第七話 9つの眼を持つ竜
またもや短い。
少し情報量が多いのと、次回から戦闘が続くので。
7-7 9つの目を持つ竜
「……これは、予想以上ね」
「うん……」
視線の先にいるその存在に意識を向けたまま頬を伝う冷や汗を拭います。
一晩ほど野宿をして、朝日が昇る前に出発した所までは予定通りでした。
いえ、あんな存在が居るからこそ、予定通りに行ったと言うべきでしょう。
それ程に、あの存在、古代竜レテレノは強大でした。
深緑色の鱗に覆われた身体は富士山の三分の二近い大きさがあり、その背に生えるステゴサウルスのような板状の突起もあって山脈を思わせます。
後脚が特に発達していて前脚はその三分の二程の太さですが、それでも十分に強靭そうです。
首、尾と共に長く、片方が折れた双角の頭部は蛇に似ています。
骨格としては蜥蜴のようで、翼はありません。
ここまでは地竜に良くある感じらしいのですが、一番の特徴といえばやはりその眼でしょう。何せ、左右の側面と額に三つずつ、計九つもあるのですから。
しかも……。
「あれ、全部魔眼ね。しかもブランのと同じタイプの」
「え、マジ……?」
「マジよ。瞳の色と魔力の色が同じだし、眼に魔力が集中してる」
本当に厄介です。
その魔力量については、今更言及する気にもなりません。
それにしても、アイツ、動きませんけどこっち気づいてますよね? 舐めプですかね?
「……どうした、人間よ。我を討ちに来たのではないのか?」
とか思ってたらそんな声が。
やはりこちらの事を舐めているようです。
そういう事なら、少し話を聞いてみますか。
二人に目配せをしてから、奴より少し手前にある巨木の頂上に転移します。
「ご機嫌よう、とでも言えば良いかしら? 古代竜レテレノ」
「[短距離転移]か。多少は出来るようだな……」
声質は低めで女性的。
落ち着いて話しているようですが、かなり憎しみの篭った眼差しを向けられています。
「四十年くらい前にも竜種のスタンピードがあったって聞いてるけど、それもアナタの仕業かしら?」
「年数など覚えておらぬが、確かに我だな」
「ここ暫く頻発していたスタンピードも?」
「少し唆しただけだ」
レテレノは、わかりづらいですが口角を上げているように見えます。
「じゃあ、リリ、公爵の娘を拐わせようとしたのも?」
「アレが成功しておれば、我は思念体を飛ばすだけで目的の一つを達成できたのだがな」
最後のは唯の勘だったのですがね。
これは首謀者が見つからないわけです。
「……アナタは何故、人間を憎むの?」
「…………何故?」
おっと、声音にまで憎しみが混ざり始めました。やはりコレは地雷でしたか。
「貴様ら人間は、木々を切り倒し、森を破壊して小さき魔物や動物達の住処を奪う。多少ならば唯の摂理。我も何も思わぬ」
レテレノの魔力が荒ぶり始めます。
「だが貴様らは、己の欲望のために過剰な破壊をもたらした。何年、何十年、何百年……! それだけでは無い!! 生きる為ではなく、欲を満たす為に幾度となく戦を繰り返し、悪戯に戦禍を広げる。それでどれだけの命が消えた? どれだけの秩序が乱された?」
これは、拙いですか?
「以前は、かつて『龍人族』の男に受けた傷が言える前に動いてしまったが為に同胞達を無残に死なせてしまった」
『龍人族』の男? まさか……。
「だが今回はそうは行かん! 我も出る。そして貴様ら人間を滅ぼす! 貴様らは、この世界には不要だ!!」
次の瞬間、全身を凄まじい圧力が襲います。
奴の目の一つに魔力が集まってますから、魔眼の力でしょう。
でも、これなら……。
「無駄よ!」
少し魔力を発するだけで抜け出せる。
「フンッ、やはり効かぬか!」
そのまま前脚で薙ぎ払ってきたのを飛んで空に躱し、愛剣片手にレテレノを睥睨します。
さぁ、始めましょうか!
読了感謝です。





