第三話 迷宮都市
6-3 迷宮都市
「ただいまー!」
前を歩いていたスズがその木のドアを開け、元気に挨拶します。
「「お帰りなさいませ」」
それに続いて私とブランが扉をくぐれば、聞こえてきたのはアリスとコスコルの声。
どうやら帰ったのは暫く前のようですね。コスコルは武具の手入れをしていたみたいです。
「ただいま。もう昼食は食べた?」
「いいえ、そろそろ帰って来られると思いましたので」
正確な時間は言ってませんでしたが、だいたい、いつもこのくらいの時間に迷宮から出ていましたからね。
「それじゃ、何か食べに行きましょうか。屋台でいいかしら?」
「私はいーよ!」
スズはオーケー。
「私どもも構いません」
アリスと目配せをしてからコスコルが答えます。
「ブランは?」
「うん、私もいい。焼き鳥、食べたい」
焼き鳥ですか……。
「そうね……、なら『社』の辺りの屋台に行きましょうか」
二つの空間に仕切られたその宿屋の一室を出て、先ほど帰ってきた道を逆に辿ります。
迷宮へ向かうこの道には余り民家は無く、宿屋や武具店、薬屋などの商店が多いです。屋台もチラホラ出てますね。
今のうちに少し迷宮の事を話しておきましょうか。
今向かっている辺りにある『社』こと『荒ぶる祖霊の社』を始め、この迷宮都市には四つの迷宮があります。
一つは古今東西のあらゆる知識が収められた書庫型Aランク迷宮、『禁じられた知識の園』。
一つは猛毒を持った野獣が闊歩する森型Bランク迷宮、『猛毒滴る野獣の森』。
そして四つ目が、様々な薬草や毒草が群生する沼型Cランク迷宮、『魔女の潜みし沼地』。
アリスたちが行っていたのは森の所ですね。
「それで、そっちはどうだったの?」
「はい。今日で四十階層まで進めましたので、次回で攻略できるでしょう」
草原地帯で時間を取りましたから、だいたい予想通りのペースです。
「毒を受けてもアリスが完璧に解毒してくれましたから、今回も安心して攻略できました」
「コスコルが守ってくれると信じていますから、いつも安心して攻略できます」
「アリス……」
「コスコル……」
……いや、イチャイチャするのはいつもの事ですが、往来で急に見つめ合わないでくださいよ。
「あははは、ほんとラブラブだねー」
「うん、ラブラブ」
まったく……。
「さて、屋台が増えてきたわね。この辺りで探しましょうか」
「うん」
どこの焼き鳥が美味しそうですかね……。
ん? あれは……。
「あそこの店、行ってみましょうか」
「ん? おっけー」
向かった先にあったのは、屋根にバラの模様が描かれた串焼きの屋台。店主は見た目三十歳前後の『兎人族』の女性です。獣人なので、実際にはもっと歳をとっているかもしれませんが。
「この辺りを人数分ずつお願い」
「あ、火虎も一本食べたい!」
「15,000Lよ。……うん、ちょうどね。もう少しで焼けるから、待ってて」
その長い耳をピコピコさせながら火を見ている店主さんは、胸元にバラの飾りがついた暗い緑色のエプロンを着ています。少し話を振ってみましょうか。
「可愛いエプロンね。バラが良い感じ」
「あら、ありがとう。貰った物なのよ」
「きっと素敵な人なのね。旦那さん?」
彼女の顔には、『兎人族』の既婚者の証である刺青が彫ってあります。
「いいえ、違うわ。迷宮にいってばかりの旦那がそんな気は使えないわよ」
そう言って笑ってますが、旦那さん、酷い言われようですね。
「じゃあ、このお肉って旦那さんが取ってきたやつ?」
「そうよお嬢ちゃん」
「へぇ、なかなか強いんだね。この辺とか、結構ランク高い魔物だよ」
「そうよー」
耳のピコピコが激しくなりましたね。可愛らしい方です。
「そうだ。バラといえば、リベルティアの王都にはバラ園があるって聞いたんだけど、冒険者のお姉さんたちは行ったことあるの?」
来ましたね。
「えぇ、なかなか綺麗な所よ」
本当はそんなバラ園はありません。
「へぇ。私も行ってみたいんだけど、あの辺り、最近騒がしいみたいでね」
「騒がしい?」
何かあったようですね。
「騎士さんたちが忙しそうにしてたり、訓練が激しくなったりしてるみたいでね。戦争の準備でもしてるんじゃ無いかって話よ」
……なるほど。
「だとしても暫く先かしら」
「ええ、そうだと思うわ。……はい、これ。何本かおまけしておいたから」
「あらありがと。また来るわ」
追加でいくつかの食べ物を買った後は、宿に戻って食べました。
その時にいくらかこれからのことを話しましたが、アリスとコスコルは今の迷宮を攻略してから『禁じられた知識の園』に挑戦するとの事です。
アリスの修行になって良いでしょう。
二人がその迷宮を攻略した頃には、私たちの攻略も終わってると思われます。その後は急ぎリベルティアに戻ることにしましょう。
さてさて、少し攻略ペースも上げるべきですかね。





