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導入的な何か


「いったいこれからどうすればいいのよ」


 彼女が言った。

 相当追い込まれているのだろう。その顔は蒼白で、今にも泣きだしそうなのを堪えているように見える。


「まあ、何とかなるんじゃないか」


 俺が言うと、彼女はキッと俺を睨みつけた。


「適当なこと言わないで!こんなわけのわからない場所で、しかもあなたみたいな奴と二人きりなんて、もう最低よ…」


 あなたみたいな奴、とは大層な言い草だ。

 確かに俺たちは今危機的状況に陥っている。それは間違いない。けれど、悲観に暮れているだけでは事態が好転するわけもない。困難な時こそ楽観的な思考が必要だ、というのが俺の考えだった。


「さて、どうしたもんかな…」


 俺と彼女は今、薄暗い洞窟に二人きりだった。先ほどまで教室で授業を受けていたにも関わらず、気づけばこの場所にいたのである。



「ところでさ」


「…何よ」


「名前、聞いてもいい?」


「はあ!?あんた、私のこと知らないの!?」


「見覚えはあるけど、名前は知らない」


 まずはお互いに自己紹介をする必要がある、と俺は考えた。しかしどうやら彼女は俺のことを知っているようで、俺もまた彼女の名前を知っているものだと思っていたらしい。

 確かに、俺たちはクラスメイトだった。それは俺も覚えている。何度か顔を見た記憶はあるが、名前までは知らなかった。なぜなら俺はボッチな生徒だったからである。担任の名前すら憶えていないのだ。彼女の名前を知らないのだって、仕方のないことだ。


「教えてくれないか?」


「はあ、信じられない。まったく…」


 怒り半分、呆れ半分な彼女は少し渋りながらも口を開いた。


「…夕衣よ。赤野夕衣(あかのゆい)。あなたと同じクラスの」


「そうか、赤野さんか。ごめん俺クラスの人の名前ってほとんど覚えてなくて」


「別に。あなたに覚えてもらえてなかったことはどうでもいいのよ。ただちょっと呆れただけ」


 口ではそういいながらも、彼女の両目は俺を射殺さんばかりの視線を放っていた。


「悪いね、ほんと。俺の名前は入間正一(いるましょういち)です。よろしく」


「知ってるわよ。悪い意味で有名だものあなたは」


 彼女、赤野夕衣はやはり俺のことを知っているようだ。俺のこと、というよりは学校中に広まっている俺の悪評のほうだろう。まあいい。


「じゃあ赤野さん。ちょっと落ち着いて状況を整理してみようよ。二人で考えればどうしてこんな事態になったのかわかるかもしれないし」


「…そうね。ええ、その通りね。冷静にならないと…」


 赤野さんは感情的な人ではあるだろうけど、決して頭の悪い人ではないらしい。少しばかりの冷静さを取り戻した彼女は俺の提案を肯定した。


「ありがとう。とりあえず確認だけど、俺たちさっきまで教室にいたよね?普通に授業を受けてた」


「ええ、そうね。間違いないわ。でも気づいたらここにいたのよ。ほんと何が起きたのかわからないわ」


「うーん、もしかするとだけどこれって異世界召喚みたいなやつじゃないかな」


「…異世界?何よそれ」


 赤野さんかライトノベル等のジャンルには疎いらしい。まあ、女子高生だし知っている方が稀かもしれない。


「小説とかでそういう話があるんだよ。急に地球じゃない世界に飛ばされて、そこはファンタジーな世界でっていう」


「ふーん…そんなこと現実に有り得るわけないじゃない」


 俺の意見はバッサリ否定された。確かに俺も本気でそう思っていたわけではない。

 冷静に考えてみても、結局何の進展もない。一体どうしたものかな。


 俺は右のこめかみを指で掻いた。それは悩んだときに不意に出る俺の癖だった。と、その時だった。


 視界に何かが飛び込んできた。


「うわっ」


「え、なに?どうしたのよ」


 赤野さんが若干おびえ気味に俺を見た。


「いや、なんだこれ…文字?」


 俺の視界には文字が浮かんでいた。急に文字が、空間をスクリーンにしたみたいに眼前に浮かび上がってきたのだ。それは…俗にいうステータス画面だった。


【ショウイチ・イルマ】


LV1 

攻撃 3

防御 2

魔攻 0 

魔防 0

スキル 無し


---


 これ、間違いなくステータス画面だ。俺は確信した。

 この攻撃等の数値が何を表しているのかは何となくわかる。LVは1なのでおそらくまだ弱い方なのだろう。LVがあるということは、LVを上げる方法があるということ。モンスターを倒すのがLVを上げる定番の方法だ。となると、この世界にはモンスターがいるということになる…?


「ちょっと、急に黙ってどうしたのよ!」


「あ、ごめん」


 ステータス画面の存在に、赤野さんのことをすっかり忘れていた。


「赤野さん、ちょっとここ触ってみて」


「な、なによ急に、なにこめかみ?こう…?」


 赤野さんもステータス画面を見ることができるのだろうか。とりあえず試してもらうほかない。

 彼女は不審がりながらも指先でこめかみに触れた。左側のこめかみに。違うそっちじゃない。


「え、なにこれ…!?」


「何か見えた?自分の名前とその下に攻撃とかの数字とか」


「えっと、これは…」


 赤野さんは俺の頭上を指す。


「あなたの頭の上に、あなたの名前が書いてあるわ。ショウイチ・イルマって。文字が浮かんでるのよ」


「あー、なるほど。そういうことか」


 合点がいった。


「何がなるほどなのよ?」


「つまりは右のこめかみに触れるとステータスが表示されて、左のこめかみに触れると対象物の名前とかを知ることができる、つまりスキャン機能ってことだと思うよ」


「つまりどういうことよ!?」


「…赤野さん、ゲームとはやったことない?RPGとか」


「ないわ」


 なるほど。

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