第1話 鬼の予感
冬休みが思ったより冬休みだったことに驚く今日この頃。
かっこの付け方を少し変更しました。
2-1
スタンピートから1週間ほどたちました。
私はあの夜、遊びに来たメルちゃんを膝に抱えたまま泣いてしまいました。
整理したはずだった家族への思いが溢れ、止まりませんでした。
次に友人達の顔が浮かびました。私は人付き合いはいい方ではありませんでしたが、その分深く付き合っていた大切な奴らでした。
ずっとずっと泣き続ける私を、メルちゃんは不思議そうな顔をしながらも頭を撫でてくれていました。
子供特有の高い体温を、すぐ側に感じていました。
次の日には私もさすがに復活して、ギルドへ行きました。
スタンピートの報告と報酬の受け取りですね。あれは〈緊急依頼〉に分類されるので、報告をしなければ罰則を受けてしまいます。
え? どうやって確認するかですか?
――ああ、そう言えば説明していませんでしたね。
ギルドカードには討伐した、又は討伐に貢献した魔物の名前が記録される機能があります。
これはギルド登録時には説明されません。よく考えもせず偽称するような悪質、またはそうなるような要素のある冒険者をふるい落すためですね。
もちろん一回やそこらでチャンスを完全に奪うことは、あまりありませんし、頭の回る悪人はどうにもなりませんが。
ちなみにマニュアルには書いてありますし、聞けば教えてくれます。
頭の回る悪人ならその辺を調べることは怠らないでしょうから、別に説明しない意味がないということはありません。
また、そういう人材が必要な場面もあるでしょう。毒をもって毒を制す、ということです。
ついでに、依頼失敗時の罰則など依頼関連の規約を説明せずにいるのも似たような理由です。この世界の冒険者ギルドは現代日本ほど親切でもないし、優しくもないんです。『マニュアルをお読みください。』と一言言ってくれるのは、いわば情けといったところだそうですね。
ともあれ、今回はその機能を使うことになります。
そうだ、この時にリオラさんにしっかり聞いておきましたよ。〈魔導スキル〉の事。
なんでも〈魔導スキル〉というのは、〈魔法スキル〉の上位互換になるそうです。
〈魔法スキル〉は体系化された一定数の魔法を呪文をキーにして発動する、いわば初心者用オート機能のようなものですね。
対して〈魔導スキル〉は、まず前提として『魔力操作』を必要とします。『魔力操作』で魔力を操り、性質を変化させ、現象を起こします。つまり、〈魔法スキル〉が自動でやってくれている部分を自分でやるマニュアル操作です。
〈魔法スキル〉はスキルさえ発現し、十分なレベルであれば誰でも簡単に魔法が使える分、細かい調整がききません。せいぜい魔力量を変えて威力をコントロールできるくらいだそうです。
そのあたりの自由さと、それに付随する難易度の高さが〈魔導スキル〉を上位とする所以ですね。
本来であれば〈魔法スキル〉で魔力の操作を覚え、〈魔導スキル〉に至るようです。
私の場合は転生者ゆえの無知と、しばらく魂のみで過ごしていた事が影響して飛び級できたようです。形のないエネルギー体を操るという意味では同じですからね。
あとは日本のサブカル知識もでしょうか?
