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地縛霊

作者: 走馬灯

五月、地方の小さな小学校の廊下では取っ組み合いの喧嘩へと転じかねない火花が散るような激しい言い争いが起こっていた。

『あの山がそうだって言ってっぺ!』

『いやもっと高いに決まってっぺや! 』

『おめえ、馬鹿でねえのか? オラ父ちゃんにも聞いたんだ。 間違いなくあの山だ!』

耕太は目立ちたいが為にこの二階の窓から来週遠足で行く山が見えると嘘をつく目の前の同級生が許せなかった。

『嘘つけ!蔵王山があんな低いわけねえべや!』

耕太は負けないように声を張って怒鳴った。

『ふざけんなおめえこの!』

相手が耕太へと掴みかかりそうになった時に野次馬の一人が先生を連れてきた。

先生は空き教室へと二人を連れて行って喧嘩の原因や口論の内容を聞いて二人を叱った。

しかし耕太にはその言葉はちっとも入ってこなかった。

『おら何も間違ってねえ』

耕太は下を向いて怒られながらも小さく呟いた。

実際、遠くにはちょこんと小さく、山頂に雪を被った周りの山とは頭一つも二つも抜けている大きな山が見えた。

しかし、耕太にはそれを蔵王山だと認めたくない強い気持ちがあった。

蔵王山とは宮城県で一番高い山である。

一番が身近な存在であって欲しくないという思いがあった。

手元に無くて、憧れる存在であって欲しい。


先週、先生に『来週の遠足では、蔵王山へ登ります 』と言われた時、耕太は何とも言えぬ気持ちになった。

自分があの宮城一の山に登りきれるのかの不安と、宮城一の山を登りきりたい気持ちがせめぎ合った。

しかしその後、『無事登りきるとすごく綺麗な景色が見えます 』と先生が付け足した。

その瞬間に耕太の気持ちは高い位置にある夏の太陽のような透き通った期待の気持ちへと変わっていった。


長い間怒られた後、先生に授業が始まるからと空き教室から解放されてもやはり不満は溜まったままであり、気が済まなかった。

授業中も考えるのはやはり言い争いの事ばかりで、教科書は開いているが今何ページをやっているかなんて分かりやしなかった。

それでも授業は耕太を置いて進む。

先生は生徒を指名して教科書を音読するように言い、教室にはつまらなくて下らない教科書の内容が無感情な棒読みで音読されていた。

最初は窓の外の体育をしている下級生らしき生徒達を眺めていたが、とうとう耕太は地図帳を広げて蔵王山を夢中になって探し始めた。

宮城県のページは地図帳の前半の方にあるはず。

『耕太 』

氷を突っ込まれたみたいに背筋が冷たくなった。

関係ない地図帳を広げていたのがバレたに違いない!

