4話
吹き抜けるような青空のその日、私の暮らす屋敷には、1名の男性がやってきた。
これまでの間、メイリーンは言葉が話せるようになってからは、本を読みたいと乳母にせがみ、最初は絵本、それから歴史や地理などの本を読んでいった。
誰かに声に出して読ませるわけでもなく、黙々と本を読む幼児の姿はどこか異様なものだったが、”神童だ!”と両親は喜び、我が子の将来への期待に胸を膨らましていた。
一方で、乳母やメイドたちは、習わずには字が読めるわけがないのにやけに熱心に本を眺めている変わった子供だと思っていたが、部屋を汚すこともないので手がかからないことを喜ばしくおもっていた。
いずれにしても好意的に思われていたようである。
当の本人であるメイリーンとしては、新しい世界を少しでも知りたいけれど、会話では常識の違いがばれるのではと心配して、むやみにやたらに質問することもできずにひたすら静かに読書していただけなのだが。
4歳になると侯爵に命じられたメイド長や執事が行儀・礼儀を教え込むことにより、徐々に挙動が磨き上げられて、さらに年齢よりも大人びて、知的に見えるようになった。
メイリーンとしては、マナーレッスンは習い事感覚で楽しんでいたが、この年頃の子供がおとなしく椅子に座って学んでいるだけでも本来はすごいことなのだ。
そうして、7歳になってすぐに、その年齢の者など教えたこともないだろう王城で優秀と言われる人物を家庭教師をつけることになった。
コンコンとノック音がして、メイドとともに父親と母親、そして見知らぬ長身の男性が入室してきた。
「ご機嫌よう。お父様、お母様。」
「ご機嫌よう。メイリーン」
完璧なカテーシーで美しくも気品のある挨拶をするメイリーンには子供らしさがかけているのだが、両親としては自慢の一人娘なのか、満足げな表情だった。
日頃、面倒を見ることは乳母やメイドたちがしているせいか、この両親はどこか前世でいうところのたまに会う祖父母のような立ち位置で接してくる気がしている。
「メイリーン、家庭教師が到着したよ。紹介しよう。」
しずしずと見知らぬ1名の男性が、私の前に立ち、恭しくお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。私がメイリーン様の家庭教師を担当いたします、マクロンと申します。よろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、これからご指導いただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。」
お互いに優雅なお辞儀と微笑みあったところでメイリーンとマクロンの挨拶が終わり、一同はまず昼食を取ることになった。
家庭教師は、20代後半くらいに見える、ストレートで肩よりもやや長めの黒髪をひとつにまとめ、切れ長の瞳、色白の肌を持っている学者っぽい知的なイケメンだった。
先程の挨拶からしても、立ち振る舞いは品が良く、肌や髪にはほのかな艶があり、どこかの裕福な貴族であるようだった。
食堂で皆が食事の席に着くと、食前酒と前菜のサーブがあり、落ち着いたところで父親が簡単に紹介してくれた。
「マクロン殿は、ウィーリー伯爵家の次男で、その優秀さで宮廷魔術師をしているんだよ。
今回はメイリーンのために、私が半年かけて本人や周りも含めて説得してなんとか来ていただいたんだ。」
「何度も部屋まで来ていただいて恐縮です。先程のメイリーン様のご挨拶の利発さから見ても、
素晴らしいご令嬢になることは間違いないでしょう。これからどうぞよろしくお願いいたします。」
マクロンのお世辞に、父も母も嬉しそうに破顔している。人前でデレデレしているのを見るのは初めてでびっくりしてしまった。
これは、外でも自慢してはデレているのではないか。
メイドによって運ばれてきた白身魚のポワレをいただきながら、こっそりため息をついた。




