第12話 いざ、迷宮《ダンジョン》へ!
気が向きましたので、二話目です!
やっと出てきました、ダンジョン。
3-12 いざ、迷宮へ!
「勇者の様子はどうだ?」
とある国。眩い光に溢れる豪奢な一室で、冠を頂いた男が問う。
「はい。ますます力を伸ばしており、そろそろ騎士団長殿でも危ういかと。それと、その……」
「こちらを一切信用しておらぬ、か」
言い淀んだ臣下にその主人、法王カリオストルが続ける。
「【勇者】に嘘を見抜くような恩恵などあったか?」
「いえ、憶えにはございません」
「ふむ。あの者の資質か。……例のものは用意してあるか?」
法王は自身の白い顎鬚を触りながら問うた。
「はい。抜かりなく。しかし、『隷属の首輪』よりはかけ易いとはいえ、それでも【勇者】の加護を抜くのは厳しいかと」
「ああ。そこは手がある」
「左様ですか。……あの怪しげな男を信じるので?」
臣下は、先日突然現れた男を思い出す。否、思い出そうとした。しかし、思い出されたのはその男に“黒い”という印象を受けたことだけだった。
臣下はその事に気味の悪さを感じ、身震いする。
「ああ。あの『砂漠の民』の男が何者かはわからぬが、他に良い手段もないのでな」
主人の言葉を聞き、臣下は戦慄した。
(“『砂漠の民』の男”、だと!? 人によって違う姿が見えていたのか!? あの者、いや、アレは一体、なんなんだ!?)
しかし、面には出さない。
◆◇◆
さて! 早速迷宮へ突撃です!
エドに白金貨とかさ増しの銀貨を数枚押し付け、王都へ戻って来たのが二の鐘が鳴っている最中。今は大体九時から十時の間ぐらいですね。
本格的に潜るにしても問題ない時間です。況や、軽く潜るをや、ですね。
と言うわけで、現在街の北東部にある『冥獄の檻』へと向かっています。
「姉様、『冥獄の檻』ってどんな迷宮?」
「そうね。一言で言えば、不死者の巣ね。最下層は五十階層らしいわ」
「えっ……」
はい。“冥獄”の名の通り。アンデッドの多い迷宮ですね。
不死者、と言うのは非常に死に難い、つまりは不死性を備えていると言うことです。ですから、吸血鬼や食屍鬼のように死体や霊魂以外の魔物も含まれます。
迷宮は『迷宮の守護者』と呼ばれるその支配者によって、かなり傾向が出ます。例えば、『迷宮の守護者』が竜種なら、その迷宮ではその竜より下位の竜種が多くでます。
とはいえ、浅い階層はどこも大して変わらないらしいですが。精々罠が凶悪とか、普通より強いゴブがいるとか、その程度です。
ちなみにこの『迷宮の守護者』、誰が言い出したのかも分かりません。気がつけばそう呼ばれていたとか。
まあ、長いので普通は“ラスボス”とか“ガーディアン”とかと略されるようですがね。……ラスボスはスキルの翻訳機能のせいですから、気にしないでください。
昨今ののラノベに見られるような“ドロップ”と言うものはありません。外と同様剥ぎ取る必要があります。守護者の討伐報酬はありますがね。――私にはどうしてもそれが不自然に見えてしまうのですが。まるで、迷宮を攻略して欲しいような……。
まあ、それはいいです。
「姉様、霊体系、私斬れないよ?」
「あー。うん、そう言えば教えてなかった。迷宮に入ったら教えてあげる」
「うん。……でも、ランク5だと足手まといかも」
「大丈夫よ。もっと上でもいいくらい」
今ブランの言った『ランク5』というのは、迷宮の難易度を示す指針ですね。
基本、迷宮の難易度は深さに比例します。よって、〜10階層はランク1、11階層〜20階層はランク2、というように10階層ごとにランク分けされてるんです。
最下層がわからなくても、これまでのデータや経験を元に、潜れた階層の難易度からランクが付けられます。
時々階層数とランクが合わない事があるのですが、これはランク設定のミスか、または深さ以上に難易度が高いというレアケースです。
前者は最下層がわかった時点で更新されるのですがね。
また、この難易度、すなわちランクが高い迷宮ほどリターンは多いです。当然といえば、当然ですね。強い魔物の素材はその分強いですから。
「今のあなたは、戦闘や斥候に限ればBランク相当の実力があるわ。ランク6までなら全然踏破を狙えるわ」
「ほんと?」
「ええ! 本当よ。自信を持ちなさい」
基本、管理されている迷宮に入れるのはDランクからです。これは、ランク1の踏破可能ラインを基準として設定されています。
ランク2〜4はCランクの踏破可能ライン。続いて二ランク毎にBランクの踏破可能ライン、Aランクの踏破可能ライン、となります。
その為、各ランクをD〜SSランクの冒険者ランクで呼称する場合もあります。