また空き教室で長々と怒られるのは気だるいと思った。

『日直だろ、号令』

先生の声は優しくも冷たくも無く朝のアラームを想起させるようなそれだった。

耕太はひとまずバレなかったことに深く安堵した。


『起立!注目!礼!』

どこか間の抜けた自分の声が教室に響く。

椅子から立ち、礼をする一連の動作をしながらも耕太はやっぱり蔵王の山がここから見えるわけが無いとずっと考えていた。

着席して、急いでまた地図帳で見ると蔵王山は山形に近かった。

この事はやはりここから見えるはずが無いと耕太に確信させた。

『日直、窓開けて空気の入れ替えをして』

先生は教室から出て行く時にふと思い出したようにドアの前で教室全体に聞こえる声で言った。

耕太は仕方なく窓際へと歩き、窓を開けると山から来る涼しい初夏の風が教室へと流れるように入ってきた。

窓の近くの生徒の机の上にあったプリントが数枚飛ばされる。

トンネルみたいに紙の音が響いて、数人の生徒が『大丈夫?』と言い、拾うのを手伝う。

休み時間になると教室はまた活気を取り戻していく。

耕太には何故だか吹いた風が教室を緑色に彩っているように感じた。

五月の若葉薫る教室で耕太の期待は胸いっぱいに膨らんだ。



『忘れ物は無い?』

遠足へと出かける前に耕太の荷物は母によって入念にチェックをされた。

『忘れてても戻ってこれるよ。近いし』

耕太はそう言ったが母は聞く耳を持たず、チェックは何回も重ねられた。

『よし、大丈夫! 行ってらっしゃい!』

母はそう言って笑い、耕太を送り出した。

そうして耕太は学校へと歩き出してから色々な事を考えた。

登れなかったらどうしようだとか、辛いのかなだとか大半が男の癖に弱気だと笑われるような事ばかりであった。

それでも考え込まずにはいれなかった。

そのぐらい蔵王山は耕太には大きな存在であった。

そして遠足前の今は立ちはだかる巨大な壁でもあった。

下を向いてウンウンと唸りながら校門を抜けると前から『あ、来た!』と声がして前を向くと一年生の頃から仲が良い啓介が『おーい!』と笑って手を振った。

遠足の日は朝の会は教室で行わず、校門のすぐ後ろにクラスごとに四列に整列して行われる。

そのために、耕太は啓介に小さく手を振り返すと啓介のすぐ後ろへと腰を下ろした。

『楽しみだな』

『そうだな』

啓介も耕太も周囲を包む普段とは違う空気にワクワクしていて、二人とも顔を見合わせてニヤニヤと変に笑った。

列に並ぶ児童で遠足が始まると言う非日常感に心躍らない人はいなかった。

誰しもがいつもよりおしゃべりで、浮き足立っていた。

『静かにしてください 時間です 』

先生がメガホンを使って全体に注意する。

『もうあなた達も低学年じゃないからね 下級生が見てますよ 』

先生は学年の集まりの度にCDの様に毎回毎回同じ内容を繰り返している。

『もうすぐバスが来ます。バスが来たら1組から順に、どんどん乗ってください 』

そう先生が言い終える前に、バスと言う言葉を聞いて興奮した児童が我慢できずに小さな声で『もうすぐだぞ!』と言っているのが至る所で聞こえた。

『君たち、もう低学年じゃないんだからね 静かにしてください うるさいと先生の声が聞こえなくなるよ 』

先生はさっきより声を荒らげて注意したがどこ吹く風であった。

そのうちに、バスが学校の前に着くと『おおー!』と声を上げてバスの方を見た。

立ち上がってバスを見る児童もいた。

一生の思い出に残ると誰も疑わずにそう思っていた。

耕太もそうに違いないと盲信している一人に違いなかった。



クラスの担任の先生は列の先頭に位置し、先頭と最後尾で児童を先生二人で挟むように登山は行われた。

後ろに次のクラスが存在しない最後尾のクラスには付き添いの先生が後ろにいて、やはり児童達はどのクラスも大人二人に挟まれた。

全体で行動するために歩く速度は遅く、遠足で舞い上がり活発になった児童はいくらかの不満を持った。

『俺らだけ先いくべ』

