第三話 新装備って、テンション上がるよね
予約投稿出来てませんでした。すみません。
5-3 新装備って、テンション上がるよね
「お姉ちゃん、あっさっだっよっ! と」
「ぐふっ……!?」
ス、スズ……?
「……スズ、だからその起こし方はやめなさいと何度言ったら…………」
「えへへー、起きないお姉ちゃんが悪い!」
……はぁ…………。まぁ、偶になら許さなくもないですけど。とりあえず目は覚めました。またお腹に飛び乗られても敵いませんし、起きますかね。
「ふわぁ……」
「姉様、眠そう……」
改めて、おはようございます。アルジュエロです。明日からまた、旅の続きをするので訓練用の武器の点検をしているところです。
「昨日はお楽しみでしたね!」
ニヤニヤしながらそんな訳の分からない事を聞いてくるのは、我が上の妹です。
「何のことかしら?」
「いや〜? 随分遅くまで何かしてたなって思って?」
これは、まさか気づかれてます? いやいやまさか! 隠蔽は完璧だったはずです!
「……? 姉様、何してたの?」
ブラン、やめて! そんか透き通るような眼差しを向けないで!?
「し、調べごとよ調べごと! ほら、明日からの旅で色んな国に寄るから。やっちゃいけないこととかあるでしょう?」
「ん、さすが姉様」
ぐふっ! ごめんなさい、ブラン……。でも、暫くやってなかったせいで我慢できなかったんです……。こんな欲に塗れた姉を許してくださいっ……!
「ふーん? まあそういう事にしておいてあげる!」
「あ、当たり前でしょう? 何を言ってるのかしら」
スズ、お願いですからその顔はやめてください。もうお姉ちゃんのHPは真っ赤っかです……。
「ほらっ! 装備の点検はいいの?」
「うん……!」
「もっちろん!」
強引に話を変えます!
ブランは新しい装備にニコニコした雰囲気。スズも、いつにも増してテンション高めです。横でアリスとコスコルも頷いています。
コスコルよ、あなたさっきまで耳を塞いで聞いてないフリしてましたけど、しっかり聞いてたみたいですね? アリスはずっと無表情、と思いきやプルプル震えてたのは見逃してませんよ! ……は、恥ずかしい…………。
んんっ! 気を取り直して、新装備の紹介です。
まずはブランの装備。王都の迷宮で手に入れた『冥闇の布』をメインに、アンジェリカが仕上げた超一級品です。
『やるわ! あ〜ん、コレで一から一揃い仕立てられる日がくるなんて……。アルジェちゃん、愛してるわぁ!』
なんてクネクネしながら言ってました。お代を受け取ってもらうのが大変でしたね。
そんなアンジェリカ渾身の作品がこちら。
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〈ハイド・イン・ザ・ダークネス〉伝説(最良:固定/ブラン・グラシア専用)
リベリアの魔導裁縫士アンジェリカが己の技術全てを注ぎ込んで縫い上げた逸品。冥界の闇から作られた布は装備者の全てを覆い隠す。されど、その心を照らす一筋の光を阻むことは出来なかった。
《スキル》
冥府の闇(始動鍵:覆い隠せ、冥府の闇)
身体強化 不壊 隠密効果増 精神攻撃 環境適応
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頭おかしいんじゃないですか? ……いや、失礼しました。
しかしおかしな性能なのは確かです。彼女の腕なら、素材からランクを落とさず作れる事を疑う必要はありませんでした。でしたが……付与五つ…………。まあ、納得せざるを得ないです。だって、彼女は……いえ、この話はまたにしましょう。
〈隠密効果増〉は素材の性質ですが、他は彼女の付与ですね。何よりヤバいのは〈精神攻撃〉。物理攻撃が相手の精神にもダメージを与えます。やり方によっては魂そのものを破壊することもできてしまいます。ハッキリ言って、伝説級についていていいものではありません。
スキルはあらゆる気配の完全遮断。更に、既にブランを認識していた敵性存在からブランが居たという認識すら消し去ります。
この性能、ポテンシャルでブランが使い続ければ、百年程で幻想級に至るのではないでしょうか?
おっと、一番大事な見た目を語ってませんでしたね。
前回と同じく、くノ一スタイルです。黒を基調にして、所々に暗紫が入る形。可愛すぎるのは、言うまでもありませんね?
袖は広く、暗器を扱うのに都合が良さそうです。どこかに引っ掛けてしまいそうだとも思ったのですが、袖の下側は瞬間的に切れ、[不壊]で復元するように仕掛けてあるようです。下からの斬撃に弱くなりますが、外側の黒布の内側にもう一枚、インナーのように付いている暗紫の袖が見えます。腕はこちらに通しているので、問題ないでしょう。外の黒布自体にも、繊維に刃が滑るよう加工がしてありますね。
丈は膝辺り。スリットも入っているので、動きづらい事はないでしょう。スカート部分には暗紫色の蝶の模様が刺繍されており、ただでさえ天使なブランの魅力が熾天使級になってます!
