2 無貌の神
彼が次に目覚めたのは、何もない空間だった。暗闇と思えば暗闇、真っ白な部屋だと思えば真っ白な部屋といった、なんとも不可思議な空間だった。
「いやぁ、本当に疲れたあ。誤魔化すの久々だから柄にもなく手間取っちゃったよ。数多の人間を異空間に送り込んだ僕がね」
声が聞こえた気がした。しかしそれは、まるで耳で文字を読むような、音とは思えないモノだった。
「やあやあ、始めまして。いや、数分ぶりだね。内藤 徹平 君」
「なっ、お前…いや、貴方様はもしかして…」
彼が最後に見た光景から、彼は咄嗟にこの神が浮かんだ。そしてこの答えは、“混沌”から返された。
「ご明察。私はnyarlathotep。人間風に言うとだけどね。実は君にお願いがあるんだ。魔法やレベルシステム、スキルなどがある異世界に行って欲しいんだ。理由は話すとそれこそ永劫にも近い時間がかかるから省くけどね」
彼は目の前に現れた、黒い珠を本能からかの“混沌”の神だと理解し、警戒した。こいつは、いやこの御方は信用できない神なのだ。
「う~ん…人間の知識ではそうなっちゃうよなやっぱり…
実際はね、我ら外なる神や旧支配者に関する知識のうち、人間に知られているのは極限られた欠片なんだよ。旧支配者クラスで既に人間が考え付くすべてのことができるんだ。旧神は人間の知識そのままの雑魚だけどね。
おっと、話が逸れたね。これは既に決まったことだから拒否権は無いよ。一応の説明責任を果たす為だ」
彼は“混沌”の話を完全に理解したが納得はしていなかった。しかし、ここで“混沌”の機嫌を損ねるのは不味いので我慢して、受け入れた。今やるべきなのはウダウダ考えることでは無いのだから…
「受諾してくれてありがとうと言っておこう。あたいからプレゼントとして、人間が考え付くすべてのことができる力と、儂の体をあげよう。これからいく世界で自由に生きてくれ。これが俺等、外なる神の望みだ!」
次の瞬間、彼の意識は薄れ、微かに力の奔流を感じた直後に意識は完全に途絶えた。
「彼の者に、ニャルラトホテプの、這い寄る混沌の、無貌の神の、月に吠える者の、すべての“混沌”の祝福があらんことを。徹平…いや、ナイルよ!」