21話
母親である侯爵夫人から王城訪問に関する衝撃的な情報を手に入れたメイリーンは、いつもと違う母親の親バカモードすら気にする余裕もなくなり、グルグルグルグルと思考の渦に飲み込まれてしまった。
え。わたしのこの後の人生はどうなるのよ、一体。
「メイリーン様、メイリーン様。メイリーン様!」
シャーリーが何度も声をかけていてくれたことで、ようやく周囲を見渡した。
あれ?何してるところだっけ?
ああ。えーと、えーと、えーと、御用商人に服の仕立ての発注の時間だった。王城でのパーティーにふさわしいドレスを作るための注文は終わって、休憩にお茶をいただいて、そして王城に子どもが呼ばれるのは幼少期の王族の友人候補になるためではないかと聞いた。
そこから一時的に錯乱して、記憶がぽぽーんと消えたと。
先ほどまでお茶をともにしていた侯爵夫人はとっくに席から立ち上がって、追加の注文のために布や糸、装飾のレースなどを見聞している。
そして、侯爵夫人の意図を汲んで、侯爵夫人付きのメイドと御用商人が更に色々と細やかな打ち合わせをしているように見えた。お針子たちも忙しなく、布やらなんやらを出したり片付けたりしている。
わたし以外のみんなが慌しそうな様子だ。
「メイリーン様、お加減はいかがですか?」
「ええ。少し驚くことがあったのだけど、もう落ち着いてきたみたい。」
「落ち着かれて良かったです。」
心配そうな声のシャーリーの顔を見てみたら、目尻までたっぷりと涙を溜め込みながらこちらを見ていたので、ぎょっとしてしまった。
え、しばらくぼーっとしてただけで、どうしてそんなに心配してるの?
「シャーリー、心配してくれてありがとうね。もう大丈夫よ。」
「はい。本当に良かったです。」
「フフ、大袈裟ね。」
まだ立ち直らない様子のシャーリーのことは受け止めきれないので、一旦は受け流すことにして、服の仕立てに意識を向けることにした。
王城でのパーティーはともかく、他の高位の貴族との交流のために、よそ行きの格好が必要だった。
清楚だけど格式高く、決して侮られないような上品さとセンスが必要な服を仕立てる。
前世では洋服なんてほぼ安い量産品で済ませて、流行にもあまり乗らなかったのだから、こんなガチのオーダーメイドなんて無理オブ無理だ。
服は清潔で着心地が良ければ、あとはシンプルなデザインで十分だった。
学生時代に周りの目なんてそれほど自分に向いていないものだと知ってからは、無地でシンプルなデザインが自分には心地よいものだと無個性に走ったのだ。
それからは、Tシャツに胸ポケットがついてたほうがスマホを一時的に入れることができて手が空くから便利だなくらいのほんの少しのこだわりしかない。それにポケットがなくてもTシャツが1枚必要だと思ったら買う、そのくらいだ。
つい、過去をしみじみと思い出してしまった。
目の前で繰り広げられている発注合戦。
今世では今後も必要なことなのでオーダーメイドについてしっかりと覚えていかなくてはならない。
しかし、自分だけの力でやりとげる必要はない。
「ねえ、シャーリー。貴族と交流するためのお洋服はわたしにはまだなかなか難しいみたいなの。貴女も覚えてくださらないかしら。」
「もちろんでございます。至らない点もあるかと思いますが、全力で取り組みますので、よろしくお願いいたします。」
「ありがとう。」
メイリーンが上目遣いで可愛らしくお願いしたところ、忠臣シャーリーの心をガッチリ捉えて、素晴らしい返事が届いた。
よしよし、これで肩の荷が半分くらい降りた気がする。
前世でも洋服のアドバイザーみたいな職業があったはずだから、今世の高位の貴族としての立場ならそれくらいはお願いできるでしょ。
高みを一気に目指さず必要なんてないのだから、わたしはおおまかな作法くらいは習得しておこうっと。
ご満悦そうなメイリーンの様子に、頼られて喜んでいるシャーリーが頬をうっすらと赤くして歓喜していたのは誰も見ていなかった。
意外と人たらしのメイリーンでした。
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