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12/10^16のキセキ〜異世界で長生きすればいいだけ……だけど妹たちに手を出すなら容赦しない!〜  作者: 嘉神かろ
第2章 千の時を共に

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第16話 英雄の血族

リベリルティア王国では複合名の他に苗字の前に=を入れる風習があります。貴族以外の苗字持ちは「・ダ」が入るので紛らわしくはないはず。あと領地名がそのまま家名になるパターンの国です。


追記(2019/4/10):ブランの刀を打刀から小太刀に変更しました。

いくつかの話が変わってますが、物語には影響ありません。

2-16

「改めて礼を言おう。娘を救ってくれてありがとう」


 目の前で頭を下げるナイスミドルは、このリムリアを治めるリムリア公爵です。名はレオン・デューカリー・フォン=リムリア。先ほど助けたリリアン様の父親でもあります。


「顔をお上げください。私どもはただの平民でございます」

「私はここにリリアンの父親として来ている。娘の恩人に頭を下げない親など居ようか」


 むぅ。そう言われると何も言えません。


「当然の事をしたまででございます。それに、リリアン様なら御自身でも逃げ切れたでしょう」

「……さすがは二つ名持ち、といったところだな」

「恐縮でございます」


 え? 何のことかわからないって?

 なんて事はありません。ただリリアン様がかなり大きな魔力を有しているというだけのことです。

 街中では使えない事情があるようですが、街を出てしまえば問題ありません。〈隷属の首輪〉も、公爵令嬢なら[隷属]に対する護符を持つか聖堂で祝福を受けているはずです。[隷属]は“契約”に分類されるのでタイトゥース様の専門分野ですからね。触媒が馬鹿みたいに高いので、一般の人には無理があるものですが。


「おそらく君が想像しているだろう通り、リリアンには街中で魔法を使えない理由がある。あの子はある日急に魔力が増えたクチでね、まだコントロールがうまくできないのだ」


 やはり。今の私よりも魔力が多いのです。下手したら街が吹き飛びますね。


「その話はここら辺にしておこう。ここからは公爵として、君に渡す褒美の話だ。まずは白金貨百枚。それから上層区と下層区の境にある屋敷だ。君たちは冒険者である上にいずれは世界中を回ってみたいと思っている事は聞いている。屋敷の維持に必要な使用人はこちらで用意した。彼らの給料も出す。だが新しく雇う場合は君たち自身で給料を出してくれ」

「ありがとうございます……」


 ひぇ?! 屋敷の規模とか使用人の人数とかわかりませんが、現金報酬を合わせると、少なくとも白金貨二百枚以上ですよ!?

 辺境の公爵ヤバすぎ……。そんな大金ポンっと出されても……。それにこの感じ……。

  ……そういえばブランが静かですね? もっとアワアワしてると思ったんですが……あ、気絶してる。



◆◇◆

「やっと終わったのですね」


 公爵の部屋から出て案内された先の部屋にいたのはリリアン様。そして、リリアン様にどことなく似ている少女。リリアン様より少し上かな?


「お待たせしていたようで、申し訳ございません」

「もう、そんなかしこまらなくていいっていってるじゃないですか。……うーん、そうですね。父からは褒美を受けたんですよね?」

「え、はい」

「でも、私からは何も渡していません」

「十分すぎるほどのものを頂いてもおりますので、リリアン様からまで……」

「渡していません!」

「あ、はい」


 何でしょう、この圧力。


「ということで、私からは権利をお渡ししましょう」

「権利、ですか?」

「ええ、私……お姉様も? ですか? ……私たちと対等に接する権利です! 使わないのは無しですからね?」


 受け取らないという選択は不敬罪――この国では公爵家まで不敬罪、王家だと反逆罪らしいです――なんですが……。


「……はぁ、わかったわ。ありがとう。それで、そろそろその方を紹介して貰えないかしら?」

「それでいいのです。こちらはローズ=クロエ・ド=リベルティア。私のはとこで、第二王女です」

「ローズでいいわ、よろしくね」

「あ、それでしたら私もリリとお呼びくださいね」

「……よろしく」


 そろそろ目が覚めませんかね? え? 夢じゃない? 現実? ……はぁ。


◆◇◆

 その後、私たちは下賜かしされた屋敷へ案内されました。ローズとリリも一緒です。どうやらそのために待っていたようで……。


 移動中にリムリア公爵家が辺境伯から陞爵された経緯を聞きました。勝手なイメージですが、辺境を治めるのは辺境伯という風に思っていたので、気になっていたんです。そうしたらやはり、もともとは辺境伯で間違いないとのこと。

 なんでも四十年ほど前に竜種のスタンピードがあったらしいのですが、それを解決したのがリリのお祖父さん、つまりは先代リムリア領主だったそうです。その功績をもって当時の第三王女と婚姻を結び、新たな公爵家となったとのこと。まさに英雄です。

 しかし、色々納得しましたね。レオン様がおそらくかなり強いということ然り、リリの魔力然り。どうやら縄張り争いに負けた中位竜(ミドルドラゴン)が来ていたようですが、それでもSランクの群れです。

 それを、解決して姫様もらった、となるほど活躍したなら軽く化け物です。冒険者でいうSSランクになるのでは?