啓介も歩みの遅さに耐えかねた一人であり、二人で早く山を登ろうと耕太を誘った。

『でも先頭行ったら先生いっぺ、先なんて行けっぺか?』

耕太は酷く困った。

前の人を抜かすのは駄目だと事前の集まりで言われていた。

全体で行動することが目的だとも言われた。

耕太には全体で決めた規則を破りたくないし、今目の前で我慢ならない様子の啓介を放っておくこともできなかった。

耕太の気持ちはまた右にも左にも行けない、その中間を彷徨った。

『なんだべおめえ、俺に着いてこねえのか?』

啓介は何も言えない様子の耕太をまっすぐに見た。

その声には少量の怒りを含んでいた。

啓介は耕太をただ見ただけだったがその目にはテコでも動かないほどの強い力や信念が存在していた。

それは『着いていかない』と言ったら自分は置いていかれると耕太が確信するのに十分だった。

耕太は『分かった』と言って一度頷いた。

『よし、行くべ』

啓介は歩みの速度を上げて、一列になった児童の左を追い抜いていき、耕太もそれに着いていった。

麓の道は、普段子供達が遊ぶような森や林と大きな違いは無かった。

周りが木に囲まれて足元には生命を感じさせる茶色の土があり、落ち葉がそれを覆う。

この村の子ならばいつもと同じ環境だった。

それ故に遠足へ非日常感を抱いていた児童達はたちまち消化不良になってしまっていた。

『待ってよ』

耕太は先へと急ぐ啓介の姿が実際の距離の何倍にも遠くに見えたので少し急いで距離を詰めた。


しばらく列の左を歩き続けると前に大人が見えた。

『あれ、先頭でねえべか』

耕太は前の方を指さす。

『ああ、あれ一組の先生だな。あれ先頭だべな』

啓介も前の様子を見て確信している様子だった。

『どうすっぺ、抜かしたってバレたら』

耕太は額に汗でも浮かべてそうな表情で啓介の顔を見た。

啓介はなぜか気持ちの良い笑顔を浮かべていた。

『大丈夫だべ』

そう言ってこの不思議な笑みを絶やさなかった。

そうして二人はズンズンと抜かしていき、ついに先頭へと辿り着いた。

啓介が先頭の児童に『よう!』と声を掛ける。

先頭の児童はひどく疲れた様子で『よう』と返した。

『おめえ疲れてんのかこの!』

啓介は彼を軽く小突いた。

『いや、まだ大丈夫だ』

彼も余裕を感じさせる笑みで啓介に答えていた。

だがそれも無理はなかった。

児童達は結構な時間の間歩いていた。

彼のような疲れた児童がいるのも何ら不思議ではなかった。

その時に、前にいる先生の近くで『疲れた!もうやだ! 』と大きな声が上がった。

それは女子の声だった。本当に耐えかねない!と言った様子の声色で今にも泣き出しそうな悲鳴に近い痛々しさを持っていた。

『なんだべな』

啓介は真っ先にその子の方へヒョイヒョイと足を運んだ。

先生は『もう少しでお昼休憩だから、頑張ろう? 』

とその子を元気づけている。

それでもその子はほっぺたを真っ赤にして首を横に振った。

『疲れた』と今度は涙声で小さく、もう一度呟いた。

ちょうどその時に啓介はそこへ到着し、啓介はその子の前へと出ると、手のひらを上に向けて手を差し出した。

『なに?』

その子は困惑した様子で啓介の行動の意味を問う。

啓介は『リュック持ってやっから、こっちさ寄越せ』と落ち着いた優しい声で言った。

『ありがとう』

その子はリュックを啓介へと手渡すともう泣きごとを言わなくなった。

リュックを前にも後ろにも掛けている啓介の姿はやはりおかしかった。

しかし耕太には眩しく、かっこよくも見えた。



児童達は傾斜の無い広場のような所でお昼休憩を取った。

疲れて無口気味になっていた生徒達はたちまちに血の色を取り戻し、それぞれが家から持ってきた風呂敷で包まれた弁当箱をリュックから取り出した。

中には地面にブルーシートを引く児童もいたが大半は気にせず座った。

そして十分ほど経つと児童達はそれぞれの家庭の味のいくつかを交換しながら弁当を食べ終えて荷物をリュックにしまい走り回った。

