表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショート

作者: 0097


 超過密アパートの三畳半の部屋を二つ借りて行われた個人実験が、過渡期に差し掛かるにつれハウ・ストラークは難色を示した。

 白真鍮の壁に密閉された部屋は明るく、暖かかった。長方形の埋め込み型アークライトに照らされ、酸素変換機と立体プリンターが熱を上げて作動しているからである。部屋の壁を占領するモニター越しに、別室の寝棚へ横たわる娘、アン・ストラークに向けウェーブマイクで"胎児"と、単語を呼びかけるハウ・ストラークは変声機を使い、この娘の母親の声質を図っていた。

 ハウ・ストラークは更にいくつかの単語を繋ぎ、単語をコールする度に第三モニターのアトランダムな位置が赤や緑に光った。

 "ありがとう"の単語を最後にハウ・ストラークはモニターとマイクをオフに切り替えて、立体プリンターの動きに目を向けた。プリンターは可視色のレーザーを淀みなく上下させて、デーモン・コア程の大きさの真円状のドリアンを海面から隆起する新島のように、粉末の海から浮かばせた。

 ハウ・ストラークは粉末可逆性樹脂をボンドしたドリアン形の白色フィギュアを、片手に持った加熱包丁で真っ二つに切り分け、断面の針山を見つめては、別の差異ある同形フィギュアに手を付けた。


 フィギュアは、深層心理学と広告会社の傾向調査に基づいた四百単語を被験者に聞かせ、反射的に表れた脳全体の作動部とパルスフォンの波形の数値を立体化した、深層模型である。

 見えない球型を外円基礎として、外側を保護欲動、内側を -道徳上、秘められた- 破壊欲動の定義グラフと呈したこの模型は内外のグラフが立体外円の中心を反力支点に発達していて、内側は外側の鏡の様であった。

 深層ゲシュタルト実験は、ヒトゲノムを潜在する事がサンプル条件であり、被験者の中には、自閉症, アルツハイマー患者, 複数の家族, 性偏向者, 無重力経験者, 被ばく復帰者などが含まれていた。

 深層模型の形態傾向として、いくつかは比例或いは反比例して成形されたものの、形態に関連付けが好ましいばかりで向精神反応とは無関係な例も多く見られた。深層に世族関係は見られず、親子の状況が心層形成の過程に影響しない。又、一定の世代論 -自動機械化の発展に伴う都市建築の高層化と同期するように、特定の世代の過半数で内側グラフが高々と密生し、外グラフは勘定を任され割を食い過疎地の灌木を演じていた- が見られたことから、心層と構造建築の法を裏付ける結果となった。


 「私も翌々成果を上げん男だな、ダフリー」 モニターに映し出された三千六百五人の平均心層のシミュレーションをしかつめらしく見つめ、ハウ・ストラークはそれがアン・ストラークのものにそっくりであることを覚りながら言った。

 「そうとも限らない」ダフリー・レットは実験の結果のみを見物しに部屋を訪れる、ハウの唯一の訪問者であった。「この実験を私に譲る気はないか。勿論、君の実験を制限する気はない」

 「お前がその気なら構わんが、これが世界の役に立つとは思えんな」

 ハウ・ストラークの見解は間違っていた。


 ダフリー・レットは実験を基にデザインを思案した。これは既存の人権を著しく阻害する、聞いたような選民思考を単純に理論化したものであった。 -発表後僅か五年後に、世界連合の生存局 -ミニストリー・サポート- はこの体の良い人口操作を、八割の各国代表の賛成を受けて世界百六ヵ国に義務付け、後、第十四次 十五ヵ年計画を完工するが-


 遅れて、ハウ・ストラークは保護欲動の強調を目的に据え再び成果を求め、見落としていた心層模型の法則を発見した。破壊欲動の世族関係はやはり見られないが、保護欲動の総量が約三親等ごとに一定であることに気が付いたのだ。つまり保護揺動の総量比率は血統であらかじめ定数化され、転覆しないことを示している。

 「ダフリーはあの時、この法則に気づいていた!」


 世界人口の増加率が年率6.7%を記録した年の暮れ、ダフリー・レットは自らの保護欲動 -つまり愛- 総量が生存閾基準を超えるかを確かめるため、自己被験を行った。立体プリントされたダフリーの心層模型は一見して外面に豊かな雑木林を形作っていたが、すぐに模型を割ることなく、その内側が覗いていることが分かった。内側の針山が規格外円を突き破り、ドリアンはさながら複雑骨折していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