 話が出たついでに竜種について補足しておきます。

 竜種は親の種族に関係なく幼竜(ドラゴンパピー)として生まれます。その後、周囲の環境や食べ物、才能などその竜の能力に応じた性質に特化する形で下位(レツサー)中位(ミドル)上位(アーク)古代(エンシェント)と成長していきます。言語的なツッコミは無しで。私に言われても困ります。

 ……例えば火山に住む竜なら幼竜(ドラゴンパピー)下位火竜(レツドドラゴン)中位火竜(フレイムドラゴン)上位火竜(ブレイズドラゴン)となることが多いです。古代竜は全て“ネームド”と呼ばれる特殊(ユニーク)個体であり、世界で唯一の種族となります。稀に上位の段階でネームドになることもあるそうです。

 また、竜種と別に龍というのもいるらしいです。龍は竜種の突然変異で、精霊に近いとのこと。強さは古代竜と同等以上。(古代竜自体強さにバラつきがありますが)土地神として祀られていることも多いらしいです。

 ちなみに竜種は西洋、龍は東洋のそれをイメージしていただけたらいいです。


 長くなりましたね。ともかく、その英雄なお祖父さんの話を聞いている間に目的地へ到着しました。領主館からそれなりに近いです。


「……これは、また」

「どうです? いいお屋敷でしょう?」


 馬車の窓から見えた屋敷に、私は唖然。ちなみにブランはまだ起きていません。

 大きすぎません? 敷地は、私が行ったことのある中だと、広島ドームより少し広いくらい? 建物自体は県の役所くらいですね。私たち二人なんですが?

 馬車も止まりましたし、ひとまず降りましょう。そう思って馬車のドアを開け、一歩外に出た途端…


「「「お帰りなさいませ、アルジュエロ様、ブラン様」」」


 ズラッと並んだメイド&執事たち。正確な呼び名というか役職はもっと細かく別れているのですが。こういうの、本当にあるんですねー。ちょっと遠い目になってしまいます。

 まず口を開いたのはロマンスグレーの髪を持つ老使用人です。


「私、家令を務めます、セバンと申します。どうぞよろしく」


おしい! あと一文字。……いえ、なんでもありません。家令は、まあ執事だと思っておいていいです。

 何でももともと公爵家に仕えていてリリもよく知る人物なのだとか。数年前に引退して元給仕長である奥さんとのんびりやってたところに今回声がかかったらしく、その事を詫びると、


『ほっほっほ、私どもとしては嬉しい限りであります。毎日退屈していたところに、リリお嬢様の恩人である貴女様にお仕えできるのですから』


なんてお返事をいただきました。物腰は柔らかいですが、熟練で頭のきれる方です。


「ここで全ての使用人の紹介するのもなんでしょう。リリアン様やローズ様もいらっしゃいますし、まずは中で落ち着いてからにいたしましょう。屋敷はその後させていただきます」


 よかった。何しろ広島ドーム規模の屋敷を維持する人数ですから。……将来維持できるでしょうか?


◆◇◆

「さあ、『狂戦姫』よ! 始めようか!」


 目の前で大きめの片手長剣(バスターソード)を構えるのはレオン様。

 あの後使用人を紹介され、屋敷も案内され、あとはお茶でも飲んでのんびりしましょうとなった頃にやってきました。

 屋敷や使用人がどうだったかはちょっと、いえ、かなり長くなるので使用人の内訳だけにしておきましょう。家令が一人、女中頭(メイド長ですね)が一人、従僕が三人に庭師が男女十人、下男が一人、女中(メイド)が二十人で、侍女はいません。家にどれくらいの時間いるかわからないので、用意しなかったとのこと。必要なら言えば紹介してくれるそうです。コックも居ません。メイドはハウスメイドやランドリーメイドなど、それぞれを合わせた数ですが、男性使用人の倍ほどいます。これは私たちに気を使ってくれたのでしょう。

そんな気が使える方が今、私と対峙している訳、簡単です。


「巷で噂の実力が本物かどうか、是非試させてもらうぞ!」

「試すって全力でやるき満々じゃない(ボソっ)」

「お父様ったら……」


 レオン様は戦闘狂なのです。初めて会った時から分かっていました。


「当たり前だろう! 文句を言っても分かっているぞ!」


 あら、聞こえてた。それに、やっぱりバレてましたね。私たちが、同類だって。


「さすが、でございます。お互い本来の武器ではありませんが、楽しみましょう!」


 そう言って訓練用の刀を構えます。

 しかし、不満顔なナイスミドル。刀の方が強い事は伝えたはずですが…。


「……ふむ、よし! 俺が勝ったらリリたちと同じように接しろ!」


 どうやら畏まった態度が気に入らなかったようですね。一人称は戦いになると変わると後で聞きました。


「わかりました。でも、負ける気はありませんので」

「当然、だっ!」


 返事とともに鋭い踏み込み。


「ふっ!」


 シンよりは遅いですが、さすがの速度。そしてパワー。避けた先の地面が割れています。


 ――反撃、は無理。距離を取られた。

なら詰める。


 懐へ入り、切り上げ。上体を逸らして避けたレオン様の横薙ぎは刀で逸らす。


 死に体になったレオン様の左肩へ袈裟斬り。強引に剣で受けられた。このまま押し込んだら、模擬刀だと折れるな。

なら――、


「くっあぁ!」


 刀を弾かれ、ガラ空きの私の胴を薙ぐ一撃がくる。が、そのまま前へ。

 レオン様の顔が驚愕に歪む。私は丸腰のはず、だって?

