第十四話 『龍人族』の国
諸々終わった記念更新!
5-14 『龍人族』の国
南北に連なる山脈。その切れ目をガタゴトと馬車に揺られながら進むことになったのは、例の商隊と晩餐を共にしてから約一年が経った頃です。遥か南、山脈の向こう側に見える赤黒い山は南の魔境『龍王大火山』ですね。
「ここまでは、噂の流派の人には会わなかったね」
「そうね。件の第二皇子が集めているのか、山脈の西側にはあまり広まっていないのか……」
たぶん、前者です。テラリアでも流派の存在を知っている人に何人も会いましたから。
「……なんだか、疎まれてるみたいだった」
「そうなんだよねー」
川上流の役目として、神楽などに近い部分はありました。とは言え、理念だけで言えば市井の人々から疎まれる事が無いとは言い切れません。
「もし、ジジイがアルティカの所を去った後に弟子を作っていたとしても、他者に不必要に迷惑を掛けるような真似は禁じている筈よ。その辺は煩かったもの」
「最後の伝説だけで見ると、意外の一言です」
「あの記録映像を見る限り、そうでは無かったようですが」
先のアリスの台詞からわかるように、ジジイの『世界樹の根ぶった切り事件』は西大陸にも伝わっていました。
「何にせよ、次の街でわかるんじゃない? 第二皇子とかって人が治めてる街なんでしょ?」
「そうね。本人は城に残って代官をたててるみたいだけど」
「次の街まで、地図の通りならあと鐘半個分です。間も無く見えてくるでしょう」
◆◇◆
「はぁ、まさか宿を探すのにこんな時間がかかるとは思って無かったよ…………」
「商人が集まっているようですね」
「つまり、あの噂は真実である可能性が高いかと」
騎士であるコスコルの考え。戦争には物資が必要です。更に傭兵として戦に参加する冒険者なども集まって来ます。商人にとっては商機以外の何物でもありません。
「私も同感ね。立地を考えれば、バカ皇子が独断で戦争を仕掛けるのは容易い。賛同している貴族も少なくないみたいだし、あまり時間はないかもね」
「んー、噂の流派だけ調べてさっさと離れる? 戦争始まったら面倒だよ」
「少なくとも、国境は通れなくなりますね」
まあ、それは問題ありません。北の境にある山を越えて大地の裂け目ギリギリまで移動すればセフィロティアまで転移できますからね。海を渡っても良いです。
「出国はどうとでもなるわ。でも、万が一緊急依頼として出されたら面倒ね。まだ早い時間だし、早速街を回って情報を集めましょうか」
と、意気揚々と街へ繰り出したのは良いのですが……。
「武神様の使ってたって流派? あー、その、なんだ。うん。それより、美味い店でも教えてやろうか?」
だいたいこの調子で、話を逸らされます。宿を出て一時間。街についてからは二時間が経ちましたが、何の成果もありません。
今は休憩と昼食目的に、教えられた店で『龍人族』の伝統料理をつついています。
「いや、絶対なんかしてるよね。これ」
「寧ろ何もない方が驚きよ」
「……私としては、このような巨大な虫の料理を平然と食べるお二人に驚きです」
何かおかしかったでしょうか? スズも首を傾げています。ブランは……アリスに同意しているようですね。コスコルも同じく。というか、よく見れば私とスズしかこの巨大なハチノコの様な虫の香草焼きに手をつけていませんね。
「偶にこういうのの佃煮とか持ってくる人いたもんね? お祖父ちゃんも好きだったし」
「ええ。それに私の場合、虫でも何でも食べなきゃ死ぬって状況に叩き込まれた事もあるからね」
「……マスターとスズネ様の故郷は、その、変わった所だったんですね」
うーん、考えてみれば、虫なんか食べた事ない、触るのも無理って人も多かったような?