まあいいでしょう。いい時間になったのでギルドへいってきますね。なにやら呼ばれているそうなので。
◆◇◆
「こんにちは、リオラさん」
ギルドに着いたら真っ直ぐリオラさんの所に向かいます。今は昼前なので人は少ないです。
「こんにちは。アルジェさん。今日はしっかりオフにされているようですね。」
「アハハハハ。……悪かったわ」
……なぜ私が気まず気にしているかというとですね、【魔性の女】がやらかしたからです。
どうもこの称号というのはオンオフ機能のあるものもあるようでして、その、戦いが終わって戻ってきた時にですね、魅了効果をばら撒いてしまったんです。
相手が別のものに集中しているとほとんど掛からない程度のものなんですが、気を抜いた冒険者のみなさんには効果抜群でした……。
今朝感じた多くの視線もこれが原因でしょう。
今までは魂の定着率が低かったためにオフの状態になっていたようです。
それが前日に条件を満たしたため、効果をはっきするようになってしまった、ということですね。
つまりは【12/10^16のキセキ】も効果を発揮していなかったということになります。
どうやら魔物に合わなかったのはスタンピートの影響だったらしいですね。いや、本当に良かった。
などと考えている間にも会話は続きます。
とりあえず、話をそらしましょう。
「それで、今日はなんで呼ばれたの?」
「ふふ、そんなに怒っていませんよ。それほど騒ぎが大きくなる前だったので。」
「うっ……」
「それで、お呼びした要件でしたね。今日はある方からがあなたに用があるそうです。案内しますね」
そのある方がだれか考えつつ、リオラさんが開けてくれたカウンターを通ってギルドの三階へ向かいます。
◆◇◆
「お、きたか!」
扉を開けてまず目に入ってきたのは、二本の角をもった美青年。
「うげ、あなたは」
「アルジェさん、女性が『うげ』というのはどうかと思いますよ」
「そう言われても、ねぇ? それはそうと、なんであなたがいるのよ」
「はっはっは! そう警戒するな。俺が呼んだからに決まっているだろ?」
そりゃ警戒しますよ。スタンピートの時オーガ系の魔物と間違えて斬りかかってしまったんですから。ちなみに物騒な怒鳴り声の主です。
「なんであなたが私を呼ぶのよ?」
「だから警戒するなといってるだろ。別に怒っちゃいねぇよ。あぁいう極限状態かつ相手が鬼系の魔物だと時々ある事だ」
「ふふふ、そうですよアルジェさん。別に気にする必要はありません。どうせギルマスなんてちょっとやそっとじゃ死にません。むしろ一回死にませんかね?」
「いや、その扱いはどうなのよ……てギルマス?」
「えぇギルマスです」
ギルマスって、ギルドマスターですよね? 一番偉い人ですよね?
私そんな人に斬りかかってしまったのだけど……。まぁ軽く避けられてそのまま投げ飛ばされましたけど。
というかリオラさんもそんなこと言って……大丈夫そうですね。めちゃくちゃ笑ってます。
どころか、それはおもしろいとかいってますよ。
なんとも豪快、というかギルマスを適当に扱うリオラさんこそ何者?
「まぁそういうことだ。納得したか?」
「えぇ、とりあえずは」
「ちなみにリオラはサブマスだぞ?」
「え!?」
「ふふふ、驚きました?隠してた訳ではないんですよ? 言う必要もないことでしたから」
むぅ、教えてくれてもいいと思うんですが。
「まあいいわ。それで、話って何なのよ?」
「いや何、話してみたかっただけだ。お前、アルジュエロだったか? 【転生者】らしいな?」
「アルジェでいいわ。えぇ、確かに【転生者】ね。リオラさんからきいたの?」
「ああそうだ。おっと安心しろよ?他に知ってる奴はいない。リオラにしても立場上報告の義務があっただけだしな」
「そのくらいわかってるわよ」
「はっはっは!それならよかった。そうだ!アルジェの剣、みせてくれないか?あの時は一瞬だったがかなりの業物だろう?」
まあ確かにアレはきになりますよね?
