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俺は装備を失った……


「私……一体どうしちゃったのかしら……」


「狂化の影響で我を失いゴブリンを滅殺。その暴力性は際限なく、ついには30体以上のゴブリンを倒すまで正気を取り戻ることはなかった……返り血を全身に浴びたその姿は、赤野さんなのに緑色に染まっていた」


「何よその説明口調。ぶっ潰すわよ」


「ごめんなさい」

 

 赤野さんは狂化の効果により、身体能力の向上と引き換えに正気を失った。ただ眼前の敵を打ち滅ぼすだけの殺戮マシーンへとなり果てたのである。そんな状態でも僅かながら意思の疎通は可能なようで、会話などはできないものの俺の言葉に反応して行動してくれた。なので、俺は彼女を次なるゴブリンの元へと案内する役割に徹したのだった。その結果、彼女はゴブリンの返り血をこれでもかというほど浴びているのである。


「途中で止めてくれてもよかったんじゃないの!?」


「そうはいっても、止め方なんて知らないし。変に刺激すると俺が殺されるかもしれないし」


「流石に貴方を殺したりはしないわよ!……多分」


「まあその話は一旦置いておくとして。あれだけの数のゴブリンを殺したんだから、かなりレベルが上がったんじゃないかと思うんだけど」


 赤野さんは俺の何倍もの数のゴブリンを倒した。とすると、彼女のレベルは俺以上に上がっているはずである。


「……レベルが10になってる。それに、なんか変な項目が増えてるわ」


「変な項目って?」


「あんまり言いたくないわ」


「そこを何とか。教えてよ」


「……ジョブバーサーカー(狂戦士)だって。何なのよこれ。まるで私が頭おかしい人みたいじゃない」


 赤野さんのステータスにはジョブの項目が追加されたらしい。自分のステータス画面を見ても、そんな項目はない。


「もしかすると、レベルが一定まで上がるとジョブが解放されるのかもしれない」


 俺と赤野さんは初めての戦闘でお互いにスキルを獲得した。我を忘れてゴブリンを倒した赤野さんは狂化。背後から奇襲を仕掛けた俺にはアサシンエッジ。そして、ジョブの出現。スキルとジョブには何らかの関係性があるのかもしれない。


「このジョブっていうのも、ゲームとかで出てくるものなの?」


「そうだね。例えば剣士だったら剣の扱いがうまくなったり、魔法使いだったら魔法が使えたり。っていう感じだね、ざっくり言うと」


「じゃあ私のバーサーカーは?」


「頭のおかしな人になれるってことだね、ざっくり言うと」


「そこはざっくり言わないで頂戴!」


「まあまあ……ところでさっき、泉を見つけたんだ。ゴブリンの返り血、流しちゃった方がいいんじゃない?」


「それ、どこ!?」


 やっぱり赤野さんも女の子。返り血でべたべたな状態は早く解消したいようだ。返り血を浴びる女の子なんて物凄く稀有な存在な気がするけれど。


「こっちこっち。さっきゴブリン狩りしてる時にたまたま見つけたんだ」


 少し歩いて、泉に到着した。


「ところで赤野さんは替えの服持ってる?」


「あ、持ってない。あるわけないじゃない、突然こんなところに来ちゃったんだもの!どうしよう、折角汚れを落とせると思ったのに……そうだわ!」


「ん?」


「貴方の制服、貸して!」


「ええ……」


 なんてことを言いだすのだ彼女は。

 今の俺は学校の制服を着ている。灰色のスラックスに白のワイシャツ、そしてブレザー。それを彼女に渡してしまうと、俺はパンツ一丁の変態に成り下がることになる。


「男なんだから平気でしょ」


「いやいや、俺にも一応人としての尊厳があるわけでして」


「女の子に下着で過ごせっていうの……!?」


「そう言われると、うーん……まあいいか。こんな時だし」


「じゃあ決定ね!制服はそこに置いといて。それから、私が水浴びしてる間は絶対にこっちを見ないでよね。いいっていうまで振り返っちゃだめだから」


 こうして、水浴びする女子を背にパンツ一丁で体育座りをする哀愁漂う男子生徒という絵面が完成したのだった。


「ところで赤野さん、君って今、裸なわけだよね」


 俺は地面に転がる石ころをじっと見つめながら彼女に言う。


「……ちょっと、変なこと考えないでよ?」


「変なことなんて考えないよ。今俺が考えているのは至って普通なことさ。クラスメイトの女子がすぐ後ろで水浴びをしてる。ちょっと振り返るだけでその様を拝むことができる。となれば如何にして覗き見するかを考えるのが男子高校生にとっては普通の考えだと思うけどね」


 今の今まで気にしてはいなかったけれど、赤野さんはかなりの美少女である。顔立ちは整っているし、スタイルだっていい。健全な男子高校生ならば、何を犠牲にしたって彼女の裸体を目にしたいと考えるだろう。


「……もし覗いたら”狂化”するわよ」


「ごめんさない絶対覗きません」


 何を犠牲にしたって、とは言っても流石にまだ命を失うことはしたくない。


「赤野さんって結構胸大きいよね」


「さっらとセクハラ発言するのやめてくれない?ほんとにぶっ潰すわよ?」


「いや、こうしてじっと座って待つだけっていうのも暇でね。何か有益な会話でもした方がいいだろう?時は金なりっていうしさ」


「だからってどうして胸の話になるわけよ」


「俺にとっては有益だから」


「はあ……」


 赤野さんは大きくため息をついた。


「ねえ、入間君。一つ聞いてもいい?」


「赤野さんのスリーサイズを教えてくれるならなんだって答えるよ」


「茶化さないで」


 冗談交じりの掛け合いからは一転、彼女は真面目な口調で問いかけてきた。一体何が聞きたいのか。大体検討はつくけれど。


「学校中で噂になってるわ、貴方が犯罪者(・・・)だって。今まで私はその噂を信じてた。皆がそういうから、きっとそうなんだろうって。でも、今こうして貴方と過ごして思うのよ。貴方はあんなこと、噂になってるようなことをするような人じゃないわ。ねえ、あの噂は嘘なんでしょう……?」


 やっぱり、その話だ。


「答えたくないな、その問いには」


「……そう」


 その後、彼女が水浴びを終えるまで俺たちのどちらも口を開くことはなかった。彼女が何を思っていたかはわからないが、俺という人間に対して懸念を抱いていることは間違いない。


 何より、俺は不利益な会話はしたくなかったのである。



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