 残念、刀はまだ持ってるんだな。

 跳ね飛ばされたふりをして、逆手にもち、体で隠した。その刀の柄で水月を打ち、トドメ――


「くっ! まだまだ!」


はダメのようだ。目の前に魔力が集まるのがみえ、〈縮地〉で後方へ。途端起きる指向性の爆発。


「へぇ、なかなか……」


 今のは〈火魔法〉の[爆発(プロージヨン)]。[大爆発(エクスプロージヨン)]と異なり、威力は微小。その音と衝撃で注意を引くのを目的とした魔法。“無詠唱”や“詠唱破棄”が可能なら接近戦では便利な下位魔法だ。


 おそらく魔力を過剰供給して威力を高めたのだろう。あの一瞬で……。


 口角が上がるのを感じる。


 お互い、〈身体強化〉はとっくに使っている。

 再び〈縮地〉で接近、した眼前に剣。魔導で空気の塊を剣にぶつけ、軌道をそらす。


(〈縮地〉はまっすぐしか行けないのが欠点ね。回避以外は使えて一度のみってとこかしら)


 流される剣に逆らわず、レオン様は左へずれる。――逃がさない。


 追うのは突き。避けられれば死に手。

 レオン様は剣の腹でうけた。


 なかなかしぶとい……。でも、勝ち筋はみえた。


 そのまま後ろに下がり、体の流れた私へと振り下ろされる剣を、上体を捻って避ける。

少し掠ったが、問題ない。


 吸血族の膂力で一足飛びに距離を取る。


「そろそろ決めさせていただきます」

「はっ! やってみろ!」


 一気に踏み込み、打ち込む。

 刀に負担をかけないよう打ち合う事数合。


 レオン様の側頭部に、なんの仕掛けもない[爆発]を放つ。

 よろめいた隙は逃さない。


 刀の切っ先を持ち、ひき、全身をそらせ、力をためる。矢を撃ち出す寸前の、弓の如く。


 ――其は大火。万事を侵し、破壊する剛の剣。


 川上流――『迦具津血カグツチ


「はぁっ!」


(キンッ)


「チェックメイト、です」


 残ったのは、折れた剣と呆けた顔で首筋に剣を突きつけられる男のみ。


「っふ、フフ、フハハハハ! ここまでか! Bランクの実力ではないな! はっはっはっはっ!」

「嘘……。お父様をあそこまで圧倒するなんて……」


 肩をすくめ、返事をします。


「貢献度以外の条件はみたしています」

「なるほどな、そういうことか。そうだ、一つ聞いていいか? お互い訓練用の剣でやっていたのに何故私の剣が折れた?」


 私が言えたことではありませんが、本当に雰囲気が変わりますね。戦闘時と。


「一度、突きを剣の腹でお受けになりましたね?」

「ああ」

「あの時僅かに剣身に傷が入ったので、そのあとはそこだけ狙っていました。それだけです」

「……恐ろしいまでの技量だな。最後の技といい、普通のセンスでは力が逃げて到底真似できまい」

「一目で見抜くレオン様も素晴らしい才です。アレは私の流派の奥伝の一つでございます」

「この上強力な魔法まで使うか。召し抱えたいところだが、其れは言わないでおこう」

「ありがとうございます」

「姉様、カッコイイ……!」


 屋敷に入る頃に目覚めたブランがキラキラした目で見てきます。カハッ! 今日最大のダメージです……! ブランが可愛すぎる! この屋敷より万倍嬉しいです!


「ふむ、そういえば、私が勝った時の要求しかしていなかったな。何か欲しいものはあるか?」

「いえ、もう十分すぎるほどに頂いております」

「そうか……なら……(ニヤリ)」


 な、なんですかその顔は。嫌な予感が……。


「私に勝った褒美に、私と対等に接する権利を与えよう。もちろん、受け取ってくれるよな?」


 ……勝っても負けても同じって、いったい。


「…………わかったわ」


 この親子め……、はぁ。



カグツチは本来、『迦具土』や『迦遇槌(のみこと)』と書きます。

しかし、今回の技が火山の噴火をイメージしたものであったため、カグツチの血から山神や雷神、火の神を生み出した話は噴き出した血が火山の噴火を連想させ、それに伴う自然現象を起こしたからという考えに基づき、『迦具津血』の字を当てました。『津』は“溢れる”という意味を持ちます。

まあ、あの技はデコピンの要領だと思っていただけばいいです。実際にやろうと思ったらそれなり以上の身体制御能力とバネがないと普通に斬った方がマシと言うことになりますが。

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