死別
あれは受験料を振り込みに郵便局へ行ったときの事だった。
「動くな!」
銃を持った人たちがぞろぞろ入ってきた。
「またか、」
持ち前の不幸のおかげかもはや慣れたことではあった。こういう時はじっと目立たぬようにすればいい。
けれどここにいる人たちは自らの想像を絶するほどに狂っていた。
銃声
誰かが死んだ。
「ははは!素晴らしい!命の輝き!今日はこんなにも命がある」
狂ってる。どうしよう。駄目だ。今死んだら駄目なんだ。あの人との約束を果たせない。
地獄の時間。
銃声
一人、また一人と死んでいく。老若男女問わず死んでいく。外には警察、それに
「何故ここに!?」
彼がいる。駄目だ。僕が死ぬのは駄目だ。彼が死ぬのはもっと駄目だ。
「おいそこの小僧!」
狂人に呼ばれる。こればかりは自分の不運を呪わずにはいられない。
「は、はい」
「この銃を持て」
気が弱そうだから選ばれたのか、
「良いかその銃で人を殺せ」
「そん、そんな僕には」
「お前には俺たちと同じ匂いを感じるんだ。お前は世界に絶望しているだろう。だから命の輝きを見て、救われるのだ」
狂人はなんの気まぐれか、外に立つ彼を中に入れた。
「大丈夫か、ツバキ!」
彼は拘束され、身動きが取れない。
「ツバキか、良い名前だ。ツバキ、あの男をその銃で撃て」
「む、無理です」
「やれ」
その言葉はひどく冷酷で、鋭い。
「い、嫌だ、僕にはできない」
「ツバキ!俺を撃て!」
彼が叫ぶ。その言葉がどれほどつらいことか、
「ほら?あの男もそう望んでいる。さあ、撃て!」
「はあ、はあ、」
荒々しい吐息、どうすれば。
「はいそれじゃあこの少年が撃つまで別の人殺します!」
明るい顔、まるでゲームをしている少年の様だ。
「わかった。撃つ、撃てばいいんだろ」
「お?早くしてくれよツバキ」
「はあ、はあ」
銃声
運悪く、一発目で急所に当たった。
「ああ、嘘だ、嘘だ」
「どうだ、これで君は俺たちと同類だ。殺人者」
囁くように男は言う。ゆっくりと彼に歩み寄る。
「ごめんない、僕が」
「ツバキは悪くない。お前は生きるべきだ。なんせまだお前はまだ人生を知らない。お前はまだやることがある。生きて、幸せになれ。お前の不幸は、」
それから先の事はあまり覚えていない。
ただ、彼は僕の手によって死んだ。
「ツバキ、人生はお前のものだ。生きていればいつかわかる」
「ツバキ、お前は幸せになれ」
「伝承しろ、ツバキ」
『死別』