耕太は啓介と弁当を食べ終えると思い出に持ち帰るように、その広場で一番大きな葉を探し、もぎ取ってプリントを入れるプラスチックのファイルに大切にしまった。

『そろそろ行きますよ 四列に整列してください 』

先生がメガホンを使って全体に呼びかける。

児童達は小走りで集まって四列に並び、先生達は生徒の数を数えた。

先生達が集まってそれぞれ大丈夫か確認するとメガホンを持った先生が

『はい、それではまた一組から行きます 左の列から順に来てください』

と言って一組を連れて歩き始めた。

『もう少しで頂上らしいぞ』

啓介は後ろにいる耕太の方へ振り返ってイタズラっぽく笑った。

『啓介、前』

耕太は啓介に前の人がもう出発していることを伝え、二人で『やべ、やべ』と言いながら急いで追いつくよう早歩きした。


歩き始めるとすぐに麓の時よりも地面の石が大きくなっている事や麓にあったような背の高い木はどこにも無い事に気づいた。

『耕太、これ見てみろ』

啓介は石の上にあった茶色のボロボロの雑巾の切れ端のような繊維を感じさせる小さな丸い物を指さした。

『なんだべ、こりゃフンだな』

耕太がそう言うと啓介はニヤリと笑い

『熊だべか』

そうおどけたような声で言った。

『おっかねえごだ!』

耕太が大きな声を出して怖がると啓介は満足したように笑った。



『曇ってきてねえべか? 』

そう啓介が言ったほんの数分後にはもうあたりは真っ白な深い霧に包まれ、ビュウビュウと強い風が児童を襲った。

前にある風車が壊れそうな音を立てて回っているのを見て耕太は腰が抜けそうになった。

だがしかし耕太はだんだんと傾斜が緩くなってきていて、今はもうほとんど平地と何ら変わらない事に気づいていた。

それはつまりもう少しで蔵王山を登り終えることを意味している。

あと少し、そう思って耕太は力を振り絞った。

『本来なら、お釜が見えるはずだったんだべな』

啓介はひどく残念そうにそう言った。

お釜とは蔵王山にある火口湖であり、頂上付近で見ることが出来る。

耕太は濃い緑色の水が溜まっている美しい様子を写真で見た事があった。

今回の楽しみの一つであったが耕太は目の前の霧と暴風の中登るのに精一杯だった。

多少落ち込みこそしたが、体の力が抜けることは無かった。

そうして懸命に歩いてしばらくが立つと啓介は大きな声を出して前のある方角を指さした。

『耕太、雪だ!雪! 』

五月の蔵王山は頂上付近にのみ雪を被っていた。

『本当だ! 』

耕太は雪を五月に見れることに特別感を感じて、興奮した。

『すげぇなぁ 蔵王山は』

啓介は短歌でも読むようにしみじみと、そう口にした。

『んだなぁ』

耕太もやはり同じ口調で啓介に同意した。


歩くにつれて、前の霧の中にだんだんとぼやけて何かの集合体があるように見えた。

『なんだべあれ』

耕太は啓介にそう聞くと啓介は

『知らね』と答えた。

だがしかし、近づくにつれて人の姿がハッキリと見えるようになると啓介は

『先生だ! 』

と声を上げた。

下山はクラスごとに行われる為に、先頭の先生は山頂に着くと後ろの生徒を待っていた。

『頂上だべ! 』

啓介は目を輝かしてさっきより大きな声を上げた。

『んだな!』

耕太も嬉しそうな声でそう返事をしているうちに二人は先生のもとへ着いた。

先生の周りでは既に山頂についていた児童達が楽しそうに

『やったな』とか『これからおりるんだど 』

と話をしている。

『耕太! 』

啓介は頂上についてから何よりも先に耕太の名前を呼んだ。

『やったな! 』

啓介は心底嬉しそうだった。

『おう! 』

耕太はそう答えると自分の手を力いっぱい握った。

心底嬉しいのは耕太も同じだった。

昨夜の不安を乗り越えた達成感を体全体で感じていた。

何も見えない霧の中だったが耕太には山頂から見えたであろう綺麗な景色を容易に想像できた。

そして耕太は下山後、大人になるまでの自分の未来も考えた。

これからまたいっぱい何かを学んで、経験して、少しずつ大人になっていく。

