19話
コロコロコロ、カラフルで光沢のある布地の巻きが解かれて、いくつもいくつも床に広げられていく。近くには宝石や2~10cmほどの幅のレースもずらりと並べられていて華やかで壮観だ。
たくさんの布地や装飾品の中心地にメイリーンとメイドのシャーリー、そして御用商人の女性が立っている。
部屋の隅にはお針子たちが3名と、屋敷のメイドが3名控えている。
この世界は既製品の洋服がないらしく、貴族は御用商人を呼んでは採寸からデザイン、納期や見積もりの話を経て、必要な服を仕立てていく。
貴族にとっては服は身分や己のセンスを示すものなので、かなり時間やお金をかけていくものなのだ。
リアル着せ替え人形として、メイリーンも数年前から何度も服を仕立ててきたが、今回はいつもより人も布も多い。特に、宝石を合わせるのは初めてだ。
7歳にして初めて、王城の夜会にでるために、一張羅のドレスを作るのだ。そして、その前後で会う貴族とのお茶会やらを想定して、いくつか作ることになった。
最初に取り掛かるべきはもっとも時間のかかる、夜会用ドレスなのだが・・・。
ここまで豪華だと、楽しむというよりはプレッシャーだ。気軽な買い物とは違う、圧倒的な高価格帯の商品に囲まれて居心地が悪い。
もし転んで布を破いたものなら、それだけで心臓が痛くなりそうだ。
しばらく無言で立ちすくみ、おそるおそる周りを見渡すメイリーンに対して、シャーリーが声をかける。
「メイリーン様、お迷いでしたら、色味から決めてはいかがでしょうか。」
「そうね・・・。どちらかというと濃いよりは淡い色がいいかしら。その中でお勧めの布から見てみましょうか。」
シャーリーに話しかけつつ、自分でも考えをまとめてみる。何色がいいかちょっとイメージがつかないけれど、とりあえずふんわりとした淡い色味で清楚なお嬢様を目指すことにした。
メイリーンがたどたどしくもなんとか考えをまとめているうちに、シャーリーが御用商人に小声で指示を出して、いくつか布を用意させる。
薄く淡い、いわゆるパステルカラーで光沢のある綺麗な布が目の前に並べられていく。イエロー、エメラルドグリーン、ピンク、ブルーの4色に、少し色の濃さが違うものが足された。
正直、どれも綺麗で迷ってしまうし、豪華な服のお作法がわからないので、細部まで決めることができない。
コンコンというノック音の後に、メイドが扉を開ける。先導する1人のメイドと、母親である侯爵夫人が部屋に入ってきた。
「仕立ては順調に進んでいるかしら?」
「お母様、ごきげんよう。」
「メイリーン、ごきげんよう。」
「今、布を選んでいるのです。私はこちらから選びたいと思うのですが、いかがでしょうか。」
「そうねぇ・・・。」
侯爵夫人が真剣なまなざしで布を改めていく。一度全体をさっと眺めてから、今度はゆっくりと目線を滑らせてから頷いた。
「こちらの布はいかがかしら?優しいピンクで、あなたのことをより明るく素敵に見せると思うわ。」
「ありがとうございます。では、わたくし、こちらの布地にいたします。」
思わずほっとして即答した。
侯爵夫人は満足そうに微笑んでから、御用商人へ話しかけていく。
「そうねぇ。そちらの金糸の入ったレースとあわせて、腰元からふんわりと広がるデザインにしてちょうだい。もちろん、子供だから胸は出さずにね。できるだけ清楚な印象を出してね。靴もドレスの布地にあわせた色味ね。後、その金糸のレースは、手袋の端につけてほしいのと、宝石にもつけてヘアスタイルを作りたいから、余分に用意してほしいわ。」
「かしこまりました。」
侯爵夫人が次々に指示を出していく。来てくれて助かった。ものすごい援軍だった。
言われた布を見てみる。正直どれも良品なので、悪い点などない。ただ、決めるための判断基準が自分にはないのだ。
こういう場にはこういう色、素材、デザインというTPOがわからないのだから。
採寸からカウントすると布地選びまでにすでに1時間以上経っていた。
まだまだ先は長いだろうが、一旦緩んだ気を立て直すために、シャーリーに対しては母をねぎらうためと言って、お茶を用意するように依頼するのだった。
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