52話
朝露がしずくとなって葉の上をつたい、朝の静謐な空気とともにメイリーンの集中力を高めてくれる。
メイリーンは、今朝も木刀を振り込み続けていた。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッと、庭の静けさに、素振りの音が響き渡っていた。
王子様の誕生日パーティーで、剣の訓練を見にくるように言われてから、朝の素振りの時間を倍に増やしていた。
メイリーンは当日は動きやすい服として着替えと、宝剣を持って行くつもりだった。
しかし、まだ、王城からの招待状は届いていない。
「うーん。思ったよりもこんなに時間があるなんて…。」
ぽつりと、困ったなあとつぶやくメイリーン。
近くに控えている護衛のジョンが苦笑いをしながら話しかけてきた。
「メイリーン様はなかなか強くなられてると思いますよ。」
「そうでしょうか。素振りしかできませんよ。」
「お怪我をさせてはいけないと思っていましたが、もし王城で打ち合いになるようなことがあればそれも危ないかもしれませんね。手加減できるような熟練の相手以外はむしろ危険ですね。」
「それはありますね。私も王城で未経験の訓練はしたくないですし、できるだけ落ち着いていたいです。そうとなれば、打ち合いも少しやってみたいですね。」
「承知しました。侯爵様に確認いたします。」
「ええ。王城で怪我なんてしたら困るから、その点をよく伝えていただきたいです。」
「わかりました。お任せください。」
そうして、丸一日外出していたスチュワート侯爵が帰宅すると、ジョンに護衛の観点から打ち合い訓練の必要性を述べて、許可を得てもらった。
先日、王妃が八歳の少女であるメイリーンを王子たちの訓練に誘ったのは、見学としてである。まさか、貴族の娘と王子たちを戦わせようなどとは微塵も考えていなかった。そして、それは国王ヨハンも同様だった。
しかし、すでに剣術について学び始めていたメイリーンは違った。王妃の言葉を、自分の剣術を王子に見せるように指示されたと思ったのだ。
父親である侯爵に対人戦の許可を取るまでの間、訓練を終えて様になったメイリーンは、自室で瞑想をしていた。妄想の中で敵を生み出して、戦ってみることにしたのだった。気分は大剣士メイリーンだ。
そうして作り出した仮想的に向かって、見えない剣を片手に挑む。
自分の倍は大きい背丈に、ムキムキな体、スキンヘッド、そして巨大な鉄の斧を振り回す野蛮な男マスルが相手だ。
マスルは、見かけによらず素早く、渾身の力で斧を振り下ろしながらも、後ろに切り下がるような動きもできる。野生動物のように獰猛だ。
それに対して、メイリーンは素早く動けるが、いかんせんリーチが短く、基本的にはマスルの胴から下までしか狙えない。
考えたメイリーンは、なんとか手数を多くして、マスルにダメージを与えようとした。
しかし、熟練のマスルはメイリーンの剣筋を読んで、するりと逃げてしまう。
何度も何度も詰めたはずの距離を置かれてしまって焦るメイリーンは、得意の大火力魔法でマスルを一気に燃やし尽くしてしまい…。
「はうあっ。妄想の中で殺人を犯してしまった!やだ、マスルさんごめんって。燃えないでー!!」
「メイリーン、どうしたの?マスル?殺人?燃やす?」
「シ、シロちゃん。なんでもないの。変な夢を見てたみたい。んー、疲れたのかしら。今日は早めに寝なきゃなー。ははは。」
もふもふのシロちゃんが丸いフォルムを揺らして歩いてくるので抱きとめる。
ふう。暇だとロクなこと考えないな、自分。
シロちゃんを撫でながら、あほなことを考えるメイリーンだった。
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