第5話 寿司食いねぇ
はい、本日二話目です。
3-5 寿司食いねぇ
「不思議な香り。落ち着く……」
「でしょう? 私の故郷の伝統様式よ」
『竜垂庵』の一室。私たちは茣蓙に寝転び、い草の香りを楽しんでいるところです。
茣蓙と畳は一応区別されるもののようですが、祖父母の家にあるものは全部茣蓙と言っていたので何が違うのかよく知りません。
まあどうでもいいですね。とにかく落ち着く香りです。ふぅ。
二人でボンヤリしていると、エルフの仲居さんが食事の用意が出来たことを伝えに来てくれました。
美人で胸部装甲の薄いエルフに浴衣。絶妙の組み合わせですね。感覚がかなり女に近づいた今の私ですが、思わず見惚れてしまいました。
「お座敷? は好き。でもいちいち靴脱ぐのは面倒」
食事へ行こうと靴を履いているブランの言葉です。
「そうかもね。何かあった時の対応が遅れるだろうし」
「うん。でも、お客さんいっぱい居る」
「それだけ安全って事よ」
そんな話をしつつ向かうのは、館内にいくつかあるレストランの一つ。『海蛍』という所です。
部屋に運んでもらうこともできますが、私の我儘でそこまで赴くことにしました。
名前に“海”とある通り、『海蛍』は海鮮料理を扱っています。
[時間遅延]の〈付与〉がされたマジックバックを用いて海から新鮮な魚介類を運んでいるのです。
新鮮な魚介ですから生食可能、つまり刺身やお寿司が食べられるのです!
しかもお店までいけば目の前で握って貰えます。これは行くしかないでしょう?
まあ[時間遅延]は迷宮産でしか手に入らないので費用はかさんでしまうのですが。
補足しておくと、この[時間遅延]はそこそこの頻度で見つかるのでお金さえあれば手に入ります。上位の[時間停止]になると世界でも数える程しかない、半ば伝説のアイテムですね。売れば一生遊んで暮らせるお金が手に入ります。
さあ、着きましたね。楽しみです!
「姉様オススメの“おすし”、楽しみ……!」
「ふふふ、期待してなさい」
中に入ると、職人さんのいるスペースを囲うようにしてカウンター席が並んでいます。奥にはいくつかお座敷も見えますね。
今回はカウンターを希望してあるので、入ったところにいた店員さんの誘導に従ってその一角へ座ります。
既にいくつかの料理は準備されており、刺身と寿司はその場で頼めばいいそうです。
用意されているのは、一人用の鍋と茶碗蒸しのようなもの。それから魚の煮付けですね。
一つ一つの量は多くありませんが、非常に美味しそうです!
「美味しそう……(ゴクリっ)」
ブランの目も釘付けですね。
私たちが背についたのを確認すると、店員さんが鍋のコンロに火をつけてくれます。このコンロ、クズ魔石を利用した魔道具ですね。
その時に飲み物を注文し、いざ!
「まずは煮物からいただきましょうか」
うん、美味しい!
身は柔らかく、ダシがしっかり染みています。
ご飯が欲しくなりますね。え? 貰える? 是非!
ブランも目を見開き、夢中で食べています。
ああ、その姿だけでご飯二杯いけますよ!
続いて茶碗蒸し。(お品書きにしっかり“茶碗蒸し”と書かれていました。)
これは……百合根? それからよくわからない海老。噛めば噛むほど甘みが出てきます。歯ごたえもしっかりしていますが、なんという海老でしょうね? と思って鑑定したらCランクに分類される魔物でした……。
さて、そろそろ本命と参りましょう!
目の前の木札に書かれたネタを見ていきます。
うーん、どれにしますか……。
「紅玉卵の軍艦に、針鮫のタタキ、あと突撃黒魚の三種を握りで頂戴。この子にも」
「へいっ!」
何が何かよくわかりませんが、とりあえずです。
「お待ちっ!」
お、出てきましたね。
見た目は、
紅玉卵→イクラ
針鮫→サーモン
突撃黒魚→マグロ
です。
味は……美味しい!
紅玉卵と突撃黒魚は見た目通りなんですが、針鮫は鯛と鰹を合わせた感じです。
私の知る鰹のタタキと違って生姜は控えめですが、臭みは無く、添えられたタレは鯛のような甘みを引き立たせてくれます。日本海側の田舎の居酒屋で食べた鰹がこんな感じでしたか。
ブランは紅玉卵が気に入ったようで、追加で五つも頼んでいました。
次は、そうですね。
あ、コレはわかります。
「大王烏賊の刺身を塩で頂戴。それから紅玉卵に甘くすりおろした白根をたっぷりのせてもらってもいいかしら?」
「お、お嬢さん通だねぇ? ――あいよ!」
白根は大根のことですね。
あぁ、美味しい!
前に家族で寿司屋さんに行った時、大将が作ってくれたんですよ、このイクラに大根おろしのせたやつ。やっぱりおいしいですね!
地球にいる大王烏賊は、大味という話をよく聞くのでコレもそうかと思ったんですが、寧ろ繊細!
ちょっと歯を当てるだけで身が解けるんです。程よい甘みに、旨味成分も多いようで、何もつけなくてもいいくらいですね!
さぁ
次は何にしましょうか。あ、鍋がそろそろですね!
………
……
…
ふぅ、とっっっても満足です!!
これは明日も楽しみですね!
「うぅ、もう動けない……」
あらあら、ブランは食べ過ぎたようですね。
でも、故郷の料理を気に入ってくれて嬉しいです。
とりあえず、海にはいずれ行かねばなりませんね!!





