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ゴブリン狩り


「それでこれからどうしましょうか。洞窟の出口を探す?」


 ゴブリンとの戦闘、その余韻も落ち着いたころ赤野さんが言った。


「もちろん出口を探すことは最終目標だけど、その前にやっておきたいことがあるんだ」


「やっておきたいことって?」


「レベル上げだよ。この先、ゴブリン以外のモンスターが出てくる可能性がある。そして、そのモンスターがゴブリンよりも強かった場合、俺たちが勝てる可能性はあまり高くないと思うんだ。だから、今のうちにゴブリンを倒してレベルを上げておきたい」


「な、なるほどね……確かにそれは大事よね」


 赤野さんはあまりわかってないみたいだ。それも仕方ないことではある。ゲームなどの文化に触れてこなかった彼女からすれば。


「さて、ここで一つ確認しておきたいことがある。赤野さん、君は狂化を自分の意思で発動することができる?」


 赤野さんの狂化は強力な能力だ。戦闘力を著しく上昇させることができる。が、その発動条件は感情の激しい高ぶり。最初のゴブリン戦の時のような窮地でないときでも発動できるのだろうか。もし発動できるならばレベリングがかなり捗るのだけれど。


「う、うーん……どうかしら。あの時は恐怖とか怒りとかで頭がいっぱいだったから。とにかく、試してみるわね―――どう、かしら」


「……特に変化はないみたいだね。やっぱり、何か切っ掛けがないと難しいみたいだね」


「……ごめんなさい」


「謝る必要なんてないさ。とりあえずの方向性は決まった。早速取り掛かろう」


 もたもたしている時間はなかった。いつまでも洞窟の中にいるわけにはいかない。ステータスやスキル、それらの不思議パワーを得たとしても俺たちが人間であることには変わりないのだ。いずれは腹も減るしのども乾く。なるべく早くここから脱出する必要がある。


「まずゴブリンを探す。で、俺が後ろからこっそりと近づいて殺す。そしたら次のゴブリンを探して同じようにする。これを繰り返すんだ」


「それだと、入間君のレベルだけ上がることになるわよね?」


「その通り。まずは俺が強くなる。それから赤野さんのレベル上げを始めるんだ」


「……よくわからないけど、貴方の言う通りやってみましょう」


 こうして俺たちのレベル上げ作業が始まった。







「ぐぎ……」


 早速見つけたゴブリンを、早速背後から刺し殺す。小さなうめき声だけを残して、モンスターは物言わぬ肉塊へと変わった。


「アサシンエッジ、このスキルかなり強力だ」


 背後からゴブリンに近づきナイフが届く範囲まで来たとき、スキルが使えると漠然とそう思った。確信はなかったが、スキルの発動を思い描きながら放った一撃は明らかに洗練されていた。


「刃物の扱いは初心者なんだけど、それでこの威力だもんな……」


 このナイフで最初にゴブリンを倒したとき、刃の半分程度がゴブリンの頭に突き刺さった。それ以上は俺の腕力では刺すことができなかったのだ。だが、アサシンエッジを使ったとき、刃が吸い込まれるように深々と肉に突き刺さった。一撃の威力を上昇させるスキルの効果が発動したのだろう。


「この調子でサクサク倒していこう」


 それから30分が経過した。

 ゴブリンは至るところを徘徊していたが、そのどれもが群れではなく一匹で行動していた。それが幸いし、俺は13匹のゴブリンを倒すことができた。

 そして―――




【ショウイチ・イルマ】




LV2 → 6




攻撃 5 → 20




防御 3 → 15




魔攻 0 




魔防 0




スキル 『アサシンエッジ(隠密刃)


---


 レベルが2から6に上がり、各能力値も上昇してた。最も、魔攻と魔防の数値は相変わらず0のままだったが。

 ゴブリンを倒す数が増えるにつれ、明らかに体が軽くなり、動体視力も向上していることが実感できた。レベルの上昇は間違いなく能力の向上に作用している。


「そろそろいいかな」


「ちょっと、どうするのよ」


 俺がゴブリンを殺しまくるのをただ後ろで見ていた赤野さんは、最初こそ気味悪そうに死体から目を背けていた。けれど13体目のゴブリンを倒したとき、彼女はむしろ好奇の視線すら向けるようになり「ゴブリンの血って緑色なのね。それに脳みそみたいな部分、かなり小さい。頭は良くないみたいよね」なんてまじまじと死体を観察するくらいだった。


「これから赤野さんのレベル上げを始めるよ。上手くいく確証はないけど、多分大丈夫だと思う」


「けど私はレベル2のままだし、狂化状態も発動できない。入間君みたいに後ろからゴブリンを刺すのも上手くできる自信はないわ」


「そうだね。だからゴブリンを簡単に殺せる状態を作るんだ」


「それって……どうやるの?」


「こうするんだよ」


 タイミングよく、少し離れたところにゴブリンの姿が見えた。

 俺は背後からゴブリンに近づく……のではなく、堂々とその正面に立ちナイフを構える。


「ちょ、入間君!?」


「大丈夫。赤野さんは俺の後ろに」


 ゴブリンは俺に気が付くと、襲い掛かってきた。

 その太い両腕を使い、地面を殴った反動でこちらに飛び掛かってくる。最初の戦闘の時、この予想外のスピードに俺は呆気なく捕まってしまった。しかし今は違う。


「やっぱり遅いな」


 レベルアップの影響で動体視力も向上している。こちらに向かってくるゴブリンの動きがゆっくりと感じられる。

 俺はナイフを二振り、ゴブリンにお見舞いしてやった。


「ぎ、ぎぃ……!?」


 ぼとり、と地面に倒れこむゴブリン。その体にはもう両腕は存在していなかった。


「腕!腕を切り落としたのね!?」


「そう、このゴブリンの武器は間違いなくこの太い腕だ。そしてそいつを切り落としてしまえばゴブリンには何の脅威ない」


「す、すごいわね……それで、どうするの?」


 俺は無言で、両腕を失い痙攣しているゴブリンを指さす。


「え……まさか?」


「そう。俺がゴブリンの両腕を落とし、無抵抗になったゴブリンを赤野さんが殺す。上手くいけば安全にレベル上げが出来るってことさ」


「あんまり気乗りしないけど……それが一番効率的よね、今の状況だと」


「うん、だからひと思いにやっちゃってよ」


「ううう……何だかゴブリンが可哀そうに見えてきたわ」


 ゴブリンは体をぴくぴくと痙攣させているが、その動きも次第に鈍くなり、絶命しつつあることは間違いないようだ。


「早く止めを刺してあげるっていうのも優しさだと思うよ」


「そう、よね…よし、やるわ!」


 そして、赤野さんは無抵抗のゴブリンを石で殴り殺した。


「はぁ、はぁ……やったわ、やってやったわぁぁ!!このくそゴブリン、殺してやったああああ!!あははははははっ、もっと、もっと殺させてええええ!!!!」


「ちょっと、赤野さん?」


「あはははははははっはははあああああっ」


 これ、間違いなく狂化発動してる。赤いぼんやりとした光が赤野さんを包み込んでいるのが見えた。

 まずい、いや?逆にチャンスかもしれない。


「赤野さん、あっちにゴブリンが!!」


「あああ、ゴブリン殺すううううううっ!!!!!」


「今度はあっちに!」


「ああうああっああぅあああっ!!」


「凄い、アッという間にゴブリンを!」


 この後、狂化が解けるまでひたすらゴブリンを殺し続けた赤野さんなのだった。


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