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1話

ガタン。寝返りを打ったタイミングで、何かが床に落ちたような音がした。


「ううううう。うーん。」


音の先が気になり、身体を伸ばしつつ、うめきながら起きる。最近は起きるとすでにじくじくと頭痛がしている。今朝もぼんやりとした視界には、つけっぱなしの照明の光とカーテンの隙間から朝日が入ってきた。


どうやらメイクをしたまま、スーツを着たままで、昨晩からソファで寝ていたらしい。

机の上には空になったコンビニ弁当と、同じく空になったエクレアの包装紙が置いてある。


「あーあ。面倒くさい。」


そう言いつつも、ビニール袋にまとめて、玄関に置く。出社時にゴミ出ししてしまいたい。


シャワーを浴びて、会社に行かなくては。そう思いいたり、なんとか起き上がる。ソファで寝たせいか、身体が凝り固まっている。


鏡で顔のむくみを確認しつつ、歯を磨く。口の中がミントの爽やかな香りで満たされ、徐々に目が覚めてくる感覚がある。

口をゆすぎ、そのままシャワーの蛇口をひねる。少し待ってから、熱いお湯を浴び始めると、気持ちが少しずつ前向きになってくる。


徐々に思い出してきたけれど、今日は金曜日だった。そして、仕事が終わったら、女友達と飲みに行く約束がある。

久しぶりに女友達と少しお洒落なお店に飲みに行くのが楽しみだった。


「ふう・・・。」


仕事を終えると、まずは駅ビルのトイレのメイクコーナーでメイクをすべて落としにかかる。

コットンに乳液をたっぷり染み込ませて、半日経ってよれたメイクに馴染ませるように丁寧に優しく拭いていく。

その後にしっかりと保湿してからメイクをし直す。およそ15分くらいはかかるけれど、これが私なりに仕事からプライベートへのオンオフをつけるスイッチみたいなものなのだ。


後は、飲みに行く前に保湿しなおしておくと、万が一メイクを落とさずに寝落ちしてしまっても、肌荒れが起こりにくいというメリットもある。


水分補給をして、やわらかくなった肌に、ファンデーションが薄く乗って、頬やおでこにつやが戻ったのを確認して、駅ビルのトイレから出る。


歩いていると、若干、身体にだるさを覚える。駅に向かい、地下鉄に乗る。そして、女友達がなぜか最近、頻繁に指定する神楽坂駅へ向かう。


東京はどこにいても良い店はたくさん見つかる。それに個人的には神楽坂はお店まで行くのがやや面倒くさいエリアだと個人的に思っている。


神楽坂駅でも飯田橋駅でも、どちらから行こうにも、神楽坂の斜面を移動する必要があり、さらに小道に入ったところに店がある、そんなエリアなのだ。


私は食後に坂道を上って帰りたくないので、必ず飯田橋駅を使うことにしている。その飯田橋駅の地下鉄ホームから地上までもそこそこ歩くので、ここ数年ずっと疲れ気味の私にはつらいものがある。


そんな些末な煩わしさがありながらも、会うたびに女友達が「やっぱり神楽坂よね~」と嬉しそうにしてくるので、仕方なしに今日も飯田橋駅から坂を上りつつ、待ち合わせのお店へと向かう。


着いてしまえば楽しめるのはわかっているのだけど、行くまでのやる気がなぜか毎回不足している。


平日は毎日のように寝落ちするほどに疲れていた私は把握していなかったが、今日はワインがおすすめのお店を予約しているらしく、1本3,500円のピノ・ノワールという種類の赤ワインを女友達が注文する。


30歳になり、独身でいる私たちはお金には余裕が出てきているので、こういった少しくらいの贅沢はできるようになった。


ただ、神楽坂が大好きな女友達の話のほとんどが仕事と婚活の愚痴の時間がなければ、さらに楽しく過ごせるのだけど・・・。


お店を出て解散すると、まだお酒が残っていてふわふわとした気持ちで帰路につく。


女友達が頑張っているから私も婚活を再開しようかなと、ふと思い立つ。そういえば会社の先輩が知り合いを紹介できると言っていたことを思い出す。


そう思ったのも束の間、過去の経験を振り返って煩わしく思ってしまう。知らない人に愛想笑いしながら食事するより、一人で録画したお笑い番組でも見ながら、テイクアウトした牛丼を食べていたほうが幸せだって思ってしまう。

トッピングは半熟卵で、豚汁もつけたい。それでも1,000円でお釣りがくるから、お酒を飲むようなお店よりよほど安上がりだ。


それでいくと、会社の飲み会よりもコンビニに売っている300円くらいする少し高いカップ麺を1人で食べていたほうがマシってつい最近、思ったような。


「はあ・・・。」


せっかく行動派の女友達に引き上げられた前向きな思考も、一人になると途端に気持ちがしおれてしまう。

家に着いたら、12時間くらいぶっ通しで寝ることにしよう。


休日はそれくらいしても良いと思う。たまに夕方まで何度も寝てしまうこともあるけれど。


信号で立ち止まっていると、

「もっと自由になりませんか?この世界を出て、新しい世界に行くのはいかがでしょうか?」


と、知らない人の声が聞こえた。少年のような少し幼さの残る声が、怪しい言葉を発したような。

もっとも、近くに少年などいない。わりと酔いが回っているみたいだと苦笑しつつ、


「そうね。自由になりたいな。」


と、自嘲気味に小さな声で答えてみた。


次の瞬間、あたりが一瞬で真っ白に変わった。


初投稿です。慣れてなくてすみませんが、多めにみて下さいね。


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