第五話 混沌の守護者
6-5 混沌の守護者
時は進み、九十階層。立ちはだかるのは、Sランク下位の精霊獣。この階層の守護者です。
迫る白光を闇で打ち消し、光でヤツの手足を縛ります。
「ブランっ!」
「っ!」
精霊獣に抜群の相性を持つ『白梅』が閃き、カウンターの一撃は『黒月』が受け流しました。
私の声に反応してブランが斬りつけたのは、光と闇が出鱈目に入り混じった六本腕の人形で、名は『混沌半御霊』。
「さて、そろそろ本気でやろうかしら。ブラン、少し下がってなさい」
「……うん」
前方でこちらを警戒する混沌の身長は三メートルほどで魔物としては大きくはありません。
しかしその威圧感は大型の竜種に劣るものではなく、この無機質な水晶洞窟全体を己の威で塗りつぶさんとしているようです。
「お姉ちゃん頑張れー!」
八十階層で嵐の体を持った亀、『嵐亀御霊』と戦ったスズは今回見物。ブランにある程度経験を積ませたら、私たちどちらかの番というのが前回と今回ですね。
自然体で立ち、目の前の人形を睥睨します。
そして意識を切り替え、『ソード・オブ・ムーン=レンズ』を抜きました。
♰♰♰
混沌半御霊が動き出そうとした瞬間、刀を薙ぎながら後ろへ飛ぶ。
感じたのは、何かを斬り裂く感触と頬に水晶が当たる痛み。
そしてすぐ目の前には白黒斑模様の人形だ。
「ほんと速いね」
スズの声の言うように、コイツは速い。文字通り光の速さだ。
初動を見極めカウンターを叩き込むか、先ほどの様にどうにかして拘束しなければ威力のある攻撃は当てられないだろう。
地面を殴りつけた最下部の腕はそのままに、真ん中の腕が掴みかかってくる。
その腕を斬りつけつつ、左前へ。
そして斬り上げ。
一番上の腕が宙を舞った。
すぐさましゃがみ込んで足元を払う。
しかし一瞬で距離をとられてしまった。
払った足の勢いで立ち上がり、障壁で人形の拳を止める。
そして空間を固定。
コレによる拘束は一瞬が限界だ。だがその一瞬が欲しかった。
光と闇の杭がヤツの両足を穿って地に縫いとめる。
拘束力を向上する光属性と、奴自身の抵抗力を奪う闇属性。
そう簡単には抜け出せない。
ブランとスズには、今のままこの人形の核の位置を探知する事は不可能だろう。
だが私には『理外スキル』がある。
理外の力となった私の〈魔力視〉には、ハッキリと混沌半御霊の核の位置が映っている。
それでも、光速を持つこの人形の核を一撃で斬り裂く事は、難しい。
だからこの技を選ぶ。
――川上流 乱吹雪
横に縦に斜めにそしてまた縦に。
冷たい多重の剣線が人形の体を斬り刻み、核を誘導する。
四方を雪で固められたかの様に逃げ場を無くし、ヒト所に留まる核。
そして、その閃きが十を数えようとした時、遂に刀は人形の核を捉えた。
♰♰♰
「……ふぅ」
核が完全に消滅した事を確認して残心を解きます。
いやぁ、疲れました。
時間としてはごく僅かですが、めちゃくちゃ速いですからね。
ブランメインでやってる間からずっとこの勝ち筋を考えていた甲斐がありましたよ。
ひとまずブランをぎゅっとして癒されましょ「お姉ちゃん後ろ!!」
♰♰♰
スズの声と同時に〈超直感〉が働き、即座に斜め方向へ跳ぶ。
「くっ……!」
今私の片足を吹き飛ばした光線には見覚えがある。
消し飛んだ右足を再生しながら先ほどまで混沌半御霊が倒れていた位置を見れば、なるほど。確かにヤツは自身の足で立ち、此方へ両の手を突き出している。
(半御霊……。物質体と精神体両方を持ってるって事ね。油断したわ)
右膝をついたまま、接近して殴り掛かってきた人形の腕を捌く。
闇を纏った五本の腕による猛攻を何とか逸らし続けている内に右足の再生が終わった。
立ち上がる勢いで右膝を突き出し、人形の腹に入れる。
感触は明らかに違う。
人形はよろめき、そして次の瞬間には頭上で魔法を構築しているのだから始末に追えない。
相殺するよりは回避を選ぶ。
「っ!?」
魔法が完成する前に地を蹴りその場を離れようとしたが、それ叶わなかった。
見れば、私の足を斬り飛ばしたヤツの腕が掴み押さえつけている。
更に、頭上の人形の数が増えた。幾十もの極光が私を襲おうとしている。
――Sランクは伊達じゃないって事ね。
障壁は恐らく間に合わない。ならば耐えて見せよう。
刀を大剣形態に変形して盾にし、〈制魂解放〉で出力を上げた身体強化を防御力に全て回す。
その瞬間、幾重の光がふりそそいだ。
視界が消える。
時間としては刹那に満たない時間。
防御力を強化したとは言え、Sランククラスの切り札だ。
剣を持つ腕が焼け、その威力に少しずつ後退してしまう。
だが、耐え切った。
傷もすぐに再生できる範囲。
増えていた人形の数も元に戻っている。
ならばここで決めるより他にない。
頭上で技後の硬直状態にある混沌半御霊の体を拘束し、身動きを封じる。
器をある程度破壊すればそれで良いのだろうが、念には念を入れておこう。
刀形態に戻し、一つの術式を発動する。
「付与、[破壊]」
いつか迷宮の底で放った〈神聖魔法〉、[破壊]。
破壊の理を押し付ける魔法。
そして、放つ。
――川上流 龍神天翔
破壊の龍は獲物目掛けて駆け上がり、その全てを、噛み砕いた。
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