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12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜  作者: 嘉神かろ
第五章 時は隔てる

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第十二話 灯火は千年前に

5-12 灯は千年前に


 あの後、その場にいた兵士達全員を相手にしてみました。圧勝して尊敬の目を向けられるなんて事はありましたが、まあよくある事です。


 ジネルウァ様とは、流石に疲れたという事でその翌々日に改めて剣を交えました。もちろん、まだまだ負けません。


 例の魔道具は、テレビと言うよりビデオでしたが、ブランが楽しんでいたので問題なしです! ちなみに、カメラと記録媒体があって媒体自体に再生機能が付いているものでした。


 スズとジネルウァ様が戦ってから数日経った今、先に汗を流した私たちは夕餉(ゆうげ)の席についています。


「さて、明日には発つんだったな?」

「ええ。そのつもりよ」

「そうか、また、寂しくなる」


 本当に残念そうです。


「大丈夫大丈夫! その内また来るから。お姉ちゃん引き摺ってでも!」

「……引き摺るって。別に、誘われればついてくるわよ」


 ちょっと頬が熱く感じるのは、きっと気のせいです。


「ふーん?」

「……何よ。ニヤニヤして」

「べっつにー?」

「はぁ。そういうわけだから……いつでも、挑んで来なさい」

「ああ、もちろん……!」


 そこは曲げません! 千年はボコるって決めてますしね!


「そこ意地張る? まあいいけど」


 それにこれは、受け入れられない、受け入れてはいけないものですから…………。


「お姉ちゃん……」

「……私は、スズネほどアルジェの考えを読めるわけでは無いが…………諦めないし、君に後悔もさせない。コレだけは、言っておくべきだと感じた」


 ジネルウァ様の、静かだけど、力強い口調……。


「…………そう、ですか」


 一歩を踏み出す勇気、とは誰の言葉だったでしょうね。

 こればかりは、踏み出せない自分が情けなく思います。


 その後は美味しかった筈の夕食がなんとも味気ないものになってしまいました。悪い事をしてしまったとは思いながらも、態度を改める事ができません。


 客室に戻り、一人考えます。


 この矛盾した思いは、恐怖は、迷いを捨て去った今でさえ私を縛り続けています。


 それでも、前よりはマシなんです。ジネルウァ様の所へ来れたのも、そして勝負を受けられたのも、少しだけ私を縛る鎖が緩んだから。


 ああそうか。アルティカの言っていた事はこの事だったんですね。


 ……アルティカは、いつ、【調停者】になったのでしょうか。


 いえ。ジジイを選んだ時点で『上位森妖精(ハイエルフ)』と『龍人族(ドラゴニユート)』。その寿命に大きく隔たりがあるのはわかっていた筈です。


 なぜ、その選択ができたのでしょうか……。




◆◇◆

「では、な」


 翌日、上の街に出る境の場所で、別れの挨拶です。


「……ええ」

「……もう! 二人とも辛気臭い顔しちゃってさぁ!」


 スズ……。


「そうね。ごめんなさい」

「……はぁ。まあいいや」


 この場の空気をどうしようかと考える事をすり替えていると、先にジネルウァ様が切り出してきました。


「……アルジェ、これを君に送りたい」

「これは……」

「この間見せてもらったやつだね」


 見た目は掌ほどの大きさをした、緑色のカード。魔道具で録画した内容を保存しておく媒体です。


「次の目的地に行く間にでも見てくれ」

「……わかったわ」


 きっと何か、意図があるのでしょう。


「……じゃ、行こっか」

「またね、ジル義兄様」


 少し考え、敢えて、この言葉を選びます。


「……また、会いましょう」

「ああ……!」


 コスコルとアリスは、一礼するのみです。



◆◇◆

 街道の上、馬車がガタゴトと揺れます。中にまでは伝わらないその振動。しかしその音は、私の心を紛らわすのに一役買ってくれています。


「お姉ちゃん、まだ見ないの?」

「……そうね。そろそろ見ましょうか」


 教えてもらった通りに操作して、魔道具を起動します。


 まるでSF映画のように、空中へ投影された画面。やや間があり、それからジネルウァ様が見せたかったのであろう何かの記憶が再現されます。


 ――これは……。


「この『龍人族』、お祖父ちゃんだよね?」

「……ええ。角や鱗があるけど、見た目はジジイの若い頃そのままね」


 まず映し出されたのは、タキシードを着て恥ずかしげにしているジジイです。


「あ、アルティカお祖母ちゃん」

「真っ白……綺麗なドレスですね」

「うん。ウェディングドレスって言う、私たちの世界の結婚式で花嫁が着る衣装だよ」


 続いて、純白に包まれたアルティカ。


「これは、まだ幼いけどジル義兄さんだね」


 そして、見覚えのある人々。ローズに似た、猫の耳と尻尾がある女性は先代のリベルティア王妃でしょう。


「……二人とも、幸せそうだね」

「…………そうね」


 千年近く前に行われた二人の結婚式後の一幕だったのでしょう。二人だけでなく、みんな笑顔で……。


 動画はまだ終わりません。


「お祖母ちゃん、料理できたんだね」

「元々冒険者をしていらしたという話です。お出来になってもおかしくはないでしょう」

「それもそっか」


 新婚生活……ですか。


「ははっ。お祖父ちゃん、日本にいた頃と食べ方変わってないんだね」

「……ほんと。無駄に姿勢が良いのよね」


 更に続きます。


「これは……プリームス様、でしょうか?」

「可愛らしいです。コスコル、今の体でも子供は作れるそうですよ?」

「ア、アリスっ!? ……まぁ、この旅が終わって、マスターの許しを貰えたらね」

「その前に結婚式でしょ! 二人も!」


 ……本当に、幸せそうです。


 それから暫く、動画は続きます。


 プリームスの成長。


 そして、ジジイの老い。


 若いままのアルティカ。


「そろそろ、例の事件だよね」

「……ええ」


 顔にシワが増え、見慣れた姿に近づいて来た頃。ジジイが世界樹の根を切ってしまったあの事件が起きたという時期になりました。


 それから先、ジジイの姿がない録画が続きます。


「……お祖母ちゃん、辛そう」

「……当然よ」


 でも、この別れは、少しだけ時期が早まっただけに過ぎないんですよ。


『陛下……他種族などを伴侶に選ばれるからそうなるのです。私は申したはずですよ』


 この人は、今は亡きアルティカの乳母でしたか。


『ええそうね。……でも後悔なんてしてないわ』


 どうして…………。


『だって、幸せだったもの。あの子も産まれたしね』


 屈託のない、柔らかな笑み…………。嘘偽り、無いんですね。


『……そうですか。ならばもう、何も言いませぬ』

『そう。ありがとっ』


 ……今も、アルティカは後悔していませんでしたね。目の前にある彼女の過去と同じように笑っていて、寧ろ、誇りに思っていました。


「あ、終わったみたいだね」

「……そうね」


 もう一つ目の太陽が沈み、夜営の準備を始めるべき時間です。随分と長い間動画をみていました。


 その記憶の中のアルティカはとても幸せそうで。ジジイに会えなくなっても後悔などしていなくて……。


 だけど、なぜ……。


 …………わかりません。わかりませんけど、ほんの少しだけ、私を縛る鎖が緩んだ、ような気がします。


「いつか、アルティカの様に選択できたら……」


 私の(かす)かな呟きは、昼と夜の曖昧な境へと溶け、消えていったのでした。



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