それは山頂からの景色に負けないぐらい綺麗で、胸が熱くなるような物だった。



『おかえり』

家に着いて玄関で靴を脱いでいると、それに気づいた母が声をかけた。

耕太は声を聞いて視線を自分の足から母に向けた。

『ただいま、久しぶり』

『ご飯、できてるからね』

そう言われて耕太は腕時計を見た。

時刻は午後七時三十分を示していた。

『ありがとう』

耕太はリビングのドアを開けて中を見ると、炬燵に耕太の物だった箸やコップ、茶碗が並べられているのに気づいた。

耕太は炬燵に入ると母が右手に耕太の茶碗と左手にしゃもじを持って

『どのぐらい食べる?』

と聞いた。

『少なめで。そんなにいらない』

『はいはーい』

母は耕太に背を向けて、キッチンへと行きご飯を盛りながらふと、こう聞いた。

『東京、四年間過ごしてきてどうだった?』

耕太は高校を卒業した後、東京の大学へと進学した。

そして今、宮城での就職が決まった為に帰ってきていた。

『人が多い』

『なにそれ』

母は耕太の答えを聞いて少しだけ笑った。



カチャカチャと音を立てて、母が耕太の食器を洗っている。

『ねえ』

耕太がそう母に声をかけると母は耕太に背を向けたまま

『なに?』と言った。

『散歩してきていい?』

『いいよ別に』

耕太は帰郷する度にこのような平凡な会話に温もりを感じていた。

『行ってきまーす』

耕太は玄関のドアに手をかけて、開けるとドアの隙間から、雪でも降りそうな冷たい風が耕太に向けて吹いた。

『ジャンバー着ようかな』

耕太は息を両手に掛けながら独り言を言った。

手足の感覚が無くなりそうな寒さの中、耕太は迷いながらもジャンバーは着ずに外に出かけた。

灯りが無く真っ暗な道路を耕太はゆっくり歩いた。

電柱は点在しているようで、遠くにはポツポツと灯りが見える。

耕太は歩きながら、小学生の頃に近所のおじいさんおばあさんに『おかえり』と声を掛けられながら家へ帰ったり、ちょっとだけ駄菓子屋に寄り道した事を思い返した。

あの人達は今、認知症で互いの存在すら誰か分からなくなって別々の施設で暮らしているらしい。

今では空き家だけがポツンと存在している。

隣の家もおばあちゃんが孤独死して、家は潰されて駐車場になった。

こんな田舎に駐車場なんて、と思ったが駐車場には毎日工事の車が止まっている。

耕太は後ろを振り返って、自分が歩いてきた道を振り返ってみた。

道路は大きな凸凹があり、綺麗に整備されているとは言えない。

『誰だよこんな所に』

耕太は道路に大きな石があるのを見つけ、それを拾ってドブへと落とした。

幼い頃の耕太はここが一番だと思っていた。

宮城県を超える場所なんて無いと考えていた。

しかしその考えは大人になるにつれて段々と壊れていった。

東京は宮城よりもずっと発展しているのに気づいた。

富士山は蔵王山よりも遥かに高いのに気づいた。

帰ってくる度にこの土地を包む『寂れ行く土地の空気』に気づいてしまっていた。

ここは、やはり東京より時間の流れる速度が遅くて、活発じゃなくてまるで死を待つ末期患者のようにその日暮らしで、何も起きなくて、ここが嫌いになって東京の大学に進学して、四年をかけて内と外の違いを完全に理解した。

だが今でも耕太はどうしようも無いぐらいに何回もここに戻ってきて、呪いのようにここに縛られている。

『ただいま』

もう一度玄関に立つと耕太は右の壁にあるものを見つけた。

蔵王山で取った大きな葉が押し葉にされている。

小学生が作った拙い押し葉はあの頃のような鮮やかな緑色じゃ無くなった。

すっかり枯れてしまい、みすぼらしくなった。

それでも色々な人に大事にされながら、玄関に飾られている。

耕太は階段を上がってベランダに出て、久々に啓介に電話をかけた。

明るい声で話す耕太をハッキリと鮮明に見える月と無数の星が優しく見守っている。

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