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1 死
虚しさを体全体で表している男が道を歩いていた。
彼の名前は 内藤 徹平 大学一年の特筆すべき特徴の無い平凡な男。
「ああぁ…何で…」
彼はこのご時世にわざわざ本屋に取り寄せ・受け取りを頼んだクトゥルフ神話TRPGのルールブックを買いに行ったのだが、大事なことを失念していたのだ。
「そりゃあ一緒にやる友達が同梱されてるわけ無っ」
独り言を通行人に聞かれ、何とも言えない目で見られ、言葉を詰まらせた。そう、彼には友達というべき人はいなかった。家族を除き、彼と他人の関係は少しもよくも悪くもない。
でかい溜め息を吐き、そのせいか遠くから不審者を見る目で見てくる通行人の視界から外れた瞬間、意図せずに空を見上げた。
天気は彼の憂鬱な気分とは裏腹に、最高とも言える快晴であった。
そうすると謎の浮遊感が彼を襲った。周りが限りなくゆっくりに感じ、体の感覚が無くなった。
彼が最後に見たのは、血濡れた日本刀を持った、日本人の顔立ちをした、日焼けではない、黒人でもないと直感で感じる褐色の皮膚を持つ、男の姿だった。