13話
温かくも湿り気のない爽やかな風が吹く昼下がり、メイリーンはひとり、庭でのんびりとお茶を楽しんでいた。
洗礼の件以外では、穏やかな日々が続いている。
いつもはマクロンと一緒にお茶をするが、今日は訓練も勉強も休みなので、ひとりきりで気ままなティータイムだ。
マクロンは人格者であり、良い教師ではあるけれど、たまにはひとりでのんびりするのも良いと思う。
綺麗に整備されて調和を保った庭に、メイドが淹れた高級茶葉の紅茶が入った美しい白磁のティーカップ。
香り高い紅茶を味わいながら、この素晴らしいロケーションを独り占めして、のんびりしている。
前世でこのような贅沢をするだけの財力も胆力もなかった私だけど、生まれ変わって、こんなにも美しい時間を得ている。
そんな状況に浸りながらも、どこかで心配もしている。
こんなに良い地位にいる貴族の、重い責務やとてつもないしがらみがいつか襲ってくるような気がしている。
ただ、少年神に言われたように、今後は自分の気持ちを大切にしてみたい。全部が叶わなくとも、要所だけでも自分を優先していきたい。
ぼーっとしていると、メイドがお茶のお代わりや、一口菓子をサーブしてくれる。
直径3cmほどの小さなバラの形になったリンゴのパイが上品ながらも可愛らしい。
私の、私だけの時間を邪魔しないように、静寂を保ってくれる非常に出来るメイドに感謝しながら、とりとめもなく、思慮に耽るのだった。
メイリーンが庭の東屋でお茶をしているところを、父である侯爵が執務室の窓から眺めている。
執務室には、マクロンがいて、メイリーンの最近の状況を報告していた。
マクロンがひたすらにメイリーンを褒めそやす時間が続き、いつもの報告時なら、ほくほくと喜んでいる侯爵も、今日は少し沈んだ顔をしている。
ただ、窓の外のメイリーンを見ているので、マクロンから顔は見えない。
「・・・さらに魔法につきましては、4属性の初級魔法を3ヶ月ほどですべて終えている状況です。これでもお体に触らぬように、ゆとりを持ったスケジュールにしております。
一般的には1属性でも1年はかかりますので、メイリーン様の豊かな才能と、ひたむきな努力の賜物と存じます。
魔力量も7歳と思えないほど多いため、その制御は難しいところですが、周囲に影響がでないように、いつも細心の注意を払っておいでです。
こちらも魔法の練習ゆえに、何かあればすぐに対応できるようにと構えてはおりますが、今のところは何ひとつ問題がありません。本当に素晴らしいお嬢様です。
今日から数日は休息を取っていただき、その間に私が計画を練ります。そしてその後は中級魔法に入りますので、練習する魔法の規模によっては屋敷の外での訓練も行おうと思います。
私がおりますものの、幼いお嬢様のために、できれば侍女と護衛をお付けいただきたいと思いますので、ご検討をお願い申し上げます。」
「ああ。執事に言って用意しよう。」
「ありがとうございます。メイリーン様のますますのご成長のために、邁進してまいります。」
侯爵はゆっくりとマクロンへ向き直った。侯爵の陰った表情を見て、マクロンは違和感を覚えた。
「実はな。メイリーンが、次の新年会に招待されているのだ。成人前どころかわずか7歳で王城でのパーティーに指名されるなど聞いたこともない。
本来ならとても喜ばしいことだが、魔法4属性という特異な才能がどのように利用されるかもわからない状況では、心配でな・・・。」
「それは一体・・・。」
「おそらく教会から漏れたのではないかと思っている。教会に近い派閥が、王族か、大臣などの高官に伝えたのではないかと。」
「その可能性はありますね。その場合、何らかの理由をつけて召し上げられる可能性が考えられますね。」
侯爵もマクロンもそれ以上踏み込んだ意見を出すことを拒絶するかのように黙り込み、執務室に沈黙が訪れる。
ふと、ため息をつきながら、侯爵が再び庭を眺める。
メイドに見守られながら、庭をトコトコと散策する幼いメイリーンが居て、愛娘の可愛らしい様子にほっこりとするとともに、先程の話を思い出して、早々に引き離されるかもしれないことに胸が締め付けられるような苦しさが湧き起こるのだった。
メイリーンはパッと見可愛らしい少女。
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