第八話 一歩を踏み出す勇気
あけましておめでとうございます。
時間ができたのと、正月なので、臨時更新です。
週末も予定通り更新します。
5-8 一歩を踏み出す勇気
残党狩りを終わらせ、ブランの所へ急ぎました。
「うん。頑張ってるわね」
「あ、お姉ちゃん!」
「他はもう片付けたわ。あとは……」
「だね」
生徒達は、当分動けそうにありませんね。まあいいでしょう。
今のブランのステータスです。
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〈ステータス〉
名前:ブラン・グラシア/F
種族:狼人族(黒狼種)
年齢:13歳
スキル:
《身体スキル》
瞬発力強化lv4 嗅覚強化lv3 聴力強化lv4 連携lv5 隠密lv5(2up) 気力操作lv6 身体強化“気”lv6(1up) 体術lv7(1up) 刀術lv6 双刀術lv5(new) 暗器術lv4(new) 気配察知lv5(1up) 危機察知lv7(2up) 解体lv4(new) 限界突破lv6(3up) 呼吸法lv7(3up) 罠察知lv4 罠解除lv3 直感lv3(new)
《魔法スキル》
結界魔法lv7(1up) 魔力操作lv6(1up) 火魔導lv3(1up) 水魔導lv5(2up) 土魔導lv3(1up) 風魔導lv5(2up) 光魔導lv5(3up) 闇魔導lv3(2up) 収納魔法lv7(2up) 瞑想lv5(1up) 魔力察知lv5(1up)
称号:神狼の加護 護り手 地獄を超えし者 血の盟約 (アルジュエロ・グラシア) 上位迷宮攻略者 川上流(new)
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前回の紹介から間が空いたので、かなり変化しています。
それでも両者の実力は、技量を含めて尚オーガジェネラルが僅かに勝ります。
ブランもオーガジェネラルも、既に傷だらけ。決着はそう遠くありません。
あの赤鬼は無手。ブランがあまり相手をしたことが無い、あの子よりも間合いの狭い敵ですが、今はあの子を信じましょう。
◆◇◆
彼の鬼の振るう右拳を、ブランはその懐に潜り込む様に避ける。
そのまま喉元目掛けて右手の『白梅』を振るった。
だが届かない。その白刃が届く前に、ブランの視界を燻んだ赤が埋める。
残しておいた『黒月』を盾にするが、彼との体格差は容易にブランを吹き飛ばした。
「っ!」
刃は立てた。だがその濃密な筋肉と魔力に守られた彼の豪脚に残るのは、一筋の浅傷のみ。
(だめ。この刀なら、もっと深く斬れてた筈……)
此処まで、幾度か繰り返された光景。
ブランは、当に狼の如き身のこなしを以て空中で体勢を立て直す。
「Gaaaaaaaaa!!」
そして目に入ったのは、雄叫びと共に拳を振り上げた彼。
「ああっ!」
フーレの悲鳴と鈍い音が響く。
「黙ってよく見てなさい」
更に高く、遠くへ吹き飛ばされたブランは、頭上の枝に足の甲をかけ、一回転してその上に静止した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
(結界が間に合って良かった)
体力や傷を回復させたい両者は、離れた距離を潰すことなく睨み合う。
(確実に勝てる方法は、ある)
影に紛れ、装備に付与された[精神攻撃]を使えば、瞬きの間にこの戦いは終わるだろう。
(でも、それはダメ)
それでは、子狼は子狼のままだ。壁を超えられない。……二人の姉に、近づけない。
ブランは分かっていた。何故、その鋭刃があの鬼の骨を断てないのかを。
「……」
子狼は、眼下の彼を見つめる。
身体中につけた傷は既に癒えかけており、その覇気は元より衰えを知らない。
子狼は、樹上の自身を確かめる。
身体中につけられた傷は未だ鮮血を流しており、その刀を握る両の手の震えは治らない。
(……怖い)
あの剛腕は、容易く子狼の肉を穿つ。
(怖い……)
あの豪脚は、容易く子狼の骨を断つ。
「怖い。……けど、絶望はしてない」
「っ! Gaaaaaaaaaaa!!」
彼女の雰囲気が変わった事に気づき、彼は咆哮する。
終わりが近づいている。
戦いの終わりが。
一つの命の終わりが。
「……いくよ」
子狼は、枝を蹴り、彼へと一直線に突撃した。
鬼の顔が歪む。勝利を確信して。
鬼は、その一瞬で高められる限界まで高めた魔力全てを拳に集中した。確実にその敵を仕留めるために。