「ジジイがジジイだから、私達は例外だったのかもしれないけどね。私としては、ブランがアリス側なのが意外ね」
「樹海の近くは、毒虫ばかりだったから」
「ああなる「あ゛!? 俺達に、なんだって!?」」
まったく。公共の場で騒がしいですね。十人くらいで一人を囲んじゃってまあ。
「い、いえ、その、お代を払って欲しい、と、言ったんです……はい」
店員のお兄さん。ほら、もっとハッキリ! だんだん消え入りそうになってますよ!
「……ハハハハッ! おい、面白い冗談じゃねえか。誰のおかげで毎日平和に暮らせてるんだっけなぁ?」
あいつら以外の冒険者でしょう。あーあー、椅子壊しちゃって。
「あの、その……あはは、笑って貰えてよかったです! もちろん冗談です。お代はいりません! だから、その、店の物は壊さないで欲しい、です……」
「最初っからそう言えばいいんだよ!」
「たく、雑魚が俺たちに逆らうんじゃねえよ」
そう言って男どもは店を出て行きました。
「うわぁ、酷い連中」
「確かに、『龍人族』には強者を尊び強さを何よりの誇りにする性質はあるけど……アレはないわね」
せっかくの料理が不味くなりますよ。
「……またやつらか」
「はぁ、さっさと魔物に食われねぇかな」
「おいっ、聞かれたら何されるかわかんねえぞ」
「おっと。すまん」
『また』、ですか。既に嫌な予想しか出てきません。
「……お姉ちゃん。聞きたくないけど、聞いてこよ」
「……そうね。はぁ」
できれば、違っていて欲しいのですがね……。
「ねぇねぇおじさん達。さっきの奴らって何者?」
「え、あー、なんだ。聞かない方がいいと思うがな」
「ちょっと、店員のお兄さん」
「はい。なんですか?」
財布代わりの空間収容から金貨を数枚取り出し、投げ渡します。
「うわっと」
「それで今店にいる全員に適当な酒を出してあげて」
「マジか!」
「姉ちゃん太っ腹! 今日来ててよかったぜ!」
店内は大盛り上がりですね。当然ですか。
「え、は、はい! ……て、金貨!? これは多すぎますって!」
「余った分で新しい椅子でも買えばいいわ」
何やらまだ喚いていますが、それよりこっちです。
「さ、これでいいでしょう」
「……手は出さない方がいいぞ?」
「心配しなくても大丈夫よ」
Aランクのギルドカードってこういう時に便利ですよね。
「……マジか。そういう事ならいいが」
「で、なんなの?」
「あんたら、武神様の事は知ってるか?」
「それはね」
その孫ですから。
「その武神様が使ってたっていう流派があるんだが、その流派を研究してより発展させたっていう流派が帝国にはあってな。奴らはその門下だよ。『真川上流』って名乗ってる」
「へぇ……」
「『真川上流』ね……」
「……二人とも、落ち着いて」
おっと。何人か敏感な人がいたようです。気絶させてしまいました。
「で、その道場はどこにあるの?」
「あ、あぁ、国内にはどこにでもある。今は、第二皇子殿下が兵を集めてるとかで門下はこの街や帝都に集まってるみたいだが」
「じゃあ、本家はどこ?」
「帝都だよ」
やはり、行かねばならない様ですね。でもその前に……。
「ありがと」
情報をくれた『龍人族』のおじさん達に銀貨を一枚ずつ弾いて渡します。
「おい、そんな大した情報じゃなかっただろ!?」
「いくらかは迷惑料よ」
なんの迷惑料か分からないようでしたが、一応川上流を名乗っている連中がした事です。
まだ騒ぎは収まっていないようだったので、端数繰り上げで食事代を袋に入れて店員さんに押し付け、店を出ます。
「スズ。わかってるわよね?」
「もちろん。殺さなければいいんだよね?」
「ええ」
あぁ……早くしないと、どうにかなってしまいそうです。
「……スズ姉様の時に近い。二人とも、めちゃめちゃ怒ってる」
「……あの時点で殺されていて良かったと、初めて思いました」
「……コスコルに全面的に同意します」
さぁ、ゴミ掃除です。
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