下肢は、同じ『冥闇の布』製の靴下で全体を覆われています。靴もこの布で外側を覆ってあるので、耐久性増し増しですね!
武器に関しては、『白梅』に加えて脇差をもう一振り、ダンのところで打ってもらいました。銘は『黒月』。素材は、聖国でちょろまか……拾った妖精銀と私の血がメインです。
漆黒の刀身に白銀の筋が刃文に沿う形で刻まれています。完成した時に自然と浮き上がったらしいです。反りは、手元よりで先は細め。この時点での等級は、驚きの秘宝級。私の血って……。
はい、ご想像の通りです。調子に乗って私の血を触媒に付与したら、見事に伝説級となりました。白梅も伝説級一歩手前の秘宝級に……。
付けたのは、[不壊][吸魔][弱点特攻]。攻撃時に魔力を吸い取るものと、急所への攻撃力が増すものですね。
この辺、ちょっとゲームみたいですよね。まあ、私の仮説が正しければ、おかしな話でないんですが……。
ちなみに、[洗浄]は[不壊]に統合されました。
『ハイド・イン・ザ・ダークネス』はせっかくだったので鑑定結果を出しましたが、他は省略します。
続いてスズ。
彼女の場合は、私と戦った時とほぼ変わりはありません。白を基調とした神々しくもシンプルなドレスアーマーに、元私特攻の双剣です。
ドレスアーマーは『勇麗鎧』という伝説級の鎧でしたが、今回の騒動でスズの影響を受けたのでしょう。進化して、『勇気と踊る姫君の礼装』なんていう幻想級のものになっていました。付与は[状態固定][重量無視][魔力障壁][鼓舞][身体強化][癒しの舞][環境適応]というこれまた頭のおかしな性能。
鎧の重さを感じさせない[重量無視]に、漏れ出た魔力で障壁を張る[魔力障壁]。更に舞によって仲間を奮い立たせ、癒す[鼓舞]と[癒しの舞]。【勇者】であり、【舞姫】であるスズにピッタリですね。この等級としては珍しく、固有のスキルはありません。
武器は、元はただの、というのもおかしいですが、聖国にあった魔剣です。聖国では聖剣と呼ばれていたそうですが、魔剣です。[再生阻害]と[吸血族特攻]という、まるで対私の為にあるようなふた振りの、魔剣です。
コレらも鎧同様、スズの影響で進化していました。元々の等級は、共に伝説級。それが、『ダンシング・ブレイブス』という幻想級で、一組の魔剣になっていました。
付与は[状態固定][吸魔][弱点特攻][再生阻害][戦いの舞]そして、固有のスキルとして〈光り輝く剣〉。[戦いの舞]は、舞で自分と味方にバフを掛ける、勇者的な付与ですね。問題は、〈光り輝く剣〉。
効果は、超強力な光る斬撃。これはまあ良いんです。注目すべきは、名前。聖国に味方していたという神と、その存在は管理者さんにとって疎ましいものということを考えると、ある女神に繋がります。
管理者さんたちに比べたら、弱いそうなんですが、神は神ですからね……。『その輝きは、世界を砕いた』、でしたか。うーん……いいんですかね?
……まあ考えても仕方ないです。次にいきましょう。アリスとコスコルです。
二人の装備は、『冥闇の布』と妖精銀の余りをメインに作りました。どちらも秘宝級。受け取らせるのに苦労するのはわかって居たので、マスター権限で強引に受け取ってもらいましたよ。
アリスがメイド服――本人が使用人を希望するので――で、コスコルは騎士鎧ですね。アンデッドだからか、装着させた瞬間少々呪いがかかってしまいましたが、問題はないでしょう。奪うなんてことをしない限り、人に害するものではありませんし。え? もししたらどうなるかですか? 全身の水分を吸われて、砂になります。…………少々でないというツッコミはなしで。
うーん、他に特筆すべきことはありませんね。私たちの装備に比べて防御寄りになっている程度でしょうか?
というわけで、最後は私です。
私の装備は…………変化なし! もう一度言います。変化なしです!!
以前のまま、一切の変化がありません! しかも相変わらず付与は見えません!!
……なんですか、その憐むような目は。泣きたいの我慢してるのに、そんな目向けないでください。みんな新装備で盛り上がっているのに、私だけそのままです。仲間外れです。お姉ちゃんなのに……。ちょっと、スズ、なんでポンポンしてるんですか。え? なんとなく? ……ホント、凄まじい勘してますよね。外に洩らしてはいなかった筈ですが。……まぁ、その、ありがとう。ぐすんっ。
ありがとうございました。