生徒達は次の光景を思って顔を背けようとした。
だが、その少女の姉二人は動かない。ただ一言、目を離すなと口にするのみだ。
彼の全霊が、子狼に迫る。刹那、子狼は、狼は空を蹴った。
斜めに加速した白狼は、狼の身のこなしを以て着地。直ぐ様その鬼へと踏み込んだ。
一瞬の動揺。しかし彼はすぐに対応してみせる。
また、彼女の視界を燻んだ赤が埋める。
白狼は、更に踏み込んだ。
刃が滑る。
白刃が、骨を断つ。
「Gaaaaa!?」
「はぁぁぁぁぁぁああああ!!」
そして、黒刃は、彼の喉貫いた。
狼の牙は、鬼の命を穿った。
◆◇◆
「……はぁぁぁ…………」
何とか勝ちましたね。うん。よかった。ほんとに。よかった。
「お姉ちゃん、そんなになるなら最初からやめとけばいいのに……」
「そうは言っても、あの子が強くなることを望んでいるのよ? 邪魔したくないし、手助けしたいじゃない」
「まーね」
さて、生徒達は……まだ動けそうにありませんね。まあ、一番の目的は達した様ですし、さっさと運んでしまいますかね。
ブランはまだ息を整えているところです。
「ブラン、お疲れ様」
「……姉様。疲れた」
「ふふ。よく頑張ったわね」
「うん……!」
ぎゅって抱きしめてあげると、尻尾がブンブン振られているのが見えます。愛いです。天使です。あ、知ってますよね。
「これ、どうしよう?」
「そうね。せっかくだからこの場で解体する所を見せてあげましょうか。血抜きはスキルで時短できるし」
という訳で、予定変更して実習再開です!
◆◇◆
薄暗い路地裏を歩きながら、彼は二日前の事を思い出す。
格上を相手に勝利を収めた、自分より歳下の白い少女を。
そして、彼女の長姉の言葉を。
『実力で劣っていて、あと少し、届かない。そんな時、その“あと少し”を埋めるのは何だと思う?』
彼は、彼らは答えを言われる前からそれが何かが分かっていた。つい今し方、見せられたばかりなのだから。
『それは、あと一歩を踏み出す勇気よ』
ちょっとクサかったかしら? と彼女は微笑んだ。
その後、そのチームで反省会をした時、其々がその言葉を心に刻んでいる事を、彼らは互いに感じていた。
(でも、多分、僕だけだと思う。違った意味に聞こえたのは)
彼は狭い建物の隙間を抜け、その開けた広場に出た。
「よう、マーム。今日も逃げずに来たな」
「マームって実はドM? きゃははは」
(ああ、この声だ。こいつらだ。僕の心を震わせる、鬼は)
「この間の課外授業はあのクソ女のせいで散々だったからな。今日も俺らの的になってもらうぜ」
(だけどこの鬼は、僕の命は砕けない)
「おい、聞いてんのか? ……おいっ!」
(僕は、この鬼に負けない……はず)
「僕も、一歩を踏み出す勇気が欲しい」
「はぁ? まあいいや、やっちまおうぜ!」
(僕も、あの子の様に……!)
彼は拳を握りしめ、前を向いた。
今日この日、子犬でしかなかった少年は狼となり、その牙が、心弱き悪鬼を穿ったのだった。
◆◇◆
「もう持ってるじゃない」
思わず口に出してしまいました。
「上手くいったみたいだね」
眼下では、フーレが悪ガキどもと喧嘩してます。喧嘩というには一方的に近いですが、それだけ彼が努力してきたという事です。
「うん。よかった」
「あなたのおかげよ。ブラン」
「???」
ブランはよく分かっていないみたいですね。まあそれでも良いでしょう。
彼は、この状況を打開できる手札を努力して得た。だけどそれを切る勇気が無かった。
あの悪ガキどもの親の事も考えたのでしょうが、これが広まって損をするのはその親達です。
賄賂を弾むなり、隠蔽工作はするかもしれませんが、この学院にどれだけの貴族の関係者が通っているでしょうか。隠し切るには無理があります。
そうなると、あの悪ガキどもに何かしら、最悪勘当の罰を与えて被害を抑えにかかるでしょう。後継もほぼ無くなるでしょうね。
だから、彼に必要なのはその『あと一歩を踏み出す勇気』だけでした。
一応根回しはしましたけどね。
「さて、そろそろ行きましょうか。彼はもう、大丈夫よ」
「そだね」
スズが座っていた建物の淵から立ち上がります。
「うん。……次はどこへ行くの?」
ブランが聞いてきます。
「さあ、何処にしましょうか。私たちは、何処へでもいけますからね」
……この願いは、きっと叶わないでしょう。でも、願わずにはいられません。
――どうか、……………………。