とはいえ、これは安全マージンをとった上での数字ですので、頑張れば一つ上の数字のランクくらいなら踏破できちゃうこともあります。
「ちなみに、『冥獄の檻』はランク7よ」
あ、ブランがフリーズしました。
◆◇◆
今回は私がいる事を思い出したようで、ブランが解凍されるまでさほど時間はかかりませんでした。……普通は4〜6人ほどのパーティで挑むなんて事にはまだ気づいてないようです。
「これが、『冥獄の檻』?」
「ええ、そうよ」
「……普通?」
そのブランの感想に、思わず苦笑いしてしまいます。
まあそう思ったのも無理はありません。なんせ、目の前にある建物は冒険者ギルドのそれと大きく違うようには見えませんから。
「この建物はただの容れ物よ。迷宮の入り口は別」
そう説明しながら、遅い時間にも関わらず意外と人の見えるカウンターへと向かいます。迷宮へ潜る時にはギルドへ申請して許可を貰わねばならないので。
並ぶ事暫し。
「Cランクパーティ、『戦乙女』よ。これから初めて潜るわ」
このパーティ名を名乗ったのは久しぶりですね。
「はい、確認します。少々お待ちください」
初めはデータベースをチェックする必要がありますが、これで問題なければギルドカードに魔法的処理をしてくれるので次回からはカードを渡すだけで済みます。
「――あら? パーティランクが上がっておられますね。Bランクになっています」
「あら、そうなの?」
ブランがCランクになったからですかね?
リオラさんは何も言っていなかったと思うのですが、他に心当たりはないです。
「ええ。――はい、お待たせしました。入り口で個人とパーティ両方のギルドカードを提示してください」
これでいいですね。
それじゃあ行きましょうか。
「姉様、いつの間にランク上がってた?」
「あなたのランクが上がった時じゃないかしら? あの後は色々あったし」
「うん」
そんな会話をしながら迷宮の入り口をめざしている、んですが……。
「……うっとおしいわね」
「……うん。隠す気、ない?」
「舐められてるのよ」
先程から視線がウザいです。大方、こちらが女、それも片方は少女と言っていいペアですから、不埒な考えでもしてるんでしょう。
とか言ってるそばから、ほら。来ましたよ?
「なあ、姉ちゃんたち。女二人でランク7は危険だぜ? Cランクパーティなんだろ?」
声を掛けてきたのは下卑た視線を隠そうともしない男四人です。
そういえば、前にもこんな事ありましたね。
「そーそー。俺たちも同じCランクだけどー、ここには何回も潜ってるし、人数多い方が安全だぜ? 協力してこーぜ、なぁ?」
先程Bランクに上がってるのを確認しましたし、私はAランクへ上がる戦闘力の基準は満たしてます。油断はなりませんが、それほどびくびくする必要はありません。
あなた達と一緒の方が危険です。……なんて事は言いません。
男達に気づかれないよう、ブランにそっと目配せをします。
「そうね。お願いしようかしら?」
「おぅ。よろしくなぁ?」
その様子を見ていた周りの何人かが、心配してくれたのか、こちらへ声をかけようとしてきました。
しかし、側にいた別の冒険者にとめられてますね。『吸血族』の超聴覚が、『狂戦姫』の音を拾いましたので、私のことを知っていたのでしょう。
「姉様、いい人もいるね」
ブランにも、勿論聞こえていたようです。
「ええ」
「なははっ! 気にすんな。冒険者は助け合い、だろう?」
なんかほざいてますので、とりあえず微笑み掛けておきました。
下心満載のニヤケが深まりましたよ? 気持ち悪いですね。
そのまま迷宮の入り口のある部屋の前でギルドカードをみせ、中へ入ります。
そこにあったのは、ぽっかり口を開けた、地下の闇へと続く階段と、おそらくはそれを封じていたであろう巨体な石碑でした。
「これが、『冥獄の檻』の入り口……」
となりから、ゴクリという音が聞こえます。
「緊張しなくていいわ。大丈夫」
「おう! 迷宮だと何があるかわからねぇが、俺たちに任しときな!」
「……うん」
何があるか、わからない、ですか。ええそうですね。何があってもおかしくないですよね?
なんせ、誰の目も届かない、地下迷宮の中ですから……ね。
アルジェさんの選択がどのような軌跡を残すのか、少しでも気になると思っていただけたならブクマお願いします。
…自己満足の息抜きで始めたとしても、半年もたてば愛着が湧きますし、その辺も気になってくるんです。
そう言えば、スズが召喚された時変に冷静だったのにもちゃんと理由がありますから。
4章の終わりか5章の始めに出てきます。





