃないか。」
「ふふふ。ちょっとお願いがありまして…。」
そう言って、用意された席に座ってきたので、その間に、アウグストは紅茶をひと口含む。
気品溢れる華やかな香りと、深みのある味わいに心が落ちついた。そして、弟に声をかける。
「頼み事とは珍しいな。学院から本を借りてきて欲しいのか?」
「それも良いですね。城よりも学術に特化したマニアックなものがありそうです。」
「ん?違う用事だったか。」
「ええ。実はお母様がお呼びしたメイリーン嬢に、ぜひ宝剣を振るってみていただきたいと思ったのです。」
「え…。正気か?いくらメイリーン嬢とはいえ、まだ八歳の少女だぞ。」
「正気ですよ。メイリーン嬢はただの少女ではありません。私は天才ともいえる彼女の渾身の一振りを見てみたいのです。
ただ、私たちだけでは許可が下りないでしょうから、騎士団長、あるいは上位の宮廷魔導師のいずれかを訓練に呼んで欲しいのです。
お兄様、お願いします。」
「う、うーん。」
「お兄様、彼女なら出来そうだと思いませんか?」
「うーん…。」
弟の子供っぽくわがままなお願いに、どう対応したものかと、アウグストは頭を悩ませた。
まったく、同じ年頃でもメイリーン嬢ならきっとこんな考えなしで他力本願なお願いなどしないのに…。あんなに優しくてまっすぐで…。
アウグストの作り上げた偶像の女神、メイリーンは完璧な性格を持っていて、本人とは似ても似つかないのだった。
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