第十一話 反省会
ストックが出来たので、臨時更新。
来週も変わらず更新する予定です。
5-11 反省会
「そこまで、ね」
スズの剣がジネルウァ様を滅多斬りにした所で、試合終了の合図を出します。
「ふぅ。久々で疲れたよ」
「お疲れ様」
「ん、凄かった」
川上流の奥義の型同士がぶつかり合う所なんて、なかなか見れませんからね。
「……スズネにまで負けてしまったか」
傷をすっかり癒したジネルウァ様は、少し落ち込んでいるようです。
「紙一重だったけどね」
確かにスズの言う通りです。ジネルウァ様がもう少し堪えられていたら、と言った所でしたね。
「て事で、よろしくね」
「……もちろん」
…………。
「お姉ちゃん、一応だからそんな不機嫌な顔しないでって」
「……はぁ。分かってるわよ」
二人は、もしもの、万が一の、スズが【勇者】に飲まれてスズでなくなった時の事を考えていたのです。私がスズを殺せず、スズが私を殺してしまわないように。私の代わりにジネルウァ様が、スズに引導を渡せるか否かを確かめていたのです。
「さ、その話は終わり! 反省会しよっか」
「そうだな。まず私が思ったことだが、スズネはもっと魔法を使うべきだ。この世界には近づく事すら儘ならぬ魔物や物理攻撃が意味を成さない魔物もいる。手札は増やした方が良いだろう」
確かに、スズは剣術ばかり頼って魔法を実践で使わない傾向があります。
「そうね。この世界の戦い方は身に付けた方が良いでしょうね」
「むむむ……魔法、かぁ。つい忘れちゃうんだよねぇ。どう使ったらいいかもよく分かんないし」
腕を組み、唸るスズ。そうですね……。
「その辺は私のミスね。理論は教えたけど、スズには実際に見せた方がよかったわ」
「うん。何言ってるかよく分かんなかった!」
「……一応、スズも学校で習ってた内容だと思うんだけど?」
「……えへへ」
まったく。可愛く笑ったって誤魔化されませんよ?
「……使い方さえわかれば、後は勘でどうにかなるでしょ。あなたは」
「……誤魔化されてるよね?」
スズ、ちょっと黙りましょうか。
「アルジェ、何を照れているのかはわからぬが、そんな適当で大丈夫なのか?」
「ジネルウァ様も体験したでしょう。この子の勘の凄まじさは」
「……『乱竜巻の型』、か」
「それもあるわね」
あの型はどんどん加速していくので、考えていたら直ぐに追いつかなくなります。更にその回転を動きの主軸とする関係上、相手から目を離す機会も増えてしまいます。ですから、身体制御能力と視界外の敵の動きを察知する能力に加え、瞬時に最適行動を選び取る直感が必要不可欠なのです。
「それも?」
「ええ。〈縮地〉へのカウンターにカウンターを合わせられたじゃない?」
「ああ。あのカラクリは気になっていた」
「簡単よ。スキルを発動する前にジネルウァ様の動きを予測して準備してただけ。でないとあの速度じゃ間に合わないわ」
「……そんな事が、可能なのか?」
「可能だからやったのよ。だから凄まじいって言っているでしょ?」
横でスズが胸を張りドヤってます。ブランもキラキラした目でスズを見つめてますが……多分スズ、何が凄いと言われているのかよくわかっていないんですよね。この子にとっては普通の事ですから。
「……『乱竜巻の型』はそれくらいで無いとマスターできぬ、か」
「そうね。唯一、私が使えない型よ」
技術だけでどうこう出来るものではないのです。経験を積めば或いは、その域の直感を身につけられるかもしれません。それでもごく一部の天才に限られるでしょうね。実際、『川上流双剣術』を修められたのはスズだけでしたし。
「そなたが他の型を全て使える事も驚きなのだがな」
「使えるだけで、使いこなせるかは別よ?」
得手不得手は勿論ありましたとも。
「でも今なら使いこなせるんじゃない? 力も十分なんだし」
「それもそうね」
「あと、『乱竜巻の型』も。スキルで色々補えると思うんだ」
「……言われてみれば。練習しておきましょうか」
この考えは無かったですね。確かに、察知系のスキルと演算系のスキルでどうにかなる気がします。経験も積んだので、〈直感〉も働きますし。
と、袖を引っ張る感覚。
「姉様。私も」
「ええ。いずれ使えるようになってもらうわ」
「うん、嬉しい……けど、ちょっと、怖い」
な、なんでですか!?
「絶対、スパルタ? だから」
「スパルタ?」
「めちゃくちゃ厳しいって事だよ」
な、なぜジネルウァ様は納得しているのでしょうか……? そんなに厳しくしているつもりはないのですが。
「……やっぱり、お祖父ちゃんとお姉ちゃんってそっくりだよね」
「いやいやいやいや、それは無いから!」
「そういう事にしておこうではないか。それよりも、アルジェの得意な型を教えてくれないか?」
なんか、引っかかる言い方です……。
「『大火の型』、『激流の型』、『雷光の型』の三つね」
『大火の型』は最もハイリスクハイリターンの型。『激流の型』は『大山の型』と同じくカウンターメインの守りの型です。そのうち使う事もあるでしょう。
「あれ? 雷光も?」
「ええ」
転生のおかげです。
「……雷光の事に気付いたなら、他のにも気付こうよ」
……確かに。
「話を戻しましょう!」
「ま、いっか。 そうだね、ジル義兄さんはまだまだ剣技に荒があるかなぁ」
「まだまだ身体能力に頼ってたわね」
「ふむ……」
前回よりは良かったですけどね。
「……姉様たちが求める基準、おかしいのは確か。周りの人たちも言ってる」
言っていませんでしたが、周囲には自主訓練中だった兵士達がいます。
「そう?」
「まあ、あっちでもうちの師範代になれるかどうかってくらいの人がテレビで達人扱いされてたけどね」
「テレビ?」
「あー、なんて言ったらいいんだろ? 記録した映像を映す道具?」
よく伝わらなかったようです。まだ首を傾げてますね。可愛い。
「それなら、似たような魔道具がある。師父に聞いた話を元に、アルティカ様がお造りになったのだ。後で見せよう」
「うん。ジル義兄様、ありがとう」
うん、お辞儀ブラン、可愛い。
「また脱線したわね。技が大雑把になるのはある意味仕方ないのよ」
「ていうと?」
「ほら、この国、戦争なんて滅多にないじゃない?」
「だね」
地下ですから。
「だから人との戦いは少なく、主に魔物との戦いになるの。地下にも魔物はいるしね」
「なるほどねぇ。魔物相手なら小手先より威力だよね。人型ならともかく」
「だから、『迦具津血』だけ完成度が段違い、だった?」
「そういう事だと思うわよ、ブラン」
アレは威力重視ですから。
「なるほど。確かに思い当たる節はあるな」
「ま、負けた原因はそこじゃないけどね」
むしろ、その身体能力のおかげでスズと渡り合えてましたし。
「そうだね。最後ジル義兄さんが引っかかってくれなかったら、体力的にキツかったよ」
「気が早ってしまったわけか」
「極限状態であんな隙を見つけたら手を出したくなるのはわかるわ。だけど、そこを堪えられないとダメよ」
「ふむ、留意しておこう」





