第十七話 闘技大会開幕
5-17 闘技大会開幕
「うわぁ! 凄い人だよ!」
四年に一度、グローリエス帝国の帝都『ドラグロリア』で本戦が行われるという闘技大会。その開会式に参加する為、私たちは戦いの舞台である闘技場へ来ています。
予選は、途中の街で行われたモノに参加しました。Aランクの私は免除されたので、他の三人だけですが。勿論全員通過です。
先の言葉は、選手が集められた闘技場部分から観客席を見上げたスズのものです。
「そうね。へぇ……『龍人族』が多いけど、他種族もそれなりにいるわね」
返事をするついでに、私も会場内へ視線を巡らせます。
内装や外観は、ローマのコロッセオをイメージしてもらえば良いでしょう。サイズとしては幾らか大きいですね。火を噴く龍の意匠が多くみられます。
闘技場をぐるりと囲む階段上の観客席は、一番下でも五メートル程高い位置にあり、その境に結界が複数枚貼られています。普段は軍の集団演習などに使われているそうで、リベルティア王国の王城地下にあった訓練場と同じ魔法で保護されています。よって、怪我をしても結界を出た時点で元通り。死が確定した瞬間結界外へ強制転移される安全仕様です。
観察している間に開会式が始まったようですね。今の内に簡単なルール説明をしておきます。
今この場にいる参加者は、二百十四名。この内、私のような特別枠を除いた二百九人で十八の枠を競います。方法は二十三人、または二十四人でのバトルロワイヤル。各試合二枠ずつの選出です。
そして、本戦は特別枠を含めた二十四人によるトーナメント。前回優勝したゴミ共の長と、準優勝したこの国のSランク冒険者がシードです。
試合自体は、基本何でもあり。結界外に強制転移される、つまり死が確定する。この後用意されるという武舞台から落下する。降参する。以上の結果を以て負けとするそうです。なおポーションなどの消耗品は使えません。
「さて! 最後に陛下からの御言葉です!」
おっと、間もなく終わりですね。
司会進行役のその言葉と共に、前方の個室になっている所、一際豪華なスペースに座っていた偉丈夫が前へ進みでます。
彼が今代の皇帝、ドラグリエル八世ですか。まあ、Aランクの中堅辺りですね。シンと同じくらいでしょうか。
「皆、よくぞ集まってくれた! 厳しい地方予選を勝ち上がった戦士達の死闘を、確と! その眼に焼き付けるが良い! そして戦士諸君! 今日は他国の王も観に来ている。紹介しよう! セフィロティアのアルティカ女王と……」
皇帝はそこで一度言葉を切り、アルティカが立ち上がって手を振っているのを待ちます。……凄い人気ですね。
「――テラリアのメディティス王だ!」
その声と共に、耳の辺りに魚のようなヒレがある初老の男性が立ち上がります。テラリアの王で『海人族』のメディティス・ベネティラルです。
こちらは手は振らず、すぐに座りました。
「存分にその力を発揮してくれ! 期待している!」
皇帝の挨拶はこれで終わりのようです。短くて良かったです。
会場が盛大な拍手に包まれます。反応を見る限り、アルティカやメディティス王が来ている事は誰も知らなかったようですね。まぁ当然ですが。
開会式も終わりのようで、待合室へ案内されました。いくつかの待合室に分けられているようで、開会式のような人口密度はありません。スズ以外は別の部屋へ案内されています。
いくつかモニターの様な、というかモニターですね。モニターがあり、闘技場の様子はここに居ても観られるようです。
今日は私の出番はないので観客席へ行っても良いですが、スズもいますし、人口密度も低いのでこのままここで観戦しましょう。
さて、私以外はまずバトルロワイヤルを勝ち抜かねばなりません。三人以上が同じグループになったら不運ですが……大丈夫です。
「これより、本大会予選バトルロワイヤルを行います。呼ばれた選手は、速やかに闘技場へ移動してください」
もう係の人が来ましたよ。武舞台を設置すると言っていましたが、やはり魔法があると早いですね。
次々と名前が呼ばれていきます。その中にスズの名前がありました。
「それじゃ、行ってくるね」
「ええ。まだあまり目立っちゃダメよ?」
「わかってるって」
本当ですかね? まあ、少しくらいは良いですし、任せましょうか。
◆◇◆
「…………はぁ。思いっきり目立ってるじゃない……」
スズったら、開幕と同時に七人を盛大に吹き飛ばして舞台外へ落とすなんて、それはもう目立つスタートダッシュをしてくれちゃいました。開始前からスズを狙うよう陣形を組まれたので、仕方ないといえば仕方ないですが。
はい。問題なく最終予選通過です。
「たっだいまー!」
「じゃないわよ!」
「あだっ!?」
とりあえず拳骨をお見舞いしておきましたが……この子、なんで怒られたかわかってませんね?
「うぅ〜〜……。もしかして、目立ってた?」
「あれで何故目立って無いと思ったのか、逆に聞きたいくらいよ」
「あっちゃー。ま、いっか。それより次、ブランちゃんだよ!」
呆れつつも、取り返しのつかないミスなんてモノではないのでモニターへ視線を向けることにします。
「んー、この魔法使いくらいじゃない? まともなの」
「ええ。これはブランも心配なさそうね」
他は、せいぜいCランク下限程度ですから。
というわけで、ブランも問題なく通過。
皇帝が感心している姿が映っています。あとアルティカのドヤ顔も。……やはりイラッときますね。後で落雷攻撃でもしておきましょう。
「あとは、コスコルだけだね」
「彼こそ他の人に申し訳ないわね。スズもだけど、予選に出しちゃダメな選手よ」
魂が強化された事でスキルを覚えやすくなり、魔力量が上がった上に種族の変化で身体能力自体も向上しています。更に、私の扱きで技術も聖騎士時代より格段に上。Sランクに届くかは微妙ですが、少なくともAランク上位の実力はありますよ。
ランクが上がっていないのは私たちがあまり依頼を受けていないから。申し訳ないというのはそういうわけですね。
「あ、次のグループが出てきたよ。……こいつ、師範代だね」
「……そうね。コスコルはまだみたいだし、お手並み拝見といきましょうか」
ふむ。開幕は、スズのように囲まれていますね。理由は真逆、協力して先に潰すためのようですが。
「ふーん。基礎はちゃんとできてるみたいだね」
「そりゃ、師範代を名乗ってるんだもの」
しかし、スキルが無ければ、うちの道場でアレに負ける上弟はいませんね。
残り半分。もうアレに手を出そうとする人間はいないようです。アレは……見物してますね。体力温存でしょうか。無駄なのに。
そのまま勝ち上がりです。
続いてもう一人の師範代も出てきましたが……似たり寄ったりですね。
「うん。たいした事ないね。ブランちゃんはまだ少し苦戦するかもだけど」
「大丈夫よ」
そんな緩い鍛え方はしてませんから。
その後出てきたコスコルも順調に勝ち上がり、本日は終了。明日からは私の出番もあります。楽しみです!
読了ありがとうございます。
連載休止していた他の二作もボチボチ書き始めてます。
作風は異なりますが、よかったら是非。
マイページよりどうぞ。