「別にいいけど、それより自己紹介くらいしたらどうなの? 私はあなたがギルマスってことしか知らないわ。それもたまたま知れただけ」
「ん? してなかったか? それは悪かった。俺はシュテン。見ての通り鬼神の系譜だな。種族的には『妖鬼族』になる。現役のSランク冒険者だ。」
Sランク、納得ですね。伝説級の大剣の不意打ちを、魔力を纏っていたとはいえ素手で逸らしてましたから。普通なら触れただけで腕がぐちゃぐちゃになります。
Sランクって世界でも十人いるかどうからしいですが、納得ですね。
ちなみに『鬼神の系譜』というのは彼のように鬼の角をもった人間種族の総称です。彼の種族である『妖鬼族』の他に『鬼人族』と『鬼神族』がいます。
力関係で言えば鬼人<妖鬼<<鬼神です。
また「系譜」とあるように同じ祖をもちますので、稀にですが力を蓄えた下位種族が上位種族に至ることがあります。
ちなみに私の種族である『吸血族』も『吸血鬼』と「鬼」をつけて呼ばれることがありますが、鬼神の系譜にはありません。ついでに“吸血鬼”は『吸血族』にとっては蔑称です。絶対に言ってはなりません。
一応つながりはあるらしいですが、ほとんど別物です。
なんでもある鬼神の一柱が妊娠中に大量の闇の魔力を浴びて産んだ子が、突然変異をおこして誕生した種族だとか。適性スキルがないと吸血族が光魔法を使えない理由ですね。性質が闇に偏って生まれたということですから当然です。
その子が始祖となり、人族との間に産んだ子が真祖となった。
真祖が長い年月をかけてその血を薄れさせていった結果今の『吸血族』となり、先祖返りとして時たま真祖が生まれるといった感じです。
では血を薄れさせなければ真祖が生まれるのではないかという問いの答えは「YES」となります。
それを行なっているのが現吸血族の王家と大貴族、というわけですね。
ですので先程の鬼神の系譜にあてはめるなら、
ノーマル吸血族=鬼人族
吸血族の真祖=妖鬼族
吸血族の始祖=鬼神族
となりますね。まぁ『吸血族』はただ強くなるだけでは基本進化しませんけど。
それに始祖は本当の意味でイコールですので、他の者は始祖たり得ないです。例外もありますが、鬼神の系譜のそれとは別物ですから、今はいいですね。またいずれその話はしましょう。
と、長くなってしまいましたね。一応こちらも自己紹介しておきましょうか。
「必要ないと思うけど言っておくわ。アルジュエロ、【転生者】で『吸血族』の真祖よ。よろしく。それと剣よ」
必要最低限の事だけ言ってさっさと剣をみせます。
「ああよろしく。おお! これはすごいな! 階級は秘宝級? あぁ隠蔽か。みたとこ伝説級ってとこだな」
あっさり看破されましたが、彼だからという事にしておきます。
「ふむ、いい物を見せて貰った。礼というのもあれだが、なんかあったら相談ぐらいのってやる。ここ数十年、スタンピードは増え続けてるし、強い奴は大歓迎だぜ?」
「私がのりますのでギルマスは引っ込んどいてください」
「ほんと雑ね」
剣を返して貰った後はそんな会話をしながら、握手だけして私は部屋(ギルマスの執務室らしい)を後にしました。
――それにしてもなんであの見た目でオークジェネラルを片手かつ魔力強化なしで振り回せるのでしゃう? 細マッチョではあるのですけれど……。
◆◇◆
「行ったな」
「別に問題なかったでしょう? いい子ですよ、アルジェさんは。
「あぁ、彼女自身はそうだな。だが杞憂ではないぞ。あの剣、アレはヤバイ。なにかはわからないが異様な気配を感じた。」
「神授の剣だからじゃないんですか? それに状態も<神呪>となってましたし」
「前に依頼で片付けた精神を犯す呪いの魔剣に似ていた。リオラ、彼女をよくみておいてくれ」
「わかりました。まあ他の子には任せられませんし、私自身アルジェさんは嫌いではありません。しかし、剣だけですか?」
「あぁ、剣だけだ」
「そうですか。……それでは。」
リオラはそう言ってカウンターの方に戻って行った。
残ったシュテンは普段の見た目にそぐわない豪快な雰囲気を消して、静かに何かを考えているのだった。
あれ?
クリスマス終わってる?
もう年越し?
あれ?あれれ?





