日常の少年
「おはよう」
勇者が王都へ向かってだいたい一週間、明日帰ってくるらしい。
「今日はどうする?」
寝起きのルートに問いかける。これはこの一週間、毎朝恒例となる会話だ。
ルートは其れに応えてとある提案をした。
「明日は勇者が帰ってくるし、それじゃあ、クエストに役立ちそうなものを買いに行きましょう」
「成程、わかった」
ちなみにクエストとはだいぶ前にやったオオカミ駆除とかそういったものを指す。
「そう言えばさ、この世界に魔王っているのか?」
そう言えば気になった。と云うのもこの街は明らかに平和すぎる。
「私もあんまりわからないの。勇者が言うにはこの世界のどこかにいて、日々世界征服を目論んでいるって」
「物騒だな」
「そうね。魔王、どんなのかしら」
勇者がいるのならば魔王がいるだろうというノリで聞いたがいるのか。なら、恐らくその魔王が彼女、ルートを殺すのだろう。
「さ、行きましょう」
「ああ、わかった」
街に出ると早速買い物を始めた。携帯食料だったり、なんだったり。
「それじゃあ次にあなたの服を買いましょう」
「え?」
「ほら、あなたずっと同じ服じゃない」
そう言えば、下着は流石に勇者に買ってもらったが、それ以外は忘れていた。ずっと制服のままだ。まあこの世界には魔法で服を洗濯できるので困らないのだが、
「まあ、郷に入っては郷に従え、だな」
「なんて?」
「気にするな」
こっちの世界の服か、この街は西洋風だし、今の服と大して変わらないだろうけど。
「大変だ!!」
衛兵さんが大声で街の中に呼びかける。
「どうした?」
街にいる人々がざわつき始める。
「街に魔物が現れたぞ!」
衛兵の一言で街はパニックになる。
「行くよ、ツバキ」
「わかった」
ルートと目を合わせると現れたとされる場所に駆けつける。
聞けばこの街には結界のようなものがあるらしく、普段は其れが魔物の脅威から街を守っているらしい。
そして、魔物とは、
『おい、ツバキ、魔物はやばいぞ』
「どういうことだ?」
『魔物とは魔王の創り出した獣、見た目は獣だが、強さは桁違いだ』
目的地に着くとそこには何人もの衛兵が倒れていた。
「これ、不味くない?」
『いったろ、早く俺を抜け』
φに指示され即座に抜剣し、相手を見据える。目の前にいるのは前に戦ったことのあるオオカミ。
「気をつけてツバキ、このオオカミ、前の奴とは違うから」
「ああ」
オオカミと向かい合う。突進、前と同様に横へ避ける、しかし、
「くっそ!!」
オオカミは避けられる直前に急カーブし、僕に噛みついてくる。辛うじて口に剣を合わせ、防ぐ。
「なんだよ、曲がるのかよ!」
『俺言ったじゃん!やばいって言ったじゃん!』
「喋ってる場合じゃないんだけど?」
『お前余裕あるな!』
しかし、そろそろやばい、腕が悲鳴を上げている。仕方がない、
「逃走だ!」
一瞬剣に込める力を弱め、そして後ろへ一気に引く。一度逃走の姿勢に入れば、僕の身体能力は強化される。
「φ、どうする」
一旦逃げて体制を立て直す。
『そうだ!』
「φ?」
『おい勇者溺愛してる貧乳さん!』
「な、φ⁉」
どうした、とち狂ったのか?そしてルートはというと、
「おい、私がなんだって?」
殺気立てて僕を襲ってくる。
「待て、今の敵は僕じゃない!」
「知るか!」
くっそ、剣に裏切られるし、ルートには殺されそうになるし、不幸だ。
「ん?まて、φ、お前」
取っ組み合っている二人にオオカミが襲ってくる。
「間に合った!」
僕たちとオオカミの間に人影が写る。
「勇者様!」
━「遠視スキル」を獲得しました。
今?でもそれって帳尻あって無くないか?
まあいいや。
「ナイス勇者!」
現れた勇者はその絶対的な力でオオカミを斬り刻んでいく。
「強い」
勇者は全てが終わると颯爽と振り返った。