第17話 天使vs死体
一章を修正して部数が一つずれましたので、告知もかねての更新です。
【魔性の女】の習得タイミングが変わり、転生時点ではもっていないことになっています。
それ以外に大きな変更はありません。
説明を端折ったり、端折った分を別のところにいれたりしたくらいですね。
あとは前回説明したこの世界の名前のくだりです。
読み直す必要は無いと思います。
3-17 天使vs死体
こちらに向き直ったエルダーリッチの武器は杖。リッチの武装としてはよくあるものです。
魔力が高まっていくのを感じます。リッチが詠唱しているのでしょう。
まずは様子見ですね。
〈付与〉でブランの魔法、物理防御をあげます。一応、こういうのも出来るんです。
同時にあちらの魔法も完成したようです。
「FIRE BALLS」
「ブラン、こちらは気にしなくていいわ」
「うんっ」
飛んで来たのは三つの火球。
着弾後爆発するタイプの魔法ですね。
ブランは速度を緩めることなくリッチへと近づいていきます。
ブランの腕であの速度の[火球]を斬るのは難しいですね。
どうするつもりでしょうか。
ブランに向かっている火球は二つ。
一つ目は左前方に加速して避け、二つ目はダックインで避けました。
うん。いいんじゃないですかね。
え? 私の方に来たやつ?
もう斬りましたが?
魔法の斬り方は霊体を斬るのと同じです。
接敵したブランの一閃は、リッチの被るフードを斬り裂くに止まります。
死ななかった勢いそのままに回し蹴りを繰り出しますが、杖で受けられてしまいました。
ブランは距離を取るつもりはないようですね。今の杖さばきを見る限り、魔法の方が厄介ですから当然の選択でしょう。
間髪入れない連撃です。
相手も頑張ってますが、徐々に当たるようになってますから。この調子なら勝てそうですね。
この調子なら、ですけど。
ブランは気づいてますかね?
あのリッチの杖さばきの違和感に。
おや、なかなか上手いリッチですね。流石エルダー、といったとこでしょうか。
「ICE NEEDLS」
「えっ!?」
刀を空ぶったブランの足元から、突然先の尖った氷柱が飛び出します。
「危なかった……」
辛うじてかわせましたね。
「今のは詠唱じゃないわよ」
魔法陣を使った魔法の発動。高等技能の1つです。
あのリッチ、ブランの攻撃を避けながら地面に魔法陣を描いてたんですよ。
「気をつけなさい」
「うん」
ブランにも伝え、ついでに神聖属性の簡易付与を施します。
速度や力については、慣れてないと感覚とズレるのでおこないません。
ブランが体勢を立て直す間に、リッチのやつが彼女に近づいていました。
接近戦を好むリッチというのは、迷宮内外で珍しいケースですね。
リッチの杖を、ブランは忍び装束ついてる籠手を使ってうまく流します。
しかし、リッチもなかなか崩れませんね。
相変わらず、ブランは攻め手を緩めません。
……仕掛ける気ですね。
ブランがやや大振りに小太刀を振ります。
リッチはコレを躱そうと一歩下がり……バランスを崩しました。
足元には小さな結界。浮いていても、何かに引っかかればバランスは崩します。ブランくらい結界の展開が早ければ、近接時にあんなこともできるんです。私では出来ない方法ですね。
その隙を逃さず、より多くの気を込めて一刀両断にしようとしたブランですが――。
「……!?」
飛んで来た棒に体勢を崩され、狙いがずれてしまいました。奪えたのは、片手だけです。
更に、いつのまにかリッチが手にしていた剣で左肩を切り裂かれてしまいました。
相手のように切り飛ばされたわけではありませんが、あれではもう上手く攻撃を捌けないでしょうね。
相打ちですか。コレはブランの落ち度ですね。片手だけでも奪えただけマシです。
……え? 騒がないのかって?
それは騒ぎたい、どころか今すぐあのフード野郎をバラバラにしてあげたいのですが……。
これはブランの修行です。私だって自重はしますよ。
さて、互いに片腕となったブランとリッチは一度距離を取ったようです。
リッチの手にある細身の剣は、剣杖。ソードスティックやソードケインと呼ばれる暗器の一種です。日本では仕込み刀と言った方が通りが良いでしょう。
つい先ほどまでリッチが手にしていた杖の正体です。
リッチは既に詠唱を始めています。
ブランも既に息を整えていますね。しかしまだ動きません。
リッチが詠唱を完成させました。
「FLAME LANCES FIRE BALLS」
並列詠唱という技術ですね。
2種類同時に魔法が展開されました。
速度は速いが点でしかないランス系と、それにはやや速度で劣りますが、爆発して面をカバーするボール系の組み合わせです。
面倒な組み合わせではありますね。
……ええ、飛ばしてますがジャベリンではありません。ランスです。気にしたら負けです。
瞬間、ブランが一気に走り出しました。
黄炎を放つ[炎槍]を避け、今度は結界で[火球]の爆風をやり過ごします。
そして接近戦。
先ほどと似たような展開です。
違うのは、互いに片腕が使えないこと。リッチの武器が剣である事。
そして、近接戦闘を行いながらもリッチが魔法を行使している事でしょうか。
〈無詠唱〉をもっているようですが、出が早い分威力では詠唱時に劣ります。
ブランも最低限の結界で上手く防いでいますね。
かといって、再び均衡状態になっているかと言われればそうではありません。
確かに、先ほどよりリッチの動きは鋭いです。
刃物になった分、目に見える傷も増えてきました。
でも、考えてみてください。普段ブランの相手をしているのは誰ですか?
そして、私がエルダーリッチごときに剣の腕で負けると思いますか?
ブランにとっては慣れた、いえ、それ未満の動きです。むしろやりやすいくらいでしょう。
勝負は見えました。
エルダーリッチの魔力は、まだまだ残ってますが、私が手を出すことはもう無いでしょう。
そもそも〈付与〉しかしてませんけどね。
今回はアタリでしたね。魔法が怖いリッチ系統で、近接を好む個体。
かつ、迷宮産で知性は低い。
何やら色々やってきましたが、あれは、謂わばプログラムです。
その辺もしっかり言い含めておかなければなりませんね。
さて、紅茶の用意でもしましょうかね。
ここは匂いが酷くなくていいです。





